第32話 里での成果を報告するも、何故か投獄されてしまう(後編)

 レオン……。

 一体何がどうなっているんだ?

 それに……前回アルス村の件で国王と会った時にはあんな対応されなかったぞ……。


 わけが分からず俺は頭を悩ませていると、ガリガリと隣の牢から引っ搔く音が聞こえてくる。


「あるすぅー。早くここから出たいにゃぁ……」


 ネネは牢屋に入れられる際、神獣石を取り上げられたので、馴染みのある姿に戻っていた。


「アルス様、今すぐ脱出しませんか? 恐らくここにいても何も解決しません!」


 正面の牢屋から懸命に訴えかけるアリシア。

 彼女はどうやらここから脱獄するつもりらしい。

 しかし、俺は彼女の意見に素直に賛成できない。

 脱出方法が無いからだ。


 俺達はここに来る前、武器は全て取り上げられている。

 それも、「ウェポンボックス」を含めた武器全てをだ。

 何故か「神獣の里」奥義を取得したことも把握されていた俺。

 相変わらず疑問しか出てこない。


「ねぇ、ネネ。魔法を使えないかな? さっきから何回扉に使っても、打ち消されるんだけど……」


「にゃぁ……。恐らくここは耐魔の牢になっているにゃ。ネネも魔法は意味なかったにゃ……」


 彼女がそう言うと、俺とアリシアはただ溜息を吐くことした出来ない。


 諦めのムードが漂う中、しばらくそうしていると、不意に俺の脳内に情報が流れてくる。


《推奨。槍スキルの取得及び弓スキルの取得》


 槍と弓のスキル?

 こんなところで役に立つのか?

 とはいえ、この状況だ。


 俺は藁にも縋る思いで「神獣の里」で大量に入手したスキルポイントを使用する。


《槍スキル「乱撃」を獲得しました》

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

〇槍スキル《乱撃》

物理攻撃、魔法攻撃の全てに全体化の効果が付与される。

このスキルはユニークスキルにも適用される。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 弓スキルの内容も確認したが、このスキルは恐らく後で使うので、今は取得した槍スキルについて考える。


 攻撃が単体から全体へ変わるスキルだが、俺がこの扉を壊せるようになったわけではない。扉を破壊する武器がそもそも無いからだ。


 しかし、今「乱撃」の取得を提案されたことから、このスキルを使わないと恐らくここから出られないのだろう。


 分からないな……。


 そんなことを考えていると、アリシアが俺に向かって呟く。


「剣さえあれば、この程度の牢。すぐに斬れるんですけど……」


 彼女の声が耳に届いた瞬間、俺はある一つの考えが閃いた。

 今獲得したスキルは俺が扉を壊すんじゃなくて、第三者がその役割を担うのか!

 それも多分アリシアだ!


「ねぇ、アリシア。またポイント・エージェンタの能力を使ってもいいかな?」


「へっ……!? い、今ここでですか? ちょっと心の準備が……」


「早くするニャ!!」


 人差し指同士をくっつけているアリシアに、ネネがピシャリと言い放つ。


「分かりましたよ、ネネ。それにしてもアルス様。お言葉ですが、この距離で経験値の付与が可能なのでしょうか?」


 確かに、俺とアリシアはかなり離れており、お互いが腕を全力で伸ばしても届かない。


 相手の体に接触することでしか使えなかった俺のユニークスキル【ポイント・エージェンタ】。


 しかし、俺が入手したスキル「乱撃」なら、この距離で彼女に経験値を付与することは難しくないはずだ。


「ああ、多分だけど、出来ると思う。取り敢えず、やってみるね」


 俺は地面に手を付け、ポイント・エージェンタ(改)でアリシアに経験値を付与をする。


「凄いです! アルス様! 新しいスキルを獲得しました!」


 俺はすぐさま彼女の新しいスキルを確認する。


====================================

ユニークスキル:【剣聖】Lv4


Lv1⇒大器晩成

アンロック条件:なし


Lv2⇒ドラゴンスラッシュ

アンロック条件:入手経験値が500000000を超える。


Lv3⇒絶対両断

アンロック条件:入手経験値が1000000000を超える。


Lv4⇒無刀流

アンロック条件:入手経験値が5000000000を超える。


Lv5⇒LOCKED

アンロック条件:入手経験値が10000000000を超える。

====================================


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

〇ユニークスキル:無刀流

他人に目視不可能な剣を装備することができる。

剣の威力はこのユニークスキル所持者のステータスによって変わる。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 アリシアが「無刀流」を取得した瞬間、彼女の片手から物凄いオーラが感じられる。

 見えない剣か……。

 相変わらず彼女はどんどん強くなっていくな……。


「アルス様! 今すぐ扉を壊しますね!」


「ちょっ……ちょっと待ってよアリシア!」


 慌てて彼女を止めた俺は、獲得した弓スキルを使用し、辺りを見渡す。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

〇弓スキル《千里眼》

半径数km程度の様子を完璧に見渡すことが出来る。遮蔽物や障害物等よる影響を全く受けない。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「アルス様? なにをなさっているのでしょうか?」


「ああ、取り上げられた荷物を回収できるよう、城内の大まかな状況を確認しているんだ」


 アリシアは新しいスキルを獲得したことで装備は心配ないかもしれないが、俺とネネは大切な物を没収された以上、回収しておきたかった。


 それに、脱獄がバレる騒ぎを最小限に抑えるため、脱出までの最短経路を今のうちに把握しておくことも重要だ。


「そうでしたね。すっかり失念していました」


 自身の非を認めたのか、深々と謝罪するアリシア。


「にゃ! 神獣石もそこにあるはずにゃ!」


「アルス様……やっぱり取り上げられた荷物の回収は諦めませんか?」


 「神獣石」という単語が出た瞬間、アリシアは露骨に気分を害し始める。


「いや、それは取りに行こうよ……」


 俺は呆れながらも、ようやく頭の中で地図が完成したので、アリシアのスキルで牢屋から脱出していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る