第31話 里での成果を報告するも、何故か投獄されてしまう(前編)

 ネネの故郷である「神獣の里」を後にした俺達は王都に帰ってきていた。


 因みに族長であるノノのお願いから、ネネは既に俺のパーティの一員としてギルドに登録されている。


「アルス様に近いですよ。ネネ」


「と言いつつ、お主のほうが近いじゃろうが!」


 ギルドでの手続きを済ませた俺は国王への報告に向かっていたが、アリシアとネネの行動に戸惑っていた。


 長い間、彼女らに両脇を抱えられた状態でここまで歩いてきたからだ。


 はぁ……せめてネネが神獣石を解除してくれたらいいんだけど……。


 本音を言えば獣石を使っていないネネのほうが接しやすいのだが、この件について要所要所で彼女に話題にするも、何故かスルーされている。


 そんなことを思い出しながらようやく城の前に辿り着くと、俺達は立っている見張り役の二名に声をかけられる。


「ん、何だ。アルス達か」


「ここに何か用なのか?」


 どこか不躾な態度で応対する兵達。


 俺一人なら全く違和感を感じないが、傍には前回もここに訪れた剣聖のアリシアがいる。


 しかし俺はそんな彼らの対応を気にせず、用件を伝えた。


「やれやれ。少しそこで待ってろ」


 一人の兵がその場から姿を消すが、言葉の端々、表情の機微から、どこかトゲがあるように感じられた。


「アルス様……。大丈夫でしょうか?」


「どうだろう? 俺達がいない間に忙しかったりして、案外依頼を忘れていたりするのかな?」


「うむ。我が主よ。そう悲観せずとも、このわらわがついておるからな」


 ネネには何か切り札があるのか、あまり彼らの態度を気にしていないようだ。


 それから数分待つと、帰ってきた兵が俺達に言い捨てる。


「国王がお待ちだ。至急案内する」


 俺達は最後まで歓迎されず、スタスタと彼の後を付いて行った。




 城内を進み、謁見の間に辿り着くや否や、正面にいた国王は俺に質問を投げかけてくる。


「アルスか。今までどこで何をしておったのだ?」


 おかしいな……。


 少なくともキングミノタウロスを倒した時は、こんな感じじゃなかった。


 国王に鋭く睨みつけられた俺だが、出来る限り平静を装う。


「『神獣の里』での件について報告に参りました」


「ほう。『神獣の里』か。あそこには勇者レオンも派遣しておったが、聞くだけ聞いてみるとするかな」


 勇者レオンか……。

 どうやら彼をあの里に向かわせたのは国王だったらしい。

 レオンが国王に対してどういう報告をしているのか気にはなったが、今は後にする。


「魔王軍討伐についてですが、無事里での魔族による侵攻を食い止めることができました」


「そんなことをわざわざ報告しに来たのか?」


「『そんなこと』、じゃと? 我があるじは魔王軍の四天王を二体も討っておる。誰がどう考えても賞賛に値するじゃろうが!」


「フン! 獣人が何を言っている! 魔王軍四天王を討ったのは勇者レオンじゃ! そなたらは虚偽報告をしている!」


「なっ……!?」


 どういうことだ?

 勇者レオンが四天王を倒しただと……!

 国王の口から出たとんでもない発言に俺は言葉が出ないでいた。


 そんな状態の俺に対し、アリシアは怒りを込め、早口でまくしたてる。


「あのゴミ勇者に魔王軍の四天王を倒せるわけがありません! アイツの所為で一度里は崩壊の危機に遭ったのですよ!」


「口を慎むのじゃ剣聖! 誰に対して口を聞いておる!」


「ぐっ……」


 国王だけでなく、周りの兵達も俺達に強いまなざしを向け、謁見の間には一触即発の雰囲気が漂う。


 恐らくここで何か失言をすればそこで全てが終わる。


 だから、俺は彼女を落ち着かせないといけなかった。


「アリシア、ありがとう。里は無事だったんだ。もう、この件はこれで終わりでも大丈夫だよ」


「アルス様っ! 流石にそれは……!」


「剣聖よ。まだ何か言いたいことがあるのか?」


「失礼……致しました……」


 アリシアは不承不承といった感じで自身の非を認める。


 しかし、この場には里の件についてまだ納得していない人物がいた。


 賢者ネネだ。


「言っておくが、アリシアの言うことは全て正しいぞ! わらわの里から書状は届いておらぬのか?」


 どうやら、今回の件で族長のノノが何かしらの情報を既に伝達済みらしい。


 しかし、ネネの発言に気に食わなかったのか、国王は更に険しい顔つきになる。


「知らぬわそんなもの! 大体そなたらの発言は目に余る、人類の希望である勇者を愚弄するのか?」


「ふん。当たり前じゃ。我が主こそ、真の勇者。わらわの里では全員がアルスを認めておる」


 目の前にいる俺を勇者呼ばわりしたことで限界を迎えたのか、国王は玉座の肘掛けを強く握り、怒りを爆発させる。


「メギツネめ!! オイッ何をしている! その者達を今すぐ捕らえよ!」


 ぞろぞろと出てくる兵に俺達は槍を向けられ、囲まれてしまう。


「アルス様……」


「ふむ。ここまで話が通じんとはな……。もうお手上げ状態じゃ」


 何がどうなっているんだ……?


 とてもじゃないけど、ここにいる国王と兵達が正常な状態には思えないぞ。


 しかしそんな考えも虚しく、俺達は国王に虚偽の報告をした罪で、なすすべもなく地下牢に入れられていた。

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