第33話 空に浮かぶ謎の城、魔天空城が現れる

 荷物を回収した俺達は城から脱出するため、駆け足で地下通路を走っていた。


 因みにネネの神獣石の能力で、俺達はほぼ透明人間状態になることが出来た。

 魔物からはバレてしまうが、他人からは影が薄い状態になり、味方しか存在に気づけないらしい。


 千里眼を使用し、外に向かっていると、ネネは俺に話しかけてくる。


「我が主よ。謁見の間での国王の対応、気に病むことはないぞ。恐らく奴らは何者かによって操られておる」


 ネネの言っていることは多分間違っていない。

 どう考えても国王や周囲の兵の言動が、前回来た時と違うからだ。


「レオンが何かしらの能力を使ったってことになるのかな?」


 俺はネネに質問するも、何故か彼女はすぐに頷かない。

 それどころか神妙な面持ちをしていた。


「いや、あの勇者自身にそんな力は無い。他人を操るとなると、闇魔法や呪いに精通しておらぬと使えんのじゃ。得体の知れぬ第三者が介入しているとしか考えられん」


「貴方の能力でアルス様の誤解は解けないのでしょうか? あれではあんまり過ぎます」


 確かに。

 ネネは事あるごとに俺達の窮地を助けてくれた。

 今もこうしてスムーズに脱出できているのは彼女のおかげだ。

 しかし、ネネはアリシアの質問を否定する。


「アリシアよ。わらわは何でもできるわけじゃないのじゃ。特に回復や治療といった魔法に関しては専門外じゃ」


「なら、俺達はここから脱出したところで、すぐにここの兵から追いかけられてしまうってことか……」


 全員で外に脱出できる目途はついたが、ハッキリ言ってそれからの行動や生活については全く想像できない。


 もしかしたら、俺達は今日を境に王都で生活できず、一生逃亡生活を送らないといけないのだろうか?


「主よ……。誰も誤解を解けぬとは言っておらんじゃろうが。【聖女】がおるじゃろ」


「聖女?」


 一人だけ心当たりがある。

 聖女メイだ。

 彼女とは孤児院からの付き合いがあり、数少ない幼馴染だ。


 が、レオンの話によると、俺は彼女に役立たずと思われていたらしい。

 メイの力を借り、城内全員の呪いを解くようお願いできるなら頼みたいが……。


「主よ。すまぬがこれ以上、勇者絡みの厄介ごとは御免じゃぞ。さっさとメイに会いに行くのじゃ」


 今後の方針を話していたところで、俺達は城の裏手からようやく外へと脱出することができた。

 投獄から解放され、ほっと一安心するも束の間、俺は太陽の光が殆ど差し込んでこなかったことに違和感を感じる。


「アルス様! 何ですかあれ?」


 アリシアが指をさす方向に顔を向けると、空には大きな城が浮かんでいた。


「な、何だあれは!?」


「すさまじく不気味なオーラを漂っておるぞ! いつから現れたのじゃ!?」


 ネネの言う通りだ。

 俺達がここに帰ってきた時にはあんな禍々しいオーラを放つ城なんて存在しなかったはずだ。


 それに、突如現れた城によく目を凝らして見ると、大量の魔物がここ王都に向かって急接近している。


「不味いッ!! 魔物がこっちに近づいてきているよ!」


「ブラックガーゴイル! A級の魔物です!」


「厄介なことになったの。一度、街に戻るのじゃ!」


 ネネの主張を最後に、俺達は急いで城を後にしていた。




 俺とアリシア、ネネが目的地に辿り着くと、街中は既に大騒ぎになっていた。

 ドラゴンでも破れない結界を、槍を装備したブラックガーゴイルが簡単に突破し、街は魔物で溢れかえっていたからだ。


「ヒッ……! た、助けてくれぇ!」

「どうなっている!? 何故ここに魔物がいるんだ!?」

「何だコイツら!? 強すぎる!」


 不味いな……。

 今すぐここにいる魔物を一匹残らず何とかしないと……!


 俺達はすぐさまブラックガーゴイルを倒しにいこうとするも、近くで数名の騎士が大慌てで騒いでいた。


「大変だ! 東のエルト砂漠に2万もの魔王軍がここに迫ってきている! このままだと王都は陥落する!」


「何だと! あそこには最強の騎士団長が派遣されていたはずだろ!?」


 彼らのやり取りを耳にした瞬間、俺は顔色を真っ青にしていた。

 今ここにいる魔物の群れですら手に余るのに、魔王軍が現れただと……!?


 それに、騎士の会話を聞く辺り、このままでは俺達の育ってきたこの場所が終わる。怪我人や死人が大量に出てしまい、「神獣の里」以上の被害になることは容易に想像がついた。


「アルス様! どうしましょうか?」


 今俺達は国王とその兵から追われる身だ。

 ここで容易に存在がバレると、魔物や魔王軍との戦いどころではなくなる。


「ネネ。今俺たちは透明になっているけど、この状態で魔法を使うとどうなるの?」


「透明といってもあくまでその人物だけじゃ。魔法は透明にならず、普通に人目につくぞ」


「ならアリシア。ここでブラックガーゴイルの討伐をお願いしても良いかな? ネネがここで戦うと不味いから、『無刀流』で戦えるアリシアにお願いしたいんだ!」


「分かりました。あの程度の魔物なら私の『絶対両断』で存在がバレることなく、瞬殺出来ます。因みにアルス様はどうするつもりですか?」


「ああ。俺はネネと一緒に、東のエルト砂漠に向かおうと思う」


 族長ノノからのお願いだ。俺は魔王軍のいる場所に行き、彼らを倒す必要がある。


「分かりました! ではここは私にお任せください!」


 アリシアがそう告げた瞬間、ダンッ!と彼女は俺の前から姿を消し、次々とブラックガーゴイルを倒していく。


「うむ。ここはアリシアに任せて大丈夫そうじゃな」


「ねえ、ネネ。ここの国王は呪われている状態だけど、民を見捨てるような判断はしないかな?」


「それは大丈夫じゃろ。現に、あの城は随分と慌てているように見えるぞ」


 確かに彼女の言う通りだ。

 城からはぞろぞろと兵が街に降りてきている。

 彼らは俺たちに敵意を持っているだけで、民は守らなければいけないという意識はあるのだろう。


「そうと決まれば、主よ。今すぐエルト砂漠に向かうぞ」


「ちょっと待って!」


 そう言って、俺は地面に手を付ける。

 瞬間、この街全体が光で包まれた。


「ほう、ポイント・エージェンタの能力か!」


「念には念を入れて、住民全員に経験値を付与しておいたよ」


 槍スキル「乱撃」を入手したおかげで、俺は広範囲にノータイムでポイント・エージェンタを使用することが出来た。


 それに、ポイント・エージェンタ(改)の能力を使って分かったことがある。

 それは勇者パーティに所属していた頃のポイント・エージェンタと違い、急激にレベルを上げても、酔いや失神等の身体への悪影響が出なくなったことだ。


 これによって、数時間程度という条件付きだが、全く戦えない人も、ブラックガーゴイルに殺されることはまずないだろう。


「これで準備はできたね! 今すぐエルト砂漠へ行こう!」


 メイとの再会は後回しになってしまうが、一刻も早く会えるよう全力で戦わないとな。


 魔王軍との戦いを終わらせ、彼女にもう一度会うんだという決意を固めた俺はネネと共に、急いで東へと向かった。

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