第11話 【SIDE勇者】アルスを英雄と崇める村の子供達にボコボコにされる(後編)

 目的地のちんけな村に到着すると、地面に仰向け状態で寝ている若い男性が視界に入る。

 全く……。勇者が来たっていうのに、もてなす気概が全く感じられない。無作法にも程があるぞ。


「やい! 勇者様がお前達の村に来てやったぞ!」


 大声に気づいたのか、正面の男性はむくりと起き上がり、俺をギンッと睨む。


「勇者やと……? これはこれは珍客が来よったやないか!」


 その瞬間、ガラガラガラとあちこちから村人が外に出てくる。

 俺達に何か一言言いたそうな顔だ。


「ハッ! 何だよ! 言いたいことがあるなら言えよ! その代わり、俺の口から出る言葉一つでこの村がどうなるか知らないけどな!」


「ばっ……馬鹿! なんてこと言うのよ!」


 メイとネネは俺を置き去りにし、村長の元へと急いで駆け出す。


「依頼を反故にして本当に申し訳ありませんでした! お怪我はありませんでしたか?」


「にゃっ! 次はこんなことが起こらないよう気をつけるニャ!」


 何度も謝罪を繰り返す彼女らに痺れを切らしたのか、腕を組んでいた村長は大きなため息をつく。


「まぁ、ワイも鬼やない。幸い怪我人はゼロやったから良かったものの、次、よその依頼受けるときはしっかりせぇよ。お前達は国の顔なんやからな」


 話は終わりだな。

 俺は村の外に足を向け、釈放された二人に向かって吐き捨てる。


「お前ら。サッサと帰るぞ」


 俺は早足で帰ろうとした瞬間、背中にピシャリと怒声が降りかかる。


「ちょっと待てやっっ! おどれはなんか言うことないんかっ!?」


「ハッ! 結局この村は無事だったんだろ! なら俺から言うことは何もないだろ?」


「ほぉー。おどれは昨日ワイらがどんな思いしとったか知らんのか? それはそれは、さぞかしぐっすり眠れたんやろうな」


 両手を広げながら、俺の元へ近づく村長。


 ……ッ!!さっきから気になっていたが、何なんだコイツの圧倒的オーラは……?

 戦闘力は俺以上か?それに、プレッシャーを放っているのはコイツだけじゃない。

 この村全体から、物凄い圧を感じる。

 危うく意識がもっていかれそうになるが、俺はじりじりと後退しながら言い返す。


「アハハ! 俺は勇者なんだ。農奴の助けなんてこっちから願い下げだ!」


 俺の発言にとうとう堪忍袋の緒が切れたのか、今まで黙っていた子供達が俺に向かって言い放つ。


「お前が勇者なわけないだろ! 『アルス村』から出ていけ!」

「そうだそうだ! アルスにいちゃんはお前と違って礼儀正しかったんだぞ!」

「アルス様はお前なんかよりかっこよかったぞ!」


 見知っている名前を聞き、俺は顔をしかめる。


「アルス村だと……? オイ、どういうことだ! この村に名前なんてなかったはずだ!」


「そりゃそうやろ。さっきつけさせてもろたからな。由来は繫殖期からこの村を守ってくれた英雄アルスくんや」


「ちょっとどういうこと!?」


「ニャ! ご主人様がもしかして近くにいたのかニャ!?」


 コロリと反応を変える女性陣に俺は苦い顔をする。


 認めたくないが、ここで崇められているアルスは俺の知っているアルスなのだろう。

 でないと、こいつらが異常に強くなっていることの説明がつかない……。

 それに、村長の話が正しければ、今日この後国王と謁見しているのはアイツということになる。

 俺は拳を握りしめ、村長に向かって吠える。


「不正だっ! 何かおかしな真似をしているに決まっている!

 だいたい、アイツは繫殖期をやり過ごせるほどの戦闘力は無かったはずだ!

 それに俺は知ってるぞ! アルスは経験値を与えることしか出来ない無能の役立た……ぐわっっ!!」


 村長は俺の胸倉を掴み、キッと睨み付ける。


「アルスを侮辱するなや。お前さん、ぶち殺されたいんか?」


「おい! メイ、ネネ! 見てないで俺を助けろ!

 だいたい繫殖期の依頼を受けたのは本当はあいつらなんだ。

 あの女達に言われてやったんだ! 全部あいつのせいだっ!」


 喚いていると、メイが全速力でこちらに駆けつけてくる。

 フン。さっさと助ければいいものを。

 そう思いながら、村長の腕を振りほどこうとするも、俺の耳に届いた声は一喝だった。


「一回死ねッッ!!」


 瞬間、メイは俺の脇腹目掛けて鋭い蹴りを入れる。

 勇者である俺は鎧を着ているが、Lv1も相まって、そんなものでは防げない威力の様だ。


 蹴り飛ばされた俺は子供達の元へ着地するかと思いきや、彼らも蹴りの構えに入っていた。


「オイ! 嘘だろッッ!」


――――――コンボがつながった―――――――


「ぐはっっ……!!」


 すぐさま地面に着地するかと思いきや、クソガキ共は円形に広がり、俺を蹴り続ける。


「みんな、コイツを蹴って遊ぼうぜ!!」


「ふざけるなよ、お前達は誰にたいし……ぱがっ……!」


 クソガキ共が飽きるまで俺を蹴り続けること数時間。

 俺は満身創痍で立ち上がる気力すらも、失せていた。


――1256Hits


「う、うぅ……」


 ひゅーひゅぅと呼吸をする俺。


 俺は地べたを這い、一人で剣聖の元へ向かった。

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