第6話 繁殖したミノタウロスから、村を守って欲しいと村長に懇願される

「――――ドラゴンスラッシュ――――!」


 ドラゴンに向かってアリシアが技を放った瞬間、轟音が鳴り響いて、辺りに強風が吹き荒れる。


「凄いや、アリシア! さっきのドラゴンより一回り大きいサイズを一撃じゃないか!」


 感嘆してアリシアを眺めていると彼女は物凄い勢いで、倒したドラゴンの元へ駆け出す。

 討伐証明の牙を採取するためだろう。


「くふぅ~~。これでアルス様と二人っきりで冒険! 二人っきりで冒険!」


 彼女のほうから聞きなれないトーンの声が聞こえてきたが、気のせいだろう。


 俺は課題を終えた彼女を学校の寮まで送ろうとするも、思い出したかのように声をあげる。


「しまった! この辺りの土地を良く分かっていないんだけど、アリシアは知ってる!?」


 そう。ドラゴン探しに夢中になっていたせいで、すっかり日が暮れていたのだ。


「近くに村があるのでそこに向かいましょう! 因みに数日間帰らないことは既に学校にも伝えています!」


 笑顔で道案内をする彼女に俺はほっと胸をなでおろす。森の随分奥深くまで入ってしまったため、ドラゴン討伐後のことを失念していたからだ。


「じゃあ村の人たちに何とかお願いして一休みさせてもらおうかな」


 アリシアについていき、俺はずんずん歩を進めるも、不意にカンカンカンカンと音が聞こえてくる。


「何だろう……? 鐘を叩く音が聞こえてくるけど?」


「祭りでも行われているのでしょうか?」


 俺とアリシアは疑問を浮かべながら音の鳴るほうへ向かうと、一瞬悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。


「おかしいです! 目指していた村に近づくほど騒ぎ声が大きくなります!」


「急ごうアリシア!」


「はいっ!」


 アリシアの返事と共に、俺と彼女は村に駆けつけていた。




「動けるヤツは武器を持て!」


 俺とアリシアが村に入った瞬間、武装した人の集まりや慌てた様子の人々が目に入る。


「勇者に依頼していたのにどうなっている!?」

「チクショウ! まだ勇者は来ないのか!?」

「話が違うじゃねえか!」


 大勢の村人がリーダーらしき人物に猛抗議しているが、彼は無言で苦渋に顔を染めていた。


 どうやら、彼がこの村の村長らしいが、年齢はかなり若く見える。そして、村長は右腕を骨折しているのか、腕を包帯でぐるぐる巻きにし、固定していた。


「あの! 何があったのですか?」


 俺とアリシアは村長の元へ近づき、状況を確認しようとするも、彼は訝しげな表情を浮かべる。


「なんやオマエらは! もしかして勇者か? だとしたら随分遅かったやないか!」


「い、いえ……。勇者ではないですけど……。手助け出来ることがあれば協力したいんです!」


「何や。勇者でもない、ただのガキか……。どうせ大して役に立たんのやろ?」


 村長がそう吐き捨てた瞬間、横にいたアリシアが殺気を放ち、剣を抜こうとする。


「アルス様の慈悲をあろうことか、踏みにじり暴言を! その罪、磔刑に値するッッ!!」


「お、落ち着いてっ!! アリシア! 話がややこしくなるから!」


 俺はアリシアの怒りを制するも彼女はしゅん……とする。


「畏まりました……」


「なんやねん、このヒス女は……」


 呆れる村長に俺は一度謝り、この村で何が起こっているのか質問する。


「俺と彼女は騒ぎを聞いてこの村に足を運びました。何があったのか教えてもらえませんか?」


「しゃあないなぁ。ほな村長のワイが手短に話すで。

 村の近くにダンジョンがあるんやけど、繫殖期に入った。

 念のため確認するけど、繫殖期ぐらいは聞いたことあるよな?」


「はい。ダンジョン内の魔物が異常に生まれる時期ですよね。

 でも、どうして騒ぎになるまで放っておいたのですか?

 通常ならギルドに依頼をしますよね?」


「当たり前やろがっ!

 ちゃんと勇者に頼んだけど、あろうことかバックレやがった。

 忘れてるんか知らんけど、とにかく来てへん。

 おかげでワイの村にミノタウロスがわんさか襲ってきやがったわ」


 酷い……。


 勇者と言えばレオンただ一人になるが、依頼を忘れるなんて、一体何をやっているんだ?


 沸々と怒りがこみ上げてくるが、今はそんなことを考えている場合じゃない。


「アルス様! 今すぐミノタウロスの群れを倒しに行きましょう!」


 彼女の言うことは間違っていないが、実はこの繫殖期。かなり厄介なのだ。


「いや、繫殖期に出てくる魔物は実はアリシアが想像しているよりずっと多いんだ。まずは村人たちを避難させないと……」


「オイオイ! ガキの癖に何でオマエが仕切ってんねん!」


「いい加減にしなさい! 今は素直にアルス様の指示に従うべきです!」


「阿保、言うなや! 見ず知らずのガキ共にこの村を任せられるわけないやろ!」


 村長がそう言い返した瞬間、俺達の元には最悪の情報が耳に届く。


「村にミノタウロスが入ってきたぞ!!」


「おい、早く逃げろ!」

「こ、これ以上戦える奴はいないのか!?」

「キャアアアア!!!!」


 悲鳴が聞こえた瞬間、村長は俺達に大声で命令する。


「オイ、そこのガキんちょ二人! オマエらはここにいる村人全員を外に避難させろ!」


 村長の判断に俺は慌てて彼に問い詰める。


「避難って、村長さんはどうするつもりですか!?」


「決まっとるやろ。今も仲間が戦っとんねん。ワイが参加せんでどないする? この程度の怪我、屁でもないわ」


 右腕を骨折している村長が左手で剣を装備した瞬間、アリシアは露骨に顔をしかめる。


「アルス様! コイツを気絶させる許可をいただけませんか?」


「いや、気絶はちょっと……。

 と、とにかくその怪我で戦いに挑むのは無茶ですよ!」


 何とか村長を引き留めようとした瞬間、ドスドスドスとミノタウロスが接近している足音が聞こえてくる。


「アルス様、行きましょう!」


「ああ!」


 俺は近くにいたミノタウロスの首目掛けて剣を振り下ろす。

 瞬間、スパンッ……と何の抵抗も無く簡単に首を落とすことができた。


 しかし、ミノタウロスを一体仕留めるも束の間、魔物の群れはどんどん村に侵入してくる。


 恐らく戦闘要員の村人達がかなり不味い状況なのだろう。


 やはり避難を最優先にしないとな……。


 今後の方針について考えていると、背後から村長が追いかけてくる。


「10人でやっと一体倒せるかどうかのミノタウロスを一撃やとっ……!?」


 目を大きく見開き、心底驚いた表情の村長。


 もしかしたら今ならいけるかもしれない。


「繫殖期は長時間の戦いになります。今は俺達の指示に従っていただけませんか?」


「ああ、頼む! この村を救ってくれ! もうオマエ達しか頼れへんのやっ!!」


 90度のお辞儀をし、涙ながらに訴える村長。


 俺はこの村だけは絶対に守ろうと誓った。

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