第5話 【SIDE勇者】火力が足りないと勘違いし、剣聖に目をつけてしまう

 命からがらダンジョンから帰ってきた俺だが、顔中を包帯でぐるぐる巻きにしていた。


「おかしいだろっ!? どうしてこの俺がこんな目に遭わないといけない!」


 俺は宿のテーブルに渾身の力で拳を振り下ろすも、ズキズキと右耳から激痛が走る。


「当たり前でしょ。アルスがいないんだから」


 壁にもたれかかりながら腕を組み、当然のように答える聖女メイ。


 因みに数時間前、彼女に治療を頼むも、「しばらくそうしていなさい」と回復を渋られているのが腹立たしい。


 そして、彼女は俺の奴隷であるネネを、勝手に別の宿で休ませている。

 ポンコツ聖女の分際で勝手なマネをしやがって……。


「それで、お前は何をしにここに来たんだ?」


「アンタ。アルスをどうしたの?」


 いつになく真剣な表情で尋ねるメイに俺は眉をひそめる。


「アルス、アルスうるさいな! そんなにアイツに会いたいのか?」


「べ、別にアルスに会いたいわけじゃないんだから……! その……彼が帰ってきたら、わたし達のレベルが元通りになるかもしれないでしょ……?」


 畜生……。

 レベルが落ちたのはアルスが原因と把握済みか。

 それに、ツンツンとしている彼女の反応を見て、俺は怒りが込み上げてくる。


「ハッ! アイツはな、俺達の実力についてこれなくて自ら辞めたんだ。今頃辺境で生活してるに違いない。元パーティメンバーと会うのは惨めだからな!」


 俺はメイにそう言い放つも、彼女は即座に不満を露にする。


「はあぁぁ!? なら今すぐアルスを連れ戻しなさいよ! 言っとくけど、彼無しにこのパーティは再起できないわよ!」


「アルスの復帰は俺が認めない!」


 当たり前だ。あれだけ大見得切って、追い出したんだ。

 今更戻ってくれなんて、言えるわけないだろ。


 それに、まだあいつが用済みであることを証明できていない。


「ならアンタはどうやって、元のレベルに戻るのよ?」


 ぐっ……。

 俺は一瞬言い淀むも、すぐさま彼女に問い詰める。


「アルス無しに元のレベルに戻る方法は無いのか?」


「無いわ。って言うか、アンタもアンタで、そのアルスへの異常な執着何なのよ? さっさと認めなさいよ。彼がパーティの要っていうことを!」


「……ッ! あいつはどう考えても役立たずだろ! 第一、まともなスキルや魔法を使えない時点で俺達のパーティでは遥かに実力不足なんだよ!」


「そうかしら? 私には彼の剣の腕がピカイチに見えたけど?

 実際アンタが討ち漏らした魔物を何度も倒してくれたし。

 アンタ、前のことばっかりで後ろのことはまるで考えてないものね」


 クソがッ……!

 アイツは中衛で突っ立ってただけだろ!


 それに、聖女の分際で剣を語るとはな。

 流石に俺も看過できない。


「ハッ! パワーも派手さも無いあいつの剣がか? 出す技は基本的ものばかりで、俺に勝っている点が何処にもないだろ!」


 そう告げた瞬間、自分の中である一つの考えが閃いた。

 そう俺のパーティに何が足りなかったかだ。


「ハハハハハハッッッッ! 分かったぞ! 俺のパーティに何が欠けていたかだ!」


「アルスでしょ」


「違うっ! 火力だ! 火力が足りないんだ! だから俺の隣で剣を振る奴が一人欲しい」


「アンタもしかして……」


「剣聖だ!」


「無理ね。彼女は噂だと他所の高ランカーパーティの申し出も全て断ってるわ。ハンター養成学校に通っているから、恐らく冒険者になるんでしょうけど、あれは多分ソロプレイヤーね」


「俺は勇者だぞ! 向こうから喜んでお願いしてくれるに決まってる!」


「あのさぁ……。一人で盛り上がってるとこ悪いんだけど、根本的解決になってないわ」


「いいや、違う。ユニークスキルが【勇者】である以上、レベルなんてこの際どうでもいいんだ。

 【剣聖】を加えてお前達がとどめを俺に譲れば、直ぐに前の状態に戻れる。幸いレベル1になったのは俺だけだ」


「はぁ……。結局他人任せじゃない。だいたい、アンタ。少しは自力で経験値を手に入れることを覚えなさいよ。レベル1にまで落ちて恥ずかしいと思わないの?」


「ハッ! よく言うよ。お前もアルスが抜けて低レベルじゃないか!」


「それでもアンタは異常って言ってんのよ!! あたしはボス前に経験値の付与をお願いしてHPとMPを準備万全にしてただけよ!」


 こいつの言い分なんて興味ない。大事なのはまた一からやり直せばいいという気持ちだけだ。


 いや、一からなんかじゃない。剣聖さえ仲間になれば、あの役立たずがいた時より確実にプラスになっている。


「決定だな。剣聖を仲間にさえすればこれから全て上手くいく」


「呆れた……」


 そう言って部屋から出ようとする彼女に俺は満面の笑みで忠告する。


「おい、メイ! 念の為確認しておくが、お前がこのパーティを抜けることは不可能だからな!

 王の命令でここにいる【聖女】のお前は【勇者】であるこの俺に奉仕し続けないといけないのは忘れてないよな?」


 メイの性格は終わっているが、顔は間違いなく美少女に分類される。


 それに、肉体もスレンダーな体つきをしており、何度なめまわすような視線を送ったか数えきれない。


 健気に杖を振っている幼馴染をどれだけ自分のモノにしたいと思ったことか。


 それに、まだ会ったことはないが、剣聖も容姿が優れていると噂で聞いたことがある。


 無言でメイが退出した後も、俺は喜色を浮かべ、これからの冒険に一人思いを巡らせていた。




 レオンは知らない。

 もしアルスを追放していなければ、伝説の勇者パーティと世界から崇められたことを。


 レオンはまだ知らない。

 剣聖と会った際にまさかあんな目に遭うことを。


 そしてレオンはまだ知らない。

 幼馴染の聖女。奴隷の賢者に見限られ、仲間全員を失うことを。


 彼の本当の破滅はまだ始まったに過ぎないのだ。

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