第4話 弟子の剣聖にパーティ加入を懇願される
思いのほか威力が出たな……。
傍で倒れているドラゴンを眺めつつ、俺は剣を収めていた。
「アルス様!!」
不意に、かつて家庭教師として面倒を見ていたアリシアが笑顔で駆け出してくる。
「久しぶりだね、アリシア。怪我はない?」
「ええ、大丈夫です! それより流石です! あのドラゴンを一撃で仕留めるなんて!」
「あ、ああ……。たまたま運が良かっただけだよ……」
俺は空笑いしながら頭を掻く。偶然獲得したスキルと魔物との相性が良かっただけだ。
「そんなことより、アリシア。どうしてこんなところでドラゴンと戦っていたの?」
「ええ、実は卒業検定で指導教官からドラゴンを討伐して欲しいとお願いされていたのです!」
「そんなことがあったんだ……」
アリシアの父親は有名なSランク冒険者だ。
だから、彼女も例に漏れず、ハンター養成学校にて冒険者としての素養を身に着けている。
それに、恐らく剣聖の彼女は学校内でも成績優秀者だから、先生にそんなことを頼まれたのだろう。
そんな吞気なことを考えていた俺だが、咄嗟に声をあげる。
「って、それじゃあ、せっかく見つけたドラゴンを俺が倒してしまったってこと!?」
ドラゴンはゴブリンやオークと違って脅威度は高いが数は多くないのだ。
先生に頼まれたドラゴンを俺が倒しちゃったぞ……。
それって物凄く悪いことをしちゃったんじゃないのか?
突然驚き声をあげた俺だが、彼女は慌てて訂正する。
「め、滅相もございません! アルス様のご尽力がなければ、私はあそこで倒されていたでしょう! 実際、回復アイテムも全て使い果たしていました!」
確かに……。
彼女の全身からは、あちこちでかすり傷のようなものが見受けられる。
アリシアの言う通り、彼女はドラゴンと長い間戦闘状態だったのだろう。
もう少し遅れていたら、結構危なかったのかもしれないな……。
「ねえ、アリシア。良かったら別のドラゴンを探すの協力させてくれないかな? やっぱり倒してしまったのは俺が悪いし」
「よ、宜しいのでしょうか! わたくしめにそのようなお力添えをいただくなど……」
わたくしめ……って……。
そういえば、彼女は昔から俺を少し過大評価しているところがあったな……。
敬語はよそうと何度か話題にしたことがあるが、議論は平行線のまま終わっていたのだ。
「あ、ああ……。時間は全然あるから俺でよければ手伝うよ。それよりアリシア。一旦体力を回復させてもらってもいいかな?」
「も、勿論、か、かみゃいません!」
「それじゃあ経験値を付与するね」
俺は何故かもじもじしている彼女の肩に触れ、経験値付与の能力を発動する。
【ポイント・エージェンタ】はパーティ未加入の者に使用した場合、数時間程度で効果は消えてしまう。
しかし、レベルは1上がるだけで、体力と魔力は全回復するので、次の戦いに備えて彼女を回復させてあげたかった。
ただ、俺はいつも通りに経験値が付与できず、違和感を感じる。
「あれ? 何故か付与の調節が上手くできないぞ?」
そう呟いた瞬間、数分前にあった出来事を思い出す。
「そ、そういえば……! 【ポイント・エージェンタ】はLv1からLv2に進化してたんだっけ!?」
俺はアリシアに付与する経験値を必死に制御しようとするが、既に能力は発動されていた。
「アリシアッ!! ごめんっっ!」
「ふぇっ……!?」
彼女の全身は光で包まれ、爆風と共に周辺の木々は大きく揺れていた。
☆
「アリシア、本当にごめんっ……! 最後まで責任を取らせてもらうよ!」
「ア……アルス様ったら……! 急に何をおっしゃっているのですか」
何故か頬を赤く染めながら全身をくねらせている彼女。
今のアリシアは無事ってことで良いのかな?
ポイント・エージェンタはレベルアップによる戦闘力強化以外にも、回復の分野で応用が利く反面、使用者は気を付けないといけないことがある。
それは急激なレベルアップだ。
段階的にレベルを上げずこの方法を取ってしまうと、肉体が耐え切れず、最悪の場合、意識を失ったまま目覚めないという症状も存在する。
俺は彼女のステータス画面を確認し、溜息を吐く。
何か症状が出ても俺が対処できるよう、しばらくは彼女の傍にいないとな……。
==================
名前:アリシア
種族:人間
レベル:100
ユニークスキル:【剣聖】Lv2
累計経験値:685160100
スキルポイント:0
次のLvまで:12918900
HP:750
MP:460
攻撃力:380
守備力:220
魔力:0
魔防:147
速さ:350
スキル:なし
魔法:なし
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====================================
ユニークスキル:【剣聖】Lv2
Lv1⇒大器晩成(レベルアップに100倍の経験値を必要とするスキル)
アンロック条件:なし
Lv2⇒ドラゴンスラッシュ
アンロック条件:入手経験値が500000000を超える。
Lv3⇒LOCKED
アンロック条件:入手経験値が1000000000を超える。
Lv4⇒LOCKED
アンロック条件:入手経験値が5000000000を超える。
Lv5⇒LOCKED
アンロック条件:入手経験値が10000000000を超える。
====================================
そんなことを考えながら、アリシアとドラゴン探しをしていると、彼女は恐る恐るといった感じで俺に質問する。
「ア、アルス様……。アルス様は『女性が二人いる』パーティで活動されているとおっしゃっていましたが……」
よく分からない箇所を強調されている気がしたが、俺はそこはスルーして答える。
「あ、ああ……そうだね。家庭教師をしている間はそうだったけど、今はわけあって、一人で活動しているんだ」
そう説明した瞬間、彼女は目を輝かせながら、俺に詰め寄る。
「そ、そうだったのですね! 因みにアルス様! 家庭教師で私がお世話になった際にした約束を覚えていらっしゃいますか?」
「えーっとなんだったっけ……? あと、顔が近いかな……」
俺は一旦アリシアと距離を取るが、彼女は気にせず、早口でまくしたてる。
「ハンター養成学校を首席で卒業したら、アルス様のパーティに入れて欲しいのです!」
言われて俺は即座に思い出す。
確かにそんな約束をしたけど、彼女なりの冗談だと思っていた。
「いや……確かにしたけど……。アリシア、本当にいいのかい? 今は俺一人しかいないパーティだよ?」
剣聖の彼女は他所のパーティから引く手あまたのはずだ。それを全て蹴ってまで、俺についてくるメリットがあると思えなかった。
「はい! アルス様のパーティが良いのです! アルス様といればもっと強くなれます!」
そう言われて、俺はじんわりと胸のあたりから熱が灯る。
彼女はなんて優しいのだろう。
アリシアは俺より二歳年下だが、既にドラゴンに挑むレベルまで到達している。もう俺の支援が必要と思えないくらい強いはずだ。
それでも、こんな俺に付いてきたいと言ってくれたんだ。
経験値を与えることしか出来ない俺だけど、いつか恩返しをしないとな。
彼女が満足して学校を卒業できるよう、俺はより一層ドラゴン探しに力を入れた。
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