第3話 【SIDE勇者】レベル1になり、ダンジョンで大苦戦する

「畜生ッ! 案外しぶといじゃないか、ここの魔物はっ!」


 俺は倒した魔物を見下ろしながら、愚痴を漏らす。

 アルス追放後、すぐさまダンジョンに挑んだ俺達だが、当初想定していた何倍も攻略が遅れている。


「ちょっとアンタ! 考えなしに突っ込むからわたしの回復が追いつかないでしょ!? 死にたいの!?」


 アルス同様、幼馴染の【聖女】メイが怒りを俺に向ける。


「うるさいな! お前は愛想よくこの俺に杖でも振っていれば良いんだよ!」


「はあ!? それが人に治療を求める態度!? っていうか、そもそも何でアルスがいないのよ? 彼がいないとこっちの魔力消費が激しくて大変なんだけど!」


 こいつはレベルアップ時の恩恵のことを言っているのだろう。この世界ではレベルが上昇する度に、HPとMPが全回復する。


 だが、今はそんなことどうでもいい。


「だから何度も言わせるな! アルスは今日体調が悪いんだよ! それに役立たずのアイツがいようがいまいが関係ないだろ!」


「はぁ……。実力で言えば誰かさんよりも、遥かに貢献しているのにね……」


「何だとッ!」


 呆れてため息をつく彼女に今度は俺が怒りを露にしていた。


「ニャッ! 喧嘩は駄目ニャ! レオンもメイも一旦落ち着くニャ!」


 獣人である銀髪のネネが俺達の間に割って入ってくる。

 彼女は俺の奴隷だ。

 アルスとメイは奴隷の購入に猛反発してきたが、無視して今に至る。


「おい、ネネ! お前は【賢者】の癖にさっきから魔力を節約して魔法を使っているな。いい加減にしろよ!」


「にゃぁ……。高威力の魔法はご主人様が居ないと使えないニャ……」


「お前の主はこの俺だと何度も言っているだろッ! 奴隷の癖に調子に乗るなよ! ごはん抜きにするぞ!」


「ニャッ! アルスはもっとネネに優しかったニャ!」


 チクショウ……。俺はその場で歯を嚙み締める。


 アルスが居なくなったことで、このパーティの女は好き放題に出来ると思った矢先にこれだ。


 まったく……。女っていうのは馬鹿なのか?


「お前達は黙って勇者であるこの俺の言うことを聞けば良いんだよ!」


「……はぁ……」


「……にゃあ……」


 彼女らの間の抜けた返事に俺は苛立ちを覚えたが、無視してダンジョンの奥深くへと歩を進めて行った。




 俺達はダンジョンの中層に辿り着くと、ふと壁の隅に光を放つ鉱石が目に入る。


「オイッ! あの輝き! オリハルコンだぞっ!」


 俺は急いで光源の元まで走り出していた。


 フフフ。役立たずを追い出したことで、ツキがまわってきたな。

 オリハルコンは剣や鎧の素材として使えるが、何なら売った金でもう一匹奴隷を買うのも悪くない。このサイズの鉱石ならエルフを買うことも不可能じゃないだろう。


「ちょっと、待ちなさいよ! 罠かもしれないでしょ!」


「ニャ! 流石に怪しすぎニャ!」


 背後から忠告を浴びせられた俺だが、無視してオリハルコンを抜き取ろうとする。


「ッ……! 何だよコレ! 抜けないじゃないか?」


 びくともしない鉱石から手を放した刹那、ガチャリと何処かで扉が開いたような音が聞こえる。


「……? 何の音だ?」


「レオン、前っ!」


 言われてダンジョンの進行方向に顔を向けると、斧を携えたミノタウロスの群れが急接近してくる。


「おい、メイ!! 防御力上昇の魔法が切れたぞ! 今すぐかけなおせ!」


「だーかーらー。魔力がカラって何度も言ってるでしょっ!」


「何だとッ!? なら、回復アイテムを使えば良いだけだろ!」


「にゃあ……アイテムの整理はレオンがしているんじゃにゃかったニャ……?」


 俺はすぐさまアイテムボックスを確認するも、案の定聖水は一本も残っていなかった。


「……ッ!! 所詮は群れることしかできないミノタウロスだろ! 俺が一撃で葬り去ってやるよ!」


 俺は剣を構えるも、突然ズンッッッッと全身に倦怠感を覚える。


「は?」

「きゃああっ!?」

「ニャッ…! ニャにが起こったニャ!?」


「おい、メイ! 何が起こっている!? 何か魔法でもかけられたのか?」


「違うわっ! 状態異常といった類の魔法は受けてない! それより、あたしのレベルが42まで落ちてるんだけど!!??」


「ニャッ! ネネもレベルが39になってるニャ!?」


「何だと……」


 俺はすぐさまステータス画面を開けるが、一瞬にして顔を青ざめさせる。


==================

名前:レオン

種族:人間

レベル:1

ユニークスキル:【勇者】Lv1

累計経験値:1

スキルポイント:0

次のLvまで:21

HP:22

MP:0

攻撃力:8

守備力:6

魔力:5

魔防:4

速さ:6


スキル:なし

魔法:なし

==================


 レベルが1になった上に、今まで覚えたスキルも魔法も使えないだとっ……!?。


 瞬間、数時間前に追放したアルスの発言を思い出す。


――本当に良いのか!? 数時間以内に全員分の【ポイント・エージェンタ】の効果が消える! レベルが下がるんだぞ!


「ハ。ハハ……。あれは本当だったのか……」


「ちょっと、アンタ何が起こったか知ってるの!? もう魔物を相手してる場合じゃないんだけど!?」


 俺はメイの発言を無視して剣を握りしめる。


 ありえねぇっ……!!

 こんな仕打ちねェだろっ……!!


 キッと正面にいるミノタウロスを睨みつけた俺は剣を振りかぶる。


「レベル1がどうしたああああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」


 ミノタウロスを斬り伏せようとした俺だが、不意に右耳から違和感を感じる。

 ブチッッッ……!という音を最後に、聴覚がおかしくなったからだ。


「は?」


 ミノタウロスの斧にべっとりとこびりついた俺の血。

 そして地面に落ちている自分の右耳を見てようやく状況を理解する。


 俺はあまりに急の出来事に悲鳴をあげていた。


「ぐああぁぁっっ!!! 耳がッッッ! 耳が無いっっ!」


「レオン! とにかく逃げるわよ! ネネちゃんも早く!」


「ニャッ! 今すぐ撤退するニャ!」


 畜生……!!俺はこんなところで苦戦するようなタマじゃないのに……。


「アンタ、後でじっくり話を聞かせてもらうから」


 サラリと俺に言い放つメイ。

 聖女である彼女の治療を受けることが出来ない中、俺は苦渋の顔を浮かべ、ダンジョンから敗走していた。

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