畑山救琉

第51話

 対面した瞬間に、太陽は思わず振り向いた。何かが飛んできたかと思ったのだ。

 少し寒さを感じた。怖いからだと気づくまでに、時間がかかった。

 決勝だから、ではない。畑山の圧力が、大きかったのだ。

 犬沢にも感じたことがなかった、圧倒的なプレッシャー。ただ黙って座っているだけなのに、畑山は何かを放出し続けていた。

 太陽は後手になった。そして、畑山の初手は9六歩。かなり珍しい手だった。ただ、全く見たことないというほどではない。太陽は飛車先の歩を突いた。3手目、5八玉。

 太陽の動きが止まった。

 ちらりと、畑山の顔を見る。盤面をじっと見ていた。真剣なのだ。ふざけた序盤を、真面目に指していた。

 これまで学んできた序盤知識は役に立たなくなった。そして、相手は強い。太陽は少し楽しくなった。中学に入ってから楽に勝ち続けてきた虚しさから、解き放たれるのを感じた。

「久しぶりだ」心の中で、笑った。



 瞬きを忘れていた。太陽は、食い入るように盤面を見ていた。

 大差だった。どうしようもなく、負けていた。

 どこで悪くなったのかはわからない。気が付いたら、こうなっていた。

 それでも、畑山は顔色一つ変えていない。まるで、「予想通り」「いつも通り」という風だった。

 もう、どうしようもないとなった時、多くの人は対局中でも反省を始める。太陽も、後悔していた。学ぶ機会が増えたことで、勝つ機会が増えたことで、どこか安心していたのだ。

 自分より強い奴なんて、いくらでもいる。そのことを実感していた。

 最後は動かす駒も難しいような状況で、太陽は投了した。そして、チームも0‐3で負けた。

 海滝の圧勝。確かに、準決勝が事実上の決勝戦だったのである。

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