赤く血塗られた紫陽花はいずれ枯れる

 しとしと雨が降り続ける六月。

 雨には雨の風情があると嘯くのも飽きてしまった。本来なら外で買い物でもしたいのだけれど、びしょ濡れになるのもごめんだ。

 だから近所の図書館に行こう。平日ならうるさい子供もいないだろうし。室内で過ごすことには変わりないけど、気分転換にはなる。


 傘を差して、徒歩五分の図書館に向かう。

 どんな本を読もうか。


 ふと、途中の道に咲いている紫陽花が目に入った。

 赤い花びら。綺麗だけど、どこかゾッとするような美しさだった。

 まるで、人の生き血を吸ったような、赤さ――


 そのとき、一羽のすずめが近くの木に止まった。紫陽花との距離はそんなにない。

 すずめは何を思ったのか、紫陽花に向かって飛んだ。

 花びらに触れるか触れないかのタイミングで、すずめがふっと消えてしまった。


 目の錯覚だろうか? それとも……

 気になったので小石を投げてみる。

 小石は消えずに、紫陽花を揺らした。


 ここではっきりとすずめが消えたことを確認できた。もしすずめが紫陽花の中にいたら、小石に驚いて飛び立つだろう。

 紫陽花に吸い込まれた……そう表現するしかなかった。


 では何故、小石は吸い込まれなかったのか?

 生き物ではないから?

 ……確かめたい。


 近所の猫を捕まえて、紫陽花に投げることにした。

 暴れる猫を抱えて、紫陽花に近づいて、投げ入れようとする――


 猫が暴れて、手の甲を引っかかれた。

 そのせいで猫が逃げてしまう。

 追いかけようとしてバランスを崩す。

 倒れた先には、紫陽花――




 紫陽花になっていた。

 正確に言えば、花びらの一枚と化していた。

 隣のすずめがうるさかった。


 いつまで生きていられるだろうか。

 梅雨が明けたら、紫陽花も枯れる。


 残された傘はどこかへ行ってしまった。

 雨はいつまでも、いつまでも、降り続けた。

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