世界は続くよ、どこまでも。

 もうすぐ、特急列車がやってくる。

 この駅には止まらない。ただ通り過ぎるだけ。


 私は一人、白線の外側で、電車を待っていた。

 周りに人はほとんど居ない。夜の十時で帰宅時間を過ぎたから。


 手のひらをこすり合わせる。

 すっかり乾いてしまった血がザラザラする。

 澄んだ空気。空には星が瞬いている。

 頬を伝う涙は止まらない。


 そういえば、あの人に会ったのは、こんな夜だったっけ。

 さっき殺してしまった、あの人。


 自首しようと思った。

 人殺しは罪だから。


 でも、無理。

 だって、死んだはずのあの人が、私に纏わりついているから。


 痛い、痛いと私に囁く。

 恨めしい顔で私を覗く。

 死んでいるのに、吐息が耳に届く。

 死んでいるのに、血が流れている。


 刑務所に行っても、きっとあの人は私にとり憑く。

 それに血が拭っても取れなかった。


 駅の構内でアナウンスが流れる。

 特急列車が来る音。風を切って走る音。


 私は白線の内側に入って。

 列車が来るのと同時に線路に降り立った。


 あれ? おかしいな。

 あの人が消えてる。

 それに、あの人って、誰?




「また自殺者か……」

「ええ。今度はOLですよ。テレビでは自殺の理由は不明って言っていました」

「何か、憑いているんじゃないか?」

「あはは。オカルトじゃあるまいし。先輩、信じているんですか?」

「馬鹿なこと言うな。ほら、外回り行くぞ」




 もしも、あなたが死んでも、世界は続いていく――

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