第565話 れっとろ

友里恵は歌う。



「♪れっとろ、れーとろー♪」


由香は笑って「あぶねーなぁ、それ。盗作だとか言われるぞ。

まあ、レトロだけじゃわからんか」




愛紗は「レトロって・・・この列車?」



菜由「そういう感じだけど、これはそのまま昭和だよね。」



友里恵は、ハテナ。「どう違うの?」



由香「いーの、中卒女はわかんなくて」




友里恵「今は専門卒だって」



由香「そーだね。ドロップアウトして」




友里恵「終わりよければすべてよし」



由香「終わってんのかオマエは」



友里恵「わっはっは。オワマン」



由香「あぶねーなぁ」




菜由「まだ若いじゃん」


友里恵「じゃ、ヤングマンか」




由香「歌うなよ。盗作だって言われるから」



友里恵「♪・・ko」



由香「やめろって」




友里恵「♪やめろっていわ・・・♪」





由香「いくぞ」と、立ち上がって。



友里恵「もーいくの?そんなによかった、あたしのオ・・」



由香「そのアトいうなよ」




友里恵「ハハハ」




菜由「あたしたちも行こうか」




愛紗「そうね。」



列車は、ゆっくり・・・進んでいるように見える。

海岸沿いの山陽本線は、割りとのんびり。

来る時は朝で、これから旅に出かける・・と言う気分で

爽やかだった。


そんなことを愛紗は思い出す。



友里恵ちゃんの言うように、ひと駅、ひと駅・・・

降りて歩いたら楽しいな、と思う。



そういう旅をしていたら・・・そういう生き方も楽しいなぁ。


そんな風にも思う。



路線バスのドライバーも、ローカルだとそういう感じもある。



終点までのんびり、停留所を通って・・・止まったり、走ったり。



終点の転回場でのんびり、バスを停めて。


扉を開けて。



だーれもいないバス停で。


屋根のついている、プラスチックのベンチに背ずり広告があって。


「明治牛乳」とか。



運転手さんは、そこのベンチに腰掛けて。


タバコに火をつけて。ふんわり、煙がふわふわ。


短い髪、白髪、日焼けの顔。


紺色のズボンは皺が寄ってて。

ワイシャツは腕まくり。


帽子は運転席に置いてあって。


マイクがくっついてて。



ほんの少しの間だけれども、楽しい休憩である。



転回所には大きな木があって・・・長い休憩だと

その下にバスを停めて、お昼寝したりして。



その・・・・空想でも、運転手さんは白髪のおじいさんだったり(^^)。



なんとなく、女、愛紗のような若い女は似合わない光景かな、なんて

思ったりもする(^^;



菜由は、その愛紗の様子に気づいて「なに?」


愛紗は「うん。路線バスの転回所を思い出してて。ほら、あの・・東沼の」


菜由は「ああ・・・あの、西の外れの?パチンコ屋さんがあって。丘へ登ると

大学の。それが?」



愛紗は、歩きながら「あそこで折り返しする風景、やっぱり

白髪のおじいさんが似合うかな、って」



菜由は、笑顔で「うん。それ、見慣れてるもんね。

でも、女子ドライバーも乗れば、行くんじゃない?あそこ。美和さんとか」



美和は、30代半ば。小柄で、ちょっと凛々しく、愛らしい。。

既婚である。





愛紗は思い出した。トイレに困ったとき・・・の話し。



「そうだった。」



友里恵が振り向いて「なになに?なんのハナシ?」



愛紗は「うん。女子ドライバーがね、路線でもって。

東沼の転回所に居たら、おじいさんでなくても似合うかな?って」




友里恵は「まあ、似合わなくても仕事だから、行くんじゃない?」


由香も戻ってきて「それはそうだがな。オマエみたいなバリケードと違って

こっちはデリケートなハナシ」




友里恵は「バリケードで悪かったな」



由香は、ハハハ、と笑って「アンタに繊細さ、なんて求めないよ、誰も」



9号車はA寝台個室。

マホガニーのドア、絨毯はふかふかで。



「高級だね」と、友里恵は振り返りながら。



由香は「転ぶと痛いぞ」と、お姉さんタイプ。



友里恵はにこにこ「わかってるって」とかいいながら

足がもつれて。



ドテ☆


友里恵「よさそう?あたしのドテ」



由香「・・・別にいいのか。ドテだけじゃ」



菜由「そりゃそうだっけ(^^;」




9号車を通りすぎたけれど、誰も出てこないし

静か。



愛紗は「だっけ」



菜由「津軽弁だっけ?」




愛紗「それだけでもなさそうだけど(^^)」



友里恵「そーいえば、タマちゃんも弘前に居たって言ってたね。

理沙さんとおんなじ」




由香「知ってるかな」


友里恵「まさか。年離れてるし・・・タマちゃんがコドモの頃に

数年居ただけだって。

でも親戚のおじさんとかは、ずーっと居るワケだから。

意外と知り合いだったりして」




とか、話しながら9号車のデッキ・ドアは

なぜか自動でないので、手で押すタイプ。

でも、窓ガラスがスモーク。



菜由は「なんでスモークなんだろう」



友里恵は「さーぁ。お忍びのおエライさんが、美人秘所と旅行とか」



由香「字が違うってば。中卒女」



友里恵「わざと」



由香「だろうと思った。」と、ふたり、イタズラっぽく笑う。



愛紗は「美人の秘所」



友里恵「日生さん!美人の、ってなーに」




愛紗、あわてる。「え、あ、いえ、その・・・。なんとなく」(^^;;



菜由「どっかで見たか、エロ小説とか」



由香「観光バスに捨ててくもんねぇ、あれ」




愛紗は、更に慌てて「そういうものは見てませんっ!」



菜由「友里恵のがうつったんだろ。ビョーキ」




友里恵、ハハハと笑いながら10号車へ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る