第564話 れとろ

友里恵と由香は、食堂車に戻る。


菜由と愛紗は、のんびり待っていて「あ、来た来た。」と、菜由。



友里恵「ごめーん、ちょっと受けてて」



菜由は「そうだろうと思った」と、にこにこ。



愛紗は「お帰りなさい」と、にこにこ。


友里恵は、もと座ってた椅子に戻って「あー、でもさぁ、なんで寝台特急で帰るの?」



由香は、となりに座って「休みが終わっちゃうから」



菜由は、思い出したように「トラベルライターになったら、帰らなくていいんでしょ」



「帰らぬ旅に出るのであった。彼の名は、リチャード・キンブル」


と、言って、友里恵は腰を振って「あ、金無いかハハハ、マン・・・」



と言うと由香が友里恵の口を押さえて「そこまでにしとけ!」と。



菜由も楽しい「いいねぇ、一生旅暮らしなんてさ」



愛紗は「寅さんね」



友里恵「わたくし、生まれも育ちも相模ですー。スモー、じゃないよ」



由香「どすこーい。体型はほとんど関取」


友里恵「でもさぁ、各駅停車で降りたり乗ったりして、何年掛かるんだろね、帰るまで」



愛紗は、考えて「映画の寅さんは半年とか・・・一年とかだけど」



菜由「でもアレは映画の都合だから。ホントの旅芸人ってずーっと帰らないんじゃない?」



友里恵も、ハタ、と思い出して「なんか居たねぇ、旅回りの一座。寅さんにも出てて」



由香「ピンカートンさまぁ」




愛紗は「そうそう。それで。パティのお父さんが船乗りだってとこから」



菜由「パティ、家についたかな」



愛紗は壁の時計を見て「もう、寝てるかも。明日仕事だったら。」



友里恵は「あー、思い出しちゃった。アタシたちもそういえば・・・。」



愛紗は「ごめんね」と、軽く。



菜由「でも、辞めるんだったら・・もういい、んじゃない?」




由香「うん、あたしらはさ・・・とりあえず様子見で。レポーターの仕事も、そんなに

来るか解らないし」




「新聞によりますとー」と友里恵。



由香「そっちかい」



「現場からしょーじがお送りしました」と、友里恵。


由香「しょーじくらい漢字で書け」



「わかんないもん」と、友里恵。




由香「さすがは中卒女」




菜由「真面目なハナシさぁ、レポーターってフリー、って事でしょ?

それなら会社辞めないでさぁ・・・・売れるまで。」



友里恵「うん、あたしもそうするつもり・・・って、急に真面目な話になっちゃった。

そろそろお部屋行こうか。

あー、お風呂入りたくなっちゃった。」



「オマエは歌ったし」と、由香は笑って。「この列車はついてないみたいね」




愛紗は「うん。新しい列車にはついてるのもあるけど。」



菜由は「ああ、時々見かけたね。ガイドの仕事で遅くなると。

クリーム色と臙脂色の。



友里恵は「あ、なんかあったね。路線の仕事でも

最終バスが終わって帰る頃、高架のバイパスから見えるって言ってたな。




由香「誰が?」



友里恵「タマちゃん」



愛紗は「いっぱい話してるのね」



友里恵「付き合い長いもん」と、ちょっとごじまん。




由香「まあ、付き合いって言っても・・・」



友里恵「それを言っちゃあおしまいよ。さ、部屋いこ?」と、席を立とうとしたら

テーブルが少し動いたような。




由香「あ、壊したな?」(^^)。



友里恵「そーんなバカな。うーまがしゃべる」



愛紗「ミスター・エド」



菜由「エド山口」




友里恵「これはまた・・・マイナーな」



由香「誰もわからんかな」




列車はゆっくり走っている。もう、夜の雰囲気で

瀬戸内海が見えるはずだけれども、ところどころに灯りが見えるくらい。



友里恵「そうそう、愛紗の切符、江戸まででしょ?」


由香「東京だって」


菜由「それで思い出すかなぁ」



愛紗「そうよ」


友里恵「東京まで乗るの?」



愛紗「うん、だって・・・勿体無いもの」



菜由「なにが?」



愛紗「せっかくの旅だし。寝台個室って、時々しか乗れないし」



友里恵「あー、そっか。残念だなあ、あたしの切符は江戸ゆきじゃない」



由香「東京だってば、まったくまあ、お母さんが聞いたら嘆くわ」



友里恵「なんで?」



由香「こんな子だって、産みの苦しみで・・・」




友里恵「あたしはスルっと出たって」



由香「二人目だしね」



友里恵「お休み前のコーラック」



由香「便秘かよ」



菜由「食堂だって」




友里恵「あ、ハハハ。じゃ、おあとが宜しいよーで。」




なんとなく懐かしいようなパイプ足の椅子も、この雰囲気に合っている。

跳ね上げテーブル、ビニールのクロス。

窓際のお花。ふわふわレースのカーテン。



レトロ。そんな感じに今は見える。

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