第506話 おソバ

赤いディーゼルカーがやってくる。

電光掲示の行き先、広い室内。どことなく都会的。



踏み切りなので、1両だけの車両が行き過ぎるまでホームに渡れない。



「乗れるかな」と、友里恵は踏み切りの前で待ってる。



「大丈夫だよ、待ってくれる」と、由香。



パティは「ローカル線ですから。」(^^)。



理沙は「そうだねー。遅れてきても、待ってあげる。回復運転するのはラクだし」



同じ線区を走っていると、場所でだいたい・・・「あと何分」と、解るから

すこし早く走ってあげれば、時刻は早められる。



それは感覚だったりする。時刻を計算する・・・と言うよりは。



今来た路線だと、由布院駅から、あの農道の陸橋まで・・・だいたい・・・このくらい、と言う

感覚。



「ちょっと速いかな」とか。




踏み切りで待っていると、車輪のディスクブレーキの音が、よく聞こえる。



理沙は、あまり好きではないので耳を塞いで(^^)。



軋むような、金属音。



赤い、1両だけのディーゼルカーが停まる。


降りる人は、ふたり。



土曜なので、学生さんふうの若いひと。



「学校あるんだね」と、菜由。


パティ「ハイ。小野屋駅にもありますね。丘の方に、女子高」



友里恵は「パティの?」



パティは「ハイ。近くていいかなーって。」



とことこと、スロープを上がって。赤いディーゼルカーの後ろのドアから乗って。

整理券を取って。




由香は「なんかバスみたいだ」



菜由「周遊券ならいらないか、整理券」




友里恵「思い出になるし」と、リュックのポケットにしまった。


愛紗も思う。そんな、小さなものでも思い出になるから、取っておくのは

楽しい。



ふつうのバスの整理券と似ているけれど。


赤いインクで数字がスタンプされていたり、感熱紙で黒い文字だったり。



あとで、いい思い出になるのだろう。




理沙は「感熱紙だと消えちゃうんんだよね」と、機関士らしく理論的。


愛紗は「切符もそうですね。周遊券とか・・・だんだん消えていっちゃって。

想い出が薄れていくみたい」



由香「聞け、これがニンゲンの会話ぞ。」


友里恵「ダレに言ってんの」



由香「自分」



友里恵「ならいいけどさ」




由香「ひとの振り見て我が振りなおせ」



友里恵「スイングスイング♪」



パティ「野球好きですー」



つー・・・・・と、電子ブザーが鳴って。


ドアが閉まる。



ぷしゅー・・・・と、空気の音がして。



ふあん



と、電車のようなタイフォンの音がして。



大分行き単行は、ゆっくり下り坂を走り出す。


逆転機は入れたままだったのかな、なんて理沙は思う。

トルク・コンバータなので、オイルが熱くなるのが気になる。

のだけど、停車時間が短いと大丈夫なのだろう。



かったん、かったん・・・・。軽快に走り出す。



♪ぴんぽーん♪



車内アナウンスは、優しげなお姉さん声。



ーーつぎは、鬼瀬ですーー。




友里恵「鬼が居るのかな、川に」




由香「渡る世間にいっぱい」




パティ「おソバ屋さんでしたっけ」



菜由「あれは見てない?」


パティ「ハイ。時間が合わないと言うか」



友里恵「大正庵」


由香「それはまた大昔」



パティ「おそばって、なんかいいですね。和風で」



友里恵「カレーうどんもおそばやさんのは和風だよね」




理沙「そうそう。味がね、なんか。鰹だし」



菜由「黄色いのね」



軽快に下る、赤いディーゼルカー。


踏み切りを幾つか越える。



かん、かん、かん・・・・。と、長閑なベルの音が響いて。



崖に張り付いているような線路。鉄道模型のように

川を見下ろす僅かな隙間に線路が敷かれていて。

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