第505話 target

滝が見えないので、友里恵は「じゃ、栗拾い」

道路渡って、駆け上がりの斜面に生えてる栗の木のところ。

畑でもないらしく。



由香「秋じゃないってば」と、道路から


ぴょん


と、斜面に降りて。「あ、イガがあるよ」



理沙は「あるよ、たぶん。誰も取ってないもの」



何本か、木が生えているけど、葉っぱの形を見て「これが栗かな」

と、友里恵は

斜面に。



ずる。




「おっとっと」と、栗の木に掴まって。



足もとも、落葉が溜まっていて滑りやすい。



「イガがいっぱい」と、友里恵。「中に栗があるけど、去年のだねこれ」



「食うなよ」と由香。



「食わないよ」と、友里恵。


パティは上から「だいじょーぶ?」



友里恵は手を振って「ワンピースだとやばいよー、引っかかったらオールヌード」



ハハハ、とみんな笑う。



菜由は「パンツはいてるだろ」



友里恵は「ざんねーん」



由香「ミリオネアかいな」




友里恵「次の汽車何分?」



愛紗「あと10分」



友里恵「じゃ、登る」と言ったけど、滑って上りにくい。



なーんと・・・どっこらしょ。


やっとこさ登って。道路へ上がるのが一苦労。

ともあれ、駅のすぐ前だから

列車が来れば、レールの響きで解る。


車輪がレールを滑る音・・・・ しゅー・・・・・。


レールの継ぎ目を越える音・・・ かったん・・・かったん。



単行のディーゼルカーは、車輪が少ないから

かたかたん、かたかたん・・・と。



長い編成の列車は、たくさん。



そんな音が聞き分けられるほど、静かな場所。


単線だし、列車の本数も少ない。



菜由は「こういうとこで子育てしたいなぁ」と、思う。

まあ、整備士の石川はどこでも暮らしていけるけれど。

好みはあるから。



あんまり、家の事に縛っちゃうのも良くないし。

なんて思う。


石川と同じ工場の若い整備士ふたりも、あちこちの工場を代わりながら

今のバス会社にいる。


ひとりは、ポルシェの整備をしていたと言う。でも、なぜか

バスの整備をしている。

専門的にいろいろあるのだろうし、好みもある。客、と言うか

整備を依頼するバス・ドライバーは身内だから、気楽がいいのもあるのだろう。



理沙は、そんな菜由に「考え事?」と、にっこり。

東北人らしい、人懐っこさでそう言われると、菜由も心和む。


「はい。子育てを、こんなとこでしたいな、って」



理沙はちょっとびっくりした感じ「お母さんになるの?」



菜由は恥かしくて「いえいえ、そんな」と、両手を振って。




理沙は笑う「なんだ」と、空を仰いで「でも、すぐそこだよね」



菜由「環境が大事かなーって。思ってて。昨日TVで、プリンセスのニュース見てて。」



理沙は「意外、ああいう人たちって下世話だよね、なんか幻滅」と、笑って。


菜由も思う。石川や、バスドライバーたちの方がよっぽど高尚だと思う。

一生懸命に事故を防ぐ事を考えていると、体面とか名誉とか、お金とか。

他人とか、そんなものを気にしている余裕ない。


野武士のようだ、と・・・彼らの表情を思いだす。


そう、戦争なのだ。


菜由は「わたしも、田舎だと干渉されるのが嫌で、相模に出てきたので

あんまり批判じみたこといえないけど」



でもまあ、菜由の両親は石川を嫌ってもいないし

勘当もされていない。

石川に借金があっても、そうはしないだろう。


まあ・・・・石川だったら借金してまで海外留学なんてしないだろうけど(^^)。

そこまでして得たい資格ってないし。




お金だったらそこそこでいい。お金の為に仕事したくない。



それは、愛紗の考えとも同じだと菜由は思う。



愛紗は、だから困ったのだろう。

好ましいひとたちの為に役に立ちたいと思ったのに・・・・

ダメ。だったから。




でも・・・向き不向きってあるんだもの、仕方ないよね。


それで、目標を失った愛紗、だった。

今まで、なんでも出来るスーパーガールだったから、余計に、辛い。

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