第484話 さよならネロ

友里恵は、部屋を片付けて。

着替えて。リュックだけ持って。


由香は「切符、持ってるよな」



友里恵「そのギャグは前やったから」



そっか、と、笑顔になって。

朝の雰囲気が残っているお部屋を見た。


ベッドがふたつ。大きな電気スタンド。


麻のソファ。


ガラスのテーブル。

窓際のスツール。鏡台。



なんか、淋しくなっちゃうけど。「ありがとうございました」と、お部屋に、お辞儀して。



由香「じゃ、いこっか」と、振り返りながら。



友里恵「また、来れるよね」



由香「うん」




と、にっこり。お部屋を出て。


お隣の部屋のドアサインを押して。


♪メロディ♪



友里恵「この音楽、あのコンビニと同じだね」



由香「うん。ナショナルのだって。ビーバートザンに売ってるよ」



友里恵「そうなんだ。買ってくるかな」



菜由が出てきて「あ、行こうか?」と、ドアを開いて。


愛紗も、支度が済んでて。「待ってたの」



友里恵は「あ、スリッパのままだ」と、お部屋に靴を置いたままなのに(^^;



由香「おっと」と、とって戻して。


靴に履き替えて。



スリッパ、と言うか・・・サンダルのようなKKRの上履きなので

なんとなく間違える。



「女の子はサンダル履き、ありますからね」と、パティ。



友里恵「なんでだろ」



由香「さあ」



友里恵「あんたが知ってるとは思わん」



由香「まあ、そうだが」



5人は、こんどは金ぴかエレベータの前まで回廊を歩いて。

お掃除のおばさんたちが、にっこり「お気をつけて・・・」と。


穏やか。



友里恵「いいなぁ、お掃除の仕事でも・・・こんなに笑顔で出来るなら」



愛紗は、そうかもしれないなぁ、と思ったりする。

どんな仕事だって、笑顔で出来るなら。そうかもしれない。



それで、自分は・・・・弘前にそれがあると思ったのかな、なんて・・・。


エレベータが来て、しずしず、乗り込む。


「バッグ持ってると狭い」と菜由。



友里恵は「送っても、そんなにあるの?」




菜由は「おみやげとか」




友里恵は「送っちゃった」



菜由は「うん、そうしようと思ったけど・・・やっぱ、帰ってすぐ

渡したいから」



パティ「寅さんですね」



友里恵「よーぉ、さくら、おいちゃん、おばちゃん、ほれ」


って、寅さんの顔真似。



由香「似てる似てる」



パティ「芸人さんだ」



エレベータが1階に着いて。開くと

まん前に大きな絵があって。



マリー・ローランサンの婦人画。


帽子をかぶって、カフェに佇むひと。



友里恵は「あっちは、帽子かぶってお茶飲むのかな」



由香「さあ・・・・日本だとないね」



とか、いいながらロビーに。



ネロはいなくて、支配人さんが「ありがとうございました」



由香「ネロはどうしたんだろ」




友里恵「お別れが辛いのかな」



愛紗「そうかもしれないね」



菜由「モテるのも辛いなぁ」


友里恵「ハハハ」



由香「笑ってていいのか」




友里恵「いや、ギャグギャグ。あたしも辛いから。」



パティ「男はつらいよ」



友里恵「女だって」




由香「見りゃわかるが」



支配人さんも笑顔で「また、いらしてください。」



愛紗は「はい」と・・・・。いつ、これるかな・・・・?なんて思って。


理沙は、エレベータから降りてきて、ロビーのソファに掛けた。



パティが「理沙さん」と、振り向いて、小さく手を振って。



理沙も手を振る。「おはよ」



理沙は身軽である。乗務の途中だった、のもあるけれど。

今日は非番だから荷物も無い。



6人になった。


愛紗は、振り向いてプラネッタ・ラウンジを見て。


もう、ふつうのラウンジの時間で

電気が消えて、静か。


ほんとにプラネタリウムみたいだな、と思う。

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