第436話 おでんー

♪ぴんぽーん♪



ーーまもなく、由布院に着きます。お出口は右側、ホーム側の全てのドアから

降りられます。--



と、録音の、優しげな婦人の声でアナウンスされる335D、キハ31。

友里恵たちの乗った単行ディーゼル。



由香は、車窓に流れる並木を見ながら「着くね」



友里恵「おでんー」


由香「つくねだろ」



パティ「たりらりらーん」



友里恵「ハハハ、知ってるねえ」



由香「おでんはチビ太だろ」



パティ「コンビニで売ってましたね」



友里恵「そうそう!よく食った」



由香「食った食ったいうなよ、女が」



友里恵「頂きましたことよ、オホホホ」



由香「キモー」



友里恵「肝はうなぎ」


パティ「うなぎイヌ」



由香「あれも出てきたっけ」



友里恵「ア太郎じゃなかった?」



由香「モーレツ当たろう」



友里恵「競馬の予想かい」



由香「クルマの当たりや」



友里恵「そーいえば居たなぁ、小田原競輪に当たり矢って

予想のおじさん」



由香「行くなよそんなとこ」



友里恵「平塚だっけ」



由香「同じだ!」


パティ「ハハハ。さ、降りますよー」



ディーゼルカーは、軽やかに減速して2番線に入る。



運転士さんは、右手にある制動制御弁レバーを、戻す。






空気圧制御なので、段々・・・・効きすぎるから。


停止位置表示は、ホームの屋根から出ている。





しゅー・・・・。しゅしゅ。



0ノッチ。







ぴたり。



常用最大位置。


計器盤の右、空気圧計が、す、と上がる。

二本ある針のうち、元空気溜め空気圧は、上がったまま。


白い手袋で、左手。指二本。



「停止位置、よし!」



計器盤の凹にある、懐中時計で

時刻確認。


「由布院、停車、定時!」



右手にある、ステンレス棒にローレットを刻んだドア・スイッチを引く。



バスと同じものだ。




折り戸のドア・エンジン・シリンダの空気が抜ける音。


ぷしゅー・・・・。



ドアが、ばたり、と開く。





駅のアナウンスが「由布院、由布院です。ご乗車おつかれさまでした。」



由布院は、ひとの声でアナウンスされている。

駅員は、若い女の子のようで

声が高め。かわいらしい。



「さ、降りよ」と、由香。



「ハイ」と、パティ。



「長い旅だったな」と、友里恵。



由香「おじいさんかいな」



友里恵「なんか、ね」



列車を降りる。


エンジンの大きな音が、がらがら・・・・と響く。



コンクリートのままのホームを歩いて、跨線橋の階段を昇る。



友里恵「あ、ラブラちゃんいるかなー」と、階段の小さな窓から改札の反対側の

大きな鉄柵の中の小屋を見る。





静か。



由香「お散歩じゃない?」



パティ「夕方ですね」




友里恵「ごはんかもね」




階段を昇って・・・1番線ホームに下りて



乗ってきた335D,大分行きを見ると

テールランプが赤く灯って、なんとなく、愛らしい。





床下のエンジンから出る排気が、屋根の上からふわふわ、と出ている。




「電車じゃないってのが、旅、って感じ」と、由香。



友里恵「そだね。御殿場線も電車だし」


由香「あー、思いだした。明日からの。」



友里恵「ゴメン」



由香「いーよ、逃げても同じだし」




パティ「旅、長いと・・・あるかもしれないですね、しばらく何も手につかないって」



友里恵「ホント?」




パティ「なんか、聞いた事あります」




改札に居た、さっきのアナウンスの女の子駅員に

周遊券を見せて。



由香、友里恵。


パティは職員証。挙手敬礼。



女の子も。にっこり。




友里恵「知ってる子?」




パティ「ハイ。ここから乗るし。いつも」

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