第435話 川の畔に

友里恵「昔々、あるところにお寅ばーさんがいました」



由香「お風呂やさんでした」



友里恵「なんでわかるの?」




由香「さっき言ってたじゃん」


友里恵「寅婆湯」


パティ「ハハハ」



由香「お嬢さんには受ける」




友里恵「ハハハ。」








先行、275列車は、南由布に停車。

車掌・洋子は4号車から改札に・・・。

車掌補・文子は2号車から。


降りる乗客はなし。


周囲に民家は、あるにはあるが

この列車に乗るような人は居なかったらしい。



4両編成のディーゼル・カーならば


降りる時、先頭車両の前ドアから降りて

乗る時は、その車両の後ろドアから。


そこに整理券発券機がついている・・・と言う

ワンマン・バスのような乗降をしているが


タウン・シャトルでは、そうではないので

車掌は大変。


それで、この275列車では・・・車掌補がひとり。



洋子は、乗降がない事を確認。白い手袋で右手を上げる。


文子も同じく。2号車に乗り込む。



洋子は、笛を吹いてから

4号車に乗り込む。



乗務員室ドアを開けて、中に入り


ハンド・マイクで「お待たせいたしました、大分行き発車します、ドア付近のお客様ご注意く


ださい、ドア閉まります」



とは言うものの、空いている275列車のドア付近に立っている人は、まあ居ない。



車掌室に入り、窓から顔を出して「乗降、終了!」



ドア・スイッチを押し下げる。



列車無線で「275列車車掌です、機関士どうぞ」



理沙は、反り返ってホームの乗降を見ていた。



右手上にあるハンド・マイクを取り「275列車機関士です、どうぞ」



車掌・洋子は「275列車、発車!」と、仕業票の 南由布・・・・の位置を指差し確認。

腕時計を確認。 ジャスト。




機関士・理沙は「275列車、発車!」と、仕業票を確認。

計器板の時計を確認。



空気笛を ふぃ と、短く鳴らす。



主幹制御器、左手前にあるそれを引く。1ノッチ。



トルク・コンバータがオイルを攪拌する。

ぎしり、と動力が伝わる瞬間をいなしつつ

機関車単弁を0ノッチに戻す。


右手上の少し小さな、黒い持ち手がある

旋盤のようなレバーである。



編成制御弁レバー、銀に光るメッキのそれの

ストッパを外し、さきほどから1ノッチであったそれを


0に。



しゅー・・・・しゅ。空気が抜ける音がする。


編成の1号車から、ブレーキが緩み

走り出そうとする。


1ノッチだと、それほどの力は無いので

連結器ばねが伸びていく程度。


2・・3・・・4号車まで緩みきる辺りで



ごとり



と、編成は動き出す。


その慣性を、腰で感じ取り


2ノッチ。



ゆっくり。



3ノッチ。


するする。


4ノッチ。



ごっとん、ごとん・・・。



下り坂なので、比較的容易であるが

それは、停止時に連結器間隙を伸ばしておいたから、である。



そうでないと、連結器間隙の僅かなクリアランスが当たり



ごつん



と、引き出しショックが起こる。




よく、貨物列車で見かける、あれ、である。




こういう技量がないと、例えばクルーズ・トレインのような

優等列車には相応しい機関士ではない。



理沙の技量は、認められていたのであろう。




一見、複雑そうに見える操作も


慣れ


てくると、だんだん飽きてくる、と言うか・・・。



人間の感覚は、鈍磨するように出来ている。

そうすることで・・・環境中にある



新しい、異物



を、発見しやすいように。



ジャングルに住んでいた頃・・・・ 


そこの匂い、音、風、光・・・

等に慣れていれば


外敵を発見できるので、食われずに済む。



神経接続が、化学物質で起こっている、などの構造から

それと解る。



手の動作も、「手続き記憶」と言って

一連の動作を、勝手に覚えてしまう。



ピアニストが、左手を 6/8、右手を4/4で演奏できるのは

そんな理由であったりもする。



その関係で、機関車の操作も

慣れてしまうと危険であるから 




指差呼称



を行うのである。



機関士・理沙は信号現示確認。「閉塞、進行!」



仕業票、右上の計器板にある譜面台のような、それに止めてある表示を確認。


「次は、湯平、停車!」




これも、当たり前だが,確認する。



左手の主幹制御器レバーを、0へ。


湯平へは、やや下り勾配。

川沿いに下る線路である。


田園風景のなかから、国道と川の間の、やや高い

河岸段丘の中程を、右カーブしながら。



「速度、45!」

計器盤で確認。


逆転器がそのままなので、エンジンが負荷となって軽いリターダーに。



白滝川の瀬が、さらさらと流れる。



川の向こう岸に、セメント工場が見えるカーブを

275列車は、かたかた・・・と

走り抜けていく。




そろそろ、室内にも灯りが灯る。



12系客車は、座席夜行でも使われたので、ブルー・トレインのようにも見える

青い車体。

窓の下に、白いライン。



美しいスタイルである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る