第405話 思い通りに

理沙は、駅長に「でも、庫内手になれても登用試験に受からないとダメですよね」



駅長は「そう。まー、ふつうは入れるけど。一生、車庫勤めって人いないし。

でも10年とか、掛かる人もいるらしいね。ソレ考えると・・・・ねぇ。

機関車乗りたいって言ったって、理由がないもの。国鉄から見れば」



理沙は「アタシは幸運だったってことだね」



駅長「まあ、見込まれたのもあるだろうし、おじいちゃんの名声もあるし。

伯父さんも国鉄でしょう。信用が第一」




理沙は「そうだね。機関車だけじゃなくて、電車だって大事な仕事だもんね」




駅長「まあ、それは言わないでさ。ホンネとタテマエってあるじゃない。運転職に

就けるだけでも幸運だと思うよ。ホント。若い頃じゃないとできないから

チャレンジするのはいいと思う」


と、九州の人らしい、まっすぐな言葉を述べた。





理沙は頷いて「うん、駅長さん、ありがとう。」



駅長は、なになに、と・・・手を振って。笑顔。






それから理沙は、愛紗に電話を掛けて。「ああ、理沙です。弘前ね、バイトなら入れそう。

だけどね、その先、機関士見習いに登用されるか、わからないけど。それでもよければ。

続きは、また夜にでもお話しましょうか。私は仕事があるから」




そう、理沙はこれから乗務なのだった。




愛紗は、駅前の・・・鄙びた商店街を歩いていて、理沙の電話を受けた。



「はい・・・お忙しいのに、ありがとうございます」と、簡潔に礼を述べた。



傍に居た菜由は「理沙さん?」



愛紗は、頷いて「うん。バイトは入れるって。でも、その先はわかんないって。

そうよね。理沙さんはおじいちゃんが名機関士で、伯父さんも国鉄職員だし」



菜由は「愛紗のところも・・伯父さんが元運転士でしょう。それなら大分で入れるかなぁ」



愛紗「でも、親に見つかると面倒だし」



菜由「そっか・・・いろいろ難しいなぁ」と、ちょっと薄曇になってきた

豊後森駅の前で、ぶらぶらしながら。


高校でもあるのか、そろそろ・・・学生たちが楽しそうに笑いながら

バスから降りてきたり。


その明るさが、とても眩しく見えたりする愛紗だった。


菜由は「行くの?弘前」


愛紗は「とりあえず、先を気にしててもしょうがないもの。そういう生き方は

辞めるのあたし」と、にっこり。



菜由「そうだよね、失敗したって思ったとおりしたら、後悔しないよね。」




清々しい気分の、菜由だった。



愛紗も、頷いた。








その頃・・・・・友里恵たちが乗った豊後森行き、普通。キハ31単行は


ゆらゆら、揺れながら。


杉河内駅に停車して。



友里恵は「あ!滝ー。降りよっか」



由香は「降りたら、次1時間」


友里恵「でもいいよ、降りよ」と、ひとりでステップを降りて。



パティも、由香も

仕方なく、続く(^^;


由香「いつもこのパターンだなぁ。最初っから友里恵がさ、大分駅で

「ゆふいんの森」に飛び乗ったし」




友里恵「へへへ」


パティ「まあ、お休みだし。また、いつこれるかわからないし。友里恵は」





由香「まあ、そうとも言うか」



キハ31の折り戸が閉まって。運転士さんは指差し確認して。


ブレーキを解放。



しゅー・・・・。



がらがらがら・・・と、エンジンが響いて、屋根から黒い煙が出て




ゆらゆら・・・・と、キハ31は、のーんびり走り出した。





カーブになってる杉河内駅は、高架線にホームがくっついているだけ、みたいな駅で。



改札口を出て、少し戻ると

親水公園みたいに見える滝。



高い。道路と川が地の底で、ぼっこり、陥没したような感じで

滝は、その線路の向こう側の崖から



ざー・・・・・。



落ちている。



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