第372話 9001列車、発車!

友里恵は、愛紗に「こっちに座れば?」と薦めたけど


愛紗は「ありがとう。でも、運転見たい」と。にっこり。



理沙もにっこり。「それじゃ、一緒に指差し確認してね」


機関助士である(^^)。



愛紗は「わかりました」と。楽しい。




洋子車掌より、ノーベルフォンで「乗降終了」と、簡素に報告。



理沙は「了解」


発車時刻を確認する。天ヶ瀬・・・と書いてある仕業表。


計器板の真ん中にある懐中時計。これは不変だ。


エンジン回転数計があるところが、バスに似ていて

愛紗は好ましく思えた。



61L、V12エンジンは

ボンネットの下で轟音を立てている。


ごーぉ・・・と言う音。


暑い。オイルの匂いがする。


排気が、勢い良く目前の煙突から出ている。


流石に61000cc、1350psである。



列車無線が入る。


「9001列車機関士、大分指令」と。


理沙は「9001列車機関士です、どうぞ」



指令は「信号現示、定時発車よし!」


理沙は「9001列車機関士、了解」と言い


信号が青である事を確認。



洋子車掌より、列車無線。「9001列車機関士、9001列車車掌です、どうぞ」



理沙は「9001列車機関士です、どうぞ」



洋子は「9001列車、発車」


定刻である。



理沙は列車無線で「9001列車、発車」と・・・空気笛ペダルを ふぃ、と

軽く吹いた。



ちょっと淋しげなこの響きが、愛紗も好きだ。




理沙は、さきほどより解放してあった編成ブレーキをそのままに

機関車単弁をノッチ1。


逆転ラッチを前進位置にする。



トルク・コンバータの油圧が高まる。



機関車単弁を緩める。


ぎし・・と、編成を引く。連結器ばねが伸び、間隙が広がる。


マスター・コントローラをノッチ1。




「出発、進行! 天ヶ瀬、定発!」と、理沙の軍手の左手。人差し指、中指。





愛紗も同じに。その手つきは、バスと同じで

なんとなく、心が震えた。



・・・・私のしたかったのは、これなのかしら?




「出発、進行!、天ヶ瀬、定発!」



なぜか、愛紗は微笑みながら落涙していた。




感動、なのかもしれない。




友里恵も、その姿を見ていて・・・なんとなく泣けて来た。





理沙は、座席から伸び上がって「ホーム安全、よし!」


愛紗もホームを見て「ホーム安全、よし!」






理沙は、マスター・コントローラをノッチ2、3、4。



エンジンがごーぉ・・・と回転をあげて


速度が上がる。


すぐにノッチ1に。



回転が下がる。


かたたたん、かたたたん・・・と、編成全体が進む。


天ヶ瀬駅のホームが後ろに消え、左カーブが彼方に見えた。


理沙は振り返り「後部、異常なし!」



愛紗も振り返り「後部、異常なし!」





友里恵は、なぜか泣いていたけれど、後ろを見た。

涙声で「後部、異常なし!」


右手で確認。


上り勾配だが、編成が軽いので

もともと高速段にしてある。



「制限、45!」


と、理沙は確認。


「速度、20!」




愛紗も同じく「制限、45、速度・・・20!」とメータを見ながら。



この辺りはバスも同じである。





DE10 1205は、かなり大きく、重く感じる愛紗である。

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