第102話 560A、西鹿児島、到着、定時!

「着きましたね。」と、婦人はにこやかに。

シルヴァー・グレイの髪は、丁寧に撫で付けられていて

染め粉で黒くするのと異なり、品位を感じさせる。


自然のままの銀髪を、美しく保つほうが難しいから

染めてしまう人が多いのだけれども。



「あー、着いちゃった!」と、友里絵。


「もっとお話したかった?」と、由香。



友里絵は「うん!だって、なんか・・・お母さんみたいだもん。」



婦人は「おばあちゃんよ、わたし」と、にこにこ。



友里絵は手を振り「そんなことないですー。うちのお母さん、くたびれてるし。」


と、言って笑った。




つばめ560号は、静かに停止する。


ドアが開くと、乗客が降りていくけれど


日曜の午後とはいえ、まだ3時なので

そんなに降りる人はいない。



「空いてるね。」と、菜由。


「8号車だからかな。」と、愛紗。


友里絵は、お弁当の葛篭を大事そうに持って。


由香は「落っことすなよ」と。


愛紗は、友里絵が回転させた座席を元に戻した。



「あ、ごめーん。」と、友里絵。




ううん、だいじょうぶ。と、愛紗はにっこり。




5人は、乗客が降りてしまって、がらん、とした車両から

ゆっくりと降りようと、廊下に出た。



「昔、叔父さんがね、寝台特急の車掌をしてた頃

『次は、終点、上野ー。3分停車です。』って言って

みんな笑ったんだって。」と、愛紗。



「ユーモアあるね。」と、菜由。



「伯父様も国鉄に?」と、婦人。

廊下を歩きながら、デッキへ。

縄のれんが下がっていて、ユニーク。



広いデッキから、ホームへ。


高架のホームは風通しが良く、見通しが良い。


強い陽射しが、南国らしい。



3階、くらいの感じ。

真下に鹿児島本線、肥薩線、指宿・枕崎線の線路が見える。

かなり広い構内だ。



駅前には路面電車の線路。


新幹線ホームと並行に、新しく作られたビルとバスターミナル。


愛紗は、そのバスターミナルを見ても

なぜか、嫌な気持にはなれず

むしろ、懐かしいような、そんな気持になった。


気持ちは、不思議だ。





「時間があったら、また、寄ってね。skypeも使えるわ。」と、婦人。



「すごいなぁ。お母さんより進んでるー。」と、友里絵。




新幹線ホームから、エスカレータを降りると

普通の駅ビルだ。



1階のところも、ちょっと地面より高くなっていて

階段が数段。



駅の前はアーケードになっていて、きょうはイベントをしていて

人がいっぱい。



大道芸のような、パフォーマンスをしている。


にぎやかだ。




「あ、じゃあ、みなさんはお乗換えでしょう?ここで、お別れね。」と、婦人は

改札の前で。




「楽しかったですー。」と、友里絵。



「また、来ます。」と、由香。



「ゆっくりお話したかったです。」と、愛紗。




「友里絵ばっかり話してたもんね」と、菜由。



そっか、ごめんね、と友里絵も笑う。


婦人も楽しそう。



楽しそうに手を振り、自動改札に切符を入れると

滑り込んだ切符は、出てこない。



その辺りが、旅の終わり、を感じさせる一瞬だ。





「ほんの、ちょっとした縁。」と、愛紗。


「親切にしたからね、友里絵ちゃんが」と、菜由。


えへへ、と友里絵。



「あ、指宿行きは?何時?」と、由香。




愛紗は「15時35分の特急もあるね。」と、列車案内を見た。




「じゃ、もうすぐだね。」と、友里絵。



「駅前見て行きたいなぁ」と、由香。




「その次は、普通列車が何本もあるね。それでもいいけど、明日でも明後日でも

時間あるよ」と、愛紗。





「そうなの?」と、菜由。




愛紗は「うん。指宿二泊の予定だし、帰りにもここに来るから。」




「でも、ちょっと見ていくか」と、菜由。




そだね、と友里絵。



みんなで、改札へ向かう。






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