第3話 出発進行、1列車

ながーい編成は、バスとは

比較にならない。



電気で言えば、高圧線みたいなもので


一度に沢山送る為のもの。



山を跨いで、県外へ。



それで、どこかに着いてから


分かれていく。


それが、よく見かける電柱の電気で




普通列車だろうか。





そこから、家に別れる線が



バスとか、そういうもの。




ながーい編成は、見ていて壮大だけど

乗る人が減れば、無駄に思えるかもしれない。




寝台特急が走り出した頃は、新幹線も無かったから




これが、沢山走っていた。


その前は、昼夜通しで走っていて

鹿児島ー東京など2日掛かりだった。






今は、僅かだが


それも、新幹線のない土地や、飛行機が跳ばない時間帯向きに走っている。




この列車も、そろそろ新幹線で置き換えが

検討される、そんな所。



元々、普通列車より早かったから

存在していたので

新幹線や、飛行機があれば

実用ではなくなる訳である。



代わりに、こうして旅を楽しむ乗り物に

なっている、と言う訳で



愛紗のように、鍵の掛かる個室の方が

安心、と言う若い女の子には

ありがたい列車である。



6時間とは言え、新幹線で


乗り合いの旅をするよりは

高級感があり、贅沢な旅である。






15両の客車、機関車が1両。



うち、食堂車、ロビーカー。


個室寝台Aクラス、個室寝台Bクラス。


各々1両ずつ。



愛紗が得たのは、個室寝台Bクラスである。




見物気分で。カメラを持ってのんびり。


個室寝台で鍵が掛かると、ひとり旅も楽。


これから乗る10号車の写真を撮ったり。


星のマークが、なんとも綺麗でロマンチックに見える。


カタカナの車両番号が、そういえば

日本的で、かえって格好よい。

オハネ25ー1005、とある。



「ヨハネなら聖書にあったかしら」


なんて思う愛紗である。



後ろに向かって歩いていくと、同じように見えるけど


車内は、見慣れた普通の2段ベッドが並んでいる。



同じように、紺色のボディに

銀色の線が窓の下に。


星の大きなマークは、ないけれど。



ドアの上の蛍光灯カバーに、小さな星が三つ。



「三ツ星さんかしら」愛紗は、

幼い頃星をよく見上げて、いろんな星の

呼び名を教えて貰った事、を

思い出したり。



「かわいい星さんたち」と、にこにこ。



心が柔らかくなっていくような気持ち。


それを愛紗は感じて。



「旅っていいなぁ」と。



笑顔になる。




後ろ、12号車もそんな感じ。

13号車も一緒。



おじいちゃんみたいなお客さんが、背広を脱いでステテコになっているのを見て


愛紗もくすっ、と笑う。



「うちのおじいちゃんみたい」



14号車が、最後。




最後の所は、丸く、おでこのようになっていて

そこに、車掌さんが乗る場所が付いていて。



グレーの背広の、車掌さんが

日焼けの顔で、列車から下りて

編成全体を見ていた。



列車の一番後ろの、この車両は

オハネフ25、とあるので



「麩?」なんて思えて


そんな事ないのに、と

愛紗は、想像のおかしさにひとり笑顔。




車掌さんは、愛紗の笑顔を見て


思わず笑顔になる。「乗り遅れないようにね」と。




「はい。ありがとうございます。」と言うと



制帽姿で、にこにこ。



白い手袋。


帽子に、赤いラインと金色のライン。




「凛々しいなぁ」と、愛紗は


なんとなく、故郷を出て来た


気持ちを思い出して。




「見てるだけで良かったのかな」



でもまあ、私鉄とは言え



運転士の制服は着れて、写真が撮れたから

まあ、いいかな。



「どこまで行くの?お嬢さん」と、車掌さんは愛紗に声を掛ける。



どちらまで行かれますか、と

仕事中なら接客すると



私鉄である東山急行の



交通事業部の研修では、習ったが


そこは国鉄である。



国民の為の、公共財産。



特急の車掌は、鉄道巡査、と言って


警察官に準じる資格が必要である。




その研修を受けているので、この車掌さんも


まあ、駐在さんである。列車では。




警察のマークの入った資格証を持っている。



それで、若干お巡りさんっぽいのかも

しれない。




愛紗は「はい。宮崎、あ、いえ、大分です」と

言うと、車掌さんはにこにこ。「ああ、なんとなく九州の娘さんかと思っとった、ははは」


と。にこにこ。



愛紗のお父さんくらいの歳だろうか。



「車掌さんは、九州の方ですか」





「わしか?わしは大分車掌区」と、そういえば名札にそう書いてあったのを

愛紗は見つけた。




大分車掌区

 日野



と、シンプルな名札。




「日野さんですね、あ、済みません。失礼でしたかしら。おばさんと同じ苗字。私は日生ですけど」と、愛紗。



車掌さんは、にこにこ。「おー、久大線の庄内駅じゃろ、駅員の」






愛紗は、にっこり驚き「ご存知ですか?」




車掌さんは、うんうん、と頷き


「わしも、前は久大線も乗っておったから。

そうか、日野さんの姪ごさんか。そういえば似とるな。ははは」と、車掌さんは笑顔で時計を見直し



「おお、あと10分で発車じゃな、すまんすまん、話し込んでしまって。何号車に乗ってる?」と、車掌さん。


愛紗は「はい、10号車です」と、

安心して話せるのは、いいなぁ、と

安堵。



「ほんじゃ、失礼。」と、白い手袋で敬礼。


愛紗も、釣られて。



車掌さんは、にこにこ。



やっぱり、、旅っていいなぁ、と

愛紗は思う。

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