第11話 【ヘミング峡谷】
『まどわしの森』を抜けて『ヘミング峡谷』へ。
ミズイガルム村から半日ほどの道のりであったが、大きな問題もなく『ヘミング峡谷』へとたどり着いた。
「ここが『ヘミング峡谷』!!」
アンジュは目を大きく見開きながら、峡谷を見下ろした。
そこは岩肌が剥き出しの峡谷で、大きくはないが川も流れている。
そして岸壁から少し離れたところには四人組のパーティーの姿。
おそらく彼らも到着したばかりなのであろうか、野営の設営を急いでいる。
「ん? あんたは……アンジュちゃんか!」
その四人組もこちらに気付いたようで、大きな斧を背負った厳ついおじさんが声をかける。
「え? なんで私の名前を??」
どこかで聞いたようなやりとり。
「本当だ、アンジュちゃんだ!」
「アンジュさん!」
「本当だにゃ!!」
他の三人もアンジュを囲むように駆け寄った。
「え? え??」
アンジュは突然のことに理解が追いついていない様子だ。
そして四人組はそんなアンジュにはおかまいなしに話を続ける。
「いやあ、俺たちも昨日、『
「そうそう! それでね、アンジュちゃんの言葉を聞いて私たち感動しちゃって! 今までは『まどわしの森』でちまちま狩りをしていただけなんだけど、あんなやつらにでかい顔をさせないようにもっと強くならないとってね」
「初めての遠征なんだけど、頑張るにゃ!」
「なるほど。アンジュのファンは思った以上に多いのかもしれないな」
「せ、先生! ファンだなんてそんなっ!」
「あながち間違っていないかもしれないにゃん! ワタシはアンジュさんのこと好きにゃ!」
「おう! 俺も好きになっちまったかもしれねぇ!」
「「「あははははっ!」」」
アンジュは四人組に圧倒されたじたじになりながらも、「もう!」といった表情でこちらを見つめる。
――いつも「さすが先生!」と
そしれ俺はアンジュの視線を受け流しつつ、四人組に一つだけ忠告をする。
「――それはそうと、ここの奥地には極まれにCランクの
「ああ、ありがとう! あんたらも気をつけてな!」
パーティーと別れ、俺たちも野営地を探す。
『ヘミング峡谷』は峡谷の上下で二層の
俺たちの目当てである風吹草は谷側、つまりは下側の層に植生する。
そして風吹草は通常、地面に埋まっていてどこに埋まってるかはわからない。
だけど強風時にのみ、その姿を現す。
強風が吹くまでどれくらいかかるのか、こればかりは誰にもわからない。
一日なのか二日なのか……はたまた一週間なのか。全ては運次第。
故に、俺たちも野営を張り、長丁場に備える必要があったのだ。
「先生、私たちはどこに設営しますか??」
俺は谷を見下ろすように見渡す。
そして俺は川岸の大きな岩を指差しながらこう言った。
「あそこまで降りる。あの大きな一枚岩なら野営も張りやすいだろう」
☆
俺たちは川岸まで岩場を降り、大きな一枚岩にたどり着いた。
思ったとおり、広々とした平らな岩場で野営も難なく張れるだろう。
ならば――。
「【
岩場に宝箱を出現させた。
俺の【
そして宝箱の中から野営道具一式を取り出した。
野営を張り終えたころには既に日も陰り始めていた。
しかし、村まで戻る必要がないから時間の心配はない。それに夜間戦闘の訓練にもちょうどいい。
すると、
「この先に三体の魔力反応があります」
アンジュの【
俺たちの姿にはまた気付いていないようだ。こちらの位置は、ゴブリンたちからちょうど岩場の陰になっており、視認できていないようだ。
――ならば気付かれる前に戦力を削ぐ。
「アンジュ、いくぞ」
「はい!」
俺は【
そして黒狼の短剣を構え、ゴブリンの喉元を狙う。
Bランクの
――まずは一体。
突然倒れる同胞の姿にの一瞬うろたえたゴブリンたちだったが、すぐさま俺を敵として認識し敵意を向ける。
瞬間、巨大な風の塊がゴブリンを背後から襲う。
それは不意をついたアンジュの完全詠唱の一撃。
轟音に気付いた一体はギリギリで回避。しかし、もう一体のゴブリンは風弾に吹き飛ばされた。
「グ、グルッルゥ」
残ったゴブリンは形成不利と見るや、すぐさま逃亡体制に入った。
「逃がすか! アンジュ、足止め頼む!」
アンジュは岩場から姿を現すと、ゴブリンに向けて半詠唱で魔法を唱える。
「はい! 【
ゴブリンは
ひとたび逃げに転じれば、そうそう追いつくことはできないのだが……アンジュの弱体化魔法のおかげで俺は安易と追いつくことができた。
「これで仕舞いだ」
背後から背中を斬りつけ、一撃で仕留めた。
これが『まどわしの森』での訓練の成果だ。
アンジュはああ見えても教えたことの吸収が早く、俺との連携もすぐに取れるようになっていた。
「やった! これなら『ヘミング峡谷』もなんとかなりそうですね!!」
「安心するのはまだ早い。ゴブリンは所詮Dランクだ。その言葉は最低でもCランクを倒せるようになってからにするんだな」
とは言え、俺たちのユニークスキルの相性は非常に高い。
相手よりも先に認知し、先手を取ることができる。この優位性を活かせば例えCランクの
……そして完全に日が落ちた後も二時間ほど狩りを続けたが、結局この日は強風が吹き荒れることはなかった。
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