第12話 【属性付与】

 ――翌朝。

 この日も強風を待ちながら狩りを続ける。


「先生、川岸に魔力の反応があります……けど、これは……」

「うん? どうかしたのか?」


「いえ、ゴブリンよりも更に大きな反応が」

「――それならばリザードマンかもしれないな」


 川岸を上流側に進むと、少し先に全身が鱗で覆われた筋骨隆々なリザードマンの姿が現れた。

 片手には剣、もう一方には盾を携えている。


 リザードマンはCランクの魔物モンスター。水属性で水辺を好む。


「あれが……リザードマン……」

「――まあそう緊張するな。Cランクと言っても、そう恐ろしいものではない」

 リザードマンはCランク魔物モンスターの中でも下位に位置する。


「…………」

 アンジュはゴクリと咽喉を鳴らす。


 そうは言ってもアンジュにとっては未知の敵だ。

 言葉だけでは少し説得力に欠けるか――。

「……と言っても難しいか。どれ、ちょっと見ているといい。先ほどのゴブリンの素材を使わせてもらうぞ――【宝貴創造クリエイトコッファー】」


 ◇◇◇◇◇◇


宝貴創造クリエイトコッファー】が発動。

宝貴の箱ストレージコッファー】の素材〈ゴブリンの血液〉と〈魔石(D)〉を使用し、

 〈土属性付与エンチャントストーン〉を生成しました。


 ◇◇◇◇◇◇



 俺は自身の目の前に向けて【宝貴創造クリエイトコッファー】を発動させた。

 直後、宙に宝箱が出現。


 それを開くと、中からは淡い光が溢れ出る。

 そしてその光は俺の短剣へとまとわり、短剣が琥珀色に輝きだした。


「……えっ!」

 驚きの表情を浮かべるアンジュ。


「これは属性付与。短剣にリザードマンの弱点属性の土属性を付与した。属性による追加効果で、敵に与えるダメージが上昇するものだ」

 属性付与の宝箱は強敵――いわゆる迷宮ダンジョンのボス級魔物モンスターが出現するエリアによく配置していた。

 これを配置するようになってからは、ボス級魔物モンスターの討伐成功率が格段に上昇したのだから効果的な強化手段であることは実証済みだ。


「土属性を……それって魔法……ですか?」


「近しいものではあるが、魔法とは別物だ。魔法は使用者の魔力を魔法陣で魔法効果に変換して放出される。それに対して俺の宝箱は、魔石に込められた魔力に、魔物モンスターの素材に残された魔物モンスターの持つ属性を付与することで構築している」


「…………??」


「まあ似てるけど少し違う程度だと思ってくれていい。では行ってくる。――【気配遮断スニーク】」

 俺は気配を消しながらリザードマンへと近付く。


 そしてリザードマンの背後を取り、尻尾を渾身の力で斬りつける。


「グギャアァアッッ!!」

 リザードマンは叫び声をあげる。

 そして間髪入れずに、己が尻尾を確認しようと身体をひねる。

 しかし、リザードマンは尻尾を確認する前にバランスを崩して倒れ込んでしまった。


 ――残念ながらお前の尻尾はもうないんだ。

 俺は先の一撃でリザードマンの尻尾を切断していたのだった。


 リザードマンは前傾した姿勢の立ち姿が特徴的だ。

 通常では倒れてしまうほどの前傾姿勢も、尻尾を使ってバランスを取っていると言われている。


 そしてそんな尻尾が急に失われたらどうなるか?

 前傾が維持できなくなり、まともに立っていられなくなる。


 俺は倒れ込んだリザードマンに追撃を見舞わせようと一歩踏み込む。


 瞬間、リザードマンは口から粘性のある液体を俺に向けて大量に吐き出した。

 これはリザードマンの防衛反応。摺動しゅうどうを引き起こし、追撃を回避することが狙いだろう。


 だが――。

 土属性が付与された短剣の前ではそんなものは無意味だった。


 俺はリザードマンが吐き出した液体を短剣を切りつける。

 すると、琥珀色の光が短剣の剣筋をなぞるように追従した。

 そしてその光はリザードマンの液体を吸収し、砂となってパラパラと地面へと落下する。


「これで終わりだ」

 俺は四つん這いで倒れているリザードマンに向けて、剣戟を繰り出す。

 一撃、二撃。

 黒狼の短剣の攻撃力に土属性の追加ダメージも加わって、わずか二撃のうちに討伐することができた。


「先生! すごいです!!」

 アンジュは戦闘が終わった頃合いを見計らい、俺へと駆け寄ってきた。


「対処法さえ知っていれば難しい敵ではない。アンジュにもいずれはソロで挑んでもらうぞ」


 ソロと聞いて、アンジュの顔が少し険しくなった。

「ソロは不安……か?」

「はい……それに私の初級魔法ではCランクの魔物モンスターには通用しないのではないでしょうか……」


「しっかりと自己分析が出来ているようだな。――アンジュの強みは四属性全てを扱えることだ。少し格上程度の相手であれば、どんな相手にも善戦はできるだろう……だが、アンジュの心配するように、今のアンジュには相手を正面から仕留め切るほどの力はない。正々堂々、真っ向勝負を仕掛けたらおそらく負けるだろう」


「はい….」


「だからと言って悲観することはない。俺がさっき見せたように、種族毎の特徴を突く把握し、突くことが出来れば今のアンジュにでも十二分に勝機はある」


「……はい!! 私、頑張ります!!」

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