第374話 local train for autumnfarm via fivepotant-line

もう、夜になってしまったから

お墓参りはさすがに怖い(笑)から


リサは、そのまま

おじいちゃんの家に行く事にした。



それでも、ローカル列車は

ゆっくり進む。



途中、north everの駅で


列車が行き違いで、少しの間、停車。





暗い、屋根のない駅のホームは

玉砂利が敷かれていて。



踏み込むと、じゃりじゃり、と

音がして楽しい。



幼い頃、綺麗に敷かれている砂利を

踏み込んで、喜んで。



おばあちゃんに、「これこれ」と


笑顔で言われて。




ごめんなさ〜い、と


にこにこした。




そんな記憶が、リサに


懐かしく蘇る。




昨日の事のように、生き生きと。




その頃のこの駅と、まったく変わっていない風景が


リサに、記憶を蘇らせた。



幸せな気持ち、懐かしい気持ちと

一緒に。





そんなふうに

ひとの記憶は

3次元の時刻と関係なく、存在している。





それなので、ひとつの気分に囚われてしまうと


同じような記憶を繰り返し思い出すので


悩んでしまうのだけど。



今は、懐かしい記憶でいっぱいのリサで




そんなふうに、気分が変わると

悩みの回路は、あまりつながらなくなるから





使われない記憶は薄れていく。




そんなふうにして、旅は


気持ちを健やかに変えていく。




たぶん、生き物として

同じ環境にずっと居続ける事は

退屈だから。


それで、必要ない事を考え始めるから

悩みが起こる。




毎日が旅だったら、そういう事を

考える余裕はないから

健やかで居られる。


ひとは、昔

から

旅人だったのだろう。





もっとも、狩猟と採集で

食物を得ていた頃は


定着はなかったのだけれど。




進化生物学者なら、それを

獲得形質などと言うのだろう。




そんな訳で、リサにとって

囚われの日常は、今遠い果てにある。






汽車は、行き違いの

列車と線路を交換して。




暗い夜、鉄路の向こうから


ヘッドライトを点した

赤い機関車が、こちらにやってくる。





リサが幼い頃は

蒸気機関車で



黒い煙をたなびかせて


ゆっくりと

ホームに入ってきたような、そんな

記憶があるけれど。





そうすると、発車の時間なので


ドアの開いている汽車に

乗り込んだものだった。






その頃は、自動ドアではなかったので


いつでも扉は開いたから


走り始めた列車に、飛び乗ったりもできた。




そういうちいさな冒険も

楽しい思い出で



そうして、危険と安全

ちょっとした



はみ出し、



フロンティアな気持ちを満足させるのも

若者である(笑)

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