第284話 Lyrical めぐ

秋が淋しいなんて

Lyricalな思いに耽るのは


18歳らしくないな、なんて


めぐは思ったり(笑)



「おとなになったのかしら」なんて


ひとりごとを言っている間に



赤い、スクールバスは


発車時間が来る。




エンジンを掛けると、クーラーがきくから



涼しいので、学生たちは

校舎から、木陰から。


とぼとぼと乗ってくる。


もちろん、女子校だから



先を競ったりする子もいなくて



至って静かなものだけど。





めぐは、運転手さんのすぐ後ろに座って




クーラーで涼んでいた。





回想は、なおも続く。



回想は、ひとの心が休む事ができないので


行う、シミュレーションのようなものである。





頭の中に脳があり、絶えず思考を続けているのは



それが、生き残る為に


周囲の環境から、何かを感じ取り

敵のいない場所を求めたり、そういう理由から発達した機能だったりする。





そのせいで、平和な環境でも


何かを感じ続ける性質があるから



宇宙飛行士は、闇の宇宙で

音のない、情報のない世界に堪えるように

地上では、闇のプールに

閉じ込められる訓練があったりする。



そうすると、皆

幻覚を見て、

現実がどこなのか?が


認識できなくなったりするそうだ。




つまり、何か情報を与え続けないと

記憶を元に、思考を続けると言う訳なのである。



例えば、平穏な都市生活で

敵の存在を気にする必要がないなら


文芸に親しんだり、音楽を楽しんだり。



新しい事を考え続ける事が

大切である。








もっとも、めぐの回想は


それともちょっと違っていたりして



秋が訪れると言う、太陽のエネルギーの

減退を

淋しい、と詩的に感じて



それと、自身の恋の思い出を

重ねて感じていたりする


やわらかな感性であったりもした。





魔法で、恋も解決すればいいのにね。




そんなふうにも思ったり(笑)。






ルーフィとの恋が、叶う見込みが無くても


他のひとを恋する気持ちには、ちょっとなれない

めぐ、だったりもする。





リサ、親友の弟ミシェルも


いい子。


でも、恋人って言うよりは


弟かな?



そんなふうに思ってしまったりして。









スクールバスが、走り出そうとして


ドアを閉じる前に、リサは


駆けてきて。





「すみませーん」と、扉が閉じる前に滑り込んだ。






「セーフ。」と

めぐは、楽しそうに言った。




リサも、にこにこして

左右に分けた髪の毛の、結びめの

ピンクのゴムを撫で付けた。



髪の毛が、きれいに揃っていないので


絵筆みたいに、さらさらと

にゃんこのしっぽみたいで。

ちょっと、かわいらしい。






ドアを閉じた

スクールバスは


途端に、静かな空間、涼しい空気に

爽やかに満たされて。


めぐも、リサも

快よさそうに


瞳を閉じたり、伸びをしたり。



なんとなく、そんな様子も



にゃんこのようだ(笑)。

まだ、午前10時くらいだから

夏休みなら、まだまだおねむの時間(笑)。



こんな時間に学校が終わるなんて....



「登校日って、なんであるの?」とめぐが思うくらいだから。





「遊びにいこう、って事じゃない?みんなで。

よく学び、よく遊べ。

いいことね。」とリサは言う。


自由な校風の、この学校らしい。






ミシェルの学校も、そうなのかな?


と、めぐは、ふと思う。




ミシェル、登校日じゃないの?」と、めぐは尋ねてみると



「うん、あっちは中学だし。

宿題いっぱいあるからじゃない?」と

リサは、楽しそうに笑う。




あちこちで、バスの中は

楽しそうな笑顔。



ゆっくりと、赤いスクールバスは

並木道を下りてゆく。




宿題かぁ。


めぐのクラスは、宿題らしいものは

ほとんどなかった。



3年だから、就職活動も

あるし。


進学する子は、勉強が忙しいし。




「リサぁ、お勉強いいの?」



と、めぐは、すこしおどけて。



女の子同士の時は、ちょっとおどけて

みんな、楽しい雰囲気に合わそうとする。




時々、騒々しい事もあるけれど(笑)


まだ、子供だもの。



そう許されるのも、ハイスクールのうち。



めぐは、そんなふうにも思ったり。





実際、リサは

この少しあと

電車の運転手さんになるんだもの。




とか、未来を知っているめぐは

連想する。





「大学、受かりそう?」と

少しまじめな話をすると



リサはにこにこして「バッチリ。」と

Vサイン。




リサは、そうそう。勉強もできて、スポーツも上手かったし。




でも、お嬢さんタイプじゃなかったから

もし、男子がいたら


アイドルになってただろうけど(笑)。


残念な事に女子校だったから。




「リサも、モテただろーね。共学だったら」と

めぐは、ふつうの言葉を使ってそういう。





「それは、めぐの方。今だってさ、弟ミシェルが

めぐお姉ちゃんが好き好きーっ!って。」リサは、バスの座席にすりすりするジェスチャーをして(笑)おどける。





「やめてよ、リサ(笑)」と

めぐは、ちょっと恥ずかしくなった。




「あたしのどこがいいんだろうねぇ」おばあちゃんみたいに、めぐは言うと




「めぐぅ、おばさんっぽい」と、リサはおどける。




「やだぁ。気にしてんのにぃ。」とめぐもおどける。

でも、おばさんっぽいのは、時間旅行のせいかな。

なんて、めぐはそれをちょっと気にしていたりして。




魔法を使えないひとよりもたくさんの経験ができるから


勢い、ちょっとおばさんっぽいのかなぁ、なんて

ふと、出てくる考え方なんかに

老成した達観(笑)みたいな経験値が出てきちゃって。



それを、めぐは、おばさんっぽいかなぁ、なんて


気にしてしまったり。


まあ、顔が変わる訳じゃないけど。



「そこがいいのよ!」って、リサは楽しそう。



ミシェルも、そう思ってるんじゃない?と。




「ミシェルって、ガールフレンドいないの?」と、めぐが言うと



リサは「うん、内気な子だから。女の子誘うなんて

できないみたいだし。



誘われるけど、行かないみたいよ。


めぐお姉ちゃんが好きなんじゃない、たぶん。



」と、リサは楽しそう。






「いつか、結婚したら

リサお姉ちゃんになるのね、あたしの」と


ふざけためぐを、リサは喜ぶ。




「そういえば、めぐって妹にしたらいいタイプね。

おとなしいし、しっかりしてるし。]



時々、そんなふうにも言われる事もあるめぐだったけど



おばあちゃんっ子のせいかな?なんて

自分では思う。






「そういうリサは、お姉ちゃんタイプ。

あたしについといで!って感じ。


きょうも、イベント企画したし。」と。



めぐは、当然の感想を言う。




実生活でも、お姉ちゃんだもの。




かわいいミシェルのために、

企画したんだよね。





リサ。

優しいお姉ちゃんって、ステキ。


向こうの世界のMegさんは、弟さんが

いるらしいけど


どんなひと、なんだろ。


なんて、めぐは思ったりもする。






並列世界って言っても、

全部同じじゃないのは


時空間が歪んでいるせい、なのかしら。



ぼんやりとめぐは思う。





向こうの世界には、魔物もいなくて。


天使さんもいない。



なので、クリスタさんのような

ひともいない。


神様もいない。




今は、こちらの世界も

魔物がいなくなったから.......




「いろんな世界のひとに会えて、

楽しいかもね。」





めぐは、楽観的。



それも、おばあちゃん譲りなのかな、なんて

自問自答(笑)。








バスは、ふんわり、ゆったり

揺れながら


並木道を下りて、路面電車の

走っている

大通りへと。





「路面電車、いいなー、かわいい。


あれだったら、運転できるかなぁ。」と

リサは言う。




「なれるよ、きっと」とめぐは

そう言ってしまって。





不思議そうにリサが、めぐを見ているのに


慌てて、めぐは「リサ、しっかりしてるもの。

おじいちゃん譲りのレールマン。」って

おどけて言う。




リサは「レールレディよ」と、いいながら





でも、おじいちゃんは、大学を出てから

国鉄に入った方がいい、って



そう、リサは言うから




この時は、まだおじいちゃんを

傷つけたって思っていなかったんだな、と

めぐは気づく。




それは、いつだったのだろう?




たぶん.......

おじいちゃんが天国に行く、少し前。



それで、リサは

罪を感じて、大学へ行くのを

辞めたんだね。




責任感のある、しっかり者のリサ。




本当に、お姉ちゃんにしたくなった(笑)めぐだったりして。







でも、3年も悩ませたくないなぁ、と

めぐは思う。


本当の、おじいちゃんの気持ちを

伝えてあげたい。

でも、どうしたら?

もし、めぐが

おじいちゃんの最期を

リサに告げたら


縁起の悪い予言になってしまうから


それは、今

言う事はできないと

めぐは考える。




「でも。」リサの話だと

今のおじいちゃんは、大学進学をしてから

国鉄に入ればいい、と

リサに言ってた事になる。





「なんで、リサは

大学に行かないで

路面電車の運転手さんになろうとしたんだろ?」



それは、謎。




何かがこれから起こるって事なのかな?





めぐは、ちょっと

予感っぽい気持ちになったけど



ほんとの予言者でもないので(笑)

それは、わからない。



ただ、わかってる事は




おじいちゃんの真意を、リサに伝えたら

未来が変わるって事。





あの時、Naomiが

リサを励まそうと

バイクで出かける事もなかった事になるけれど

それは、それでいい事なのかもしれないね、と


めぐは、リサ、18歳のリサの

屈託のない笑顔を眺めながら思った。




いつもは

歩いて通う道を


バスで来ると、楽チンだけど


ちょっと、味気ないかな?



そんなふうにも、めぐは思った。





過ぎていく時間のひとこま、ひとこまが


記憶されて


それが思い出になっていくような


そんな気もするから





時間をいくつも重ねたり、巻き戻したり、早送りしたり。


そんな魔法を持っていると、

なんとなく、思い出が薄れてしまうような


そんな気持ちにもなるめぐは、18歳。多感な時期であったりもする。






「じゃ、プール、2時ね」と

リサと別れて、坂道を登ると、すぐに、めぐのお家は見えてくる。




慣れた道だけど、いろんな事を感じながら歩いていると

新鮮に見えたりもする。






「ただいまぁ、おばあちゃん!」と

元気よく


畠の方から、めぐは家に入る。






「おかえり」と

いつもどおりのおばあちゃんの笑顔に


めぐは、安心する。



けれども、リサのおじいちゃんの

話を

考えていたら


なーんとなく、いつか

めぐのおじいちゃんみたいに

おばあちゃんも、天国へ行っちゃうの

かなぁ、なんて。


意識すると、ちょっと悲しい

気持ちになったりして。




淋しい気持ちのめぐ。



その表情を、おばあちゃんは読み取って。




「どうしたの?」と



言うけれども





そんな事を、おばあちゃんには言えない。



秋が来るの」とだけ言って。









だから、リサの


おじいちゃんの事も


おじいちゃんが天国に行くまでは、とても言い出せない。



そう、めぐは思った。



でも。


おじいちゃんの本心を伝える事はできるかな?






そんなふうにも、思う。









めぐは、おばあちゃんに

お昼ご飯を作って貰って。





「きょうは、中華にしましょうか?」と



おばあちゃんが作ったのは、パエリヤみたいな、


ビアンカで頂くような、白魚の

小さいお魚の入った、炒めご飯だった。




あまり、このあたりでは見掛けない、

珍しいお料理。



「チャーハン、と言うの。」

お米を焚いて食べる、アジアの風習に沿った


お料理らしい。





「おばあちゃんは

アジアを旅したの?」と

めぐは、そのお米料理を


スプーンですくって。

頂きながら。




お塩味と、お魚と、

ガーリック風味のご飯で



タマゴ、ふわふわのスクランブルエッグが


混ざっていて。


ペッパー風味。





中華料理って複雑なんだな、と

めぐは、おばあちゃんの旅先を

イメージしながら


そのビアンカのチャーハン、を

平らげた。



ベーコンの小口切りが入ってたり、

刻み葱が薬味だったり。



めぐの感覚だと、オムライスの中身にしちゃいそうだけど(笑)。


これは、こう言うものらしい。








ダイニングで、ご飯を食べてると

にゃごが、子猫を二匹連れて



「ただいま」と

めぐに言ったような気がした。



おばあちゃんは、「おや、おかえり。

お昼ご飯?」と



自然に受け答え。





.......おばあちゃんは、ずっと前から。



にゃごと、お話してたんだ。


めぐは、いまそれに気づく。

ちょっと、見ないうちにa

子猫ちゃんたちも、ずいぶん大きくなった気がする。




こないだまで、ミルクのんでたのに。



今は、親分の(笑)にゃごの

お魚まで食べちゃうくらいに大きくなって。




にゃごも、元は人間で


そのあと、悪魔くんになったくらいだから


結構怖い事もできるんだろうけれども


子猫には、優しいお父さんで



お魚取られても


にこにこ、と



譲ってあげていて。





そういうものなんだろうな、と


その様子を見ていてめぐは思ったりもする。





食物の分配がある事が、家族の成立

条件である、と述べたのは


生物社会学、ジャンルの提唱者

京都大学霊長類研究所(当時)の

今西錦司教授である。




人間には、家族が必要であり



その家族は、男女一対でかつ、食物の分配があり

子供を育てる事、そんな条件を

必要とされていた。




ーーーーでも、ねこだって

食べ物分けてるよ。





と、めぐは思ったりもする。




一番大切なのは、愛だと

今西教授も、同じ研究所の河合雅雄さんも





そう思っていた。

でも、日本人にしか分からない感覚だったらしい。





シームレスな、ボーダーレスな感覚。



外国人、特にキリスト教の信仰が深い地域では

愛、のように高級な感情を

人間以外に認め難かった(つまり、動物は格下と思ってる)あたりが

その理由で





比較進化論、チャールズ・ダーウィンのそれが

当時認められなかったのと



同じ理由で(笑)


思想的に、まったく進化していない、などと

当時の学会は批判されて、志を改めたらしいが




信仰とはそういうもので



思考を停止するので、現実から視点を逸らす事ができるのである。




もし、考えてしまうと

救いにはならないのだから。

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