第114話  モペッド


モペッド



過ぎてしまうと、楽しかった。

そんなふうに、めぐは思ったりして。


大変な事もあったのに(笑)。


楽しく思えてしまうのは、若さ故。


新たな事、それが刺激となって

日々が、楽しい。


類型的に、ものを考えるようになると


そういう感動を、自ら無くしてしまうのだけれども


めぐは、まだ、それほど長く生きてもいないし


ものの見方が、固まってしまっている

訳でもなかったから




毎日、楽しい(笑)。





生き生きとした表情のひと、と

ふれあうのは、それだけで楽しい。


ルーフィは、そう思う。




そういうひとの、笑顔を守ってあげたいとも思う。






「じゃ、帰ろうか」と、ルーフィは言い


モペッドのイグニッションキーを入れた。



小さな、丸い速度計に

緑のランプが点いて。



「これで帰るの?」と、めぐ。



「うん」と、ルーフィ。



この国のモペッドは、自転車のようなものだから


ふたりのりしてもいいし、ヘルメット、なんて無粋なものも

べつに、かぶらなくてもよかった。




「あたし、運転したい」と、めぐは言ったり。



ちょっと、はにかむような笑顔は

ルーフィでなくても、すてきだな、と

思うかもしれない。



綺麗に揃えられた前髪に、すこしだけ

俯き加減の視線は、それでも

なんとなくルーフィへの思慕を


思わせるものだった。



叶わないって解ってても。


気持ちって、そういうもの。



「いいよ」ってルーフィは


モペッドの後ろに、ズレて。


自転車ふうのサドルに、めぐは

座った。

ひざ丈のスカートが、かわいらしいひざのところまで、

かわいらしい脚は、あちこち、転んだり、体育の授業で擦りむいたりした


傷があったりするけれど(笑)



それも、また


元気な少年みたいで、かわいらしい。




「じゃ、ペダル踏んで」と、ルーフィは言う。


でも、後ろにルーフィが乗っていたから重い。



それで、ルーフィは足で地面を押して。



モペッドは進み始める。



タイヤが回ると、地面が動いて。


そんな錯覚をおぼえる。



でも、ほんとうは自分が動いている。



相対性理論が示すように、宇宙での我が身の位置は相対的なものだ。


アルバート・アインシュタインも

そう証明している。



止まっているものはないのだ。




自転車のある地上も、動いている星の上にあるのだ。



その相対性の中で、ちょっと相関を変えるのは

魔法なら容易い事だけど。



いまは、地上のモペッドで移動する。


それはそれで、楽しい事。



18世紀に自転車が発明された頃は


それが魔法のように持て囃された事だろう。





タイヤが回って、地面が進む。

地上の空気は、風のように頬をかすめる。


でも、動いているのは自分だ。



速度計の針が動く頃、ルーフィは


「クラッチをつないで?」と


ハンドルのところのレバーを離すように、めぐに言った。



「こうですか?」


クロームメッキの小さいレバーは

ブレーキのそばについていて。


握ったままになるように、ストッパーがついている。


それを、深く握ると

バネ仕掛けで、ストッパーが

外れて。


クラッチレバーが、離れる。


そうすると、デコンプと言って


エンジン・シリンダの圧縮が


少し抜かれて。


エンジンが周り始めると


しっかりと圧縮される。


精密な仕掛けである。




「こうですか?」


めぐは、クラッチを離した。


チェーン連結の、駆動ギアに

力が加わって


エンジンが、ぽん、ぽん。


爆発しはじめると、青い煙が

排気されて。



タイアが、エンジンで駆動されはじめる。



モペッドの横を、たまぁと、さむは

とことこ。

歩きながら、お見送り。


そのくらいの速度だ。




「わんこさーん、にゃんこさーん。

ありがとう。またくるね。」と

めぐは、にこにこしながら。


でも、アクセルを回してないので

ずっとゆっくり。



ルーフィは、「グリップを回して?」と


エンジンが吸い込む空気を、加減する

バルブをそれで開閉する弁を

開くように言った。



「こうですか?」と

めぐは、いきなりグリップを回したので

エンジンは急加速!。



「きゃぁ」と、めぐはのけぞり

ハンドルから手が離れそう。


後ろのルーフィが、ハンドルを

咄嗟に支えたので

ピッタリと、抱きついてしまうような

(笑)。



背中に感じる、ルーフィの身体。

それと、お尻もぴったりと触れてしまって(笑)。



「いやっ!と」ハンドルから手を離した(笑)。



「あぶない!」と


ルーフィは左手でハンドルを支えて。


右手でめぐを抱き抱えた。


足を地面に踏み。


でも、その右手は・・・・。


ちょうど、めぐのかわいいバストのあたり(笑)。



いつかと同じ(笑)。







転倒は免れたものの。


しばらく、めぐはどきどき。


そのままの状態だった。

でも、ひだり胸にルーフィの手(笑)。



お尻にルーフィの腰(笑)。



「いやっ!!」と、身体をよじって

モペッドを降りた(笑)。

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