第11話 暮らしと魔法
「サンフランシスコのケーブルカーみたい」って、わたしが言うと
「ほんとだね.....。」と、ルーフィは言う。
あ、そっか。
昨日ルーフィが言った4次元、ってこういう事なのね。
目の前にあるケーブルカーは、縦、横、高さもある3次元のもの。
それを、記憶の中のどこかにあるサンフランシスコのケーブルカーと
比較するのは、アタマの中のどこか(笑)。
その時、目の前のケーブルカーは、なーんとなく大きさも適当に比較されてて。
伸び縮みするから、4次元なのね。時間の感覚もないし....。
「サンフランシスコー....って、行った事あったっけ?」と、ルーフィ。
「...どうだったかしら....いろんなとこ行ってるから」と、わたし。
「認知、だめだねー。」と、ルーフィは笑う。
....あ、そっか。行った事あるか、どうかを忘れちゃって。
なーんとなく覚えてるサンフランシスコのケーブルカー、ってイメージだけを
覚えてて。
ほんとかどうか、は、忘れてる。
これって事実認知ね...。って、昨日ルーフィが言ってた事を思い出して。
なので、いろんな情報を知ってると、ややこしくなるのかな....。
ちっちゃい頃、おばあちゃんが
いろんなこと、心配するんで
っちょっと、煩わしく思った事あったりしたけど...。
あれに、ちょっと似てるかしら。
それで、昨日の図書館で会ったおじさんも、イライラしてたのかな...。
ケーブルカーに乗って、わたしたちは
丘の上をめざした。
ケーブルが、どうやって線路の間に収まっているのか、が
ルーフィは気になるみたいで、つなぎ目を見たがっていた。
男の子ねぇ(2w)。
丘の上にあるケーブルカーに、お客さんが一杯乗ると
丘の下にある、こちらがスタート。
乗る人が足りないと、走り出さないって
とってものどかな乗り物なので
忙しいひとは、タクシーとかで登ってしまうみたいで
乗客は少なかった。
「そんなに急いだって、いくらもかわらないよ」と、わたし。
「まあ、その人なりの理由があるんじゃない」と、ルーフィ。
東洋気術
丘へ登る途中で、大抵人が降りるから
重さが足りなくなって、登れないって事には
ならないらしい。
そういう、のどかな乗り物だから
ゆっくり、ゆっくりと
レールを踏みしめるように登っていく。
ルーフィが気にしていたケーブルは
レールの間にあるので、自動車が踏んでも
ケーブルには触れない、そういう仕組みになっているらしい。
男の子って、そういうところを気にするのね。
面白いな、って。
わたしは思う。
魔法を作り出したり、科学的に解析したり。
そういうのも、男の子の気持ちが
そうさせるのかしら.....。
頂上で、ケーブルカーはゆっくりと止まった。
ブレーキは、運転手さんがレールにブレーキの
鉄片を、ネジ式のハンドルを回して押して、停めていた。
どのみち、頂上まで行けば人が降りるので止まるんだけど。
そんな感じなので、飛び乗って、飛び降りて。
そういう人は、料金はいらないらしい。
「のんびりできたねー。」と、ルーフィ。
「わたしたちの町にも、ケーブルカー、ってあったかなぁ?」と
わたしは、重要なことに気づいた。
長く住んでいるけれど、ケーブルカーに乗った事って無かった。
もっとも、隣町に行く事ってあんまりなくって。
遠くに取材にいっちゃうし(笑)。
「まあ、ここは君の過去に似てて、非なる空間なんだね、たぶん」と、ルーフィ。
わたしたちの探す、魔法使いさんの居るお店が
ありそうな、そういう雰囲気の場所はなかった。
なーんとなく、イメージだと
昼間でも暗いような、林の中で。
ふるーい小屋か何かで、黒猫が住んでて...。みたいな。
「それは、マンガっぽいけど。でも、なんとなく....。」ルーフィにも、気配が
感じられない、って。
魔法使い同士、気配で分かるらしい。
交番があったので、おまわりさんに聞いてみると
次の角の、スーパーマーケットの入っているビルの2階で
ドラッグストアと、コスメとか、カラコンとかを売ってるらしい(3w)
「へぇ。それはまた、お仕事熱心な...。」と、ルーフィ。
坂を少し下ったところにある、そのスーパーマーケットは
明るくて、賑やかで。
魔法、なんていう
ちょっとダークなイメージには程遠い。
「こんなところに居るのかなぁ」と、わたしは思いながら
100円ショップの中にあるエスカレータを登り、ルーフィと一緒に
その、ドラッグストアに入った。
そこも賑やかで、スーパーと同じ音楽が掛かっている。
ちょっと、2階にしては暗い感じもしたけれど。
若い女の子向きなコスメや、カラコンとか、小物。
お菓子や薬。
そんなものがいっぱい、ジャングルみたいに並んでいるので
暗く感じたみたいだけど、窓が小さいわけでもなかった。
ただ、それら全てが
手作りで作られているようで、これはかなり
大変な仕事、って思えた。
「全部、手作りなら.......。」と、わたしがつぶやくと、
「たぶん、魔法.....かな。」と、ルーフィもつぶやいた。
どんな人が作ってるのかしら?と、わたしたちは
それに興味を持って、薬品の硝子ケースがある
ドラッグストアーに居る、店員さんらしい、若い女性に
尋ねてみた。
すると......。
その若い女性は、東洋人っぽい顔立ちだけども
すらりと背が高く、さっぱりとした表情のひと。
白衣を羽織っていて。ニットのざっくりとしたサマーセーターに
短めのスカート。
ローヒール。
活動的な人だな、と思った。
「ぜんぶ、私が作っています。店員はいません。」と。
その人はそう言った。
愛想を使うような人ではないけれど、素朴な温かみが感じられる
表情だった。
「そうですか...。ありがとう。」と、ルーフィは礼を述べて
それだけでエスカレータを降りた。
「どうしたの...ルーフィ?」と、呆気なく
帰路に付こうとするルーフィが気がかりで。
「うん、あの人は...魔法使いじゃないみたいだね。気配が感じられない。
東洋の人みたいだから、アジアに古くから伝わる...気術のひとかもしれない。」
と、ルーフィは言い「でも、魔界の人とも関わりは無さそうだ、悪魔くんの気配が
しなかった。」とも。
ルーフィの話では、西洋の天界には神様が居て、魔界があって。
東洋には、それとは違う世界があって。
仏様が天界に居て、魔界には閻魔様が居て。
気術の人は、天界に近い存在であるらしい、との事。
「へーぇ」わたしは(1へぇw)
「でもそれは、東洋からの見方、西洋の見方、って言う違いだけで
同じ世界を見ている、って言われてたりもするんだけど。
言葉の違いだけで、世界感は同じだし。でも、本物を見たのは
僕もはじめてさ」と、ルーフィ。
じゃあ、あのひとは.....。
「ひょっとすると、君の想像みたいに。
女の子を可愛く彩ったり、病気の人を薬で癒したり。
そんなことで、悪魔くんが憑かないようにしてるの、かもね。」
と、ルーフィは、にっこりとして。
こっちの町で、いい人に会えてよかったわ...。そんな風に、わたしは思った。
夢・現実
「でも」ルーフィは言葉を断ち、ふたたび語った。
「薬で治らないような、苦しみもあるさ。そういうのは
魔法でもどうしようもないから、悪魔くんに憑かれると....。
最後は、魔界に落ちるしかない。」と、厳しい現実を語った。
「どうしようもないの...?。」
「そうだね...。その人が生まれる前に遡って、苦しみの原因を
断ち切れれば別だけど.....。あ、そうか!僕らはタイム・トラベラーだから。
原因を調べれば、運命は変えられるかもしれない。」と、ルーフィは
名案に、心を躍らせた。
「何か、理由があるんだ。それを直せば。」と、追記するように
言葉をつないだ。
「過去を変えてはいけないってのは、もちろん
タイム・トラベルの原則だけど、それは、同じ時間軸に
存在している場合。
僕らは別の時間軸から来ているから、大丈夫さ。」
「悪魔くんたちは、魔界の仲間が増えるのを
喜んでるのかしら。」と、わたしは、なんとなく。
「そうでもないと思うよ、人間界に出てくるってのは
魔界が狭くて、住み難いからだと思うし。」と、ルーフィは
近年魔界住宅事情(2w)について語った。
魔界のエンゲル係数も、高いのね。
人間界とあんまり変わらないわ.....。
そろそろ、お昼も過ぎたので
何か、ステキなレストランで...と、思って
町をお散歩。
何か、「デートみたいね。」と、なんとなくつぶやくと
ルーフィは、ちょっとテレて
「そういえば、ふつうにデート、ってしたことなかったね。」
それはそうよ。だって、わたしたちの世界では
ルーフィは、姿を見られちゃいけないんだもの。
ここは異世界だから、それがかえって
わたしにとっては嬉しい。
もとの世界に戻ったら、また、ルーフィは
ぬいぐるみの姿でないと、外には出られない。
それに、めぐもかわいいしー。
こっちの世界で生きていくのも、いいかも。
そんなことを思ってると、ほんとに戻れなくなりそうなので(2w)
考えないようにした。
また、ケーブルカーに乗って坂を下る。でも
こんどは、無賃乗車(w)の、ルールが分かったから
走り出したケーブルカーの、デッキに飛び乗った。
「それっ!」 「きゃ!」
「スリルあって楽しい。サンフランシスコに行ったら
また、同じことしてみたいわ」なーんて、わたしは
のんきな事を言った。
戻れるかどうかも、わからないのに....。
駅の少し前、かわいいカフェがあったので
ちょっと、飛び降りてみた。
停留所でもないのに、自由に乗り降りできるって
けっこう便利ね。
カフェは、明るい色使いの内装で
昼下がりのお店は、空いていた。
「かるーく、いきましょか」と、わたし。
「いっつも軽いじゃん」と、ルーフィもアメリカン・ボーイみたいに
軽快。
ケーブルカーから飛び降りるくらいで、かるーくなれるのも
不思議。
ちょっと暑いくらいだったから、インディア・アイス・ティーを頼んだりして。
それで、フランスパンのホット・ドッグ。
パリに行くと、いつも頂くけど
ここにもあったので、頼んでみる。
ふつうのバゲットに切れ目を入れて、オーブンで焼いて。
大きなフランクフルト・ソーセージを鉄板で焼いて。
挟んで食べるだけ、のお料理だけど
お肉の美味しさを楽しむ、シンプルだから
それがいちばん。
冬向きのメニュゥだけど、夏でもなかなか....。
ルーフィは、魔法使いなのに
熱々のホット・ドッグを喜んでいて
おいしそうに食べている姿を見るだけでも、なんか、しあわせ。
ほんとは、毎日、まいにち、まーいにち。
美味しいものを作って、あげたいんだけどなー。
そんな事を空想していると、ちょっと気になった。
ここは、フランスでもないのに。
なんで、サンジェルマンのホット・ドックがあるのだろう?
それも、フランスパンで作るのって、わたしの空想を
形にしたみたい.....。
そういえば。
めぐ、は、お姉さんが欲しかった、って言ってて
わたしに出会ったり。
コスメを作ってる魔法使いの話を空想してたら
隣町に(気術使いさんだけど)そんな人がいたり....。
「偶然にしては、不思議ね。」と、わたしは思った。
ルーフィは、ちょっと考えて「異世界、だから、ここは。
思ったイメージって、別次元だね、僕らにとっては。
形を変えて、歪んだ時空が時折現れるのかもしれない。」
サンフランシスコのケーブルカーみたいなのが、走っていたり。
...もし、そうだとしたら。
この町の空間そのものが、わたしの空想とつながっているのかもしれない.....。
ちょっと、推理としては大胆。
だけど、それなら....。
帰ることも、できるかもしれない。
でも、今は。
めぐ、と
この世界を、なんとかしてあげなくっちゃ。
もし、わたしたちが。
みんなで、悪魔くんが来ない世界、をイメージできれば。
ひょっとすると、この世界にそれが実現できるかもしれない....。
そんなことを思った。
どうやってイメージを共有するのかはわからないけど。
「そのお話は、案外当たってるかもしれないね。イメージの中と
現実が同じじゃない、って事に怒るひと、ってのは
イメージの中にいるって自分が思い込んでいる。
ほら、図書館で本が見つからないって、怒ってた人とか。
本がスムーズに見つかって、帰るってもうイメージの中に生きてしまって
現実が見えてないんだもの。
僕らは、ここに居るけれど、願ったイメージが
なぜか、時々出てきてしまっている...。反対だね。彼と。」
「どうして、反対になってしまうのかしら....。」と、素朴に疑問(2w)
「たぶん、あの、図書館で本を探してた人で言えばさ...。
見つかる、ってイメージを願ってなくて、ただ、セカセカしてたから
じゃないかなぁ。なので、この世界でもイメージになってないものは
実現しない。」と、ルーフィはおもしろい想像をした。
なるほど....。心に、浮かんでいれば。
それが現れるかもしれない世界。
もし、そうだとすると、わたしは
めぐ、の願いでこの世界に呼ばれたのかしら....。
「そうかもしれないね。でも、元の世界から『過去に戻ってみたい』って
なんとなく思ったのは君だから。たまたま、ここに来たから
歪んだ時空同士がつながった、んじゃないかな」と、ルーフィは
のんびりとした偶然、だと考えた。
それも、帰るための手がかりになりそうね....。
わたしは、ホットドッグを食べ終わると
インディア・アイス・ティーを楽しんで。
そろそろ、めぐが
学校から帰って来て。
また、図書館に行く頃かしら.....。
喫茶
駅前まで、また
ケーブルカーに飛び乗って(3w)
駅から、路面電車(新しいのはLRT,というそう)
に、乗って。
図書館に着いたのは3時半くらいだった。
「めぐちゃん、来てるかなー。」
「そろそろじゃない?」
ひろーい、エントランスから
第一図書室のカウンターを見たけど、めぐの姿は無かった。
「遅刻かな....。」
昨日、お会いしていた
司書主任さん、優しそうなおじさんなので
聞いてみたら....。
「ああ、きょうは、なんだか5階で忙しいらしくて。
手伝いますっ、って行っちゃいました。司書のアルバイトだから
そっちは手伝わなくてもいい、って言ったんだけど。
1階はきょうは暇なもんで。」と、おじさんは
にこにこ。
「自分から忙しいとこを手伝うなんて、なかなかできないねー。」と
わたし。
「キミだったら逃げる?」と、ルーフィはどっきりする事を言う(w)。
逃げはしないけど.....「積極的には行かないかなぁ。」
「それが、自然なんだと思うけど。やっぱり、めぐちゃんは天使さんかなー。」と
ルーフィは、めぐを褒めるので、わたし、ちょっとジェラシー(9w)。
わたしの顔をみて、ルーフィは「あ、でも、ふつうは、Megみたいなので
いいと思うよ、年が違うし。」と、余計な事を(99w)。
「わたしは年寄りだって言いたいの」と、わたし、ちょっと怒ったふり。
ルーフィの優しさはよく分かるけど、ちょっとジェラシーーーー。(88w)
「いや、ごめんごめん、そうじゃなくって。3年前のキミだもん。
比べるのはアンフェアでしょ」と、スマートに言うルーフィ。
「いいわ、許したげる。5階って、喫茶だっけ?」と、わたし。
「喫茶って、『おかえりなさい、ごしゅじんさまぁ』っていうのだっけ」と、ルーフィは
ヘンな事ばっかり覚える(2w)
「違うわよ!そんな喫茶が図書館にあるわけないでしょ。いこ。」と
わたしは、第一図書室を出て、エレベータのボタンを押した。
スカイレストラン、と言う
なつかしいような。
デパートの一番上の階は、家族連れで
賑わっていたっけ。
屋上はだいたい遊園地で。
図書館って公共施設なので
そういう、思い出の中にあるような施設が
そのまま残っているのは、うれしかったり。
今は、デパートそのものをあまり町で見かけないし
家族連れでおでかけ、お買い物。
そういう風景もあまりみなくなって、淋しいような気もするけど
でも、この図書館の5階は、そんな
なつかしい雰囲気で賑わっていた。
ウェイトレスのアルバイトさんだけでは足りないのか
めぐ、は司書のアルバイトなのに
お手伝いにきている、らしい。
「どこにいるのかしら」 「パントリーかなぁ」
と、硝子のショーケースにあるサンプルとか、なつかしい雰囲気の入り口から
わたしたちは、中の様子を伺った。
「あ、いらっしゃいませー。」と、めぐは、いつもとおなじ
[としょかん]と、書いてある黒いエプロン姿で
ちょっと、ルーフィはがっかりかしら(2w)。
もっとも、他のウェイトレスさんも、そんな感じだけど。
公共施設なので、そんな感じらしい。
「なんか、学園祭の模擬店みたい」と、ルーフィが言ったけど
素朴さが楽しいと、わたしは思った。
5階からの展望もあって、けっこう人で賑わっていて。
家族連れ、と言うよりは
お母さんとちいさな子供、みたいな感じの人が多い。
大きなガラス窓の向うは、町並みと、その向うに海。
大きな川が、美しき青きドナウ、そんな曲を思い出すように
流れていて。
川向こうに市役所、小さな山、それと港。
風光明媚な観光地に近いこの場所は、のどかなところ。
「きょうは、たいへんね」と、わたしが言うと
「はい!にぎわってますー」と、めぐは
アルミ二ウムのまるいお盆を持って、食器をかたづけたり。
珈琲やジュースを運んだり。
厨房が結構本格的なのは、図書館で働く人が、お昼をココで
食べたりするため、だろうか。
白いお帽子のシェフが、大きなお腹をして、にこにこと
おなべを煮込んでいた。
お客さんはいっぱい。
平日なのに、なんでかなー、と
思っていたら
きょうは、たまたま
童話を読む会、と言うイベントがあって
こども連れのお母さんが、いっぱい来た。
そんなところらしい。
こどもは、こどもの感覚で動くから
ふつうの時間予定に合わせるのは、むずかしい。
それなので、お母さんの中には
むずがる子供を連れて歩くのに、疲れてしまう人もいたりして。
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