第10話 図書館



たしかに...そうかもしれない。

さっきの本を探してイライラしてた人って、なんだかイライラしたくて

してるようにも見えたし。


カウンターでお金を要求したアジア人っぽい人もそうだった。



わたしだってイライラする事はあるけれど、でも、まわりの人に

当たらなければならないほど、の、気持ちにはならないもの。







「いらいらする、って

結局は、自分のイメージと、目の前の現実を比較してるからさ。」

と、ルーフィは言う。



「それも、今ふうに言えば、って事?」と、わたしは聞いてみた。


「そう。[認知]なんて言うね。医学だと。認知症、なんて言うね。」と、

ルーフィは、物知りだ。魔法使いさんって、そうなのね。



「アタマの中に浮かんだ、イメージ、それは時間も空間も無いから

4次元、だね。思い出のイメージに、一瞬で飛べるように。」

と、ルーフィは言う。



うんうん。そうだっけ。出会った頃の彼とか、ずっと前の事、とか。

さっきも、ハイスクールの頃のわたしを思い出してた。


そのイメージは、なーんとなく、ってだけで

まして、時間を追って記憶が呼ばれる事もない。



「だから、いらいらする人、例えばさっきの本を探してる人は

本を見つけて、図書館から帰る時間、そこまで予定してるんだよ。

でもそれは、自分の頭の中だけにある4次元的イメージで

目の前にある時間は3次元だから、地球の自転に沿って動いているだけさ。

それに、いらいらする、ってのは.....。ちょっと、認知に問題がある。」


なーるほど。そう、客観的に自分を観察すれば

いらいら、なんて出来ないわ。恥ずかしくなって。


「悪魔くんたちも4次元の世界だから、その、イメージ空間に近いんだね。

それで、憑きやすい。」と、ルーフィは言う。



「でも、ふんわりしあわせ、な気持ちも、時間が止まってるみたい。」と

わたしは思った。




「そうだね。止まってる時間のままで居たい、ってのは時間軸がなくなってるから

4次元ではない...かな?。それに、悪意が無いから、悪魔くんたちの

食べ物は無い、から、来ない。」



なーるほど。

でも、悪意を持つ人って、人種が違うのかしら?と

わたしは思った。




「うん、結局、いろんな説があるけどね。癖、なんじゃないかな。」

と、ルーフィは意外な事を言う。



「癖?」突飛な言葉に、ちょっとわたしはびっくりした。





「そう。もともと動物は、他の生き物を食べて生きてきたから

狩りをして、食べるのが好きなように出来ているけど

それは、周りから見ると侵略者だし、攻撃さ。

人間の社会だと、狩りをする機会がそんなになくて

その機能が暇だから、周りの人間を攻撃したりする[癖]に

なってしまっている人も居る、って事だろう。

僕らは、魔法で時間を旅したり、新しい知識を得たり、

文章を書いたりする。それが、狩りの代わり。

そういう事を知らない人が、偶々、悪い癖をもっちゃった。

そんなところだ...って、本に書いてあったよ、そのあたりの。」

と、ルーフィは、動物行動学や、生物社会学のある

自然科学の書架を指差した。



「....暇...。」と、なんとなくわたしは、複雑な気持ち。




ルーフィは、それに明快に答えた。


「なので、本当に弱いかどうか?を

悪魔くんは試してるのかもしれないね。

弱い者いじめをするような人の心を。

実際に、悪い事をすれば、警察に捕まって

本当は、強くなかったって事を思い知るだけさ、そういう人は。

強い、って思い込んでるだけなんだよ。」



そっかぁ.....。悪魔くんは、淘汰を助けてるって事、か。

と、わたしはつぶやいた。



「うん...人は、たぶん増えすぎちゃったんだね。この世界に。

だから、数を減らそうって思ってるかもね。」と、ルーフィ。



「それだと、めぐ、みたいな子って....。悪魔憑きみたいな人にも

平然として、微笑んでいるような子が、生き残るのかなぁ。」と、わたしは

なんとなくそう思った。



「それは、わからないけど....。あの子には、ほんとうに

天使が宿っているのかも、ね」と、ルーフィは、にこにこした。




書架で、カートの中の返却図書を整理している、めぐ。


ようやく終わりそうで、笑顔をみせた。




わたしとおなじ、筈の彼女に

こちらの世界で出会って、なんとなく、良かったな。

わたしは、そう思った。


図書館の閉館は、17時。

ほんの2時間ほどだったのに、とっても長く感じたのは

なんでかなぁ。


いろんなこと、あったし。



おつかれさまでしたー、って

にこにこして、図書館のアルバイトを終えて帰ってきた、めぐ。


「すみませんでしたー、ずっと、お付き合いしていただいて。

....そうだ!、Megさんも、ルーフィさんも、どこか、住むところは

こちらにあるのですか?」



....そういえば(2w)わたしは、そこまで考えていなかった。

なんとなく、過去に旅するような気持ちで、違う世界に

旅してきてしまって。


帰る方法も、まだ、わかっていないのだった。



....こっちの世界の「家」には、当然、めぐ、が

住んでいるのだし。



こっちの世界にルーフィが居ないのは、不思議だけど(笑)。



「はい、どこかのB&Bにでも泊まろうかしら。」と、思いつきで言ったわたし。


B&B、って。この地方によくある

個人のお家を改装して、朝食とベッドを提供する、お宿。


ときどき、取材でいきあたりで使ったりしてたので、つい、そんな感じで。




「そうだ!、うち、に、いらしてください。ね、ね?いいでしょ?」と

めぐ、は

にこにこするので、迷惑じゃないかなー、と思ったけど



なーんとなく、こっちの両親にも興味あったりして(笑)



ルーフィも「うん、もしかして、ほんとにもうひとり僕がいたら、面白いけど」

なんて言って。



照明が落ちた図書館のエントランスで、話してるうちに

そういうお話になって。


歩きながら、図書館通りの路面電車の停留所、まで。


不思議に、レイアウトも、石畳のあいだのレールも。

芝生の生えた軌道も、おんなじだった。



出版社のあるビルに行ったら、わたしたちが居るかもしれない、

なんて思うくらいに、そっくり。



だけど、たぶん3年前くらいの時間軸。似てるけど、違う次元。

どこで、わたしたちの世界につながっているんだろう?


それが見つかれば、帰れるんだけど。



路面電車は、沢山走っている時間だから

電停に行くと、緑と黄色の旧式電車が

すぐにやってきた。




ふたりとひとり



からんからん、と

鐘が鳴りながら、ゆっくり走る

路面電車は、のんびりしてて

なんとなく、わたしは好き。


ふだんは、ルーフィは

かばんの中なので

一緒に乗れるのも、うれしい、ひとつ。


きょうは、もうひとりのわたし、めぐ、もいっしょで

ちょっと、不思議だけど。


ふたり並んで、ケータイで写真とってみたけど



あたりまえだけど、よく似てる。(2w)。



姉妹みたい。双子かしら。


こんなふうに、姉妹が居たら楽しかったな、なんて

わたしは思った。



路面電車のステップを上がって

ながーい、緑の座席は

ほとんど、誰かが座ってて。


なので、わたしたちは

後ろの方で、流れていく景色を見ながら

吊革につかまった。


鐘が鳴り、電車は走り出す。


床の下から、油の染み込んだ木、の床を通して

モーターの唸りが、歯車を通して響いてくる。


ぐーーーーん、って。




町が、少しずつ遠ざかっていく。

いろんな匂いを乗せて。



ふと、このまま元の世界に戻れないのかな?なんて

ちょっと怖くなったりしたけど


それなら、それで

ここで生きてもいけそうな気、も

してきたり(3w)。




「何、考えてるの?」ルーフィは、わたしが何か、気にしてると思ったのかなー。



「ううん、なんでもないの。旅情ね、旅情」と、わたしは

気にしていないふり(笑)。




「おふたりは、仲がとってもいいんですねー。いいなぁ、そういうの。」と

めぐ、はにこにこ。


ちょっと、わたしは恥ずかしくなった(4w)。

そういえば、いつもはルーフィと、こんなふうに並んで歩くって

できないし。


そうなってみないと、こんな気持ちにはならないのかもしれないわ。



かばんの中のぬいぐるみルーフィ、と一緒でも

なんか、ぬいぐるみふぇち(笑)みたいだもの。






でも。


もし、わたしとおんなじだったら。

めぐ、にも


もうひとりのルーフィ、が

現れるのかしら....?。



「そうかもしれないし、そうでないかもしれないね。

全く同じ世界じゃなさそうだし。」と、ルーフィは感想を述べた。





路面電車は、次の電停に着く。

お客さんが、前の扉から降りて、後ろから乗ってくる。

学生さん、お勤めのひと、おじいちゃん、おばあちゃん....。

それぞれに、それぞれの思いを抱えているみたいだけど

悪魔くんが憑いているような人は、あんまりいないみたい。



それに、ちょっと安心したわたし。



わたしたちのいた、世界にも

悪魔くんは、いたのかな?


気づかなかったけど。




「そう、気がつかないで済むなら、その方が幸せって事もあるね。

僕らが、こっちの世界に居る悪魔くんたちを、みんな

魔界に帰ってもらう、なんて

ちょっと大それた気持ち、かもしれないし。」と、ルーフィは

現実を、言葉にした。



心の中でイメージするのは簡単だけど、実現させるのは

難しい。


でも、イメージも4次元、で

悪魔くんの世界も4次元。だったら、上手くいくかも....。なんて

ちょっとイージーなのは、わたし。



悪魔くんだって、好きでこっちに来てるんじゃないかもしれないし。




いくつかの停留所を過ぎて、わたしたちの(?)家のあるあたりに来た。


路面電車は、ゆっくりと止まる。

わたしたち3人は、前のドアから降りた。


通貨は同じコインだったから、めぐ、は定期で

わたし、はコインで電車賃を払った。

未来の時間が書いてある定期、じゃ

無賃乗車になりそうだし。



ルーフィも、一緒に。


からんからん、と

鐘を鳴らして


路面電車は、ゆっくりと港の終点まで行くのかしら。



「終点にね、温泉があるの」と、ルーフィに言うと


「へぇ、温泉。いいねぇ。混浴?」なんて、ルーフィ。



「そんなわけないでしょ、もう!。」と笑うと


「ほら、ヨーロッパの方って水着で入るじゃない。」って、ルーフィ。



「そういうのもあるみたいですね、ジャグジーとか」って、めぐは言う。

「でも、一緒はやっぱり恥ずかしいな」と、すこし頬赤らめて。



そうよね(w2)。水着だってねぇ。



「なーるほど。お風呂ってひとりで入るもんだしね。イギリスだと。」

と、ルーフィ。



そのくらい、同じ人類でも習慣は違う。


まして、悪魔くんと人間、それと、魔法使いさんじゃ...。

風習は違ってて、ふつー、よね。



違う世界で、それぞれに生きるのがいいのかしら....。



魔界・魔法使い



路面電車の通う通りは

少し広いんだけど、軌道敷が真ん中で

両脇に、くるまが通れる道になってる。


そのくらいの広さで、電車がゆっくりゆっくり通ると

みんながよけていく。


そんなふうに、人間と、悪魔くんも

それぞれの世界で生きていけばいいな。


悪魔くんから見れば、人間の方が厄介者かもしれないし。


...まあ、人間は魔界には行きたがらないだろうけど。



特殊な人を別にして。



...そういえば、ルーフィも、そのご主人様も魔法使い、って

ことは....。

魔界の人なのかしら....。?



家に向かう細い路地は、ちょっと薄暮れで

レンガの壁、白壁、塀の上で

にゃんこがお散歩。



普遍的な風景を見ながら、ここが異世界だなんて

言われても、ぜんぜん実感できないわたしは

ルーフィの出自、を思った。



「ねぇ、ルーフィって、悪魔くんの世界の人なの?」と言うと


彼は、楽しそうに吹き出した(8w)。



「ぼくは、ふつうの人だよ、君と同じさ。ご主人様がね、僕を

見つけてくれて、魔法を使う力を育ててくれたのさ。」と


夕暮れの風に、さらりとした短い髪を遊ばせながら、ルーフィは

一番星を仰ぎながら、さりげなく言った。



....。それだと、わたしと同じ...。なのかしら?、あ、それで....。


めぐ、もおんなじだって。そう思ったのね、ルーフィ...。




「魔法使い、っていろんな人がいるけど、僕らは

もともと、魔界とは関係ないひとたち。

もっている能力を、引き出せる人なの。


ほら、芸術家とか、技術者みたいな。

昔は、お医者さんのかわりだったりしたんだよ。」

と、ルーフィ。



そうなんだ....あ、そういえば。魔女さんが

薬を作ったりした、ってお話を読んだ事あるわ....。



「その他に、魔界とね、契約して

魔法を貰う代わりに、悪魔に魂を売る人もいるし....。

さっきみたいに、魔法の存在もしらずに

悪魔くんのおやつになってしまう人、もいる。いろいろだね。」


と、ルーフィは、その、魔界と人間界の境が曖昧だ、って事を

伝えた。






at home



めぐ、は

悩みなんてない、そんな感じに楽しそう。

坂道を、っとっとここ、と歩いて

お家へ向かう。


あたりの雰囲気も、まったくおんなじ感じなので

ここが異世界だ、って

わたしは感じ取れない。


「はぁい。ここがあたしの家ですー。」って

招待されたおうちは、まったく


わたしの世界の、わたしの家と変わらない。



3年前は、こんなだったかな。そういう感じ。


おばあちゃんのトマト畑も、三角のお屋根も。

なんにもかわらない。



「正直...驚いたなぁ」と、ルーフィは魔法使いなのに(2w)

おもしろいことを言っている。



「うん...。」と、わたしも同感。



これで、おとうさん、おかあさんも

たぶん、おんなじなんだろうけれど....。



でも。


わたしの事を、なんて言えばいいのかしら。



「ありのまま、おっしゃって下さって、大丈夫だと思います。」と、めぐ、は

言う。



「どうして?」とルーフィは尋ねる。




「このところ、不思議な事が多いので。未来から、わたしのお姉さんが

来てくれた、と言っても

父も母も、不思議には思わないと思います。

それに、魔法使いさん、なら....。

この町でなく、ほかの町には住んでいるとも聞きましたし。」と、めぐ、は

当然に、変わった事を言うので、わたしは驚いた。


「....。」ルーフィは、何も語らなかった。



この世界が、そういう時空なのは

たぶん、悪魔くんが出てきているあたりから、そんな予感はしていたけど。


魔法使い、って、ひょっとすると魔界の使徒?


だとすると、魔界からの侵略、って事かしら....。




いろいろ、空想していたけれど、でも、めぐ、は

ふんわりと


「さあ、どうぞ.....。」と、にこにこと玄関に、わたしたちを

招き入れてくれた。




ドアーがちょっと、渋い感じのところも。

玄関の明かりが、ぼんやりとしているのも。


ぜんぶ、わたしの家と同じ。



なのに、こっちの世界には、悪魔くんが忍び寄っている。


それに気づかなくって、住んでいるひとたちは

世の中が住み難くなった、怒りっぽい人が増えた、

そんな風に思ってるとしたら.....。!?



守ってあげないといけないわ....。

そう、わたしは思った。



でも、別の世界のこと、と言っても

過去を変えてしまったら、時間旅行者としては

困った事にならないかしら.....?。





今の自分があるのは、過去の自分があるから。

異世界の過去の自分.....。うーん、わかんないよぉ(3w)。



「ねぇ、ルーフィ?」と、先生に聞いてみる事にした(笑)。



「異世界だったら、変えても平気だと思うけど。3年後の君は

こことは別の世界の君、だもの」と、正解が、ルーフィ先生から(2w)。




なーるほど。



「お気になさらなくても大丈夫です」と、めぐ、は

時々、丁寧な言葉になる。


不思議だなー、と、学校の図書室であった時の

台風みたいな印象とは、ぜんぜんちがってて。



ルーフィも、それに気づいて。


「もしかすると....この子、ほんとに天使さんが宿っているのかも。

それで、時々言葉遣いが変わったり....おてんばになったり。」



まさか....。



でも、それだと、悪魔くんが、この子を狙って

いじわるをしてる、って事...かしら。




「その推理が正しければ、この世界には、魔界の者と

天界?の者も居る、って事になるね。」と、ルーフィは冷静に。




「ふつうは、住むことなんて出来ないんだけど」と、付け加えて。




めぐ、に

紹介された、おとうさん、それと

おかあさん、は


わたしの両親にそっくりだった。当たり前だけど。


でも、なんとなく......。めぐ、と同じ雰囲気がしていて。


わたしの両親のように、人間的な、Earthyな感じは

あまりしなかった。



「ひょっとすると、ファミリーみんな、天のお使いなのかな」と

ルーフィは、おもしろい観察をした。



「それで、ルーフィやわたしを訝しく思わないのかしら」と、わたしは

感想を言うと



「そうかもしれないね。Megの世界には、僕、魔法使いが降臨した。

代わりに、この世界では、天の使いが、めぐ、君のもうひとりの家族のところに

降臨した。」と、ルーフィは、話をつなげて考えた。




「どっちも、なんか理由があるのかしら」




「それは、わからないけど....。なんか、前世、と言うか

家系の先祖に、理由があるのかもしれないね。

Megが、魔法を修行しなくても時間旅行ができた、のは

そんな感じかも。」と、ルーフィはそう言った。




めぐ、の

両親に促されて

本当に暖かいおもてなしを受けた。


「いつまでも、いらしてくださっていいんです」と、めぐ、のお母さんは

そう言ってくれた。


わたしの母とそっくりなので、なんとなく妙だけど(3w)。



お父さんは、お蕎麦を手打ちしてくれて。そんなところまで

わたしの父と同じだった。




ディナーを終えて、とても楽しくて寛げたのだけど。

だから、めぐ、の一家が


天のお使いに。


なっているんだったら、やっぱり、お手伝いをしなくっちゃ。


そう、思ってしまうんだった。





たぶん、天使さんだったら

悪魔くんたちと戦う、って事じゃあなくって


悪魔くんたちが、自然に

魔界に帰ってくれる、そう願うんだろう。


だって、天のお使い、って

神様のお使いって事だもの。



わたしは、そんなふうに思った。



2階の、めぐ、のお部屋に行ってみたけど

そこは、わたしがハイスクールに行ってた頃

そのまま、だった。


ルーフィに見られると恥ずかしい、って

めぐが言うので(w)



ルーフィは、あの、屋根裏部屋に

ホームステイする事にした、らしい。

魔法使いだから、魔法で

好きに使うんだろうけど。



わたしの家に居るより、ほんとの姿で居られるから

かえって楽だ、って言ってたり(w)


お気楽魔法使いルーフィめ。(3w)。




それから、わたしたち3人で

裏山にある、温泉に行く事にした。



歩いてすこし、の距離にあるそこは


わたしの世界にある、それと同じ。


ルーフィは、魔法使いなのに

温泉も好き、なんて



ヘンなイギリス人(笑)。





「混浴かなぁ。」なんて、ヘンな事言うんで


めぐ、は、首筋まで真っ赤になって恥ずかしがって。



「ヘンな事言わないの!若い娘が居るんだから!」と、わたしがはたくと


ごめんごめん、ってルーフィが腕でよけたふり。



めぐは「ごめんなさい、でも、仲よしでほんとに、羨ましい。

そんなカレシ、ほしーなぁ。」って。


それは、天使さんの気持ち、それと、めぐ自身の気持ちが

両方混じってるみたいな、そんな言葉の雰囲気だった。



それに、ルーフィも気づいて

「宿ってる天使さんは、とっても愛らしい感じの

まだ、天使さんになったばかりの子、みたいだね」と。


めぐ、自身は

それに気づいているのかどうか、わからないけれど。


こんなに愛らしい子だもの。カレシなんてすぐできるわ。


そう、わたしは思った。



ルーフィは「うん、でも、もし、すこしでも邪悪な心を持ってたら

天使さんが寄せ付けないだろうけど。」とも言った。



おなじような、天使さんが宿ってる男の子が

ボーイ・フレンドになるだろうね、とも。



そういう異世界なら、わたしも住んでみたいわー(3w)。






温泉は、素朴な山里の中にあるわりに

きれいで、モダーンな建築。


レンガ色の装飾タイルに、ブロンズのようなオーナメント。

古代を模した、近代デザインで

最近人気のあるタイプだった。



国営の施設なので、気楽に使えて

わたしも、よく来ていた。


もちろん、わたしの世界での、話。




混浴でなくて残念そうなルーフィ(笑)と

入り口で分かれて。


殿方湯、は右手の岩風呂。

婦人湯、は左手のジャグジーつき。


と、曜日で代わるようになっていて


このあたりは、東洋ふうの凝った演出で

これも人気があった。



平日なので、空いている温泉の

縄のれんをくぐると、ちょっと変わった

お湯の香り。


それも、慣れた感じ。



床には、籐の敷物。ロッカーは、木造で

まだ、真新しい感じ。



脱衣籠も竹製で、なんとなく、アジアに迷い込んだような

不思議な感覚が、わたしは気に入っていた。



女同士なので、何も気にする事はないけれど

髪を巻き上げて、お湯に当たらないようにして

ひょいひょい、とオールヌード(笑)になって。


めぐ、と一緒に、お風呂場に入った。


「ほんとに、なれてるんですね」と、タオルを前にした

めぐ、は


わたしより、すこしだけ起伏の少ないボディー(w)だけど

透き通るように白い肌で、ほんとに天使さんみたい。


ひざにある、幼い頃の傷あとまで同じで


それを、めぐ、は見つけて「ほんとにいっしょだー」と

笑うので、とってもかわいくて

抱きしめたくなっちゃった(w)。



めぐ、の3年あとが

わたしみたいにならないで、天使さんみたいに

かわいいままでいてほしいなー。


そんなふうにもおもったけれど。



「Megさん、ってステキですぅー。ルーフィーさんみたいな

カレシもゲットして、レディーだし。」って、めぐ、は言う。でも


レディー、なんて程遠くて。


だんだん、時間が過ぎていってしまうのを

ちょっと怖く思ってたら、いきなりタイムスリップ(2w)して


こっちに来てしまったんだもん。



過ぎてしまったわたしの時間は、めぐ、みたいに

輝いていたのかしら.....。




美と心



「背中、流しっこしよっか。」   「はい。」


って、わたしたちは姉妹みたいに。



こういうのって、女の子同士の楽しさ。


男の子には、わかんないわね(2w)



難しい、美術論の講義で習ったりしたし

ルーフィが得意な、理系の本を見たりすると

女の子って、愛の象徴で、それで、venus、って言われたり

生きる希望、って意味でeros、なんて言う。


なので、女の子同士って、こんなふうに触れ合ってるのは

楽しいの、(3w)。



めぐ、の背中を流してあげてる、って

生きてる、かわいらしいお人形さんを可愛がってるみたいで

とっても、いい気持ち。


とってもきれいで、生き生きとしているボディを

見ていると、なんとなく、わたしも

こんなだったのかなー、なんて


うれしくなっちゃうし。


ちょっと、ぽよぽよなところも、すらっとしてるとこも。

全部、ステキだな...。そんな風に思う。


今のわたしは、こんなふうじゃないけど。


めぐ、みたいな子が

しあわせになれるように。そう思う。




それは、たぶん、男の子だって同じだと思うから

女の子がかわいくなって、男の子となかよくなれば


悪魔くんが近づくような、そんな気持ちには...ならないかな。



図書館で怒ってた、おじさんたちも。

そんな、愛がそばにあれば。


怒ったりしたくなくなる、って思うの。




めぐのボディは、神々しいくらいに美しかったので

わたしは、イマジネーション。そんな事を思った。


「きゃ」


「ごめんっ」



わたしは、ちょっと、シャボンで手が滑ったふりをして

めぐのバスとを触ってみたくなった(2w)



そういうのってerosのせい。かな。



わたしの、あの頃と似てる感触だった。

凛、としていて。


いまのわたしは、こんなじゃないけど...。って

過ぎた時を思った。



過去に旅するって、おもしろいこともある...な。





「はい、できあがりー。」って、シャワーでお湯を掛けてあげて。


「ありがとうございますー。じゃ、あたしの番ね。」と、めぐは

にこにこしながら、わたしの背中にまわった。



ちょっとこそばいけど(笑)。


でも、めぐ、にやさしくしてもらってると、いい気持ちだわ....。

なんたって、わたしの「もうひとり」だもん。



可愛い手で、背中や肩に触れてもらってるだけでも、いい感じ。



その手で、抱きしめてー(2w)なんて。


「えい!」と、めぐ、は、いたずらして

わたしの胸にさわった。


赤ちゃんが、お母さんのおっぱいにさわるみたいに。



「おっきいですねー。ステキ。」と、めぐは言う(3w)。



わたしは、そんなにおっきい方ではなくって(4w)。

めぐ、は、自分自身と比べたのかな。



「めぐちゃんの、とってもステキよ。かわいくって。

きゅ、って抱きしめたくなっちゃうもん。」ってわたしが言うと


めぐは、恥ずかしそうに笑った。

真っ白なボディは、うすももいろに色づいて。


ほんとに、かわいいわ....。


わたしは、わたし自身の記憶と、ちょっと違う事を回想して。


天使さんが、宿ってるから、なのかしら....。なんて思ったりもした。

それなら、ずっと、天使さんと一緒でいるといいね。



そう、思い出すと

ルーフィは「天使は、地上には住めない」って言ってたっけ。


どうしてなんだろ.....。?




背中流しっこ、して。


それで、温泉につかろー、って。


めぐ、の立ち姿は


清らかで、感動するくらいの美しさだった。




「めぐちゃん、かわいい。」って、わたしは思わず。



春、まだ早い山の

雪割り草のように、清々しかった。





「....ありがとうございます...Megさん、ステキ!」って。



めぐ、は言ってくれた。




そう、愛する心があれば...


めぐ、と一緒にいると

そんな気持ちになる。


わたし、ひとりで

いると、けっこう

争ったり、怒ったり。

そういう事をしていたり、するんだけど。




温泉は、黒いお湯で

それは、遠い、昔むかしに

ここが海底だったので

その頃の海水、が

いま、温泉になっている、そう

めぐはガイドさん(w)してくれた。


「物知りなのね。」と、わたしが言うと


「お風呂の入り口に書いてあったの」って、めぐはにこにこ。



わたしも、時々(自分の世界の)この温泉に来ていたけど

温泉の効能、とか

見てなかった(笑)。トラベルライター、だと言うのに。



ふだん、何か違うことを考えていたり

時間に追われていたりとかで


自然な気持ちを忘れてたりしたのかな、って。



そういう心に、悪魔くんが忍び寄る(w)かも。




温泉のお風呂は、広くて。

岩風呂じゃないほうの、こちらは

ふつうの、平らな石のお風呂だけど


わたしは、つるつるしてるので

こっちの方が好みだった。



岩風呂って、背中とかに当たると痛いもん(3w)。



「図書館の仕事、好き?」って、めぐに聞く。


「はい。本が好きだもん。本と一緒に仕事できたらいいな、って。」と

めぐは、わたしがハイスクールの頃、思ってたような事を言った。


「Megさんは、どんなお仕事をされてるんですか?」と、めぐに聞かれたので


「わたしも、図書館で働こうかなー、って思ってるうちに

文章を書くほうの仕事がまわってきてて。それで

今はトラベルライター。フリーだから、まあ、アルバイトかしら」と、言うと



「ステキです。書くのって、あたし好き。それがお仕事になったら

いいなー、って思ったの。」と、めぐは楽しそう。



物語とか、詩とか。

そういうものでも、リフレッシュしてもらえるなら

それも、いい事かしら...って。わたしは

そんなふうに思った。


気分が良くなれば、悪魔くんが憑かないし(w)。




めぐ、がおはなしを書いて

やさしい気持ちになってくれる人、がふえたら....。

それもいいことね。




ゆっくり、お風呂につかってたので

ちょっと、のぼせちゃった。



「でましょか」  「はい」


って、温泉から出て。


さっきのロッカールームへ。


おおきな扇風機が回ってて。


クーラーも利いてるけど。



「それ!」 だーれもいないので

扇風機の前で、風に当たって。


もーちろん、おーるぬーど(*^.^*)



めぐは、さすがに恥ずかしいのか

そんな、おじさんみたいな事はしなかった(笑)。









「のんびりだったね。」と、お風呂あがりの

リラックス・ルーム。



ひろい、学校の教室くらいの空間に

畳敷きの部屋。

座卓に、座布団。座椅子。


和風、最近流行のオリエンタル・スタイル。


西洋人には目新しくて、靴を脱いで上がる

リラックス・ルームは流行中。



ルーフィは、そこで冷たいお茶を飲んでいた。


フリー・ドリンク。


それも、和風なのか

焙じ茶、と言って

グリーン・ティを炒って

香りが強くなったものを、煎じる。それから冷やす。


手間の掛かる飲み物。繊細な感じ。




「うん、お話してたし。」と、わたしが言って。


おそくなってすみません、ってめぐ。



「そう、ゆっくり楽しめてよかった。」と、ルーフィはにこにこ。

湯上りの彼も、かっこいい。



「お話...か。聞いてもいい話?それともー。」と

いたずらっぽく聞くルーフィに、わたしは


「女の子だけの、おはなし。」と、そうでもないのに(笑)。



「気になるなー、ま、いっか。」と、ルーフィはにこにこ。



わたしたちも、そこでお茶を頂きながら。



「それでね、わたし思ったんだけど。

優しい気持ちになれるような、そういう仕事も

悪魔くんに憑かれないために、いいって思うの。」と

さっきの思いつきを話した。



ルーフィは「うん、ひょっとしたら

隣町に居る、魔法使いさんも

そういう事をしてるかもしれないね。」と。


魔法で、おくすりを作ったり。

コスメしたり。


そういう魔法使いって、いるかもしれないもの。



大昔は、お医者さんだったりしたんだし。








のんびり夕涼み



すっかり、夜の雰囲気になった

坂道を、3人でのんびり下っていく。


「ちょっと、ひとりだと暗くて怖いんです。

きょうは、3人だし、ルーフィさんがいるから。星空をのんびり

眺めていられて、楽しいな」と、めぐは、にこにこ。


「浴衣で夕涼み、みたいな...。」とわたしが言うと


「ユカタ?」と、めぐ、は言う。この地方では、馴染みがない。

それはそうね。きもの、ってアジアンテーストだし。


「こんなんだよ」と、ルーフィは、右手で空中に、いつもみたいに

輪を描いて。


その、スクリーンには

花火、浴衣、夕涼み...みたいな映像が映った。



「すごーいぃ!。どうやったんですか、それ!」と、めぐは

びっくり。


それはそうね、はじめて見た時、わたしもびっくりしたもの。


「ああ、僕はマジシャンだから。」と、ルーフィはさらっと(笑)。



「それ、あたしにもできるかなぁ」と、めぐは、魔法に興味を、

ちょっと違う興味を持ったみたい。



「うん、できると思う。でも、今だったらインターネットが

あるから、同じ事は魔法でなくてもできるね」と、ルーフィ。




「あ、そっか」と、めぐは、楽しそうに笑った。



「大昔、魔法じゃないとできなかった事は

科学が普通に、誰にも出来る事、にしてきたね。

だから昔は、魔法使いって科学者みたいだったりして」と、ルーフィ。



「そっか....。でも、時間旅行なんて、今でもできないね。」と、わたし。


それは、そうかも。


時間と空間を乗り越えるなんてのも、いつか、科学で

できるようになるかもしれない。



それも夢、かなー。




いつのまにか、浴衣の話を忘れてた(2w)。



「そうそう、浴衣ってね、さっきの映像みたいな

涼しそうな格好のこと。

下駄履いて、のーんびりして。」と、わたしが言うと


「あ、いいですね、それ。おばあちゃんに作ってもらおうかなー。」

なんて、めぐ、は楽しそう。




「花火、見たりしてね。」と、ルーフィは言って

さっきの映像にあった、打ち上げ花火のイメージだけを

わたしたちの頭上で、展開した。



「びっくりです」

「わぁ」


わたしとめぐは、突然なのでほんとにびっくりした。


「きれいでしたね」と、めぐは、感想して

ほんとの花火って、みてみたいなー。



そんなふうに思った言葉を、そのまま言った。


このあたりの花火って、昼間、ぽん、って打ち上げるの、とか

夜でも、光るだけで


さっきの映像みたいに、色が変わったりしないし。



「それは、日本に旅行に行ったら、見れるね。今でもあると思うよ」と

ルーフィは、現実的な事を言う、めぐは


「魔法で、できるかなー。」なんて。かわいい事を言っていた。



マジシャンって言うと、そういえば手品師の事も、そう言うもん(4w)。



そんなきっかけでも、覚えられるといいかもね....。


にこにこ、たのしそうなめぐと一緒に、めぐの(わたしの、でもあるけれど)


おうちに着いて。



わたしとめぐは、わたしたちのお部屋で。

ルーフィは、結局、向うの世界と一緒で

屋根裏部屋に行く事に。



ゲスト・ルームを使えば、と

薦められたのだけど。



でも、ルーフィは、お屋根が好きだから(だからRoof+yだ、と

名前の説明までしていた)。そこがいい、と言って。


屋根裏部屋に収まった。



わたしの(めぐのでもあるけど)部屋は、そんなに広くないけど

ふたりで眠るくらいのスペースは、ある。

ソファーベッドを広げて、めぐのベッドにくっつけて。

ダブルにして(笑)


寝よう、って


灯りを消して。


「あたし、お姉さんがほしかったの。」って、めぐがささやくように

そう言うので、わたしも、そんな気持ちになったっけ、と

ハイスクールの頃を思い出した。


優しいお姉さんが、居たら良いのにな、そんな風に思ったこともあったっけ。



もしかすると、めぐの願いが叶ったのかしら。


わたしは、めぐのほうに手をのばして。

かわいい、かわいい、って撫でてあげたくなって。



「おちつきます、とっても....ひとりでね、寝てると

とっても淋しい時もあって。誰か、来てー、って

思った事もあって。

おおきなぬいぐるみさんを、ぎゅ、ってしたりして。」


めぐがそんな事を言う。




.....そういえば、ルーフィを

最初に見かけたのは、おおきなぬいぐるみの姿で

雨に打たれて、ごみ捨て場で捨てられてたのが

かわいそうで。

お風呂に入れて、あげてたら

ルーフィが、ぬいぐるみに宿ってた。


そんな事だった。



わたしも、そういえば。

淋しかったのかな......。



めぐ、と一緒だ。



めぐのことを、愛しくなって。

ぎゅっ、として。

なでなで、してから


わたしたちは、眠った。


そう、明日もウィークディ、だもん。


めぐは学校もあるし。





明くる朝



ぱた、ぱた、ぱた....。

なんの音かしら?って


ああ、お屋根に来た小鳥さんの足音ね、と

わたしのお部屋(と同じ)なので、見当がついた。


山の手のこのあたりは、緑深いので

野鳥がたくさん、飛んできて。


朝は、お屋根で、ちょこちょこ歩くので

その足音が、ぱたぱたぱた、って。


かわいい目覚ましさん。って

わたしは思っていた。



レースのカーテンの窓に見える景色も、わたしのお部屋と一緒。

なのに、ここが異世界だなんて、まだ信じられない。




めぐは、まだ寝てるみたい。

窓のほうに、横向きになって

少し、まーるくなって。ダウンのブランケットをかわいい手で持って。


赤ちゃんみたいに、かわいい。


むかーし美術館で見た、天使の西洋画、ルノワールだったかしら?

そんな感じの絵画を思い出した。


斜めの朝の光が、レースのカーテン越しに

やわらかくって。



天使を、覚醒に、ゆっくり誘ってる....。




「.....。あ、おはようごじゃいますー。」



って、めぐは、ちょっと寝ぼけてる(笑)。


髪も、もしゃもしゃで。


ねぼけてるめぐも、かわいい。






それからわたしたちは、ルーフィと一緒に

ブレックファースト。


ミルクティー、カフェ・オ・レ。

焼きたてクロワッサン、クロック・ムッシュウ。

ビアンケッティ、トマトのサラダ。



のんびり、頂いて。


「いってきまーす。」って、わたしたちは

いいのだろうか(笑)のびのび居候。


めぐと一緒に、お家を出る。


「めぐが、学校に行っている間、わたしたちは

隣町の魔法使いさんのところへ、行ってみるわ」と

めぐに伝える。



「それなら、路面電車で駅前から、隣町への坂道を

ケーブルカーで登って、頂上の向うの町みたいです。」と

めぐは、よい旅行作家にもなれそう。(2w)。



あとでまた、図書館に行く、そう言って

路面電車の停留所で、スクールバスに乗るめぐ、と別れた。



赤いお屋根のスクールバス。

ボンネットが長くて、大きなヘッドライトがふたつ。

大きなお馬さんみたいね、って

めぐ、は

かわいらしい事を言って、わたしたちを和ませてくれる。


自然に、そう思うんでしょうね。

お花みたいな子...。





昨日は、無賃乗車(笑)で、危なかったけど

きょうは、ハイスクールの生徒の変装はしてないので

昨日のわたし、と見られる事も、ない。


めぐ、に似てるとは思われるだろうけど。

車窓の生徒たちは、わたしに気づいてはいなかった。


中折れの扉から、めぐがバスに乗って。


手を振りながら別れていくと、なーんとなく淋しかったりもした。






わたしたちは、路面電車に乗った。

「ねえ、魔法の絨毯とかで行けないのー。」と、わたしが言うと


ルーフィは「昼間っからそんな事したら、おまわりさんに捕まっちゃうよ」と。


こっちの世界は、どうかわからないけど(笑)それは確かに面倒かしら。



電車は、昨日のとは違って、最新型の2両連結のものだった。

床がとっても低くて、地面からほんのステップひとつ、そんな感じ。

モータの音も静かで、するすると走る。


「魔法の絨毯並みだね」と、ルーフィ。



「ほんと...。」と、わたし。



そんな風に、魔法の絨毯みたいな乗り心地は

科学が実現するのかも....。


「でも、魔法ならお金かかんないわ」と、言うと


「女の子だねぇ、ほんと」と、ルーフィは

やれやれ、と言う顔をして笑った。




2両つながってる路面電車は、カーブのたびに

つなぎ目が動いて、生き物みたいにうねうね。

電車の中で見てると、向うの車両と

空間がつながってるので、揺れ動いて

見てると楽しい。


「同じところに向かってるのにねぇ、右、左って

空間がねじれて」って、わたしが言うと



「そう、縦・横・高さ、って形があって

その容積は同じなのに、変形しながら進んでいくって

時刻の経過で進んでるので。つなぎめのところで見ると

空間が歪んで見えるね」と、ルーフィは難しい事を言った。


わたしにはわかんない(笑)。



駅に着いて、ケーブルカー乗り場を探すと

みんな、気忙しく歩いていて

それが、川の流れのようで。


なかなか、大変そう。



「....こういう気分だと、なかなか、思いやりを持って、とか言いにくいかもね」と

ルーフィ。



「ほんと。なんでこんなにセカセカするのかしら」と、わたしも思ったけど

それは、勤め人をした事がないわたしには

実感として分からない。


学校も、スクールバスだったし。

大学も、のんびり単位取ってたし。

その後は、トラベルライターになっちゃったし。


何かに追われて暮らしてると、イライラして、誰かに

当たりたくなるのかも...と、思ったりもした。



「そういう時、悪魔くんが憑くんだね。」と、ルーフィは怖い予想をした。


悪魔くんのエネルギー源になるような、悪い気持ちが増えるように

悪魔くんが、誘うのかな....。




「でも、追われるのが嫌だったら追われない暮らしをすればいいのさ。

悪い気持ち、って言うけど、僕らだったら、追われたって

人に当たったりできないもの。

そういう気持ちって、やっぱり、僕らと違うんだよ、どこか」と、ルーフィ。



ケーブルカー乗り場は、駅のすぐそばだった。


ケーブルカー、って言葉の響きから、山登りに行くときの

ゴンドラがケーブルに、ぶらーん、っを

想像してたから(2w)。


ここにあるのは、路面電車みたいなタイプで

坂道を登るのに、線路の間でケーブルを引っ張ってて。


見た目には電車。でも、電線がない。


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