【要塞少女】解説/あとがき

▼『要塞少女』

https://kakuyomu.jp/works/16816700425969363232


 というわけで拙作『要塞少女』の解説です。

 読んでくれた方、読了ありがとうございます!

 まだの方は上記リンクから飛べるので、よかったらお読みいただけると幸いです。


 さて、東晋時代に書かれた巴蜀地方誌である『華陽國志』にある李毅伝。そこに記されている李毅が辺境で失意の死を遂げた後に、年若い娘が残兵を指揮したとあり、女傑好きとしては血が騒いで仕方がない奴でしたハイ。


「創作として楽しみながら、世界観説明のノリでその時代の知識が増えてるぞ」っていうのを自作のお題目に掲げているので、寧州の話だけでなく、成の李特・李雄の建国譚も入れておきたかったのであの形になりました。

 当初は孤立した李毅・李秀、離れた所で父や妹を案じる李釗、そして巴蜀での李特と李雄。全てを同時進行で書いていたら、もう誰が主人公か分からなくなってしまったので一旦没。

 まず李秀さんのみに視点を絞り、後出しで語る事によって「降伏の悲しいエンドかと思いきや、実は李雄は名君なんで実質ハッピーエンド」というスタイルで行く事にしたわけです。

 籠城の逸話のみに絞るなら李釗が寧州に来て再会した所で終わっても良かったんですが、成の李雄も語っておきたかったんですよ!


 しかし改めて、李さん多すぎ問題w

(これでも史書に出てくる李姓キャラを半分以上オミットしてます……)


 ちなみに記述が少なく脚色している部分も例によって多いのですが、あえて史書記述と大きく変えている部分としては、主に成の方ですね。


 実は史実では


「流民軍が荊州刺史を破る」

「流民軍が益州刺史を破って成都を占拠し、成を建国する」

「成が梁州刺史を破る」

「寧州で南蛮の反乱が起き、州府が包囲され籠城する」


 これら全て、史書では全く別な事件として扱われているんですね。それをもう『三国志演義』よろしくドラマチックに全部繋げ


「益州刺史が周辺諸州に救援要請を出し、荊州、梁州、寧州の三路から包囲殲滅する作戦」

「流民軍が南蛮と裏で交渉をして、寧州刺史の足止めをする」

「その間に流民軍が電撃作戦で全ての敵を一挙に破り、成都を占拠して成を建国する」


 という話にしているわけですな。本文では、あたかも史書(というかwiki)記述のような書き方をしておりますが、その辺はご注意をばw




 あとこの作品において書きたかった点としては、善と悪の戦いではないという部分を強くアピールしたかったんですね。


 寧州の李毅、李秀、李釗はもちろん、成の李特、李雄。そして敵対側の南蛮の于陵丞も、益州刺史の羅尚や趙廞、乱の引き金になってしまった広漢太守の辛冉でさえも、みんながみんな「生き延びる為に(自分の思う)最善を尽くした」という姿を見せたかったのですよ。戦争ってのは結局そういうもんですからね。



 ところで、南蛮の将である于陵丞が「国を建てたら、国号は滇にしよう……」という、お涙頂戴モノローグで逝ったわけですが、色んな異民族が国を建てた五胡十六国時代ですから、もしも南蛮が国を建てられたら、あの土地の過去の歴史を鑑みて「滇」あたりかなーと思い至って言わせた次第です。

 まぁ実際には国を建てれなかったわけですが、史実に於いて建てれなかった原因は、于陵丞が李秀に負けた事よりも、その後ずっと王遜にボコボコにされてた事の方だと思いますw



 それから余談ですが、今回の主役である李秀さん、彼女が活躍した雲南省で「忠烈明恵夫人」という諡で祀られて英霊となっているのですが、唐の時代に同じ寧州で異民族に包囲孤立した将兵が、李秀の廟に祈ったら暴風雨が突然吹き荒れ、それに乗じて反撃、ピンチを乗り切ったという、死後の神様エピソードも持ってたりします。

 そんな事もあって彼女の廟(忠烈廟)は増築が繰り返され、今や雲南省で最も豪華な廟を持つ神様だそうです。




 というわけで『要塞少女』の解説でございましたが、改めてお読みいただき(読んでくれた上でコレを読んでると信じて)ありがとうございましたー。





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