登場人物の目的意識

 昨今の(一部悪名の高い)ラノベ界隈において、登場人物の目的が曖昧な事が多いように見受けられる。だからこそ主人公の行動や言動がブレたり、「お人形さん」キャラが出来てしまうのだと思う。


 現実でもそうだが、全ての人物には常に目的があるもの。人物の協力も対立も、それによって初めて生まれる。


 そこで更に長期的な目的と短期的な目的に分けられる。長期的な目的が一致すれば「仲間」となり、短期的な目的が一致すると「利害の一致、一時的協力関係」になる。


 そして主人公の長期的な目的が達成される事が、物語の完結地点である。



 短期的な目的を更に分化するなら、ゲーム的な言い方をすれば「勝利条件・敗北条件」という事になろう。


 敗北条件は、大抵の場合は条件の一つに「自身の死亡」が入っている物だが、希に入らないケースがある。勝利条件を達成できるなら、その結果自分が死んでも「俺の勝ちだ…」と、満足して死ねるパターン。少年漫画では見せ場になるようなシーンだ。

 ただキャラクターAにとってそれが条件であっても、別なキャラクターBにとって「敗北条件:Aの死亡」となっている場合、Aが満足して死んでもBは泣き崩れて絶望する事になるわけだ。

 このように、それらの条件は人物によって個別に設定されるという事だ。



 また別な例を挙げると、戦記物で攻城戦を描いたとする。

 その結果、籠城していた敵の指揮官が不利を悟って城の裏門から撤退したとしよう。

 攻める側の勝利条件が「敵指揮官を討ち取る」なのか「城を奪う」なのかで、全く対応や反応が変わるというのが理解できるだろう。


 またそこに至るまでの戦いにおいても、敗北条件に「味方の一定数の損害」があるのかないのか。これは次の戦いがあるのか、最終決戦なのか等、戦略的な背景によって大きく変わる。

 その為、上記の勝利条件を達成したとしても、無視できない損害を被れば、次の展開に苦慮する辛勝、被害の状況(名将の戦死など含む)によっては実質的な敗北とさえいえる。


 逆に勝利条件を達成できなかったとしても、敗北条件も満たさない(上記条件では味方の損害をほぼ出さない。時間的なリミットが敗北条件に無い)ならば、「勝ってはいないが、負けてもいない」という引き分けの形になり、後日に仕切り直しが出来る。



 このように、大きな勢力やグループとしての長期目標、短期目標。そしてそこに関わる登場人物たち一人一人の長期目標、短期目標が複雑に絡み合う事になる。物語の構築というのは、ある意味ではそういった数学的な帰結で組みあがっていく。

 思い付きのセリフを並べているだけでは、文字通り「お話にならない」のだ。



 悪評が多い作品と言うのは、大抵の場合はそれらがほとんど見えてこない物が多い。

 作者自身がそれらを綿密に管理するべき所を、していないという話であろう。



 上で言ったように、「勝利条件・敗北条件」などは、非常にゲーム的な表現なので、一般的な作品では作中に"その形"で明示される事はないゆえに、作者が手元のメモなどで管理する物だ。

 しかし昨今のいわゆるテンプレ系というのは、ステータスだのスキルだのが文中に平然と登場しているのだから、この勝利条件・敗北条件も全キャラに表示してしまえと思ったりもする。


 ※とはいえ、今まで考えてこなかった作者がそれを形だけ取り入れたとしても一行矛盾の嵐になるんだろうなぁ…などと思わなくもないがw






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