第2話 彼女の運命

 ソフィーから3メートル以上離れられないわたしはついていくしかない。

 校舎の内観も、教室の中もゲームと同じだった。


 教室にいるのは男女合わせて30人くらい。

 ソフィーと同じようなローブを来た生徒たちだ。

 階段状に置かれた長机は大学を思わせる。  

 長椅子に腰かけた生徒たちは好きなように喋っていた。

「あんたは私の隣にでも座ってなさい」

「う、うん」

 彼女の左隣にちょこんと腰掛ける。

 周りをきょろきょろと見ていると、そこにいる誰もがデザインされたかのような美しい顔をしていた。


(本当にあの乙女ゲーム『ラブカレッジ~恋と魔法~』の世界なの!?)


 このゲームはよくある乙女ゲームの一つだ。

 恋愛要素はもちろんのこと、本格的な魔法バトルが売りのゲーム。

 かくいうわたしもプレイヤーの1人だった。

 恋愛対象の『ヒーロー』とプレイヤーの分身である『ヒロイン』。

 そして、ヒロインの邪魔をする『悪役』が登場する。


 悪役はソフィー。

 ではヒロインはというと……。

「静粛に!」

 壇上に上がった先生の声で教室が静まりかえる。

「今年度から我が校は幅広い階級の生徒を受け入れることが決まった。このクラスにも平民から選ばれた5人の生徒が編入することとなった。仲良くするように」

 転校生である5人の女子生徒。


 茶髪のボブの気弱そうな子。

 アッシュブラウンの髪色の落ち着いた子。

 青みがかったショートカットの活発そうな子。

 ブロンドヘアの自信に満ちた表情をしている子。

 グレーアッシュの髪色のどこかぽやんとしている子。


 彼女らのうちの1人を選んでストーリーを進めていくのだ。

 選ばれなかった4人は友人として登場する。

 この世界は階級社会。

 王族、貴族、平民とピラミッド状の階級がある。

 ヒロインである女子生徒は、平民から選ばれた魔力の扱える人間だ。

 それをよく思わないのが貴族階級の生徒たち。

 その中心人物としてソフィーがヒロインに嫌がらせをする。

 そんなヒロインを助けるのが、ソフィーの恋人であるヒーローだ。


「……ねえ!ねえってば!」

「は、はいっ!」

 呼び掛けられて咄嗟に立ち上がる。

 と言っても、足はあってないようなものなので浮かぶだけなのだが。

 顔を覗き込んでいたのはソフィーだった。

 なにやら不安げな顔をしている。

「さっきからどうしたのよ。何度呼び掛けても返事はないし、俯いたままだし。心配したじゃない」

「ごめんなさい。ちょっと考え事を……」

 誤魔化すように笑うと、ソフィーはおもむろに腰を上げた。

 よくよく周りを見れば教室の中には誰もいない。

「あれ?他のクラスメイトたちは?」

「とっくに帰ったわ」

 教室の階段を下りていくソフィーのそばにふわふわと浮かぶ。

 ガラス窓が並ぶ廊下は、学校というよりも美術館のようだった。


◇◇◇◇◇


 夜空にぽつんと浮かんだ月はまるで自分のようだと思った。

 この世界が異世界で、ゲームの中だとしても時間の感覚は同じでちょっと安心した。

 ふかふかのベットで眠っているソフィーのそばで、わたしは腕を組んで考え込んでいた。


 あの声の言ったこと、ソフィーの運命を変えるとはどういう意味なのだろう。

「確か……ヒロインに嫌がらせばかりをしていた悪役は、ついに犯罪に手を染め、死刑を言い渡される流れだったような。って、ソフィー死んじゃうじゃん!?」

 ヒロイン視点でしかゲームをプレイできないからすっかり忘れていたが、悪役令嬢『ソフィー・ルイーズ・アデア』は死ぬ運命にある。

「どうして死刑なんて言われたんだっけ……?」

 嫌がらせは犯罪行為にあるが、極刑にされるほど重大なものならこの世にいじめっこは存在しないだろう。

 ゲームの中では、犯罪者になったソフィーが学校を去り、ヒーローから死刑になったことを明かされただけだった。

 彼女の情報はここで途切れ、以降は登場することはない。

「ちょっと待って。ソフィーが死んだら、わたしはどうなるの?」

 彼女から3メートル以上離れられないわたしは、なにかしらの繋がりがあるだろうと考えられる。

 一緒に死んでしまう可能性もあった。


「あの声……神様に言われたことだけど、自分のためにもソフィーの運命を変えないといけない」

 わたしはこの世界で幽霊になった。

 ストーリーを知っているというアドバテージを活かし、悪役令嬢の運命を変えて生き返ってやる。

 そう決めて、眠れるかもわからない中、目を閉じた。  

 

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