第52話 リスタート

「一連の事件は、日本国内のみならず世界のダンジョン探索に大きな影響を与えました。世界中の各ダンジョン探索管理機関には、類似した事件が発生しないよう対応が期待されていま…」


 例の事件についての報道番組を、俺はあっさりと消す。

 当事者である以上、報道番組からさらに得られる情報などはないからだ。


 結局、首謀者として村花雄二が逮捕され犯行を認めた。

 とんでもない大事件を引き起こしたわけだが、幸いなことに死者はおろか大けがを負った被害者も出なかったため、彼に課せられる刑が注目の的となっている。

 もしこれで死者が出ていれば死刑は免れなかっただろうが、やや軽い刑になるという見方が大勢だ。


「赤堀誠か…」


 俺は机の上に置かれた名刺を手に取って見つめた。

 村花雄二は赤堀という協力者がいたと話しており、俺への事情聴取を終えて以降、管理局の職員である赤堀誠が行方不明となっている。

 警察が彼を追っているが、いまだに手掛かりは得られていないそうだ。


 灯台下暗しとはよく言ったもので、まさか犯人の協力者がこんな身近にいるとは思わなかった。

 果たして赤堀は再び事件を起こすのか。

 その前に逮捕されるのが一番だが、俺にはどうしても彼が捕まる気がしなかった。

 生配信での彼の口調から、必ず俺たちにリベンジするという決意が感じられたからだ。

 それに村花雄二は、オリジナルスキルである【怪物図鑑モンスターブック】を強奪されたと話している。

 これが本当なら、事件が再発する可能性は非常に高いと言えるだろう。


 大きな衝撃といくつかの謎を残したまま、今回の事件は一旦の終わりを迎えた。


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 ――3か月後。


「おはよう。麻央」

「おはよう」


 今朝の静月は、背中にアモルファスの入ったケースを背負っている。

 事件以降、全ダンジョンで行われた点検作業が終了し、今日からダンジョンでの探索が解禁となる。


 もちろん、今まで通りとはいかない。

 探索者たちにはギルドへの加入が義務付けられ、ソロでの探索は原則として禁止された。

 初探索など、どうしても探索者の知り合いがいない場合は、新たに新設された「探索者派遣局」に登録している人が派遣される。


 ダンジョン探索制度そのものを廃止すべきという声もあったが、探索者、武器やアイテムなどの装備メーカー、管理局の職員などが失業することになり、経済的な損失は計り知れないものになる。

 ダンジョン探索とそれに関わる産業が日に日に勢いを増していた中にあって、政府としても探索の完全な廃止という決定はしなかった。


「行こうか」

「そうだね」


 静月と並んで歩き、2人でのダンジョン探索に出発する。

 今回ダンジョン界に起きたもう1つの大きな変革が、総合戦闘力システムの導入だ。

 従来のレベルシステムに加え、一定時間内に与えられるダメージ量と防げる被ダメージ量をもとに戦闘力が算出される。

 これは俺に大きな恩恵をもたらした。

 現在の俺のレベルではSランクダンジョンに挑戦できないが、総合戦闘力で見ると挑戦が可能になる。

 レベルに対して所持しているスキルが強力なため、与えられるダメージも大きくなるのだ。


 一応、Sランクダンジョンに挑めるようになったことで、静月と探索に行く許可が出た。

 といってもこれから探索するのはBランクダンジョンだが。


 20分くらいバスに揺られ、本日の仕事場までやってきた。

 3か月ぶりに触れるダンジョンの扉。

 事件以降、危険を考えて探索者を引退する人が多発したこともあって、ダンジョンの前には以前ほどの活気がない。


「それじゃあ開けるよ」

「うん」


 静月に確認を取って扉を開ける。

 ここから、俺たちの探索者生活がリスタートだ。


「行くぞぉぉぉ!!」


 1つ気合を入れて、俺たちはダンジョンの中に入った。

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