コロッケください。
俺は何をやってるんだ。
ホッケを食べに行ったんじゃない。バイトを辞めに行ったんだよ、と。
……そう気付いたのが、昼寝をし終えたあとのこと。午後六時過ぎ頃である。
すなわち手遅れ。俺の体内に、現行生活を劇的に変える選択を耐えうる気力はもはや残ってはいなかった。
「……、……」
休日。
この言葉の定義が俺には少し難しい。
休みとは何かという哲学ではない。問題は
寝て起きれば日が変わっていることもあるし、変わっていないこともある。
ゆえに俺の一日は久しくして定義が曖昧である。ただ、このような生活は俺の自堕落一つで確立されて来たわけでもない。
理由は、むしろ以下にある。
┌ ┐
〈 Sakamiti K
<📞不在着信
16:57>
<起きてますか?
16:58>
<📞不在着信
16:58>
<ねぇ空いてない?
16:58>
<実は今日空いてない??
17:02>
<新人がばっくれた!!!
17:03>
└ ┘
こういう時、俺は話を断らぬことにしているのだ。
その甲斐あって店長とは良好な関係を築けていると思う。
都合が良いと思われているだけとも出来るんだろうが、そもそも俺には敢えて都合悪くある理由というのがない。俺はシャワーを済ませ、歯を磨き、最低限の荷物を纏めて家を出た。
§
『ファミリーマート ***店』
C Yamaguti
ローカルライター - 0件のいいね
トイレがきれいじゃ。
店員の接客は普通。
§
「夏目氏ィ……!!」
「おはざっす」
会釈もそこそこにレジを横切り、スタッフルームへ。
先ほど俺を特殊な敬称で呼んでいたのが店長である。彼女はさっそく客に捕まったようで、今はポイントカードの有無を確認する声が微かに聞こえる。
準備は着替えくらいのもので、これも私服の上に一枚袖を通すだけだ。
支度は15秒で事足りる。カウンターへ小走りに行くと、既にちょっとした列が出来上がっていた。
「こちらへどうぞー」
「あちらへどうぞー!」
俺らの視線に行く先を示された老婆が、ゆったりと歩を進め始める。
あの女性は常連である。来るのはいつもこの時間で、他の買い物と一緒に必ずコロッケを一つ注文する。俺の手には既にトングと揚げ物用の紙袋がある。
さあ来い。30秒で終わらせてやろう。
「らっしゃーせ!」
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