第7話 十大使徒

 王都に着くと、魔王軍の幹部に連戦連勝しているあたしの噂はすでに知れ渡っていた。

 あたしは下にも置かない丁重な扱いを受けながらも、有無を言わさず戦いの最前線に送り込まれた。


 クラミジア王国軍がこれまで魔王軍によく対抗し得たのは、彼らが有能だったからではない。

 身も蓋もない言い方だが、単に数が多かったからだ。

 大国であるクラミジア王国は巨大な人口を抱えている。兵士の補充には事欠かなかったのである。


 しかし、長引く戦いは経験豊富な戦士の数を削り続け、新兵の割合いが増す軍の質は落ちる一方だった。

 そこに現れた貴重な勇者である。

 それが女であろうが、王国軍が頼りにしないはずがない。


 あたしは否応なしに前線の砦の楼上に立ち、眼下に広がる無数の魔王軍の軍勢を見下ろしていた。


「どうしてこうなった?」


 某アニメの幼女のように、あたしは呟いていた。

 とはいえ、もはやどうしようもない。

 あたしの左右には、王国軍の将軍と参謀長ががっちりと脇を固めている。

 おまけに背後には、期待の目を爛々と輝かせたハーレムズのイケメンたちが控えている。


「ええいっ! こうなったら、やったろうじゃないか!」


 あたしはヤケになって叫んだ。

 目の前に広がる魔王軍は、軽く一万人はいるだろう。

 これだけの数を相手にするのは初めてだが、もうやるしかない。


「いでよ! マックンフラワー!」


 もう慣れ切った呪文を放つと、魔王軍で埋め尽くされた荒野に一斉に食人植物が地を割って出現した。

 それぞれ五メートルを超す巨大植物が、棘の生えた二枚貝のような捕食器をぱっくりと開き、魔物たちに襲いかかる様は圧巻であった。


 そのグロテスクな中身は、すべてあたしのアレの忠実なコピーだ。

 一万人の魔物に、一マンのマ〇コが襲いかかり、いたる所であたしのナニが魔物の身体をぐぼぐぼと呑み込んでいく。

 これ以上に吐き気を催す光景があるだろうか? どんな羞恥プレイだ!


 わずか数分で一万余の魔王軍を壊滅させたあたしの手際に、王国軍の兵士は悲鳴にも似た歓声をあげる。


『ええい! 貴様らには乙女の恥じらいが理解できないのか!』


 ――あたしの行き場のない怒りに呼応するように、魔物の姿が消え、食人植物トリフィドだらけとなった荒野が広がっている。


 そこに突然、怒号が響きわたった。


「おのれ、汚らわしい女よ!

 よくも我が忠実なしもべたちに屈辱を与えてくれたな!

 出てこい! 決着をつけようではないか!

 我こそは虚栄の魔王、ドリアン・ブルー☆ゴージャス伯爵なるぞ!」


 名乗りを上げた伯爵に、一万本の飢えたマックンフラワーが一斉に襲いかかる。

 しかし、魔王は慌てなかった。

 彼が短い呪文を唱えると、周囲に突如として竜巻が発生し、風の渦が膨張したかと思うと一瞬で荒野全体に広がった。


 マックンフラワーは強烈な風が引き起こしたカマイタチ現象でズタズタに切り刻まれ、舞い上げられた一マンの〇ン〇が空からボトボトと落ちてきた。

 地面に落下したあたしのコピー品は、たちまち萎びて消滅した。


 見ているだけでお股が寒くなるような光景だった。


      *       *


 次の瞬間、あたしは魔王の前に立ちはだかっていた。

 王国軍の陣地から、超加速で移動したのだ。王国の兵士たちには瞬間移動に見えたことだろう。


「あんたが虚栄の魔王ね?

 あたしは阿曽素子。

 戦う前に、あんたには一つ聞きたいことがあるわ」


 伯爵は「ふん」と鼻で笑う。


「いいだろう、どうせ地獄に落ちるのだ。特別に情けをかけてやろう。

 言ってみろ」


「どうして拉致した男たちをなぶり殺しにしたの?」


「……?

 何の話だ、言っている意味が分からんぞ」


とぼけないで!

 あんたがさらった男たちを散々もてあそび、飽きたら魔物女に凌辱させてボロ屑のように捨てたことは分かっているのよ。

 男たちは屈辱と絶望の中で自害したわ!」


 伯爵は不思議な生き物を前にしたように、あたしをじっと見つめた。


「どこからそんな話を聞いたのだ?

 確かに私は戦場から好みの男たちを連れ去ったが、彼らは全員私の館で何不自由なく暮らしているぞ。

 そもそも私が愛でるために集めた者たちだ。酷い扱いをするわけがなかろう」


「そうなの?

 あー、じゃあ前言は撤回するわ。

 そうよね、捨てたりしたらもったいないものね。悪かったわ」


「いやいやいや、ちょっと待て。

 やけに素直に納得するではないか?

 敵の言葉をそうやすやすと信用してよいのか?」


「いや、だってあたしもこの話、聞いた瞬間に眉唾モノだと疑っていたもの。

 大方、神のジジイがあたしのハーレムズに嘘を吹き込んだのね。

 あんたの話の方がよほど筋が通っているわ」


 拍子抜けをした伯爵は、咳ばらいをして気を取り直した。


「分かればそれでよい。

 モトコとやら、では改めて成敗してやるから覚悟しろ!

 貴様自慢の食人植物は、すでに一掃した。

 大体なんだ、あの醜悪な合成植物キメラは?

 女〇器で我が部下を呑み込むとは、悪趣味にもほどがあるぞ!」


 あたしはカチンときた。

 そんなことは言われなくたって分かっている。

 誰が好きこのんで自分のアレを世間に晒したいものか!


 あたしだって馬鹿ではない。

 自分のアレがキメラの構成材料になるくらいなら、他人の身体の一部でもそれが可能なはずだ。

 構想実に一週間、夜な夜な毛布にくるまってオ〇りながら妄想した最強生物は、こいつの天敵となるはずだ。


 あたしは全身の魔力を一気に開放しながら叫んだ。


「いでよ、十大使徒!」


 次の瞬間、伯爵の周囲の地面を割って、十本の巨大なモノが鎌首をもたげて出現した。

 直径は最大で二メートルを超し、身の丈は十数メートルに達している。

 一本ずつ太さも大きさ、色合いや艶も、頭部のエラの張り方までさまざまである。


 あたしが〝使徒〟と名付けたそれは、合成生物キメラですらなかった。

 あたしがこの一か月近く、毎日目を皿のようにして観察し続けていた、ハーレムの男たちの巨大化tnkそのものだ。

 ズルむけの巨根から少年らしい皮かむりまで、その再現度は芸術的な域にまで達している。


「なっ、何と!

 これは……夢のような光景ではないか!」


 虚栄の魔王は口の端からよだれを垂らし、恍惚とした目でそそり立つ十本の使徒を見上げていた。


「おーっほほほほほ!」


 あたしは姫川〇弓のようなポーズでかん高い笑い声を上げた。

 自分の生涯で「おほほ」なんていう笑い声を出すことになろうとは、夢にも思わなかった。


「そう、これはあたしのしもべたちの逸物を、完璧に再現して巨大化させた傑作よ!

 男色家であるあなたに、この見事な男〇が斬れるかしら?」


「くっ……卑怯なっ!」


 歯噛みする魔王は身動きできずにいる。

 すると一体の使徒が亀さんのような頭部を向け、いきなり胴体をぶるぶると痙攣させて白い液体を吐き出した。


 あたしには十体の使徒それぞれが誰のモノか、完璧に区別ができた。

 あれは文学青年風の美男子、バージルのものだ。

 彼は十人の中で、もっとも早漏なのだ。


 びちゃっ!


 白い液体は、身をよじった魔王の身体をかすめて地面にぶち撒けられた。

 その一部は魔王のマントにかかり、煙を上げて布地を溶かしてしまった。

 周囲には何とも言えない異臭が漂う。


「おーっほほほほほ!

 その液体は、強力な粘着性のある溶解液よ!

 あんたの服を溶かして裸にむいて、身動きできないようにしてやるわ。

 そしたらあたしの使徒で肛門を破壊して内臓を掻き回し、口から亀さんを〝こんにちは〟させてあげる!」


 あたしはもうすっかり悪役令嬢の気分となっていた。


 魔王を取り囲んだ十体の使徒は、尿道口から透明なガマン汁をとろりと垂らしながら伯爵へと狙いを定めた。

 その怒張してはち切れそうになった胴体はぶるぶると痙攣し、もういつでも白い溶解液を吐き出す態勢を整えている。


「おーっほほほほほ!

 さあ、どうするの? 虚栄の魔王!」

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