第9話 奇跡の大乳輪

 矢倉の楼上や土塁の覗き窓から、ことの成り行きを見守っていたマヤと騎士団の面々は、おおっとどよめいた。


「何だ、あの魔王の胸は?」

「あれは本当に女か?」

「しかし……あの乳首というか、あれは何なのだ?」


 数千人の視線が自分の胸に集中していることに気づいたミーシャは、はっとして胸元を見た。

 俺の攻撃で、すでにマントが消滅していることは、彼女だって自覚していた。


 だが、その下に来ていた可愛らしいワンピースや肌着はどんな運命を辿ったのだろうか?

 それは上質の絹や木綿で織られた普通の布地であった。

 魔法で強化された彼女の肉体と違って、俺の攻撃の熱量や圧力に抵抗できるはずがない。


 要するに彼女の上半身は、完全な裸に剥かれていたのである。

 その胸は、小学生並みにぺたんこだったのだ。

 わずかに膨らんではいる。だが、文字どおり〝わずか〟である。貧乳というより微乳だ。


 それなのに、不自然なまでに乳首は大きい。

 さらに、その周囲に拡がるピンク色の乳輪は、誰かに殴られたあざかと思うくらいに馬鹿デカかったのだ。


 巨乳を誇るマヤの十二センチ級大乳輪と遜色のない――いや、ミーシャの方がやや勝っているかもしれない。


 幼児体型の少女がさらす、微かに膨らんだ乳房の半分を占める巨大乳輪、そして大粒の梅干のような乳首。

 それは男の欲望の対象というより、何だか見てはいけないような気の毒な身体的欠陥であるかのようだった。


「きゃあああああーーーーっ!」


 予想外に可愛らしい声で悲鳴を上げ、とっさに魔王は胸を手で隠した。

 そして、涙が浮かんだ目をきっと吊り上げ、俺を睨み返した。


「きっさまぁ~! よくも人の恥ずかしい秘密を……!」

 さっきの悲鳴とは全然違う、低く迫力のある声だ。


「やかましいっ!」

 俺の怒号はその声すらも圧倒して響き渡った。


「やめだ、やめだ、やめだーっ!

 俺は、お前が女だろうと子どもだろうと、ぶち殺すつもりでいた。

 だが、それはたった今、やめることにした!」


 俺の突然の宣言に、魔王も「え?」という顔をしている。


「独善の魔王! お前は捕獲して、俺の所有物にしてやる。

 そして、生きたまま石の壁に埋め込み、その胸を永遠に晒してくれるわ!

 そうだ、俺だけが楽しむだけはもったいない。

 モニュメントとして広場に建てて、全世界の笑いものにしてやる!

 それがお前の犯した罪の報いだと知れ!」


「何をふざけたことを言っている、このド変態が!

 やれるものならやってみるがいい!」


 裸だった彼女の上半身は、いつの間にか魔法で生成した薄手の鎧で覆われていた。

 ミーシャは怒りに燃えた目で怒鳴り返し、両手を突き出して魔法の発動態勢に入ろうとした。


 しかしその手が、何者かに両側から引っ張られたように、ぴんと水平に伸びた。

 同時に両足も広く開かれ、彼女は立ったまま大の字の姿勢となった。

 それがミーシャの意思に反していることは明らかだ。


「なっ!

 貴様っ、何をした?」


「驚いたか?

 名付けて緊縛魔法〝大の字縛り〟!

 もはやお前は一歩も動けん。

 それどころか、あらゆる魔法の発動までも封印されたぞ!

 どおれ、そのまま裸に剥いて市中を引き回し、生き恥を晒してやろう!」


「何を馬鹿なっ!」

 独善の名を冠した魔王は、敵の魔法を撃ち消す反魔法防御アンチ・スペルの呪文を唱えた。


 しかし何も起こらない。俺が宣言したとおり、緊縛魔法は魔法の発動そのものも縛りつけていたのだ。

 その冷徹な事実を理解したミーシャの顔が青ざめた。

 彼女の目に映る俺の目つきは、完全に常軌を逸していたからだった。


 数重の防御結界ごと魔法のマントを吹き飛ばし、魔王を裸に剥いた俺の攻撃魔法、収束魔導砲は、同時に俺の体内に蓄積していた魔力を根こそぎ奪っていった。

 魔力切れを起こして気が遠くなりそうだった俺に、再び魔力を供給してくれたのは、皮肉なことに独善の魔王自身であった。


 幼児体型の胸のわずかな膨らみに拡がる奇跡の大乳輪。

 それは俺がこれまで見たことのない、すばらしいご馳走だった。


 マヤがこの世界最高の美女だとするならば、ミーシャはお伽話の天女だ。

 マヤの大乳輪は現実であり、ミーシャのそれは空想上の産物だった。


 二人の大乳輪を例えるなら、そういうことになる。

 それをこの目で見たのである。


 俺の性的欲望リビドーは、全身の毛先に至るまで膨大な魔力を供給し、なおも湧き出し続けた。


 大の字縛りは、その魔力を惜しげもなく全力投入して放ったものだ。

 このとてつもない大魔法は、収束魔導砲同様、完全に第七水準レベルを凌駕していたのである。


 俺はゆっくりと独善の魔王のもとに歩み寄った。

 彼女は首を振ろうにも動かせず、唯一自由になる口で悲鳴を上げた。

「やめろっ!

 来るなっ、馬鹿! 変態!」


「そうだ、俺は変態だ。

 変態なら変態らしく、お前にとびきりいやらしいことをしてやろう。

 まずはもう一度その乳輪を見せてもらう。

 そして存分にその恥ずかしい胸を舐め回させてもらうぞ!」


 薄笑いを浮かべてなおも近づく俺に、とうとう独善の魔王は泣き出した。

「いやっ! やめて!

 お願い、来ないでっ!

 お母さーーーん!」


 俺はとうとう大の字になった彼女の目の前に迫った。

 恐怖に引きつるミーシャの鼻先数センチにまで顔を近づけ、彼女の唇に人差し指を当てた。


 これで口も封じた。

 もう彼女が自分の意思で動かせるのは、眼球くらいしか残っていない。


「ふん、母親を呼んでもどうにもなるまい。

 どうせ呼ぶなら○○えモンとかにしたらどうだ?」


 そして俺は、彼女の上半身を覆っている薄い鎧を引き剥がそうと手をかける。

 その時、すぐ後ろから不意に声がかかった。


「同感だな。

 だが、呼ぶならネコ型ロボットではなく『魔王様』だろう?」


 俺はゆっくりと振り返った。

 五メートルほど先に、魔王のローブに身を包んだ男が立っていた。

 いつの間にその男が現れたのか、まったくの謎であった。


「お前も魔王なのか?

 俺は男を緊縛する趣味を持たないが……邪魔をするのなら容赦はしない。

 白ブリーフのまま亀甲縛りにして、もっこり姿で転がるはめになるぞ」


 新たな魔王は小さく笑った。

「それは勘弁してほしいな。

 ちなみに私はトランクス派だ」


 そして彼は咳ばらいをして声の調子を変えた。

 それは重々しく経験と威厳に溢れ、思わず聴き入らずにはいられない声音だった。


「転生者よ。

 見たところ君の魔力は底をついているようだ。

 もう何もできないのは分かっている。

 私の部下を解放し、大人しく投降せよ。

 そうすれば命までは取らん」


「やれやれだぜ……」

 俺は下を向いて溜め息をついた。


「お前たち魔王は、何も学習しないのだな。

 そういう戯言たわごとは、これを見てから言うがいい!」


 そう言うと、俺は指先に残った魔力を集めて一気に引き下げた。

 ミーシャの肌を守っていた鎧は、あっけなく引き裂かれてばらばらとなる。

 夢にまで見た微乳大乳輪が俺の眼前に露わとなる。

 その汗の匂いすら漂ってくる近さだ。


 たちまち俺の体内の溶鉱炉に火がともり、歓喜に満ちた欲望が一気に魔力の供給を再開する。

 駄目押しに、俺は怯えて鳥肌を立てている薄い乳房をぞろりと舌で舐め回し、堅く立っている大きな乳首に軽く歯を当てた。

 下腹から溶岩のような熱い奔流が爆発的に噴き出し、俺の身体を駆け巡るのを感じる。


 新たな魔王はさすがに驚いたようだった。

「ほお……一瞬で魔力を回復したのか?

 変態の歪んだ欲望というのは、凄まじいものだな。

 だが、君が執着するのは巨乳ではなかったのかね?

 ミーシャはまだ百歳を過ぎたばかりの子どもだ。

 そんな貧弱な胸には用はないだろう」


「どいつもこいつも分かっていない!」

 俺は吐き捨てると、一歩前に出た。


「どうやら俺は、この世界に真の女の魅力というものを伝導しなければならないようだな。

 まずはお前から教育してやろう!

 俺の名は高山昇太だ。

 そっちも名を名乗れ!」


 フードを目深におろした男の表情は読めないが、うんざりした様子が仕草ひとつで伝わってくる。


「ふむ、転生勇者などに名乗ったことはないのだがな……。

 まぁ、いいだろう。

 私は〝最凶の魔王〟と呼ばれている。

 この世界の魔王すべてを束ねる者だ」

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