蟲退治
「どう考えても、有効なのは火なんだよ。」
それは、おそらく間違いない。生物だし。特に腹の中にいた蟲達は、表皮が乾燥しただけで動けなくなるはずなんだ。
「パールいる?」
「いないよぉ。」
地下倉庫にプールしていた素材を合成できれば、いろんな方法があったのだが?1年かけて収集した資源が、パールによって全部どこかへ消えてしまったのだ。
「あぁ、今たいへんに危機的な状況なんだ。倉庫の中にあった素材が使えば、簡単に解決できるんだけどな。…爆弾作ったりとか…な?」
「むりむりむり~できな~い。…できるけど。」
「できるんかい。って肝心の素材は何処にある?」
「私のお腹の中に入ってるよ。知ってると思うけど、ほら、私って消化器官的なモノって持ってないでしょ。だから食べたものって、ずっとお腹の中に残っちゃうわけ。」
「どんだけだ、お前の腹の中は。」
「どんだけでも。消化吸収しないから、どれだけ食べても太んないしね。」
パールが自慢げにお腹を叩くと、小さなお腹がたゆんと揺れた。ほんとにどうなってるんだか。
「…。」
不思議なものである。こう見えてパールは、決してツッコミを待っているわけではないのだ。
パール曰く、素材ではなく素材に纏わりついていた僕の魔力を食べたということ。パールにとって必要なのは魔力だけ。食べて吸収した魔力はすでにパールの血肉となり、…血?肉?
吸収されない残りの物質は自由に出し入れできるらしい。あの体積がこの小さな体の中に…、ブラックホール化したりしないのだろうか。大丈夫かな。外観的には何も異常は見当たらない。要経過観察といったところか…。
とはいえ、僕自身ではできる事はほとんどない。元宇宙船のカプセルさんの持っていた機能を受け継いだパールにお願いするしかない。
パールに希望の爆弾の仕様を伝える。
この場合、爆発の衝撃で破壊するタイプではなく、ナパーム弾のような炎で燃やし尽くすタイプの爆弾が良い。蚤のような甲殻類は、衝撃への耐性が高い事が予想される。万一爆発の衝撃で死ななかった場合、蚤が広範囲に散らばる手助けをしてしまう恐れがあるからだ。
「あの蟲達の真上にお願い。」
「がってん承知よ。」
ん?何故かパールが協力的なのだが…。
逆に怖い。
パールが上空へと舞い上がる。
明らかにパールよりも大きなものが空中に出現した。蚤と一緒にゆっくり落下を始め、地表で爆発した。
炎の柱は、まるで油田の火災のように高く伸び、それは100m程にまで達し蟲達を焼き尽くした。
轟音が轟き、熱が肌を焼く。視界は白く染まった。炎以外のモノが世界から無くなったような錯覚に陥り、辺りは奇妙な静寂に包まれた。
炎は5分程燃え、それからぱたりと消えた。ここからは本当の静寂。虫や鳥の声、人の声、生活音も何も、風の音すらもない。
炎の起こした熱すぎる上昇気流は、上空に雲を呼ぶこともなかったし、まして雷を呼ぶこともなかった。
空気が急激に冷えて収束する。
身体を見えない膜が背から腹へ、後頭部から鼻頭へ抜けたような気がした。木々や草木のざわめきが戻った。
地表は焦げた程度なので、特に後で問題になることはないだろう。
炎から逃れ得た蟲は、1匹たりともいないと思われた。念の為ソナーを使って周辺を索敵したが、問題ないようだ。
ガンドフさんとポンコツ4人、村人A、B、Cを助けることができなかった事は悔やまれるが、きっと業火に焼かれて昇天したことだろう。尊い犠牲となった彼らに、1分間の黙祷を捧げよう。
それから僕は何事も無いように帰宅した。
おじいさんとおばあさんは「きょうはあついぉ。みずはこまめにとらんとぉ、たおれちゃっとぉ。」などと、村の騒ぎなど我関せずのマイペースでひと安心だった。
その後、騒動がどう収拾されたか経緯はわからないが、ガンドフさんの息子、ポンコツアーロンが村を救った英雄として祀り上げられていた。あのナパーム弾の炎は、彼の火事場のバカ力か、もしくは牛丼を食しさらにバージョンアップして発揮された…のクソ力によるものかという事で、話はまとまったらしい。きっとガンドフさんも天国で喜んでいるに違いない。
「だって、キモいんだもん。」
パールがやけに協力的だった理由がこれだ。もし蟲の大群ではなく、ニャンコの大群が押し寄せてきたのならば、もしかするとパールは敵に回るのかもしれない。
やはり今後は、隠密系のスキルを開発していきたい。
今回は運良く人に見られることはなかったから良かった。これからもなるべく目立つことは避けたいし、今後ナラやキョウト、カマクラなど主要都市の調査などを考えると、僕の今のスキルでは心許ない。はやく魔法が使えるようになりたい。
それに、パールがどこまで、いつまで協力してくれるかもわからないから。
そう、今後の活動のキーマンは間違いなくパールだ。これは外せない。パールの解明、これは1番の課題だ。
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