倉庫の中
おじいさんは知らない。おばあさんも知らない。
この家の直下800m程の地中に、およそ東京ドーム1杯分の倉庫があることを。主に鉱物などの資源が蓄えられているのだが、これはもちろん僕とグラディオ・エクス・マキナの仕業の成果である。出入口はグラディオ・エクス・マキナから伸びる管のみなので、良い所は盗難の心配がないこと…はずだった。コツコツと1年間、方々から資源を集めていっぱいになった倉庫。その資源が、ここ1月の間に半分ほどに減っていた。
この家にお世話になってからは、目立つことを避けてグラディオ・エクス・マキナの開発スキルは封印していたので、溜まる一方だった資源がだ。
調査が必要だ。
キョウがナラへ旅立ってからも、およそ1月。ナラのお医者さんからは何の音沙汰もないが、便りのないのは無事な証拠と自分に言い聞かせた。より厳しくなった村長の特訓に疲れながらも、ふと訪れる手持ち無沙汰で、倉庫の在庫確認を行って発覚したことだ。盗まれた形跡はない。単純に持ち出されたというデータが残っていた。
僕以外にこの倉庫から物を持ち出すことはできない。グラディオ・エクス・マキナは僕の指示以外では動かない。
では、誰が?
パールしかいないじゃないか。
パールは村の結界の外の森で拾った、意思を持った青い石だ。
鑑定を試みてグラディオ・エクス・マキナの中へ放り込んだのだが、たいそうその中が気に入ったようで、そのまま出てこなくなってしまったのだ。結局正体は不明。当初はもしかすると精霊ではないかと思ったのだが、村長から聞いた精霊の特徴とは符合する部分が少ないので、精霊ではない何かと思われる。魔物?それともまだ僕の知らないこの世界の…生き物?
確認すると、いつの間にかアカウントを乗っ取られていた。グラディオ・エクス・マキナのユーザー名がパールに変わっている。
一応、僕のアクセス権はそのまま生きているようだが…。
しかし、外付けの入力装置のないコンピュータに干渉できる生き物って何なんだ!
「パール?」
「はい、はーい。パールあよー。」
「元気そうで何より。」
「うん。パールはいつれも元気あよ。」
「ところで、パール。倉庫の資源量が若干減っているようなんだが、心当たりはないか?」
「えー、パール知らあいよぉ。」
パールとの会話は、グラディオ・エクス・マキナからの通信回線を利用しているので、非常にスピーディだ。今の会話で0コンマ1秒とかかっていない。
それはさておいてパールの言だが、とぼけているのか、それとも本当に知らないのか…。
「パール。口に物を含んだまましゃべるのは、あまり行儀が良いとは言えないよ。」
「れも、おいひぃよ。止まんあいのよね。」
「何を食べているんだい?」
「ゴクン。この中の石は魔力が豊富で、飴玉みたいにおいしいの。ヤトリも食べる?」
…食べたのか。
この世界の生き物は、魔力を生み出し、そして消費する。無機物である鉱石等は、魔力を溜め込むことができ、劣化しにくい物程、魔力を多く溜め込むことができる。金や宝石等、劣化しない物は特にその量も膨大なものになる。
「それは、食べるものじゃない。」
「おいしいのに。」
「そんな石ころ食べたら、腹を壊すぞ。」
「じゃなくて、魔力を食べてるのよ。ま、ついでね、つ・い・で。」
「強調する意味がわからん。」
「そうよ。おいしいわよ。あなたは食べないの?あ、この石と一緒だからこんなにおいしいのかしら?」
パールが常識的な生物とは、異なった体系のモノであることは承知済みである。常識の異なる者同士、会話が成り立つはずもない。と、考えるのは僕だけだろうか。
そういえば昔の同僚の方のパールは、どんなに文化が違えど、歳が違えど、どんな人とでもすぐに打ち解けていたな。あれもコミュニケーション能力というのか?いや、あれは一種のチート技能だったな。
…などと、ふと昔のことを思い出した。
あっちのパールだったら、こっちのパールとも上手くコミュニケーションが取れるのだろうか…。
「パールは、魔力以外に何を食べてるんだ?」
「ヤトリ、何言ってんのさ。魔力以外に何を食べるっていうのさ。そうでしょ?あなたいったい何食べてんのって話よね。キャハハ。」
「ん?」
今のって、もしかするとすごいヒントだよね。
ついさっき俺の中で否定されたばかりの可能性が、一気に真実へと近づいた気がした。
「パールって、…あれ?」
子供のように無邪気な笑い声が、遠く聞こえる。逃げられた。
その後、何度呼びかけてもパールからの応答はない。俺のモニターにはグラディオ・エクス・マキナの中ではしゃぐ、パールの笑い声だけが届いていた。
「だって、ヤトリの話、つまんないんだもーん。」
「子供か!」
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