パール

 この世界のあらゆるものに魔力は宿っている。

 物質によって差はあるものの、動物や植物等の生物はもちろん、土砂等鉱物、空気中に含まれる塵から分子に至るまで、すべてに含まれる。

 地中や空気中など、生物以外に含まれるものは魔素とも呼ばれことがあるが、それも魔力である。


 そして、この世界のあらゆるところに存在するマイナス質量の物質。

 マイナス質量の物質というのは、それだけで膨大なエネルギーの塊である。通常そのような物質は、自然界で安定して存在することはできない。


 仮説だが、この世界にマイナス質量の物質が安定した状態で存在し得る要因として魔力の存在があるのではないだろうか。

 魔法とは、その魔力を操作することでマイナスの質量の物質に干渉し、そのエネルギーを利用することで超常の現象を引き起こすものではないだろうか。

 科学的な根拠はないが、それほど荒唐無稽な話ではない気がする。


 とすると、精霊というものがどういった役割を果たすものなのか?


 とにかく、この青い石を解析することは、この世界を知るための大きなヒントになるかもしれない。


 まずは、グラディオ・エクス・マキナの解析を待つとしよう。

 青い石が受け皿から、グラディオ・エクス・マキナの中へと飲み込まれ解析が始まる。その情報がリアルタイムで僕の中にも流れてくる。


 解析とは、対話である。対象物をスキャンした後は、光や電気、熱、振動等の様々な刺激を与える。すると、そのそれぞれに対する返事が返ってくるという、最も原始的なコミュニケーションである。


 「変なとこ触んないでくれる。」


 「…?」


 「触んなって言ってんの!」


 「!」


 なんだかわからないものに、蹴り?を入れられた。精神的脇腹に2ダメージ。


 「うひゃひゃひゃ。はぉう、そこだめぇ。って、触んなっての!」

 「…んぐっ!」


 精神的鳩尾にクリティカルヒット、4ダメージ。

 何が何処からかと思えば、この声はグラディオ・エクス・マキナからのデータであった。そこで僕はハタと気付いた。もしかすると、これは青い石の声なのでは?

 不確定な部分は多いが、あまり気分を害しても良い事は無いと思い、グラディオ・エクス・マキナには青い石の解析を一時中断するように指示を出した。


 「ふう。ようやく落ち着いたわね。ふっふ~ん。セクハラが無ければ、ここ、結構快適よね。」

 「セクハラって、いつの時代だよ。」

 「あっはっは~ん。いい湯だぁねぇ~。」


 人の話を聞かないタイプかな?


 「なに?あんた何処からしゃべってんのさ?ここ、あんたの中よね?」

 「あ、聞いてた?」

 「勝手にバカ扱いしないでくれる。」

 「してない。してない。…えっとね。そっちは、僕の分身みたいなものだね。」

 「へぇ、じゃさ、こっちの全部もらっても…、いや、やめた。わたしこっちに住むことにするから、よろしくね。え~っと…、」

 「ヤトリだ。君は?」

 「ヤトリね。ヤトリヤトリヤトリヤトリヤトリヤトリヤトリヤトリヤトリ…、プーックックー。変な名前。ふっふ~ん、魔力風呂だ~。極楽、極楽。」


 やっぱり、聞いてないな。


 「パールだよ~。」


 聞こえているなら、すぐに答えてほしい。しかし、パールか。偶然かな?偶然だろう。昔、この星の調査のために、一緒に地球から旅立った6人のうちのひとりと同じ名前とは。

 そして、青い石なのにパールとは、これ如何に。

 といっても、正直名前なんてどうでも良い。…悪い奴ではなさそうなんだけど、こういう天真爛漫というか、直情型相手に関係をこじらせると、修復の仕方がわからないから…、ま、急ぐわけでもないし、しばらく様子を見ることにする。




 翌日、村長に精霊について聞いてみた。まさかとは思うが、パールが精霊ではないかという可能性に思い至ったためだ。


 精霊というのは、見た目はただの石ころで、それはエネルギーの塊のようなものと考えられている。

 知能はなく意思疏通のできるようなものではないらしい。

 魔力を与えることで精霊との契約は成立する。そして、精霊は契約者の魔力でしか、存在を維持することができない。

 成長度合いによって精霊は、幼体と成体、2通りの状態にわかれる。契約時は幼体、ある一定以上の魔力を吸収した時点で、成体となる。大抵は契約から5分ほど魔力を送ると成体になるようだ。

 しかし、気まぐれといって良いのかはわからないが、幼体の時に何かを間違うと、一定の魔力を吸収した時点で、魔物になる。この現象を、精霊がへそを曲げたというらしい。何が原因となるのかは、未だに解明されていない。

 契約した精霊が成体となることによって、魔法が使用できるようになる。

 


 「と、まぁこんなとこだ。実際、精霊がどういうものかというのは、わからんことが多いようだな。」

 「ご教示、ありがとうございます。」

 「早く魔法を使いたい気持ちもわかるが、まずは基礎鍛練だ。」

 「はい。」

 「うむ。良い返事だ。」


 村長が親指を立ててナイスなポーズをするので、僕もそれに応えてナイスなポーズを返した。


 共通点はいくらかあるが、パールが精霊かそうでないか、僕は結論を保留することにした。


 家に帰って、グラディオ・エクス・マキナの様子を伺う。外見に異常は見当たらない。

 しかし、回線がパールと繋がっているためか、グラディオ・エクス・マキナと接続できない。

 

 パールは相変わらずだ。ご機嫌な様子で、鼻歌を口ずさんでいる。これは確か、日本の古い歌だ。春の小川だったか?

 はて、何故パールが地球の古い歌なんかを知っているのだろう?


 …音痴だな。


 「うっさいわ!」


 「聞こえちゃった?…グッ!」


 精神的尻に1ダメージ。※属性効果によりダメージ半減。





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