邂逅
朝は日の出る少し前に起きる。
カプセルのエネルギーを補充する時間だ。人工衛星の親機からエネルギーの塊が打ち下ろされる。強い光を放つそれは、さながら空から落ちてくる星のようだ。
失明の恐れがある為、直視しないで下さい。と説明書に但し書きがあった。
エネルギーの塊がカプセルに直撃すると、その光は一層強さを増した。一瞬の事である。
少し傾いた8本足のカプセルは、茹蛸のように湯気を上げた。煙じゃないよね。うん、大丈夫なようだ。もし多少壊れたとしても、自己修復機能があるから問題ない。
この星の生物の目には、今の光はどのように映っただろうか。この場所を調査に来るような知的生命体は、はたして存在しているだろうか?
結果から言うと、それはいた。
「ゴブ、ゴブ…。」、「ゴブ、ゴブ…。」
流星落下から1時間程経って、ゴブリン御一行がガサガサパキパキと草の根を分けながら、まっすぐこちらに向かってくる。
おそらくはカプセルを目指して向かってきているのだろう。
二手に別れているようだ。
片方は10匹の大所帯。もう片方は2匹。大所帯の方は逡巡する気配も無く進んでくる。
カプセルの周囲は流星落下の余波で半径10m程、草葉がなぎ倒されており、見晴らしが良くなっている。2匹の方はその境の手前で、こちらの様子を窺っている。
大所帯の方の最初の1匹が草叢から、何の警戒も無く出てきた。
僕の存在を確認したところで、初めて警戒、というか威嚇の体勢に入ろうとしたが、ぞろぞろと出てきた後続に押されて、こけた。
後続のゴブリン達はこけた先頭のゴブリンに気を取られて、僕の存在になかなか気づかない。やはり知能が低い。こちらを気にしているのはこけたゴブリンだけだ。
僕は未だ草叢から出てこない2匹のゴブリンの方に注目した。大所帯の方と合わせて襲ってくるかと思ったが、出てくる気配はない。大所帯のゴブリン達とは違う群れだったりするのだろうか?
こけたゴブリンのイジリの輪に入り損ねた、最後に草叢から出てきたゴブリンがこちらに気づいた。その1匹だけが戦闘態勢に入る。
「ゴブ!」
文字通りの一番槍をと焦ったのか、お馴染みの連携なし、1匹で突っ込んでくる。僕は包丁の柄に手をかけて鯉口を切った。
あ、丁度いいからこの1匹目は、カプセルに放り込んじゃおうか?
そんなことを考えている間に、ゴブリンはすっかり間合いを詰めて持っていた木の棒を振りかぶりながら、飛び掛かってきた。
その時、やっと2匹の方にも動きがあった。
視界の端に小さな光が入った。その光は、僕に襲い掛かってくるゴブリンへと真っすぐに飛んだ。ゴブリンがオレンジ色の炎に包まれた。ゴブリンは脇に転がって、ブスブスと煙をあげた。
「何してるの。早く逃げなさい!」
草叢から出てきたのは、青い髪というのはびっくりだが、その姿はまさしく、
「に、人間だ。人間がいるのか!」
知的生命体とはいっても精々が猿くらいなものと想像していたが、まさか人間がいるとは思わなかった。それに、今の火の玉は?
「い、今、君、何したの?」
片言になってしまった。恥ずかしい。髪の色と同じ青い瞳がじっと僕を見ている…、はて?何かすごく焦っているようだが?
そういえば、ゴブリン達が皆、戦闘態勢に入っているようだ。そして、今火の玉の直撃を受けたゴブリンが立ち上がる。まだ、生きていたようだ。
しかし、僕にはゴブリンよりも、人間さんの方が気になる。火の玉の方が気になる!
一人はまだ草叢の中だ。出てきた方の人間はおそらく20代後半だろう女性である。藁などではなく布の服を着ているところから、相当な文明が存在するだろうことがわかる。
ひとまず、手近な手負いのゴブリンを蹴飛ばして。
僕の蹴りがクリーンヒット。ゴブリンはその勢いで飛んで、先程こけたゴブリンに命中、周囲のゴブリン達も雪崩打って全員こけた。
ストライク!…って、やってる場合か。
「ねぇ、君。名前なんて言うの?この辺に住んでんの?集落でもあるのかな?それとも、王様とかいたりするの?今の火の玉、何?どうやったの?何も燃焼物がなかったみたいだけど。…?」
「あ、あの逃げないと…?」
僕の矢継ぎ早の質問で、どうやら彼女は混乱しているようだ。なぜ逃げる必要があるのか。
そんなことより!
「火の玉!」
「ま、魔法よ。知らないの?」
「魔法!」
テンション(爆)!
「それより、早く逃げなさい。死にたいの?」
「えっ、何で?」
「なんでって、ゴブリンが10匹もいるのよ。私でも3匹相手にするのがやっとなのよ。」
どうやら相当に混乱しているらしい。詳しい事はゴブリン達を倒してからでなければ聞けない空気だな。
そうか、今の火の玉が初歩の火炎魔法だったとすると、某ゲームでは最弱モンスターかカラス、ウサギは一撃では倒せないこともあったか。彼女の攻撃手段がそれしかないという事ならば、つまり彼女はそういうレベルだという事だ。その状況で人型モンスター10匹は、なるほど荷が重いか。そうだ、そもそも僕の身体が異常なのだ。
なるほど合点がいった。
では、まずはゴブリン退治といこうか。
僕の行動が虚をついたのか、僕が振り返りゴブリンへと向かって歩き出してから、10匹のゴブリンを瞬殺するまでの間、彼女は黙って見ているだけだった。
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