第86話 一撃

『えっ!?』と顔を上げたユウナギの顔には、

『紫色の冥界眼』が怪しく光っていたのだった・・・。


そんならぶりんの絶叫にも似た声が届くも、

それは既に遅かった・・・。


『紫色の冥界眼』が怪しく光った瞬間・・・。


『ドカッ!』と強烈な蹴りがミラーズの腹部を捕らえ、

いとも簡単にミラーズは弾き飛ばされた。


その一撃を受けた瞬間、ミラーズは余りの衝撃に声すら漏れず、

一瞬白くその意識は染まり弾き飛ばされたのだった。


『シュッ!』とらぶりんの前を意識を失くしたミラーズが弾き飛ばされ、

およそ50ⅿ程飛ばされた時・・・。


『ミラーズ様ぁぁぁぁっ!』と絶叫するらぶりんの声が意識を回復させた。


「わ、私は一体っ!?クッ!」


「ミラーズ様ぁぁぁっ!」


再び聞こえたらぶりんの声に何が起こったのかを思い出したミラーズは、

腹部に強烈な痛みを感じながらも飛ばされている身体を捻り、

『うぐっ』と呻き声を挙げながらも身体を捻り着地した。


「っつ・・・。

 ま、まだ腹の中でダメージが増大しようとしてる・・・。

 こんな力があるのに・・・

 わざわざリョウヘイに成りすましてまで・・・クッ!」


愛する男に成りすましてまで勝とうとする冥界眼に、

ミラーズは心の底から怒りを感じつつも、

激痛に顏を歪めたミラーズは回復魔法を使用し始めた。


すると突然『キィッ!ギャァァァッ!』と奇声を発した冥界眼は、

回復を計るミラーズへと向かって来た。


「流石にそうやすやすと回復させてもらえないわねっ!」


激痛に顏を歪めながらも立ち上がったミラーズは剣を構えると、

何があってもいいようにと、この時初めて『身体強化』のバフをかけた。


(このくらいで何とかなるとは思えないけどっ!)


痛む身体に気を遣う事も出来ない中、

ミラーズは迫る冥界眼に向けて手をかざし牽制となる『炎魔法』を発射した。


『ドンッ!ドンッ!ドンッ!』


『炎魔法』を3連射しつつ、迫る冥界眼に向けて真向から駆け出し、

投げ捨てたロングソードに手をかざすと、

紫色の光に包まれたロングソードは一瞬のうちにミラーズの手へと戻った。


そしてミラーズが放った炎の玉が冥界眼に当たる直前、

『ギャハハッ!』と奇声を発しながら左腕でその炎の玉を弾き飛ばし、

その紫色に染まる視線は、剣を構え向かって来るミラーズを見据えていたのだった。


『はぁぁぁぁっ!』


『ギッシャァァァァッ!』


3つ目の炎の球が弾かれる間際にミラーズはジャンプし大きく剣を振りかぶると、

迷う事無く冥界眼の左の肩口に向けて勢いよく振り抜いた。


『ブォンッ!』と激しい風切り音が響いたが、

その斬撃は冥界眼の肩口に当たる事無く、

その代わりに『ぐはっ!』とミラーズの呻き声が聞こえた・・・。


ミラーズの強烈な一撃が冥界眼の肩口に直撃する寸前、

身を捻りその斬撃の線から移動した冥界眼は、右足を大きく跳ね上げ、

再びミラーズの腹へと見舞ったのだった・・・。


大きく振り上げられた冥界眼の右足の先に突き刺さるように、

ミラーズの身体はダランと九の字に折れ曲がり沈黙が訪れた・・・。


「ミ、ミラーズ様ぁぁぁぁぁっ!」


『ゴフッ!』とその美しい口から血液が吐き出され、

離れた場所から見守っているらぶりんにもわかるほど、

その一撃はとても危険なモノだと理解出来た。


「ゴフッ!ゴフッ!

 ら・・・らぶ・・・りん・・・」


「ミ、ミラーズ様ぁぁぁっ!

 うぉぉぉぉぉぉぉっ!」


蚊の鳴くような瀕死のミラーズを見たらぶりんは、

その小さな身体に怒りの魔力を滾らせ、

糸を吐きながらミラーズの元へと向かった・・・


「こ、来ない・・・で・・・」


そう声を発するも怒髪天になってらぶりんに届くはずもなく、

一直線に向かって来たのだった。


『グギャッ』


冥界眼は後方から迫り来る魔力を纏ったその存在を感知すると、

その紫色の瞳を『ギョロッ』と動かしほくそ笑んでいた・・・。


そして『こいつぅぅぅぅぅっ!』とらぶりんがそう声を発した瞬間、

冥界眼のその瞳が怪しく光ると、

ミラーズを未だ蹴り上げた状態のまま右の裏拳で潰しにかかったのだった。


だがらぶりんはその攻撃を予測していたのか、

地面に糸を吐きその軌道を変えると、

『シャァァァァッ!』と威嚇音を発しながらその口に膨大な魔力を凝縮すると、

一気に冥界眼の腹に向けて発射した。


『ズドンッ!メキッ!メキメキッ!』


らぶりんの凝縮した魔力の球を脇腹に喰らった冥界眼は、

『グギャッ!』と声を挙げながら弾き飛ばされた。


その瞬間・・・。

冥界眼の足にぶら下がる形となっていたミラーズは、

まるで壊れたマリオネットのように地面に落ちると、

いきり立つらぶりんに辛うじて顔を向ける事が出来た。


「らぶ・・・りん・・・」


『フゥーッ!フゥーッ!』と荒く息をするらぶりんの耳に声が届くと、

ピョンと跳ねながらボロボロになったミラーズの顔の前に着地した。


「ミ、ミラーズ様っ!?ミラーズ様っ!?

 い、今すぐ怪我の治療をっ!」


らぶりんはそう声を張り上げながらその身体の上に飛び上り、

回復魔法を使用しようとした時、ミラーズは掠れた声で口を開いた。


「き、聞い・・・て・・・。

 わ、私が・・・な、何とかおさ・・・えるから・・・

 あ、貴女は・・・に、逃げて・・・」


「ダ、ダメですよっ!?

 しゃべらないでミラーズ様っ!」


「・・・逃げ・・・て。

 す、すぐに・・・く、来る・・・わ」


『ゴホッゴホッゴホッ!』と続けてそう咳をすると、

夥しい血液がその都度吐き出された。


(か、完全にミラーズ様の内臓がっ!?)


らぶりんは魔力を放出しながらミラーズに向けて回復魔法を使用し始め、

危険な状態であるその身体の治癒を開始した。


(こ、このままではミラーズ様がっ!)


だが余程内臓の損傷が酷いのか、

その回復魔法は思っていた以上に効果が出なかったのだった。


「ど、どうしてっ!?」


そうらぶりんが声を挙げた瞬間・・・。

少し離れた場所から高濃度の冥界の神力が放出された・・・。


「わ、私の攻撃ではやはり・・・」


そう呻くように発しらぶりんの眼は、

嫌な笑みを浮かべながら立ち上がる冥界眼の姿があった。


その異様な笑みにらぶりんは悪寒を感じるも、

それを気にする事もなく回復魔法を使用し続けた・・・。


「は、早く・・・逃げてっ!」


「ミラーズ様っ!?」


先程よりもミラーズの顔に精気が戻り、

その声にも力が戻って来た事を感じたらぶりんは内心安堵の息を吐いた・・・。


(・・・も、もう少し回復する事が出来ればっ!)


そう思った時・・・。

『ギッシャァァァ!』とこちらに向かって駆け出して来る冥界眼の姿を見た。


「ま、まだっ!あと少しでっ!」


「らぶりんっ!離れてっ!」


「す、少しでもぉぉぉぉっ❕」


そう声を荒げながらミラーズの身体の筋肉に力が込められたが、

『ゴフッ!』と再び吐血したミラーズはそのまま動けずに地に伏した。


冥界眼は異様なな笑みを浮かべたまま、

その右手に持たれた作り出した剣を振りかぶった。


『もう少しーっ!』と・・・。

身を縮めながらも回復魔法を止めないらぶりんがそう断末魔の声を挙げると、

冥界眼はらぶりんの叫び声を楽しむかのように、

舌舐めずりしながら剣を振り下ろした。


『ギッ!シャッシャッ!』


冥界眼が笑みを見せながら振り下ろした剣は、

らぶりんの頭上に寸分狂いなく振り下ろされたが、

それは突如として『ガキンッ!』と弾き飛ばされ、

それと同時にらぶりんには聞き慣れた声が飛び込んで来た。


『ちょいとお邪魔するよ~♪』


そして冥界眼はその声に反応し視線を向けようとした時、

『おっらぁぁぁぁっ!』と気合いの籠った声と同時に、

拳が迫り『バキッ!』と骨が砕け散る音が響いた。


『ヒュンッ!』と音を立て吹き飛ばされた冥界眼を見たらぶりんは、

その間、ただ茫然としていた・・・。


そしてその頭上から『・・・まだ生きてるみたいね?』と、

少し笑ったようなその声に、らぶりんはその視線を上へと向けた・・・。


「・・・ひ、卑弥呼様っ!?

 も、元・主が一体どうしてっ!?」


そう声を挙げたらぶりんにその卑弥呼はしゃがみ込むと、

茫然とするらぶりんに『ちょいとどきな』とそう言った。


促されるままらぶりんは飛び降り、

意識を失っているミラーズの顔の方へと移動すると、

再びその女性の顔を見上げた・・・。


するとその女性は心配そうにするらぶりんを見て、

大きな笑顔を向けながらこう言った・・・。


『・・・心配いらねーよ?

 この卑弥呼様に任せておきなっ♪』


『にかっ!』と笑ったその笑顔を見たらぶりんは、

すぐに『宜しくお願いしますっ!』と声を挙げると、

卑弥呼は飛ばされた冥界眼の方を見て『・・・暴走か?』と言葉をこぼしていた。


状況を理解していない様子を見せる卑弥呼に説明したらぶりんは、

『・・・あのボケがっ!』と苛立ちを露にする卑弥呼にその小さな身体を震わせた。


そしてそれは一瞬の出来事だった・・・。


卑弥呼が瀕死のミラーズに対し一瞬気合を込め『はっ!』と声を挙げると、

濃度の高い緑色の光がミラーズの身体を覆った。


そして『よしっ!問題なしっ!』と嬉しそうな声を挙げた卑弥呼は、

きょとんとするらぶりんに声をかけた。


「・・・確か、今の名はらぶりんだっけか?

 よく私のダチを護ってくれたな?

 まじで感謝だぜ・・・ありがとな♪

 まぁ、とりあえずミラ子の身体は元通り全快しさせておいたけど、

 今はまだ意識失っちゃってっからさ~・・・

 意識が戻るまではあんたが・・・護ってやんなよ?」


その笑顔にらぶりんは『はいっ!』と力強い声を挙げると、

卑弥呼は立ち上がりながら拳を『バキボキッ!』と鳴らしていた。


その般若のような表情を見たらぶりんは、

更に『バキッ!ゴキッ!』と卑弥呼が食い縛った口から聞こえたその音に、

全身の血が凍るのを感じていた。



立ち上がり視線を冥界眼の方に向けていた卑弥呼は、

『ちょっと失礼しまー♪』と言いながら、

まだ意識の戻らないミラーズの上をまたぎ、

首の骨を『ゴキゴキ』鳴らしながら身体を動かしていた。


そして未だ立ち上がらない冥界眼に対し声を荒げた。


「てめーっ!このクソガキーッ!

 とっとと立ち上がらねーかぁぁぁぁっ!

 ぶっ飛ばすぞっ!ゴラァァァァッ!」


その怒声にらぶりんは『先にもうブッ飛ばしていたような?』と思いつつも、

意識が戻らないミラーズの顔を心配そうに見ていたのだった。


そして何かが『ガラッ』と音を立てた時、

上半身を起こした冥界眼は片手で顎の辺りを覆いながら、

何やら唸り声を挙げていた。


それを見ていた卑弥呼はニヤりと笑みを浮かべながら口を開いた。


「・・・おやおや?

 私はかる~くその顎先に触れただけなんだけどね~?

 まだダメージが残ってんのかい?」


「っ!?」


「フン・・・只今、治療中につき面会謝絶ってんじゃないだろうね~?

 私は面会謝絶を黙って待ってやれるほど、

 人格形成は出来ていないのさ・・・。

 だからクソガキッ!

 いや・・・そこの目玉野郎っ!

 さっさと立ち上がって、私の相手をしてくれねーかな~?

 じゃ、ねーとよ~・・・」


そう盛大に顔を引き攣らせた卑弥呼はドスの利いた低い声を挙げた。


『・・・有無を言わさずぶっ殺すぞ?』


その途轍もない迫力に気圧されたのか、

冥界眼は顏を修復しながらズルズルと後退った・・・。


「・・・おいおい目玉野郎?

 まさか・・・逃げたりなんてしねーよな~?」


再び卑弥呼は拳を『バキッ!』と鳴らしながら、

ゆっくりと踏み出し、後退ろうとする冥界眼へと歩み始めた。


そんな姿を見せる卑弥呼に冥界眼は漸く修復が終わったのか、

何かを呻きながら立ち上がると、

『ギッシャァァァッ!』と奇声を発し後方の飛び退きながら、

圧縮された紫色の光球を無数に発射した。


『ドンッ!ドドドドドドンッ!』


その光球は寸分狂いなく、歩んで来る卑弥呼に直撃し、

それを見ていた冥界眼は『ギシャッシャシャシャッ!』と高らかに笑っていた。


夥しい土煙りを上げる中、

冥界眼が声も高らかに笑っていると、

その土煙りの中から聞こえて来た声に冥界眼は驚き沈黙した。


「で・・・?

 今、何かしたか・・・?あぁ~ん?」


「っ!?」


その声にビビったのは勿論冥界眼だけではない・・・。

後方に居たらぶりんもまた驚き悪寒を感じていたのだった。


そして『ズシャッ』と土煙の中から足が見えた時、

冥界眼は更に驚き、無意識に後ろに数歩下がっていた・・・。


無傷・・・。


それは単純に卑弥呼の身体が無傷だったと言う意味ではない。

卑弥呼が着ている花魁風のその着物にも、

1μの傷さえ付いていなかったのだ・・・。


「グ、グギィッ!?」


そう驚きの声を漏らす冥界眼に、

その姿を現した卑弥呼は憤怒の形相で声を張り上げた。


「こんなクッソくだらねー攻撃で高笑いなんてしてんじゃねーっ!

 この卑弥呼様を舐めんじゃねぇぇぇぇっ!」


「っ!?」


その怒声に冥界眼は恐れ慄き身体を振るわせていたが、

怯えながらもその紫色の瞳は、卑弥呼の足元から漏れ出るモノに目を凝らした。


『グキャッ!?』


『何だそれはっ!?』とでも言っているのだろうか?

そんな雰囲気を醸し出す冥界眼に、口角を上げた卑弥呼はこう言った・・・。


『・・・目玉野郎。

 この『赤い霧』は何だと言っているのか?』


「・・・グギャッ」


「いいぜ~・・・教えてやんよ・・・。

 いいか~目玉野郎・・・コレはな~?」


冥界眼を焦らすかのようにそう言った卑弥呼は、

再びニヤ気ながら低い声でドスを利かせこう言った・・・。


『・・・鬼の気だ』


『グギヤッ!?』


その迫力ある卑弥呼の声に冥界眼は恐れ、

その足元から漏れ出る『赤い霧』が『鬼の気』だと知ると、

大量にその額から汗が吹き出したのだった・・・。


卑弥呼はそんな冥界眼に『クックックッ』と笑みをこぼしながら、

1歩・・・また1歩とゆっくりとその足を踏み出して行った・・・。


卑弥呼の踏み出しに無意識に反応した冥界眼は、

同じように1歩、また1歩とその足を後退させ、

その行動に卑弥呼は『この私から逃げられるとでも?』と呟き、

一瞬にして冥界眼の前から姿を消し、

消えた卑弥呼の姿を必死に探すべく、辺りをキョロキョロと見渡した。


「・・・私は此処だよ?」


「っ!?」


その声に身体を『ビクッ』とさせたが、

全身の筋肉がもとに戻る前に『ベキッ!』と身体に凄まじい衝撃が走った。


『メキメキメキメキッ!』と全身の骨が一瞬にしてひび割れたが、

何故だか冥界眼のその身体は弾き飛ばされなかった・・・。


冥界眼は『何故だ?』と激痛に顏を歪めながらもそう思っていると、

その疑問を察したかのように卑弥呼がこう答えた・・・。


『無知な目玉野郎に教えてやんよ・・・。

 打撃ってのはな?

 何も弾き飛ばすだけが能じゃねーんだよ。

 てめーが今喰らった見てーにな?

 内側へと落とし込める打撃ってもんがあるんだっ!

 わかったかっ!おらぁぁぁぁっ!』


そう怒声を挙げながら卑弥呼は気合と共にその左拳を冥界眼の腹へと入れた。


『ドゴーンッ!』と・・・。

まるで大砲でもぶっ放ったかのような轟音が鳴り響くと、

冥界眼は身体をワナワナと震えさせながら『ドサッ』と膝を着き、

そのまま腹を抱え蹲ってしまった・・・。


そして卑弥呼は悶絶し蹲る冥界眼を見下ろしながらこう言った・・・。


『この一撃は・・・私のダチであるミラーズの分・・・

 そして・・・』


地鳴りのようなその声に冥界眼はただただ悶絶し蹲り・・・。


それを上から見下ろす卑弥呼の目は憤怒に染まっていたのだった・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る