第85話・変貌

駆け出したミラーズとらぶりんは、

駆け出すと同時に瞬間移動しユウナギが眠る地へと降り立った・・・。


そして2人は唖然とし、その光景に固まってしまった・・・。


「・・・う、嘘」


「どうして?」


そんな言葉が2人からこぼれると、

らぶりんは歓喜の声を挙げた・・・。


「ミ、ミラーズ様っ!

 あ、主様が・・・ユウナギ様がっ!」


ミラーズの肩の上に乗り歓喜の声を挙げるも、

天に向かって力を放つユウナギを見据え顔を強張らせていた。


「ミ、ミラーズ様っ!?

 一体どうされたのですかっ!?

 ユウナギ様が生きているんですよっ!?」


そう声を挙げ問いかけるらぶりんに、

ミラーズは緊張した口調で口を開いた。


「・・・よく見なさい。

 アレが・・・リョウヘイだと?」


ミラーズの声にらぶりんは『えっ?』と言いつつ視線を向けた。


(・・・一体ミラーズ様何を言って?)


そう思いつつ目を凝らすらぶりんはユウナギの顔を見た瞬間、

『あ、あれはっ!?』と声を挙げながらその小さな身体を震わせた・・・。


「・・・理解出来たかしら?」


「は、はい」


「・・・そう。

 アレはリョウヘイであってリョウヘイじゃないわ。

 あの顔に浮き出た『紋様』と見開かれたあの右目の『紫色の瞳』

 あれは間違いなく・・・『冥界眼』」


そう話されたらぶりんは余りの緊張からか喉を『ゴクリ』と鳴らし、

再びミラーズを見ると『チッ』と舌打ちしたのだった。


「まさかこんな所で『冥界眼』が開眼するとはね?

 それにあの桁違いの力・・・。

 リョウヘイが神力で必死に抑え込んでいた事が逆に仇と成ったみたいね」


「・・・そ、そんな」


「・・・天にも昇るほどの力を放出しているのにも関わらず、

 この膨大な力・・・。

 今の私で・・・何とかなればいいのだけれど・・・」


ミラーズの自信なさげなその言葉に、

らぶりんは一抹の不安を感じ驚いていた。


(・・・ミラーズ様ほどの御方がそんな事を言うなんて。

 そ、それほどまでに今のユウナギ様の力は・・・)


そう考えたらぶりんだったがふと・・・

こんな事を口にした。


「ミラーズ様っ!?

 もしかしたらユウナギ様は冥界の力をこの地で放出する事によって、

 その力を抑え込もうとしているのではっ!?」


可能性を信じそう発言したらぶりんだったが、

ミラーズは静かに『それはないわ』と即座に答えたのだった。


『どうして?』とらぶりんがそう尋ねようとするも、

ミラーズはそれよりも早く話を続けたのだった。


「・・・わからない?

 いくら力を放出中だと言っても、貴女と私が此処に居る。

 それなのに視線すら向けないのはどうして?

 それにリョウヘイの左目は閉じられたまま・・・

 これはつまり・・・。

 彼は死んだままって事よ」


「・・・そんな」


ミラーズの説明にらぶりんは力なく項垂れ、

『じゃ~どうしてこんな事がっ!?』と声を張り上げた。


「・・・考えられる事と言えば、

 今まで解放される事無く封印されていた『冥界眼』は、

 リョウヘイの死によって解放され封印が解かれた。

 その余りにも膨大な力が死んだ肉体を強制的に活発化させ、

 自我のないまま復活を遂げた・・・と、言う事なのかもしれないわね?」


「・・・強制的に肉体を?」


「えぇ、でも・・・」


そうミラーズはらぶりんに対し再び考察を口にし始めた時、

『ギロッ!』とユウナギの右目に在る『冥界眼』が2人を捕らえたのだった。


『っ!?』


視線を向けられただけでその気配を感じた2人は、

咄嗟に後方へと飛び本能に従って構えを取った・・・。


「ミラーズ様っ!?」


「え、えぇ・・・私の考察は外れたみたいね?」


後方へと飛んだ2人に『冥界眼』は鈍く光ると、

放出されている力を止め、身体ごと正面に向き直った・・・。


「まさかとは思うけど・・・自我も?」


呟くように言った声に、

らぶりんもまた『ヤバくないですか?』と緊張しながらそう言った。


その声に『・・・ヤバいわね』とそう返したミラーズは、

咄嗟に『らぶりん、私から離れなさい』と視線を逸らさずそう言った。


静かに身体から溢れ出すミラーズにらぶりんは『わかりました』とそう呟くと、

糸を吐き傍で生えている樹木の枝へと移動した。


横目でチラリとらぶりんを見たミラーズは、

『貴方は防御に徹しなさい』と告げると一瞬にして姿を消し、

らぶりんが居る場所とは真逆の位置へと着地した。


そして『ふぅ~』と軽く息を吐き呼吸を整えると、

静かに構えながら身体から冥界の神力を放出させた・・・。


「・・・来なさいっ!」


背中を向けたままのユウナギにそう言った瞬間・・・。


『グガァァァァッ!』と奇声を発しながら後ろ向きで突進して来た。


『なっ!?』と驚きの声を挙げつつも、

ミラーズは冥界の神力を身体に纏わせながら駆け出した。


そして『ドンッ!』と衝撃音を響かせながら、

2人が衝突すると、その力のぶつかり合いで突風が巻き起こり、

周辺の草花が消し飛んだ・・・。


『グググッ!』と両者は力の限り激突し力比べをしている最中、

ミラーズは『はぁぁぁっ!』と声を挙げながら、その力の方向を変え、

相手が前のめりになった瞬間、その腕を掴み取り投げ飛ばしたのだった・・・。


そして投げ飛ばされたユウナギの身体は受身を取る事もなく、

『ドシャッ!』と音を立てて地面に激突すると、

すぐさま飛び起きミラーズへと突進して行った・・・。


「・・・チッ!これは厄介ねっ!?」


そう舌打ちした直後にはミラーズも駆け出し、

迫るユウナギの身体に向け体術による連続攻撃を仕掛けた。


突進を阻止するべく前蹴りを放った瞬間、

身体を捻りながらユウナギの身体の背中に回り込み、

膝裏に蹴りを入れ膝を着かせると、後頭部目掛け蹴りを放った・・・。


『グシャッ!』と嫌な音を立てながら、

ユウナギの頭部からは夥しい血液が飛び散った。


『・・・ごめんなさい』とその光景を見ながら呟いたミラーズだったが、

それは一瞬で逆転し『どうしてっ!?』と驚きの声へと変わった。


血液を撒き散らした頭部は次の瞬間、

あっと言う間に再生し『バキンッ!』と音を響かせながら、

ユウナギの頭部は180度後ろを向いた。


『ギャハハハハッ!』と奇声を発しながら顏だけが向いたまま、

突進して来るユウナギの身体に、ミラーズは顏を強張らせつつも対処した。


『ガシッ!』と両手を掴みながらミラーズは寝転がると、

その力の反動を利用し『巴投げ』を放った。


『ブオンッ!』と風切り音を響かせながら投げ飛ばしたミラーズは、

すぐさま起き上がると態勢を整え構えを取った。


ユウナギの身体が地面に激突する瞬間、

『バキッ!』と不自然な音を立てたユウナギの身体に目を細め警戒していると、

激突するはずだったユウナギの身体は右手を地面に着き、

そのままジャンプしながら一回転して着地したのだった。


『ウギャウギャウギャッ!』と奇声を発しながらこちらを見るユウナギの身体に、

ミラーズは『・・・本当に厄介ね?』と言葉を漏らした。



それから暫くの間、

両者の攻防が続くも、ミラーズの攻撃を受け続けるユウナギの身体は、

徐々にその攻撃が事前に対処され始めたのだった・・・。


『ガシッ!』


『はぁぁぁっ!』と気合いと共に投げ飛ばそうとした瞬間、

ユウナギの身体は刹那に反応し、膝を着き出しミラーズの背中へと直撃させた。


『ぐあぁぁっ!?』


『ドサッ!』


『グギャギャギャギャ!』


背後から聞こえる笑い声に、ミラーズは『・・・有り得ない』とこぼした。


そしてゆっくりと立ち上がり振り替えると、

ニヤニヤと笑みを浮かべ右目を紫色に光らせるその顔があった。


(・・・学習をしているとでも言うのっ!?

 め、冥界眼にそんな能力なんてないはず・・・なのに何故っ!?)


『クッ!』とこぼれた声に、冥界眼の顏は『ニヤッ』と再び笑みを見せたのだった。


ミラーズは『負けられないっ!』と声をこぼしながら、

歯を食い縛り立ち上がった・・・。


『グギャギャギャギャッ!』と相変わらず高笑いを続ける冥界眼を睨みながら、

ミラーズは己の分析をしていた・・・。


(今の私の力は最大で30%ほどしかない・・・。

 封印されている間、あの魔石の中で眠りに着く事を拒んだ私は、

 神力で私自身の意識を隔離し、

 リョウヘイの見るモノ聞くモノ全てを見て来た。

 常に神力を使っていた事によって、

 私の力は今・・・30%となってしまった・・・。

 クッ!私の行いが仇と成って全力が出せないなんて・・・。

 でも、この戦いだけは・・・止められない。

 リョウヘイの眠りを妨げるヤツから逃げる訳にはいかないのよっ!)


ミラーズは自己嫌悪に陥りながらも、

この戦いから逃れる方法など考えてはいなかった。

それは安らかに眠るはずのユウナギを救いたかったからだった・・・。


ミラーズは『フゥ~』っと深く息を吐くと、

鋭い眼光を向け構えを取った。


そんなミラーズの行動を見ていたらぶりんは疑問を持っていた。


(ど、どうしてミラーズ様は武器を手に取らないのですかっ!?

 素手で戦うなんてどういった・・・?)


そう疑問に思ったらぶりんだったが、

それはすぐに理解出来た・・・。


(あっ!そっかっ!

 あの身体はユウナギ様の身体だから・・・

 だ、だから傷付かないようにっ!?)


疑問が解消されたらぶりんは『私に一体何が出来るのか?』と考え始め、

共に戦うと誓ったからには役に立ちたいと思っていたのだった。



何がそんなに面白いのか・・・。

右の眼に宿り暴走する冥界眼は暫くすると笑うのを止めた。


そして『ギロッ!』とその紫色の瞳をミラーズへと向けると、

手を上空へと向けながら濃度の高い冥界の神力を放出し始めた。


(・・・何を?)


『グギャッ!』と嫌な笑みを浮かべる冥界眼にミラーズは警戒を強め、

己もまた残り少ない冥界の神力を最小限で身体に纏った。


警戒を強めるミラーズに構う事無く、

顏に異様な紋様を浮かべた冥界眼は放出した濃度の高い神力を凝縮し始め、

それはやがて1本のロングソードへと変貌を遂げた。


「・・・まさか剣を作り出せるなんてね。

 本当に・・・厄介だわ」


額に汗を滲ませながら声を漏らしたミラーズは、

覚悟を決めると一気に駆け出し接近戦を仕掛けた。


『はぁぁぁぁっ!』と気合いの雄叫びを挙げながら、

拳を放ち蹴りを放ち連続攻撃を仕掛けた。


冥界眼はその全ての攻撃を作り出したロングソードで捌いていったが、

後方へとジャンプすると、その手に持つロングソードを見つめ首を傾げた。


『ブゥンッ!ブゥンッ!』と数回何かを確かめるように振ると、

何かを思い付いたのかそのロングソードに手をかざした。


『グギャアッ!』と気合いの声を挙げ、

ロングソードに向かって冥界の神力を放出すると、

そのロングソードの刃が一際濃い紫色へと変化した。


そして傍にあった岩に向かって振り下ろすと、

その岩はなんの抵抗もなく両断され、

それを見た冥界眼はニヤりと笑みを浮かべた・・・。


ミラーズはその光景を見ながら考えていた・・・。


(何故冥界眼が自我を・・・?)


そう疑問を持った時、ミラーズはある出来事を思い出した。


(まっ、まさかっ!?)


何かに気付き推測したミラーズは、

その美しい顔を歪ませ拳を硬く握った・・・。


(アレは確かヴァマから冥界眼を植え付けられた後、

 リョウヘイは一度、人族の地で『暴走』した事があった・・・

 あの時はリョウヘイ自身も意識があり、苦労の末にその力を閉じた・・・

 まさかあの時の記憶が影響して、自ら剣を作り出したんじゃ・・・?)


以前、ユウナギに起こった出来事を思い出したミラーズがそう結論付けると、

迷う事無くマジックボックスからロングソードを取り出し構えた。


ミラーズの行動に気付いた冥界眼は、

今度は迷う事無くロングソードを振りかぶりながら突っ込んで来た。


『グッギャァッ!』


『はぁぁぁぁっ!』


『ギンッ!』と甲高い音を上げながら、剣同士がぶつかると、

冥界眼は驚いた表情を浮かべ『グギャッ!』と悔し気な声を挙げた。


『ギチギチギチッ!』と激しく鍔迫り合いが続く中、

ミラーズは笑みを浮かべ口を開いた。


「・・・フフッ♪流石の貴方も・・・驚いたんじゃない?

 私のこの剣が・・・両断出来たとでも思ったのかしら?

 ざ~んねん♪

 このロングソードはリョウヘイが『冥鉱石』を使用して鍛え上げた剣なのよ?

 見よう見まねで作り出した・・・

 そんな・・・なまくらの剣で斬れる訳ないでしょっ!」


『ギンっ!』


そう声を挙げながら冥界眼の創り出した剣を弾き上げると、

刃の向きを変え、剣の腹で冥界眼の横っ腹に強烈な一撃を見舞った。


『バキンッ!』


『ウギャァァァッ!?』


ミラーズの放った一撃は冥界眼の肋骨を粉砕し、

弾き飛ばされたその身体は瓦礫の山と化したその地に1本の道を作り出した。


『ズガガガガッ!』と音を立てて弾き飛ばされた冥界眼は、

苦しそうに『グギッ』と呻き声を挙げていた。・


『はぁ、はぁ、はぁ』と一撃を放ったミラーズは肩を荒い息をしていたが、

その顔にはニヤりと笑みを浮かべながら呼吸を整えていた。


「ミ、ミラーズ様っ!凄いですっ!」


後方に居るらぶりんからそんな声が届くも、

再び厳しい表情へと変えたミラーズはロングソードを正眼に構え、

更に続くであろう戦闘に集中したのだった・・・。


(こんな事で終わるはずがないわ・・・。

 でも、あの様子だと・・・初めて味わうのかもしれないわね?

 痛みや苦痛というモノを・・・)


呻き声を挙げた冥界眼は脇腹を苦しそうに押さえながら立ち上がると、

再びその右手に冥界の神力を集め始めた・・・。


その時だった・・・。


冥界の神力を放出し凝縮し始めた瞬間、

突然脇腹の激痛に声を挙げ、再び地面に膝を着いたのだった。


『キッ!』とその様子にミラーズは目を細めると、

『はぁぁぁっ!』と声を挙げながら駆け出した。


「その程度で終わるはずないでしょっ!

 はぁぁぁぁぁっ!」


そう声を張り上げながら蹲る冥界眼に、

ミラーズは再び剣の腹を向けながら肩へ向かって振り下ろした。


『恐らくこの肩への一撃で、その激痛に耐えられない』とそう思ったミラーズは、

自分の考えが正しいと信じ振り下ろした・・・。


だが・・・。


ミラーズの予想は外れた・・・。


いや、それよりも冥界眼の思わぬ行動によって、

ミラーズは手痛い目に合うのだった・・・。


肩へと振り下ろされたその一撃が、

冥界眼のその肩に炸裂する瞬間・・・。


その攻撃は肩に直撃する僅か1cm手前で『ピタリ』と止まった・・・。


「・・・えっ!?

 う、嘘・・・まさか・・・?」


激しく動揺する声を挙げたミラーズは小刻みに震え、

その目にはジワリと涙が滲んでいた・・・。


「・・・な、何するんだよ。

 僕が一体何したって言うんだよ・・・ミラーズ」


「・・・リョ、リョウ・・・ヘイ?」


「あぁ、僕だ・・・僕はリョウヘイだよ・・・

 どうしてこんな酷い事をするんだよ?

 や、やめて・・・くれよ・・・ミラーズ」


『ごめんなさいっ!』と慌てた声を挙げながら、

ミラーズはロングソードを投げ捨て、目の前に居るその男を見つめていた。


そして確かめた・・・。


目の前にいる男の右目を・・・。


「・・・む、紫色じゃ・・・ない」


「・・・何訳の分からない事を言っているんだよ?

 僕が誰がわからないの?

 リョウヘイだよ・・・君が愛するリョウヘイだよ」


そう苦悶の表情を浮かべながらそう言った男に、

ミラーズの眼からは涙がこぼれ落ちた・・・。


「そ、その・・・声・・・。

 その・・・顏・・・そして・・・その黒い・・・瞳・・・

 ・・・ほんとに、リョウヘイ・・・なの・・・ね?」


そう言いながらヘナヘナと力なく崩れ落ちたミラーズに、

ユウナギは優し気な笑みを浮かべていた。


『うぅぅぅっ』と泣き崩れるミラーズに、

ユウナギは『フッ』と笑みを浮かべた瞬間だった・・・。


突然後方から様子を伺うらぶりんから大きな叫び声が響き渡った。


『その男はユウナギ様ではありませんっ!

 違いますっ!

 ミラーズ様っ!早く逃げてぇぇぇぇぇぇっ!』


『えっ!?』と顔を上げたユウナギの顔には、

『紫色の冥界眼』が怪しく光っていたのだった・・・。

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