第84話・最後の一撃と別れ

「うぉぉぉぉぉぉっ!」


「はぁぁぁぁぁっ!」


互いが気合を込め一直線に駆け出すと2人は激突した。


『ヒュンッ!ヒュンヒュンッ!』と互いの拳が繰り出され、

紙一重でそれを躱し攻撃に転じた・・・。


「魔力だけでこの私に勝てると思ってんのっ!?」


「うるっせぇぇぇっ!

 てめーなんざ魔力だけで充分だっつーのっ!

 うぉらぁぁぁぁっ!」


ユウナギが魔力を纏ったその拳をミラーズに放ち、

ミラーズは口角を微かに上げながら紙一重で躱した。


「そんな遅い拳が私に当たるとでもっ?」


余裕の笑みを浮かべるミラーズにユウナギは再び拳を繰り出すと、

一言・・・『甘めーんだよ、お前は』


『っ!?』と、ミラーズがユウナギの言葉に眉間に皺を寄せた瞬間、

魔力を纏ったユウナギの拳がその軌道を変え、

ミラーズの左頬に直撃した。


『バキッ!』


『ぐぁっ!』


直撃した瞬間・・・。

ミラーズから苦痛の声が挙がると同時に、

その場で錐揉み状に宙を舞った・・・。


「ざまぁぁぁぁぁっ!」


したり顔でユウナギが声を挙げるも、

ミラーズは顔色1つ変えず音もなく着地し、

驚くユウナギに地面を這うような蹴りを放った。


『ドカッ!』


「チッ!」


両足を薙ぎ払うように蹴りを見舞われたユウナギは、

咄嗟に身体を捻りながら左手を地面に着けると、

その反発力を利用し後方へと逃れた・・・。


「・・・ふぅ~、流石はミラーズ。

 長い間封印されていたにしちゃ~・・・強え~じゃん」


口角を上げそう言ったユウナギに、

ミラーズは『フンッ』と鼻で笑って見せ口を開いた。


「・・・そう言えばリョウヘイ、

 昔から小細工が上手かったっけ?

 ・・・忘れてたわ」


「・・・けっ!何が小細工だバーロイッ!

 拳の軌道を変えるなんて芸当・・・

 中々出来るもんじゃねーんだぜ?」


「へぇ~・・・すごいすごい」


「・・・て、てめー、俺を下に見てんじゃねーぞ・・・コラ」


眉をピクリと反応させたユウナギがそう言うと、

ミラーズは腕を組みながら鋭い眼光を見せた。


「少し・・・本気を出してもいいかしら?」


「・・・何だと?」


「・・・いい?リョウヘイ。

 今の貴方を私は下に見ている訳じゃないわ」


「・・・どう言う意味だ?」


「今の攻撃で・・・悟っちゃったのよ」


「・・・悟る・・・だぁ~?」


「えぇ・・・下に見るどころか、

 私の眼中にも入らない程・・・貴方は弱いって事よ」


「・・・よ、弱い?

 こ、この俺様が・・・弱い・・・だぁ~?」


『ギチッ!』と奥歯を噛み締めたユウナギの身体からは、

怒りに満ちた魔力が色濃く噴き出していたのだった・・・。


そんなユウナギを見てミラーズは『フッ』と落胆にも似た溜息を吐くと、

再び鋭い眼光を利かせながらこう言った。


「・・・今の貴方はC級の魔族以下。

 本当なら私の力の1%以下でもお釣りが来るくらいだけど、

 貴方の為を思って・・・そうね・・・。

 5%の力を使ってあげるわ」


「・・・ご、5%?

 俺とやり合うのに・・・たった5%で事足りるってーのかよっ!?」


「えぇ、そうよ・・・。

 貴方は自分の状況が全然理解出来ていないようね?

 それだけ今の貴方は弱体化しているって事なのよっ!」


「・・・い、言わせておけば・・・て、てめー・・・」


怒りで拳を強く握り締めたユウナギに、

ミラーズは封印されてから今まで見て来た事を思い巡らせ、

1つの結論を口にしたのだった・・・。


「勇者を辞めてから今まで、私はずっとあなたを見て来たわ。

 そして傷付きながらも『上位魔族』とも渡り合い、

 見事勝利を勝ち取って来た・・・」


「・・・あぁ、俺は『上位魔族』に勝って来た。

 逆に言うとそれが証拠だろうがよ?

 今の俺でも十分やり合える力がある・・・。

 って事は・・・だ。

 ミラーズ・・・てめーの言っている事は間違ってるって事だろうがよ?」


顔を盛大に引き攣らせながらそう言ったユウナギに、

ミラーズは呆れた仕草を見せながら『ハァ~』と深く溜息を吐いて見せた。


「・・・て、てめー」


「貴方が勝利を勝ち取る事が出来た理由は只一つ・・・」


「・・・・・」


「それは、リョウヘイ・・・。

 貴方が創り出した『擬体』がとても優秀だったからよ」


「・・・はぁ?」


眉間に皺を寄せたユウナギには、

ミラーズに言わんとしている事に『ピン』と来なかった。


「・・・俺の創った擬体が優秀?

 何言ってんだ・・・てめーはよ~?

 そんなの当たり前だろうがよ・・・。

 俺様は天才なんだぜ?

 そんな俺様が創る擬体が優秀なのはわかりきってんだうがよっ!」


この時のユウナギは、何故自分が苛立っているのか・・・。

その理由がわからずただ・・・

苛立ちだけが表面に現れ、冷静に考えるのを拒否していたのだった。


そしてそんなユウナギにミラーズは業を煮やすと、

身体から『冥界の神力』を放出しながらこう言った・・・。


「・・・リョウヘイ。

 貴方が今まで勝って来られたのは、

 貴方の擬体が単に・・・優秀だっただけよ。

 希少な魔石を核とした為、貴方が製作した擬体のスペックは、

 神々が創り出した擬体より高性能なのよ。

 まぁ~通常、人族が神を超えるなんて事在り得ないのだけれどね。

 そんな訳で貴方は今まで勝ちを収める事が出来た・・・。

 ・・・わかる?

 今の貴方の現状が・・・。

 擬体のない貴方なんて・・・C級の魔族以下・・・。

 戦闘系の魔族には、生身の貴方じゃ敵わないって事よ・・・」


「なっ・・・何だ・・・と・・・?

 ミ、ミラーズ・・・てめー・・・いい度胸・・・してんじゃねーか?

 さっきから言いたい放題言いやがって・・・。

 そうか・・・そうかよ・・・。

 わかった・・・全力だ・・・今から俺は全力で行く・・・。

 俺が勝ったら・・・きっちり詫びを入れろよな?」


『全力』と言い切ったユウナギの言葉に、

ミラーズはやや面倒臭そうに肩を竦めて見せると、

『・・・いいわよ、別に』と軽くあしらったように言った。


「ぜってー・・・詫び入れさせてやんよ・・・」


「・・・どうぞ、お好きに♪」


ミラーズのその態度にユウナギの中で何かが『ブチッ!』と切れ、

再びその身体に何重ものバフを掛けていった・・・。


幾つものバフを掛け終えた瞬間・・・。


「・・・準備、出来たのかしら?

 こちらはいつでもいいわよ♪」


挑発するように笑みを見せたミラーズに、

ユウナギは何も口にする事もなく、

気合いの声を挙げながら突進して行くのだった・・・。


「うぉぉぉぉぉっ!」


怒りに満ちた形相で突進してくるユウナギに、

ミラーズは薄っすらと口角を上げ静かに構えた。


「ぶっとべぇぇぇっ!」


「・・・フッ」


ユウナギの拳がミラーズの顔面に直撃する瞬間、

『シュッ』とその場から姿を消したミラーズに、

『見えてんぜっ!』とその視線はミラーズの移動先へと向けられた・・・。


『うぉらっ!』と態勢を変えながら放った蹴りに難なく反応したミラーズは、

姿を消す寸前にこう囁いた・・・。


「・・・行くわよ、リョウヘイ」


「クソがっ!」


ユウナギがそう悪態をついた瞬間だった・・・。


突然背後から『ドスッ!』と強烈な一撃が放たれると、

ユウナギは『ぐぁっ!』と呻き声を挙げながら弾き飛ばされた・・・。


「ま、まだだっ!こ、このくらいで・・・」


そう言いながら態勢を整え着地しようとした時、

背後から冷たいミラーズの声が聞こえた・・・。


「・・・まだまだ行くわよ?

 はぁぁっ!」


『バキッ!』


「ぐぁぁっ!」


『ヒュンッ!』と風切り音を発して飛ばされとユウナギに待つのは、

冷笑を浮かべたミラーズの連続攻撃だった・・・。


『ドカッ!ヒュンッ!バキッ!ヒュンッ!メキッ!』


衝撃音が響く度、空中を弾け飛ぶユウナギの呻き声が聞こえ、

それを離れた場所で見ていたらぶりんが悲壮な表情を浮かべて居た・・・。


「あわわわ・・・ユ、ユウナギ様が・・・

 ミ、ミラーズ様っ!このままだと主様が死んでしまいますっ!

 も、もうそのくらいでっ!」


らぶりんがそう声を挙げるも、

ミラーズは冷笑を浮かべたまま攻撃を止める気配は微塵もなかった。


「・・・ほ、本当にこのままでは・・・」


らぶりんが事の顛末を想像し顔色をより濃く滲ませ、

この不毛な戦いに割って入ろうと魔力を身体に纏わせた時、

『はぁぁぁぁっ!』とミラーズのより気合が込められた一撃が見舞われた。


「見せてあげるわ・・・これが3%の力よっ!

 喰らいなさいっ!リョウヘェェェイッ!」


『バキッッ!』


「ぐはっ!

 こ、これが・・・さ、3%の・・・」


「あっ・・・あぁぁぁぁっ!ユウナギ様ぁぁぁぁぁっ!?」


らぶりんが見たものは・・・。


空中から蹴り落とされたユウナギが地面に直撃する瞬間、

ミラーズは一瞬のうちに着地し、落ちて来るユウナギに強烈な一撃を放った。


『バキンッ!』


気合いの籠った蹴りが落ちて来るユウナギの腹部を捕らえ、

再び上空へと舞い上がったところだった・・・。


「・・・そ、そんな」


「ラストよっ!リョウヘイッ!

 はぁぁっ!」


その声と共に姿を消したミラーズは、

上空を舞うユウナギの到着点に先回りし、『はぁぁぁぁっ!』と、

その身体に『冥界の神力』を纏わせた・・・。


「きっちり5%、これで終わりよ・・・。

 私のこの手で・・・終わらせてあげる・・・。

 さようなら・・・私の愛した人」


スキルを使用しミラーズの表情を拡大して見たらぶりんは、

哀し気な表情を浮かべるミラーズの心中を察し、

強烈な胸の痛みを感じながら行く末を見守っていた。


「ミ、ミラーズ・・・様」


『はぁぁぁっ!』とより一層気合が込められたミラーズの一撃が、

ユウナギにヒットすると凄まじい勢いで『ドカーンッ!』と激突し、

ユウナギが訓練地とした土地がその形を変えたのだった・・・。


「ユウナギ様ぁぁぁぁっ!」


らぶりんの悲鳴にも似た叫び声が響く中、

ゆっくりと上空より着地したミラーズが哀し気に口を開いた・・・。


「・・・らぶりん」


「・・・な、何です・・・か?」


「たった今・・・殺した男・・・は・・・

 虚勢を張るだけの・・・た、ただの・・・男・・・。

 私の・・・私の愛した・・・男じゃ・・・ない・・・」


「・・・ミラーズ様」


抗議しようと急ぎミラーズの眼前に躍り出たらぶりんだったが、

勢いを失いただ、ミラーズの名を呟く事しか出来なかった・・・。


それはミラーズの眼から一粒の美しい涙が頬を伝い、

荒れ果てた大地にその雫が落ちていたからだった・・・。


ミラーズは涙を拭く事もせず、

ユウナギが埋まっているであろう変わり果てた大地に視線を向けたまま、

静かにこう言った・・・。


「・・・彼の・・・リョウヘイの意思は私が継ぐわ。

 彼を貶めた連中・・・それとリョウヘイに恩恵すら与えず、

 この地に捨てた女神・・・。

 こいつらだけは・・・私の手で必ず・・・殺すっ!

 例え私の命に代えても・・・ね」


『ポタッ、ポタッ、ポタッ』という・・・。

微かな音に反応したらぶりが視線を向けると、

握り締められたミラーズの拳から血液が滴り落ちていた・・・。


「ミ、ミラーズ様・・・」


「・・・・・」


「・・・わ、私もっ!このらぶりんもお連れ下さいっ!

 主様を貶めた外道共を私は許す事が出来ませんっ!

 どうか私にもっ!そのお手伝いをっ!」


らぶりんの心からの叫びにミラーズは視線を向け、

その意思を感じ取り『えぇ・・・』と何かを言い始めた時だった・・・。


『ガラッ・・・カツン・・・ガラガラ・・・』


『かっ・・・勝手に・・・主人公様を・・・

 こ・・・殺してんじゃ・・・ねーよ・・・』


『っ!?』


聞き慣れたその声にミラーズとらぶりんは驚愕し唖然とした・・・。


『・・・ど、どうして生きてるの?』


そんな言葉がミラーズからの口からこぼれ、

らぶりんもまた呟くように『・・・う・・・そ・・・?』と口からこぼれた。


苦悶の表情を浮かべながら瓦礫の中から這い出して来たユウナギを見て、

ミラーズとらぶりんは固まってしまっていた。


そしてフラフラとフラ付きながら立ち上がったユウナギは、

『へっへっへっ・・・』とボロボロになった笑みを見せ口を開いた。


「・・・ご、5%で殺せないって事は・・・ゴフッ!」


ユウナギが笑みを浮かべながらそう言い始めた途端、

大量に吐血をし、ミラーズ達を見る視界が急激に歪み始めた・・・。


一瞬意識が飛び倒れそうになるのを堪えたユウナギは、

瓦礫にもたれかかりながらこう言った。


「・・・て、てめーの目測が・・・狂ってるって証明・・・できたな~?

 えっ?ミラーズさんよ・・・クックックッ」


唖然としていたミラーズだったがユウナギの蚊の鳴くような声に口角を上げた。


「・・・また忘れていたわ」


「・・・何が・・・だよ?」


「貴方がとてもしぶとい・・・と、言う事をね」


「・・・へへへっ。

 ゆ、勇者様がそう簡単に・・・く、くたばるかよ・・・」


「・・・そうね」


そう言い終えた両者の間に再び沈黙が訪れた・・・。


するとユウナギはフラフラとしながら一言こう言った。


『・・・次で・・・さ、最後だ』


その言葉に目を細めたミラーズはユウナギの意思を感じ取ると、

無言で構え身体に冥界の神力を纏わせた・・・。


「・・・来なさい、リョウヘイ」


「・・・あいよ」


感覚が麻痺でもしているのか・・・。

おぼつかない手でマジックボックスに手を突っ込み、

その中から何かを取り出しソレをミラーズに向けた。


「こ、これは昔・・・お、俺が作った魔石で、そ、その改良・・・型だ・・・。

 そして・・・こ、こいつの名は・・・リミット・ブレイカー。

 い、今の俺の・・・切り札・・・だ」


「・・・それで?」


「あぁ・・・。ごほっごほっ・・・

 も、元々な・・・い、今の俺が・・・

 てめーに・・・敵わない事くらいわかってい・・・る。

 だ、だけどな~・・・ミラーズ・・・さん・・・よ~?

 こ、この・・・ままやられっぱなし・・・ってのは、

 俺のプライドが許さねー・・・んだ。

 だからよ~・・・。

 さ、最後に・・・最後によ・・・10秒間だけ・・・付き合えよ」


「・・・10秒間」


『ゴフッ!』


「ユ、ユウナギ様っ!?」


再び大量に吐血したユウナギに慌てたらぶりんは、

傍に駆け寄ろうとした時、

ユウナギは『来るなっ!』と声を発した・・・。


そしてもうほとんど見えていないその視線を、

らぶりんが居るであろう場所へと向けながら静かに口を開いた。


「す、すまねぇ・・・な、らぶりん・・・。

 頼りない・・・ある・・・主でよ~・・・。

 まだお前との付き合いは浅いが・・・

 へっへっへっ・・・ゴフッ!

 た、たの・・・楽しかった・・・ぜ」


「ユウナギ様っ!?」


「ら、らぶりん・・・お前はそこで・・・こ、このまま見守っていてくれ・・・。

 そして・・・ル、ルクナに・・・居る・・・ごほっ!ごほっ!

 バ、バカヤロウ・・・ど、共に・・・伝えてくれ・・・。

 今まで・・・い、今まで・・・ほ、ほんと・・・うに・・・楽しかったってな?」


「・・・そ、そんな・・・事・・・」


ユウナギは『クスッ』と優しい笑みを見せると、

そこに居るであろうミラーズに視線を向けた・・・。


「ま、待たせたな・・・ミラーズ・・・ごほっ!ごほっごほっ!」


「・・・別にいいわよ」


「じ、じゃ~・・・最後に・・・

 じゅ・・・10秒間だけ・・・付き合えよ」


「・・・えぇ、いつでもいいわよ。

 その最後の一撃・・・受けてあげるわ」


「へっへっへっ・・・た、たまんねーなぁ~♪

 そ、それじゃ・・・い、行くぜ」


ユウナギは手に持つ『リミット・ブレイカー』を

ベルトのバックルに差し、フラフラとしながらも更に『ガチン』と押し込んだ。


そして意識が途絶えそうになるのを必死に堪えながら、

『バ・・・バーストモード』とフラフラしながら口にすると、

そのベルトのバックルから無機質な女性の音声が流れ始めた・・・。


『マジック・バーストモードまでのカウントダウン・・・

 3・2・1・・・魔力完全解放・・・レディ?』


「あぁ、お、俺の・・・さ、最後の攻撃・・・行くぜぇぇぇっ!」


最後の力を振り絞るように、ユウナギの絶叫にも似た声が木霊する。


『カウント・スタート』


『バシュッ!』


『リミット・ブレイカー』の能力で、

ユウナギの中に蓄積されている魔力が噴き出し、

『魔力暴走状態』となった。


その噴き出した魔力とはうらはらに、

今のユウナギはとても静かにそこに居るであろうミラーズを見つめていた。


そして無機質な女性の声が『10』とカウントダウンを開始させると、

ユウナギは力の限り駆け出した・・・。


(・・・どうやら俺はここまでらしい。

 別に話を盗み聞きしていた訳じゃねーが、

 ミラーズ・・・そしてらぶりん・・・。

 後の事は・・・てめーらに任せだぜっ!

 だからっ!だからこの一撃だけはっ!)


『9』


『8』


「うぉぉぉぉぉぉっ!」


今、ありったけの思いを乗せて、

ユウナギは声を張り上げながら駆け出し上空に飛んだ。


『7』


『6』


ユウナギはスキルを使用し朧げに見えるミラーズを捕らえると、

膨大な魔力を纏いながら蹴りの態勢となり、

一気にミラーズに向かって降下していった・・・。


『いっけぇぇぇぇぇっ!』


『5』


『4』


気合いの籠った一撃が冥界の神力を纏い両腕をクロスするミラーズに直撃した。


『ズガッ!ズガガガガガッ!

 バチバチバチッ!』


凄まじい轟音がこの亜空間の地に響き渡らせながら、

ユウナギは今、渾身の力を込めて更に声を挙げた。


『うぉぉぉぉぉぉっ!まだだっ!まだ終わってねーっ!』


『ぐぅぅぅぅッ!な、何て・・・威力っ!?』


『3』


凄まじい力に流石のミラーズも一瞬その顔を歪ませたが、

『2』とカウンドダウンが進んだ時、

その表情は悲しみへと変わり、目から涙が溢れ出し飛び散らせた。


『うおっらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』


『1』


『リョウヘェェェェィッ!』


『0』


ユウナギのバックルの輝きが音を立て消失すると、

無機質な女性の声が『カウント・ゼロ』を告げ、

続けて『タイムアウト』とインフォメーションが終わった。


それと同時にユウナギの身体から膨大な魔力が『シュバッ』と消失すると、

『へっ・・・へへっ・・・と、届かな・・・かった・・・な』と、

笑みを浮かべそのまま地面に落ちた。


ミラーズは両腕をクロスしたままの態勢で、

地面に横たわるユウナギにただ茫然と視線を向けた。


数分間・・・。

ミラーズはそのまま微動だに出来ず、

止めどなく溢れる涙を流していた・・・。


そしてクロスした腕をコマ送りのようにゆっくりと解いた時、

ミラーズは笑みを浮かべ横たわるユウナギに絶叫にも似た声を張り上げた。


『リョゥゥゥゥヘェェェェェェイッ!』


そう泣き叫びながら死を迎えたユウナギの傍に崩れ落ち、

また、らぶりんもすぐさま駆け寄りその身体の上に乗ると、

大声で号泣し始めたのだった・・・。


「ユウナギ様ぁぁぁぁぁっ!」


それから暫くして・・・。


泣き終えたミラーズは、

もう二度と動く事のないユウナギの顔にそっと触れた。


「・・・訂正するわ・・・リョウヘイ。

 最後の貴方の攻撃・・・10%の力を使っちゃった・・・。

 もし、あのまま私の力が5%のままだったら・・・、

 貴方の最後の一撃は私に届いていたわ。

 つまり・・・この勝負はリョウヘイ・・・貴方の勝ちよ?

 だから・・・訂正。

 貴方の力・・・見くびってしまって・・・ごめんね?

 ・・・愛しているわ、リョウヘイ。

 ・・・永遠に♪」


そう告げたミラーズは目を開けないユウナギの唇にそっとキスをし、

マジックボックスからミラーズ愛用の藍色のマントを取り出すと、

らぶりんに降りるよう言い、ソレをユウナギに被せ膝ま着き2人で祈った。


「・・・ミラーズ様」


心配そうにそう声を掛けるらぶりんに、

ミラーズは涙でグチャグチャになった笑みを見せながら手を差し出し、

らぶりんを自分の肩に乗せた。


横たわるユウナギに背中を向けたミラーズは振り返る事無くこう言った。


「・・・必ず・・・必ず後で迎えに来るから、

 少しの間・・・ここで待って居てね?

 そして全てが終わったその時・・・。

 私も貴方の元に・・・」


そう言うとゆっくりとその足を進めて行った・・・。


そして横たわるユウナギの姿が見えなくなる頃、

らぶりんが心配そうにミラーズに声を掛けた。


「ミラーズ様・・・。

 ユ、ユウナギ様をこのまま此処に残して行くのですか?」


「・・・ここは特殊な空間でね?

 肉体が永遠に朽ちないから、

 ほんの少しだけ・・・彼に此処で待って居てもらうわ。

 だから・・・次にこの地に来る時は、

 私の愛した男の敵を・・・全て殺してからよ」


「・・・はい、私も御供しますっ!」


「・・・らぶりん、有難う♪」


哀しみに暮れる中、ミラーズは『キッ!』と唇を噛み締めると、

後ろ髪を引かれる思いを振りほどき、

ユウナギを貶めた連中を追うと改めて決心した。


そして手をかざしながら『神門』を呼び出すと、

数段在る階段を上りそのノブに手を掛けた・・・。


「・・・待って居てね、リョウヘイ。

 ・・・行ってきます♪」


そう呟きながらドアノブに力を加えた瞬間だった・・・。


突然離れた後方から『バシュッ!』と、

途轍もない力が空へ向かって一直線に伸びて行った。


「なっ、何っ!?」


「な、何ですかっ!この在り得ない力はっ!?」


驚愕するミラーズとらぶりんが焦りの色を濃く浮かべていると、

らぶりんが何かに気付き慌てて声を発した。


「ミ、ミラーズ様っ!?

 あ、あそこって・・・も、もももも・・・もしかして・・・

 ユウナギ様が・・・眠られている場所なのではっ!?」


「っ!?」


らぶりんからそう告げられたミラーズは慌てて駆け出し、

大きな声を張り上げた・・・。


「リョウヘェェェェェイッ!」


そして向かう・・・。


途轍もない冥界の神力が天に向かって放つその場所へと・・・。


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