第83話・因縁の激突
神力を消失させてから数日・・・。
「ぜってぇぇぇっ!負けねぇぇぇっ!」
そう言葉を叫びながらユウナギは諦める事もなく、
日々訓練を続けていた・・・。
だがその訓練は数日前にミラーズが言った『無謀』な訓練を繰り返し、
暴走するユウナギを『スリープの魔法』によって防いできた・・・。
そして今日も・・・。
『シュッ!』
「げっ!?ヤ、ヤベェェェっ!?」
『バシュッ!』
突然神力を消失したユウナギの眼から、
紫色の冥界の神力が放出され、この空間の大地を揺らし始めた。
「ミラーズ様っ!?」
「えぇ、分かっているわ・・・」
何度目だろう・・・。
ユウナギの訓練を見守るらぶりんとミラーズはそう言葉を発すると、
静かに左腕をユウナギに向け『スリープ』を発動した・・・。
『ドサッ』
「クゥクゥクゥ」
ミラーズの魔法によって眠りに落ちたユウナギに、
『フゥ~』と深く溜息を漏らした・・・。
その様子にらぶりんは肩を落とし項垂れると、
ユウナギの元へと歩き始めたミラーズに声をかけた・・・。
「・・・懲りませんね~?」
「・・・・・」
「やはりこのままのやり方では、
冥界の神力を・・・
いえ、『冥界眼』の制御など無理かと思われますが?」
ミラーズの肩の上に乗りながらそう言ったらぶりんに一瞬視線を向けると、
呟くような・・・そして落胆しているかのように『そうね・・・』と答えた。
そして翌朝・・・。
早朝に目を覚ましたユウナギがゆっくりと身体を起こすと、
傍にはミラーズが椅子に座りながら眠っていた・・・。
そしてそのミラーズの肩の上に居たらぶんりんもまた、
『スヤスヤ』と眠りに落ちていたのだった。
「・・・すまねーな、2人共」
申し訳なさそうにそう呟いたユウナギは、
キッチンに向かうと『遮音結界』を張り、
2人を起こさぬよう気を配りつつ朝食を作り、
いつもの如く小屋を出て訓練へと向かって行った・・・。
『バタン』と静かに扉が閉じられた瞬間・・・。
「・・・リョウヘイ」
「・・・ユウナギ様」
寝ていたかと思われていたミラーズとらぶりんだったが、
2人は既に起きていたのだった・・・。
『ふぅ~』っと息を吐きながら身体を起こしたミラーズは、
ユウナギが作った朝食を見て呆れたように口を開いた。
「・・・意外とマメなのよね」
「アハハ、確かにそうですね~?
でもミラーズ様・・・このままでは・・・」
肩に乗るらぶりんの声に、
ミラーズは『・・・そうね』とだけ言って立ち上がると、
テーブルに腰を下ろし、ユウナギが作った朝食を食べるのだった・・・。
『タッタッタッタッ!』
軽快な足音を発しながらユウナギは、
訓練場所を目指し駆けて行く・・・。
(・・・このままのやり方じゃ無理だと俺も分かっている。
だが・・・実際問題・・・。
何をどうすればいいか・・・検討すらつかねー・・・
だから今は・・・このままやり続けるしかねーんだ。
何か・・・手がかりになるモノさえ見つければ・・・)
そう考えるユウナギだったが実際のところ、
そんな余裕などはなかった。
ただ日々・・・。
無意味とも思える訓練をし自滅を繰り返しているだけだったからだ。
そんな自分に情けなさを感じつつも、
他に何か手がある訳ではない・・・。
そう感じながらもユウナギは呼吸を乱さず、
己のペースで駆けて行くのだった・・・。
~ 訓練地 ~
自分が決めた訓練地へと到着したユウナギは、
呼吸を整えながら全身をくまなくストレッチを始めた・・・。
(とりあえず今日もいつも通り・・・)
そんな事を考えながら身体をほぐし終わると、
いつものように目を閉じ精神を集中し始め、
己の中の神力を計測し始めた・・・。
(・・・神力残存量・・・あぁ~・・・32%って・・・
昨日より5%も減ってんじゃねーか?
ったく・・・自分の事ながら情けねー話しだぜ・・・)
己の不甲斐なさに項垂れながらも今日もまた・・・
いつもの如く低出力の神力を放出し、
乱れる事もなく制御し始めていった・・・。
それから1時間後・・・。
ふとフローラルな匂いに気付き振り返ると、
そこにはいつの間にか姿を現したミラーズとらぶりんが居た・・・。
「来ていたのか・・・?
今日は全然気づかなかったぜ・・・」
姿勢はそのままで顔だけを向けたユウナギがそう言うと、
ミラーズは軽く肩を竦めながら口を開いた・・・。
「ねぇ、リョウヘイ・・・。
そろそろその訓練は潮時じゃなくて?」
ミラーズの静かな声にユウナギは『チッ!』と舌打ちをした。
「わ、わかってんだけどよ~・・・
でも、戦闘中に俺の中の冥界の力を神力で抑え込めるよう、
鍛えなくちゃいけねーだろうが?
その為には・・・今はコレしか思いつかねーんだよっ!」
怒っている訳ではない・・・。
だがミラーズに図星を突かれた事で、
その苛立ちがそのまま言葉になって出てしまったのだった・・・。
自分の言った声にユウナギは思わず『ハッ』とし、
すぐに『すまねー』と謝罪をすると、
ミラーズが歩き出しながら『わかってるわよ』と微笑みかけて来た。
そしてミラーズがユウナギの正面へと回り足を止めると、
つま先から頭までを見つめこう言った・・・。
「ねぇ、リョウヘイ・・・。
いい手が見つからない現状・・・
ここはいっその事、冥界の神力を使うと言う方法に切り替えない?」
「・・・はっ?
お、お前・・・何言ってんだ?
俺はその力を使いたくねーから、こうして頑張ってんでしょうが?
つーか・・・お前・・・。
それをわかってて言ってんだよな~?」
ユウナギがやや不機嫌そうにそう言うと、
ミラーズは抑揚もない声で『・・・えぇ』とだけ言った。
そんなミラーズにユウナギは声を荒げ、
言葉をこう続けた・・・。
「俺がこの力を嫌う理由は只一つっ!
それは冥界の神力が人族の地に悪影響を及ぼすからだっ!
緑豊かな土地が干からび色褪せ・・・
その命を落としてしまうからなんだよっ!
それなのにてめーは・・・」
そう言い終わると苛立ちから歯を食い縛り『ギチギチ』と音を発していた・・・。
ユウナギの言葉にミラーズはまるで挑発でもするかのように、
呆れたように小さく肩を竦める姿を見て、
苛立ちを募らせたユウナギは更に言葉を続けた・・・。
「ふざけんじゃねーっ!
ゼロから始めた俺が命を賭けて護った地だっ!
そんな場所を俺の手で葬る事なんて出来ねーんだよっ!」
ユウナギのその叫びにも似た言葉に、
ミラーズは哀し気な視線を向けながら黙って聞いていた。
そして静かに目を閉じ何かに決意を固めたかのように・・・。
荒れるユウナギを諭すかのように口を開いた。
「リョウヘイの気持ちは・・・。
・・・そうね。
全てわかるとは言わないけど・・・
でもリョウヘイ・・・。
貴方の中に宿るその力を受け入れないと、
やがて貴方はその力に抗えなくなり、
貴方が護った人達をも巻き込んで・・・死ぬわよ?」
「し、死ぬ・・・?
お、俺が・・・み、みんなを巻き込んで・・・?」
「えぇ・・・そう遠くない未来・・・
きっと貴方は・・・」
「・・・俺がみんなを巻き込んで死ぬ?
そんなバカな事がある訳・・・」
ミラーズの言葉にユウナギは呟くようにそう言った・・・。
身体を小刻みに震わせながらその脳裏には恐らく、
見知った人達が死んでいく様でも見ていたのだろう・・・
恐怖が脳裏を掠めまた・・・その表情も盛大に引き攣らせた・・・。
そんなユウナギの様子にミラーズは表情を変える事なくこう言った。
「どんな理由があったにせよ・・・。
ヴァマから与えられたその『冥界眼』を使いこなさなければ、
貴方は間違いなく・・・自滅する」
『っ!?』
ミラーズの言葉にユウナギが驚いたのは勿論の事、
肩に乗るらぶりんまでもが驚きを見せていた・・・。
「ちょっ、自滅って・・・一体何をっ!?」
あまりの驚きにそう声を挙げたらぶりんに、
ミラーズはユウナギから視線を外す事無く答えた。
「・・・現実を見なさい。
貴女ほどの魔物ならば本気に探ってみたらわかる事よ?
リョウヘイにはもう・・・。
日々増大していく『冥界眼の力』を抑え込む事なんて出来ないわ」
「・・・そ、そんな。
で、ではユウナギ様は・・・?」
ワナワナと震えながらそう尋ねたらぶりんに、
ミラーズは哀し気な表情を浮かべ答えた。
「・・・確実に『冥界眼の力』に取り込まれ自我を失い、
その力に肉体が耐えられなくなり・・・やがて自爆するわ」
『っ!?』
「この数日間・・・。
私は黙ってリョウヘイの訓練を見て来て、
彼の中に宿る力の増幅度を分析していたのだけれど・・・」
そう言ったミラーズにユウナギとらぶりんは驚き、
『お前・・・そんな事を?』と顔を顰めていた・・・。
「えぇ・・・あの時の貴方は私が何を言っても、
絶対に耳を貸さないはず・・・。
だから私は黙って後の為に・・・分析に徹していたのよ。
貴方から漏れ出す『冥界の神力の濃度と増大量』と、
そしてそれに比例する『神力の減少量』をね」
「・・・まじか」
その話に沈黙する中、ミラーズは『でもね・・・』と言葉を続けたが、
口にしたその内容はユウナギにとって在り得ない事だった。
「1つだけ・・・その最悪から逃れる方法があるわ」
「・・・何だよ?その方法って?」
眉間にグッと皺を寄せ、厳しい表情浮かべたミラーズに、
ユウナギとらぶりんは『ゴクリ』と鳴らした。
「・・・リョウヘイ。
貴方は街を離れどこか静かな所で余生を過ごす事よ」
「・・・はぁ?
何だよ・・・?その静かに余生ってのは?」
「簡単な事よ・・・。
貴方は戦いから身を退き静かに暮らすって事よ?」
「・・・バッ!?」
厳しい表情を見せたままミラーズから放たれた言葉に、
ユウナギは『バカ言ってんじゃねーよっ!』とその怒りを露にした。
「ふざけた事言ってんじゃねーっ!
俺を貶めた連中共をこのまま見過ごせってーのかっ!?
何の為に俺は顔を変え名を変え・・・ここまで来たと思ってんだよっ!?
俺が戦いから身を引く事なんて・・・有り得ねーっ!」
ユウナギの怒号が響き渡り、
その怒号はこの土地の空気をも揺るがすかと思えるほどだった。
だが・・・。
そんなユウナギに対しミラーズは静かにこう言った。
「・・・なら、無関係な・・・。
いえ、リョウヘイ・・・貴方が護った者達を巻き込んで、
死ぬ・・・って事でいいのね?」
「・・・クッ」
「貴方が戦う相手は、何も人族だけじゃないのよ?
当然、その中には上級の悪魔達が居る・・・。
そしてもしかしたら・・・その中に『冥界の住人』も居るかもしれない。
そんな連中相手に、貴方は神力無しで戦えると言うの?」
「そ、それは・・・」
「答えなさいっ!リョウヘイッ!
貴方はそんな連中相手に神力無しでどこまでやれるって言うのよっ!?」
「・・・・・」
ミラーズの言葉にユウナギは『グゥの音』も出なかった。
それは確信を射抜くモノであり、ユウナギはそれを否定する事が出来なかった。
「・・・い、いや、でもほら・・・
他に何かいい手がそのうち見つかるはずだ・・・」
ミラーズ達から視線を外しながらそう言ったユウナギに、
苛立ちを募らせたミラーズの身体が冥界の神力が漏れ始めた・・・。
「リョウヘイ・・・。
あんたらしくもない・・・」
紫色の神力を漏らしながらミラーズの表情は厳しくなり、
その拳に限りなく力が籠っていた。
「ら、らしくないってのは・・・俺も分かっている。
だが、この力を閉じ込めない事には、
これから先・・・俺は一歩も先へと進めねー・・・」
『バシュッ!』
ユウナギがそう言った途端・・・。
ミラーズは我慢の限界に達し『リョーヘェェェイッ!』と怒声を発し、
その身体に冥界の神力を纏わせながら突進して行った・・・。
「お、お前っ!?」
「リョーヘェェェイッ!目を覚ましなさいよぉぉぉっ!」
ミラーズはそう叫びながら、その握り締められた拳をユウナギの顔面に放った。
『ゴォォォッ!』と迫るミラーズの拳に、ユウナギは残り少ない神力を解放し、
間一髪・・・避ける事が出来たのだった。
「あっ、危ねーだろうがっ!?」
顔を盛大に引き攣らせながらそう怒鳴ったユウナギに、
ミラーズはゆっくりと振り返ると、その黄金に染まる瞳が睨みを利かせた。
「・・・お、お前」
「いい加減うんざりよ・・・。
この私が惚れた男が・・・こんな体たらく・・・。
流石にもう見て居られないわ。
頭で理解出来て居ながら、恐怖に飲まれ判断出来なくなっている。
そんな男・・・。
私が惚れた男じゃないわ。
そんな姿をもうこれ以上見ている事なんて出来ない・・・。
だから私が此処で・・・この亜空間の地で・・・
終わらせてあげる・・・。
はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
『バシュッ!』
「・・・ミ、ミラーズ・・・て、てめーっ!」
『バシュッ!』
ミラーズが本気だと感じたユウナギは、
後方に数回バク転をし距離を取ると、
瞬時に神力を解放しながら静かに半身になり戦闘態勢を取った。
ユウナギの意思を感じたミラーズは、
肩に乗るらぶんに下がるよう命じ、静かに構えたのだった・・・。
『ヒュ~』っと2人の間を風がすり抜けて行き、
2人の緊張感がピークに達した時だった・・・。
「・・・てめーと再びこの地で殺り合うとはな~?
何か因縁めいたモノを感じるぜ・・・。
つーかよ~・・・ミラーズ。
最初に言っておくが・・・お前が封印されていた間、
俺は段違いに強くなってんぜ?
掛かって来るなら・・・覚悟するんだな?」
額に汗を滲ませながらそう凄んで見せたユウナギだったが、
現状を理解しているミラーズの胸には全く響かなかった・・・。
「・・・今の貴方が私に勝てる訳ないでしょ?
分かっていながらその虚勢・・・。
ほんと・・・見苦しいったらないわね?」
「・・・チッ」
「行くわよ・・・リョウヘイッ!」
「来いやぁぁぁぁっ!」
ユウナギがミラーズの声に気合いを入れた瞬間、
『はぁぁぁぁっ!』と冥界の神力を解放したミラーズがユウナギに迫って来た。
それに対しユウナギは纏わせていた神力を消失させると、
口角を上げながら呟いた・・・。
「・・・魔力解放、身体強化最大、視力強化、
対・神力障壁展開、物理障壁三重層・・・」
『バシュッ!』
「っ!?ま、魔力っ!?」
瞬時に魔力を解放したユウナギの行動に驚きながらも、
『見苦しいっ!』と声を張り上げながら突っ込んで行った・・・。
「肉弾戦とは有り難いぜっ!
うっらぁぁぁぁっ!ミラーズさんよぉぉぉぉぉっ!」
迫るミラーズに対しユウナギは回避行動を取らず、
その身に再びバフを掛けながら突進した・・・。
「いい度胸ねっ!」
「てめーもなぁぁぁっ!」
共に2人は笑みを浮かべながら拳を繰り出し合い、
ユウナギとミラーズは熾烈な戦闘を展開して行くのだった・・・。
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