第82話・挑む事を忘れたら、それは俺じゃねーよ
あれから数日・・・。
ユウナギは神力を鍛える為必死に藻掻いていた・・・。
「て、低出力で長時間の神力放出を維持・・・。
うぐぐぐぐ・・・ま、まじで・・・キ、キツい・・・」
立ったままの姿勢で低出力の神力を長時間放出する・・・。
ユウナギの顔には大量の汗が流れ落ちつつも、
低出力ながら神力を放出し続ける・・・。
その過酷な訓練に耐え続けていたのだった・・・。
そしてそのユウナギの特訓を静かに見つめていたのは、
誰でもない・・・。
元・深淵の女王でもあり、元・邪神の女神・・・ミラーズだった。
(この数日・・・。
リョウヘイのこの無謀とも言える特訓は続いているけど、
でもこのやり方だと・・・)
そう考えつつも言葉を発する事はせず、
ただ無言で見守っていた。
するとミラーズの肩に乗るらぶりんがユウナギの邪魔にならないよう、
『念話』で話しかけて来た。
{・・・ミラーズ様?
この数日ユウナギ様は睡眠も取られておりませんが、
いきなりこんなハードな特訓をして大丈夫なのでしょうか?}
{・・・まぁ、大丈夫とは・・・言えないわね?}
{・・・えっ?}
{私の見立てでは、後・・・もって2日・・・}
{・・・ふ、2日って?}
{後2日くらいでリョウヘイの神力は枯渇するはず。
1日の回復量を消費量が大きく上回り始めてるしね・・・}
{で、でも・・・低出力での放出ですので問題ないはずでは?}
らぶりんはユウナギの身体から放出される神力を見ながらそう言うと、
表情を変える事も無くミラーズは冷静に口を開いた。
{・・・そう?
貴女はそう見えるみたいだけど・・・
リョウヘイは間違いなく、神力の放出量が増えているわよ?}
ミラーズの見解にらぶりんは目を凝らし見ているが、
細かい事まではわからないようだった。
そして再びらぶりんは尋ねた。
{・・・わ、私には分からないのですが、
どうしてユウナギ様の放出量は増えているのですか?
低出力なのですから、そんなふうにはとても・・・}
首を傾げながらそう言ったらぶりんに、
ミラーズは『そうね』と言った後、軽く溜息を吐きながら答えた。
{・・・その低出力ってのが問題なのよ}
{低出力が問題?}
{えぇ、魔力も同じ事が言えるのだけれど、
実は『低出力を維持』するのって、とっても難易度が高いのよ。
放出し続ける・・・それ自体は少しずつ慣れて行けばいいのだけれど、
問題なのは、それを続ける事でのメンタルの消費・・・}
{メ、メンタルッ!?
それってユウナギ様の課題となっているっ!?}
{そうよ・・・。
リョウヘイは今、大きく分けると2つの事に取り組んでいるの}
{・・・2つの事?}
{1つは、ミヒぞうに言われた通り、
怠慢による脆弱となった神力を鍛える為・・・。
そして2つ目は・・・。
課題となっているメンタル面の強化・・・}
ミラーズからそう説明されたらぶりんは、
『へぇ~』と納得しつつ特訓に励むユウナギを見ていると、
『あれ?』と首を傾げながら凝視し始めた。
{・・・・・}
{・・・気付いたかしら?}
一瞬『クスッ』と笑って見せたミラーズに、
らぶりんは凝視しながら『お、朧気ながら・・・』と口を開いた。
{・・・ミラーズ様が先程おっしゃられた通り、
本当に僅かですが・・・放出されている神力の量が多く・・・}
{・・・でしょ?}
{はい、で、でもほんの僅かですので、
見極めるのがとても難しいですが・・・}
そう答えるらぶりんの顔が険しくなったかのように見えたミラーズは、
更に説明していった・・・。
{・・・ほんの僅か・・・。
どうしてそうなっているのか・・・。
その理由はとても簡単な事・・・}
{・・・簡単?}
{えぇ・・・。
リョウヘイは今、かなり焦っているのよ}
{焦る・・・?
どうして焦る必要があるのですか?
低出力なら焦る必要なんか・・・?}
そう答えながら、らぶりがミラーズを見ると、
その目付きが鋭いモノへと変わり、
僅かだが『ヒクヒク』と痙攣しているようにも見えた。
{・・・長時間。
しかも睡眠も取らないでの神力の放出・・・。
低出力だからこそ・・・リョウヘイのメンタルは削らているわ。
それを長時間している内に疑問に思って来るのよ}
{・・・疑問?一体何を疑問に思うんですか?
私なら全然余裕かと思われますけど?}
そんならぶりんの声に、ミラーズは小さく頭を振りながら答えた。
{・・・今、リョウヘイの頭の中では様々な問題が起こっているはず。
例えば、今、放出されている神力の強さや量は同じか?
頬に当たる風を感じ、一瞬ソレを気にしてしまった時や、
身体の何処かに力が加わった時に、また気になってしまうものなのよ。
で・・・その繰り返しでまた同じ事を考えて行く・・・。
やがてソレはリョウヘイのメンタルを削り始め、
徐々に大きくなり、急激にメンタルに負荷を与え始めていくのよ}
{・・・そ、そんな事がユウナギ様の中で?}
{えぇ・・・。だから今、彼は苦しみ次第に極限状態になる}
そう言いながら目を細めるミラーズを見て、
らぶりんは妙な緊張感に包まれていた・・・。
すると、らぶりんはこんな質問した・・・。
{・・・きょ、極限状態になってしまった場合、
ユウナギ様は一体どうなるのでしょうか?}
そんな質問にミラーズは『そうね』と答えた切り無言となり、
何も言わなくなってしまった・・・。
暫く待っていたらぶりんも諦めかけた時、
少し緊張を滲ませながらミラーズは突然口を開いた。
{万が一・・・その極限状態になった時、
それは間違いなく冥界の神力が暴走を始めるでしょうね?}
{・・・えっ?}
{あの様子だとリョウヘイは間違いなくギリギリまで神力を放出するはず・・・。
そしてその先にあるのは、間違いなく冥界の神力の暴走}
{えぇぇぇっ!?ど、どうしてそんな事になるんですかっ!?
気を遣っているのなら・・・
神力の最低ラインなんて超えるはずないじゃないですかっ!?}
そう声を挙げ驚くらぶりんにミラーズは冷静に答えた。
{・・・リョウヘイの事だからきっと・・・。
ギリギリまで自分を追い込むはず。
それがきっと命取りになる・・・}
ミラーズの説明にらぶりんは慌て始め、
ドタバタとミラーズの肩の上で暴れ始めたのだった・・・。
{ど、どうするんですかぁぁぁっ!?
ミ、ミミ・・・ミラーズ様っ!?
い、今なら・・・今ならその暴走を止められるんじゃっ!?}
ミラーズの肩の上で慌てふためくらぶりんをそっと掴むと、
自分の顔へと近付けこう言った・・・。
{・・・今の彼に限界などわかるはずがないわ。
それに、一度暴走状態になった方が、リョウヘイにはいいかもね?}
{な、なぁぁぁにをのんきな事をっ!?
ぼ、暴走なんて・・・しない方がいいに決まっているではありませんかっ!?
ミ、ミラーズ様・・・お願いですから、止めましょ?
い、今ならまだ何とかなりますよねっ!?}
{・・・・・}
ミラーズの手の中で藻掻きながらそう進言したものの、
らぶりんの声に応える気はなそうだった・・・。
{ど、どうして・・・どうして止めないのですかっ!?}
らぶりんの声に反応を示さないミラーズに、
『こ、こうなったらが私が無理矢理にでもっ!』と覚悟を決めた瞬間・・・。
「・・・お、おい・・・てめーら・・・
何を『念話』でごちゃごちゃ言ってやがんだよ?」
『っ!?』
突然聞こえたユウナギの苦しそうな声に、
ミラーズもらぶりんも驚いていた・・・。
「ふざけんな・・・。
いいか・・・よく聞け・・・愚民共っ!
俺はてめーらが考えているほど・・・弱くはねー・・・
こ、こうやって・・・特訓しながらでも・・・
話す事なんて、お茶の子さいさいってな?
こ、このくらいでへばっているようでは・・・
元・勇者様の名折れだぜ・・・ざけんなよっ!」
一瞬チラッとミラーズ達に視線を向けたユウナギは、
苦痛に顔を歪ませながらも笑って見せ、
続けてこう口を開いた・・・。
「だ、だいたい・・・だ・・・。
この俺様がこの程度で暴走する程・・・やわじゃねーよ。
それに・・・だ・・・。
挑む事を止めたら・・・それはもう俺じゃねーよ。
諦めの悪いヤツってのは・・・自分に限界なんて作らねーんだよっ!
黙って見てろ・・・。
そ、それに万が一暴走したとしても・・・だ。
それは失敗じゃねー・・・。
俺が強くなる為の過程の1つにしか過ぎねーってな?」
ミラーズ達の方へと視線を向けたまま話すユウナギの顎辺りから、
『ボトッ』と大きな汗が滴り落ちた・・・。
それを目で追ったミラーズとらぶりんに、
ユウナギは『へへへっ』とから笑いしながらも話を続けた・・・。
「そ、それによ~・・・
こ、今回の事は・・・ちょ、丁度いいっつーか・・・。
なんつーか・・・よ?
久々に昔の・・・勇者だった頃の自分を思い出したぜ・・・」
苦虫を噛み潰したかのような笑顔を向けながら、
ユウナギがそう言うと、ミラーズが数日ぶりに肉声を発した。
「・・・勇者だった頃の自分?」
「あぁ・・・へっへっへっ・・・。
な、なんつーのかな~?
無駄に熱かった頃の・・・自分っつーか?
自分の可能性を信じ、無駄に足掻き・・・そして力を掴む・・・
『特撮魂』を胸に・・・頑張っていたあの頃をな・・・」
「・・・特撮魂?」
ミラーズがユウナギの言葉を復唱すると、
首を傾げたらぶりんが口を開いた。
{・・・トクサツダマシイって、何ですか?}
その質問にミラーズは目線を上に上げながら、
『昔、そんな事言ってたわね~?』と呟いていた・・・。
すると、らぶりんの質問にユウナギが『へへっ』と笑いながら、
こう説明したのだった。
「・・・まぁ~簡単に言うとだな?
俺の魂みたいなモノだ・・・。
だからよ・・・暴走だろうが何だろうが・・・
俺にその想いが・・・魂がある限りっ!
負ける訳にはいかねーんだよぉぉぉっ!」
そうユウナギが吠えた瞬間・・・。
『がくっ』とユウナギの片足の力が抜け地面に膝を着いたが、
『まだまだぁぁぁぁっ!』と叫び声を挙げながら、
身体を震わせつつも再び立ち上がった・・・。
「リョ、リョウヘイッ!?」
{ユウナギ様っ!?}
「ちょ・・・ちょい・・・力んじまったらコレだ・・・
ど、どんだけ・・・なまってんだって話でよ?
だけどよ・・・ヒーローってものは・・・
こ、ここから・・・胸熱展開があるってな?
む、昔から・・・そう決まってんだよ・・・」
苦痛から顔を引き攣らせながら笑うユウナギに、
ミラーズは訝しい表情を浮かべ、
また、らぶりんは首を傾げるのだった・・・。
誰がどう見てもカラ元気な事が見え見えな状態のユウナギに、
ミラーズは溜息を吐きながら口を開いた。
「・・・リョウヘイ、貴方・・・。
今の自分の状態・・・わかってる?」
鋭い視線を向けながらそう言ったミラーズに、
ユウナギは『あぁん?』と苛立ちを露にしていた・・・。
「貴方自身は気付いていなくても、
その本能は『ヤバい』と告げているから苛立っているのでしょ?
それに、何もこんな無茶な事しなくても・・・他に手は・・・」
ミラーズがそう言い始めた時、
ユウナギは『うるせーっ!』と怒声を発した。
「・・・てめーに言われなくても・・・わかってんだよっ!
俺も自分のバカさ加減には正直・・・飽きれてんよ。
でもな・・・?
それでも俺は自分のやる事は曲げねーよっ!
それがどれだけ遠回りであったとしてもなーっ!
昔から・・・俺はそうやって来たんだよ・・・
だから最悪な事が起ころうが・・・全然問題ねーっ!」
「・・・リョ、リョウヘイ」
{・・・ユウナギ様}
「俺は一度死んでから『理不尽な女神』に連れて来られ、
何処ともわからない星に捨てられたんだ・・・」
「・・・捨てられ・・・た?」
{えっ!?ユウナギ様は女神に捨てられたんですかっ!?}
「あぁ・・・そうだよっ!
何が気に喰わなかったのかは知らねーが・・・
あのクソ女神・・・。
何の恩恵も俺に与えずただ・・・
『気に入らないからどうでもいいわ』とかぬかしやがってっ!
適当な星に俺を落としやがったんだっ!」
『・・・・・』
そう怒声を発しながら叫んだユウナギに、
ミラーズとらぶりんは言葉を失っていたが、
愚痴を言い始めたユウナギの口は止まる事がなかった。
「あん時はまじで絶望したぜっ!
言葉も何もわからねー・・・
何処に何があって、ここの人間共がどんな暮らしをして・・・
まーじでっ!何もわかんねーっ!
だから・・・だから俺は必死でゼロから言葉を覚えて・・・」
怒りを爆発させるように話を続けるユウナギに、
ミラーズは驚きの表情を浮かべたまま口を開いた・・・。
「・・・えっ?えっ!?
リョ、リョウヘイ・・・?
じゃ、じゃ~・・・貴方は最初から勇者じゃないどころか、
何の力もなかったって・・・」
「あぁっ!そうだよっ!
当時の俺には何もねーっ!
何もかもだっ!
だから一度・・・ほんの一度だけ・・・『死』を選びかけた時もあったが、
だけど・・・悔しいじゃねーか?
何の説明もなくこの地に落とされてよ・・・。
だけどな~・・・俺は1つ思った事があんだよ・・・」
「・・・何を?」
「・・・何もねーんだったら・・・自力で手に入れてやるってなっ!
そんでもって・・・いつの日か・・・
いつの日か、あのクソ女神にっ!
一発叩き込んでやろうと思って此処まで来たんだっ!
だからこんな事くらいで・・・俺は止まらねー・・・
もう一度あのクソ女神に会ってぶっ飛ばすその日までっ!
俺は諦めねーし・・・挑み続ける事を止めるわけにはいかねーんだよっ!
わかったかぁぁぁっ!この愚民共ーっ!」
『ゼェ、ゼェ』と息を荒げ大量の汗を滴り落としながら、
ユウナギは溜まりに溜まった想いを爆発させた・・・。
そして次の瞬間・・・。
『・・・あっ』と、ユウナギが声を挙げるも、その束の間・・・。
『シュッ』と音を立てながら神力が消失すると、
入れ替わるように『ボッ』と紫色の冥界の神力が吹き出した・・・。
『ヤ、ヤベェっ!?』と声を発したユウナギに、
ミラーズは透かさず手をかざすと『スリープの魔法』を発動させ、
ユウナギを瞬時に眠りに落としたのだった・・・。
『ドサッ』と倒れるユウナギを少しの間眺め危険がない事を確認すると、
『ふぅ~』と大きく息を吐きながら声を発した。
「・・・バカね?」
{・・・ですね}
ミラーズとらぶりんがそう呟き合うと、
顔を見合わせ一度乾いた笑い声を挙げた後・・・。
再び大きく溜息を吐き合ったのだった・・・。
『ピョーン』とミラーズの肩の上から飛んだらぶりんがユウナギの身体に着地し、
安否の程度を確かめていた頃、
ミラーズはその様子を見ながらも険しい表情・・・
いや、怒りに満ちた形相を浮かべ、
その身体から濃度の濃い冥界の神力を溢れさせていたのだった・・・。
(・・・リョウヘイの話が本当なら、
彼は自力で勇者となり、当時の魔王軍を壊滅させた・・・。
女神の恩恵が得られないだなんて・・・前代未聞なはず・・・。
彼が此処に来た時の女神って・・・誰?
・・・一度調べてみないといけないわね)
一度その両拳を『ギュッ』と二義閉めると、
ミラーズは歩き始め、ユウナギの傍に寄り添ったのだった・・・。
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