第81話・逃げるつもりはねーよ
此処はとある亜空間・・・。
『ザザァァァァ・・・』
膝から崩れたユウナギに冷たい雨が降り注ぐも、
2日間・・・そこから動こうとはしなかったのだ・・・。
そしてそれは何も言わずただ・・・。
静かに見守るミラーズも同様、一歩も動かずに居た・・・。
~ 小 屋 ~
『ザザァァー』っと激しい雨が小屋の窓を叩く・・・。
その窓辺にはらぶりんが『はぁ~』っと深い溜息を吐いていた。
「・・・もう2日になりますね。
ユウナギ様とミラーズ様が御戻りになられないのは・・・。
こんな時って、私はどうすればいいのでしょうか?
この小さな小屋が、こんなに広く感じるなんて・・・」
後ろを振り向いたらぶりんは、
小屋の静けさに寂しさが込み上げていた・・・。
そして此処は小屋から1kmほど離れた場所・・・。
未だに項垂れるユウナギとミラーズは冷たい雨に打たれていた。
何も言わず静かに・・・ただ、そこに居た・・・。
それから少しの時間が流れた頃・・・。
「・・・ふぅ、思っていたよりも時間がかかっちまったな~?
やれやれ、まじで俺って弱え~な~・・・」
四つん這いのまま地面を見つめそう呟くと、
身体を起こしながら背後で雨に濡れるミラーズに声をかけた。
「・・・すまねぇ、お前にも付き合ってもらってよ」
そう言ったユウナギにミラーズは緩やかに口角を上げると、
一言・・・『・・・いいわよ、これくらい』と静かに答えた。
『うっ・・・あぁぁぁぁぁっ!』と、声を挙げながら、
ユウナギは大きく背伸びをすると、
その凝り固まった首や身体を動かし『バキっ!ゴキっ!』と音を鳴らした。
「・・・よっこらせっと」
そう言いながら立ち上がり再び身体を伸ばし終えたユウナギは、
ミラーズに向かって振り返ると暖かな笑みを向けた。
「・・・リョウヘイ」
そう呟くように言いながら、
ミラーズは駆け出し暖かな笑顔を向けるユウナギに抱き着いた。
「リョウヘイッ!リョウヘイッ!」
ユウナギの胸に飛び込んだ為、
ミラーズの表情まではわからなかったが、
只1つ・・・苦笑するユウナギにもわかる事があった。
それが何かわかったユウナギは、
ミラーズを『ギュっ』と強く抱き締めながらこう言った。
「・・・泣いてんじゃねーよ」
「うぅぅぅ・・・」
「・・・すまねーな、ミラーズ」
「リョウヘイッ!リョウヘイッ!
わ、私・・・私・・・」
この数日、ミラーズは必死に耐えていたのだろう・・・。
胸の中の想いが溢れ言葉にならなくなっていた。
そんなミラーズの頭を優しく撫でながら、
ユウナギは視線をふと、ある方向へと向け声を挙げた。
「・・・らぶりんっ!帰るぞーっ!」
『っ!?』
少し離れた森に向けてそう声を挙げたユウナギに、
らぶりんは『・・・バッ、バレてるっ!?』と驚愕していた。
{あっ、ハ、ハーイッ!}
念話でそう返答したらぶりんに、
ユウナギは苦笑しながら胸の中に居るミラーズへと視線を向けると、
『おっと・・・』と言いながら、
その身体に体重がかかるのを感じた・・・。
「・・・寝たみたいだな?
ほんと・・・すまねーな・・・ミラーズ」
ユウナギは優しい笑みを浮かべながら寝てしまったミラーズを抱えると、
ゆっくりと歩き始め、頭の上に傘のように結界を張ると、
らぶりんに向かって肩に乗るよう促した。
ユウナギに促され肩に乗ったらぶりんに顏を向けると、
『・・・お前にも心配かけちまったな?すまねぇ』と謝罪し、
『ユウナギ様は私の主様ですから♪』とそう答えるらぶりんに、
ユウナギは笑顔を向けながら『・・・ははは、そうだったな?』と声を挙げた。
小屋へと戻ると眠りに着いたミラーズに魔法でその濡れた身体を乾かし温めた。
再びミラーズを抱きかかえたユウナギは、そっとベッドへと寝かせようとはしたが、
ミラーズの両腕がユウナギの首に絡みつき、外れなくなっていた・・・。
その状態に近くに来たらぶりんが、深い眠りに着くミラーズの顔を覗き込み、
『よく寝てますね~?』と呟くと、
『あぁ、ずっとこんな俺に付き合ってくれていたからな?』とそう言った。
「あぁ~・・・でも、コレ・・・どうしようか?」
ミラーズの両腕が離れず、苦笑しながら困った顔を見せたユウナギに、
らぶりんは『そうですね~?』と言いながら『蜘蛛の糸』を出し、
ベッドの飛び出た装飾に糸を引っ掛け『梃子の原理』で両腕をゆっくりと解いた。
「すまねー・・・らぶりん」
「いえいえ♪」
らぶりんに笑顔を向けながらそう礼を言ったユウナギは、
再び背伸びをし終わると『ふぁぁぁぁっ』と、大きなあくびをした。
そしてベッドの傍に居たらぶりんに、
『俺も寝るわ~・・・』と、そう告げ、
ユウナギはゴロンとソファーに横たわり『おやすみ~らぶりん』とそう言った。
らぶりんは心が温かくなるのを感じながら、
ユウナギに『おやすみなさい、ごゆっくり♪』と返すと、
『そうさせてもらうわ~』と返答しながら寝る態勢を整えた・・・。
(ふふふ、主様も中々可愛いところが・・・)
ユウナギのとても眠そうな顔を見ていた時だった・・・。
突然らぶりんは何かに違和感を感じ、
『んっ!?えっ!?えっ!?』と声を挙げ、
その違和感の正体に気付くと、思わず大きな声を挙げてしまった・・・。
「ユ、ユウナギ様っ!?ユウナギ様っ!?」
らぶりんの慌てる声にユウナギは『なっ、何だよ~?』と片目を開けると、
『ピョーンッ!』とジャンプ一番・・・。
ソファーに横たわるユウナギの胸の上に乗りながら慌てて声を挙げ始めた・・・。
「ユ、ユユユ・・・ユウナギ様っ!?」
「だから・・・一体何だよ?」
「あのっ・・・ああああ、あのっ!?
わ、私の声と言うか・・・言葉がわかるんですかっ!?」
慌てながらそう言ったらぶりんの反応に可愛く思いながらも、
ユウナギはその睡魔に苦戦を強いられていた・・・。
「ちょっ!?ユウナギ様ってばっ!?」
「うーん・・・」
今すぐにでも眠りに落ちそうなユウナギに、
らぶりんは苛立つと、糸を方々に張りながら、
糸を丸め始め、一塊の大きな球状のモノを作り上げた。
「ユウナギ様っ!?ユウナギ様ってばっ!?」
そう声を掛けながらユウナギの頬を『ペチペチ』叩いては見たが、
『うーん』と声を漏らすだけで、それ以上の反応を見せなかった。
らぶりんは少し・・・距離を取ると、
野球のボールほどある蜘蛛の糸の塊を『ブンブン』と振り回し始めた。
「目を・・・目を覚ませってーのぉぉぉぉっ!」
『ブオンッ!』
遠心力を利用しハンマー投げの要領で、
『蜘蛛の糸の塊』を眠る主に投げつけながら、らぶりんは吠えた。
「起きろぉぉぉぉっ!」
らぶりんが放ったその『糸の塊』が、
すやすやと眠りに落ちたユウナギの顔面に炸裂する寸前、
何故か『ピタッ』と『蜘蛛の糸の塊』がそのまま停止した・・・。
「あ、あれ?どうして?」
らぶりんは恐る恐る歩みながら再びユウナギの胸の辺りまで来ると、
未だに動く事のない『蜘蛛の糸の塊』に小首を傾げた・・・。
すると突然ユウナギの身体がもぞっと動くと、
『お前な~?』とボヤきながら、
胸の上で小首を傾げたままになっているらぶりんに口を開いた。
「・・・こんなモノを振り回してんじゃねーよ。
つーか、当たったらどうすんだよ?
まぁ、たかが『蜘蛛の糸の塊』が当たったところでどうって事もねーけどよ?」
そう言いながらユウナギは身体を起こし、
らぶりんが放った『蜘蛛の糸の塊』を掴むと呆れ顔を見せた。
「ユ、ユウナギ・・・様?」
「・・・ん?」
「・・・少し訂正が」
「・・・訂正?」
「はい・・・。
じ、実はソレは~・・・ただの『蜘蛛の糸の塊』ではなくてですね~?」
ユウナギはその野球のボール大ほどある『蜘蛛の糸の塊』を、
『シュルシュル~』っと回転させながら軽く上へと弾いて見せた・・・。
「ん~・・・?別にどこも可笑しいところなんてねーけどな?」
回転しながら落ちて来る『蜘蛛の糸の塊』を『パシッ』とキャッチすると、
らぶりんに視線を向けたユウナギは肩を竦めた・・・。
「じ、実はソレ・・・。
お城の城壁を貫通するほどの硬さと威力がありまして・・・」
「・・・へっ?」
『アハハ』と苦笑いするらぶりんを他所に、
ユウナギは握り直すとソレに力を加えていった・・・。
「・・・か、硬いんですけど?」
「で、ですよね~?アハハ」
「・・・って事は~・・・何?
お前・・・そんな凶悪なモノを、俺にぶつけようと?」
「えっと~・・・アハハ」
「アハハじゃねーよっ!」
顔をヒクヒクさせたユウナギはその後・・・。
30分ほどらぶりんに説教したのだとか・・・。
とりあえずの説教が終わり、ユウナギは溜息を吐くと、
らぶりんは何事もなかったかのように話を切り出して来た・・・。
「それでですね~、ユウナギ様?」
(こ、こいつ・・・)
反省の色を一切見せず、そう話を切り出すと、
顔を顰めたユウナギは面倒臭そうに口を開いた・・・。
「あぁ~、つまりはあれか?
今までお前と話せなかった俺が、
この2日間くらいで話せるようになったのが気になったってか?」
「は、はい・・・。
だって・・・、全然私と話せなかったんですよ?
でもそれが突然・・・。
一体この2日間で何があったのでしょうか?
と、言うよりも・・・。
ユウナギ様は地面に伏していただけですよねっ!?」
ユウナギはらぶりんの質問に『ふぁぁぁっ!』と大きなあくびをすると、
頭をボリボリと掻きながら答えたのだった。
「あぁ~・・・つーか・・・。
別に俺はただ、地面に伏しながら何もしてなかった訳じゃねーよ?」
「・・・そうなんですか?」
「あぁ、ちょい時間はかかっちまったが、
俺はずっと卑弥呼が俺に言っていた事を考えながら、
あいつが俺に教えてくれた事をずっと繰り返しやってただけだ」
「・・・繰り返しですか?
でも、あの雨の中・・・一体何を?」
ユウナギはらぶりんからの質問に答える前に、
ソファーから立ち上がるとキッチンでお湯を沸かし、
コーヒーを入れて椅子に座った。
そして『ゴクッ』と一口流し込むと、
らぶりんの質問に答えたのだった・・・。
「卑弥呼が俺に言った事をやっていたんだが、
それは『神力』を使い鍛える事・・・かな?」
「・・・神力を鍛える?」
「あぁ、今の俺にとって神力って貴重で量も限られている。
だけどあの女は俺に『ビビるなっ!』って言いやがるんだ。
『神力は鍛えてなんぼ』・・・的な?
だから俺は自分で意識して身体の一部分にだけ神力を纏わせ、
それをずっと繰り返していたってだけだ」
「・・・ふむふむ。
ではどうして雨の中で?
別にそれなら場所を選ばないですよね?」
そう真剣に突っ込んで来るらぶりんに、
ユウナギは苦笑しながら話を続けて行った・・・。
「あぁ~・・・それはな?
まぁ、簡単に言うとだな?
日々の俺の怠慢が仇となって、神力の扱いが下手になってたって事だ。
だからソレを感じやすくする為、
あの雨の冷たさを利用していたんだよ」
「おぉ~♪
あの雨の中、ユウナギ様はそんな事をしていたのですね?
私はてっきり・・・。
『クソピッチにボコられた可哀そうな俺』に浸っていたのかと?」
そう元気な声で言放ったらぶりんに、
ユウナギの表情筋は崩壊しそうなほどヒクヒクしていたのだった。
「ほ、ほほう・・・な、中々どうして・・・。
言いたい事を容赦なく言ってくれんじゃねーか?」
「フフフ・・・。
ユウナギ様はそのように言われた方が、
変な同情とかしてもらうよりいいのではないか・・・と♪」
「あはっ・・・ははは・・・。
よ、よーく・・・わ、わかってんじゃん?」
盛大に引き攣らせた表情に、らぶりんは構う事無くそう言うと、
ユウナギは『あぁ~あ』と項垂れながらも口を開いた。
「で・・・だ。
その甲斐あって色々と気付けたって訳よ」
「ざ、ざっくりし過ぎですっ!」
「お、おう・・・」
そう返答しただけで『俺はもう眠い』と言ったユウナギは、
まだ話を聞きたそうにしているらぶりんを放置し、そのまま眠りに着いた・・・。
スヤスヤとソファーの上で眠るユウナギを見ながら、
らぶりんは先程攻撃した時の防御法について考えていた・・・。
(あの防御の仕方って、確か卑弥呼が見せた・・・?
も、もしそうなら、たった2日間でアレをマスターしたとっ!?
い、いくらアレがビッチとは言え、
アレは上位神にも認められるほどの実力を持っている御方ですよっ!?
その防御方法を・・・)
卑弥呼が見せた防御法とはユウナギの攻撃を全て・・・
人差し指1本で受け止めた防御方法の事である。
(私が知っている事があるとすれば、
アレは人差し指に神力を集約し攻撃を受け止める方法・・・。
まさか本当にマスターしてしまわれるとは・・・)
らぶりんは初めて出会った生き物でも見るようにユウナギを見ていると、
『うーん』と唸りながら寝返りする姿に苦笑していたのだった・・・。
~ 翌 朝 ・早 朝 ~
ミラーズとらぶりんがまだ深い眠りの中に居る中、
ユウナギはいつもの如く、早起きをして朝食の準備をしていた・・・。
そしてその準備を終えたユウナギは、
眠りの中に居るミラーズとらぶりんを見て笑みを浮かべると、
2人に囁くように『・・・行って来る』と言って、小屋を出たのだった。
『ガチャリ』とドアを開け外に出たユウナギは、
『んんんんんー』と背伸びをすると、軽く準備体操をして走り始めた。
「・・・じゃ~そろそろ神力をっと」
ユウナギは走りながらも一瞬目を閉じ、
神力を操作し始めた・・・。
「まずは足の裏に集めてっと・・・」
そう呟きながらユウナギは、その両足の裏に神力を集めると、
それを維持しながら走る速度を上げた。
足の裏に集められた神力は決して多くはない・・・。
何故なら今のユウナギの神力はそれほど多くなかったからだった。
「・・・今は多くなくてもいずれは」
そう言いながら走るユウナギの表情は穏やかであり、
風景を楽しむ余裕まで生まれていたのだった。
それからいつもの場所へと到着したユウナギは、
目の前に在る大きな木を見て苦々しい表情を浮かべて居た・・・。
「・・・もうあんな屈辱はごめんだ。
何も言わず見守ってくれているミラーズにも感謝しかねー」
そう言いながら顏を上げたユウナギは、
風に揺れる枝や葉を見ながら『あと、ついでにらぶりんも♪』と、
顔をニヤけさせ笑っていた。
そして軽く呼吸を整えながら身体のあちこちを伸ばし始めると、
自分のステータスの確認しようとした・・・。
「ステータス・オープ・・・」
言葉を途中で止めたユウナギは苦々しい表情を浮かべると、
頭を小さく振りながら『・・・悪循環だな』と自らの行いに苦笑した。
そして立ったまま軽く目を閉じながら、
己の神力の残量を確認すると、余り残っていない事に溜息を吐いた。
「まじか・・・?
俺ってばこんなにも弱っちくなってんのか?」
『やれやれ』と肩を竦めたユウナギは、
少しの間、神力の回復を待つ為、
見た目以上に重い『片手剣』を取り出し素振りを始めた。
無言で集中しながら己を鍛え始め、
どれくらいの時間が経過しただろうか・・・。
一心不乱に特訓するユウナギの足元には自らの汗が流れ落ち、
小さな水溜まりを作っていたのだった。
着ている服も汗だくになってはいたが、
集中しているユウナギはそんな事も気にしていなかった。
すると突然・・・。
『シュッ』と後方から何者かが現れたのを感じたユウナギは、
身を翻し、汗だくになりながらも『片手剣』を構えた。
「・・・よお、ミラーズ・・・起きたか?」
そう声を掛けたユウナギに、
ミラーズは『おはよう、リョウヘイ』と返答すると、
少し照れ臭そうにするユウナギも『おはよう』と返答した。
照れ臭そうにするユウナギに笑みを浮かべたミラーズは、
『・・・特訓?』と聞くが、ユウナギは『そんなんじゃねーよ』と返答した。
お互いに沈黙が続く中・・・。
ユウナギは『ふぅ~』と息を吐くと、
ミラーズに背を向けながら口を開いた・・・。
『・・・情けない話だがあの女の言った事に間違いはねー。
確かに俺の怠慢が招いた事だからな・・・。
それに無理矢理にとは言え、ヴァマのヤツがくれた『冥界眼』のせいにもしねー。
誰のせいでもねー・・・。
これは俺が招いた結果だ・・・。
だからって、俺はこのままじゃ居られない。
どんな苦難があったって・・・俺はこのまま逃げるつもりはねーよ』
そう言い終えたユウナギは『チラッ』と後方に居るミラーズに視線を向けると、
親指を立てて見せながら、
心配そうにしているミラーズに笑顔を向けたのだった・・・。
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