第80話・エピローグ・後編・運命的な出会い

突然私の目の前に現れたその男は、

笑顔を向けながら『後は任せろ』とそう言った・・・。


そんな男の笑顔に私は安堵した・・・。


その男の風貌はまだ20歳にも満たない若い男ではあったが、

黒い上下に黄金の装飾と細工が施された青い鎧を着ており、

身体の線は細めながら、がっしりとした体格をしていた・・・。


(この人ならきっと・・・)


何の根拠もない・・・。

そう、これは私の直感。

だけど何故かあのギラついた目を見ていると、

『大丈夫』だと確信する事が出来た・・・。


「おっらぁぁぁっ!行くぜぇぇぇっ!」


その男からそんな雄叫びが上がり、

シシリーが召喚した『ベノム・ローズ』に攻撃を仕掛けた。


触手が伸びその男に巻き付き、私が『あっ!』と声を挙げた瞬間、

その触手は一瞬にして細切れとなり、

『ベノム・ローズ』の血液らしき、白い液体を勢いよく撒き散らした。


『ほっ』と私が安堵の息を吐くと、

突然後ろから『フフっ、ベイビー』と声が聞こえ、

咄嗟に振り向き身構えはしたが、そこには誰の姿も無かった。


『こっちだ、こっち・・・』


そんな声に私は周囲を見渡していると、

『下だ・・・』と再びドスの利いた声が聞こえて来た・・・。


「・・・えっ?」


その声に誘導されるように、私の視線が地面へと向くと、

そこには小さな『ハリネズミ』のような動物が、

いかつい『サングラス』を掛け、

今、葉巻に『シュボッ』と魔法で火を着けているところだった。


「い、今の声は・・・君なの?」


そう声を挙げた私にその小さな動物は『あぁ、俺だ』と言いながら、

その小さな口から吸い込んだ葉巻の煙りを立ち昇らせた。


唖然としていた私に、その動物は視線をあの男に向けながら口を開いた。


「心配いらねーぜ、ベイビー。

 俺の相棒は『魔毒の女王』如きに負けはしねー。

 だから安心するんだな」


そう言われた私は再び視線を向けると、

その男は今、『ウッヒョー♪』と楽し気に、

『ベノム・ローズ』から放たれる『溶解液』を躱していた。


「・・・た、楽しんでる?」


そう声を挙げた私に、その動物は『どう見てもそうだよな?』と、

半ば呆れた様子を見せていた。


するとその動物は咥えていた葉巻を、その小さな手で取ると、

戦う男に声を荒げた。


「おいっ!相棒ーっ!

 いつまでチンタラやってんやがんだっ!?

 とっとと殺っちまえってんだっ!」


そう怒鳴る動物に、

『溶解液』を楽し気に躱し続ける男は振り向きながら、

『わぁぁぁったよっ!』と何故か逆ギレして返答したのだった。


そこから一瞬だった・・・。


『ベノム・ローズ』から一度距離を取り着地すると、

手に持つ剣を胸の辺りで構えつつ、左手を刀身の根元に添えた・・・。


そして『シュバッ!』と身体から魔力を放出させながら声を挙げた。


『・・・レーザー・ブレードッ!

 魔力バージョン・・・なんつって~♪』


そう言いながら刀身の根元に添えた手を切っ先に向けてスライドさせた。

するとその刀身には紫色に淡く光り、

『ブゥン』と聞き慣れない振動音を発していた。


そして束の間・・・。


その男が『リョウヘイ・ダァァァイナミックッ!』と声を挙げると同時に、

大振り気味に振り下ろされた剣が『ベノム・ローズ』を斬り裂いた。


『ギュィィィッ!』と『ベノム・ローズ』の断末魔を聞きながら、

こちらに振り向いたその男は『ブゥンッ!』と紫色に淡く光る剣を振って見せた。


『ドカーンッ!』と何故か轟音を響かせて爆発すると、

唖然とする私に対し『Ⅴサイン』をして見せたのだが・・・。


この時の私は色々と疑問があった・・・。

まずは斬っただけなのに何故『爆発』したのかと言う事・・・。

そして何故、いちいち動きが派手なのかと言う事・・・。

最後に、何故この男は『決めポーズ』をしたのかと言う事・・・。


私にとってはこの男の行動は謎だらけで、

ただただ・・・疑問に思う事しかなかったのだ。


※ これは後日の事だけど・・・。

この時の疑問をユウナギ様にぶつけたら、こんな回答が返って来た。


『・・・そう言うもんでしょうが?』・・・との事。

謎過ぎる・・・。



不思議そうに首を傾げる私に気付いたのだろう。

小さなその動物が笑みを見せながら話しかけて来た。


「ハッハッハッ!驚くのも無理はねーぜ・・・ベイビー。

 あいつはな~?派手好きなバカなんだ」


「は、派手・・・好き?」


「あぁ~・・・そうだ。

 余計だと思える事や無駄な動き・・・。

 相棒に言わせりゃ~、それは何でも『特撮魂』とか言うらしいぜ?」


「トクサツ・・・ダマシイ?」


「あぁ、それが何なのか俺にも全然わからねーが、

 相棒にとっては大切なモノらしい・・・ぜ?」


「・・・・・」


全く理解出来ず、話を余計に聞いたばかりに、

混乱する私は益々拍車が掛かり頭痛すら感じた。


すると突然・・・。


今まで沈黙し続けていたシシリーが、

『爆散』した『ベノム・ローズ』を見つめながら口を開いた。


「・・・折角此処まで育てたってのに」


しゃがみ込み『爆散』した『ベノム・ローズ』の一部に触れたシシリーは、

立ち上がると同時に笑みを浮かべるその男に怒りの形相を向けた。


「坊や・・・ただじゃ済ませないわよ?」


「・・・いいぜ~♪

 熱い展開になって俺も滾って来るぜ~♪」


「フンッ!たかが人族風情がっ!」


「うるせーんだよっ!

 とっととかかって来やがれってんだっ!

 この・・・魔族風情がっ!」


「・・・殺すっ!」


そう言ったと同時にシシリーの身体から魔力が溢れ出した。

その膨大な魔力量に私は呟くように『私じゃ勝てなくて当然ね』と呟いた。


するとシシリーを正面に見据えていた男から声が挙がった。


「ヒューマッ!お前はその子をしっかりと守ってやれよっ!」


熾烈な戦いが始まるであろうこの時に、

その男は後方に居る私を気遣い声を掛けたのだった。


「よっ、余所見をしないで下さいっ!

 シシリーの強さはっ!」


その男の気遣いに苛立ちを感じた私は、

咄嗟にそう叫び、男に注意喚起した。


だが、その男は私の叫びに対し『あっはっはっはっ!』と笑い声を挙げ、

『まぁ~見てろよ♪』と、わざわざ振り返り、

顔を顰める私にウインクをして見せたのだった・・・。


『なっ!?』と私は驚きつつも次第に顔が熱くなるのを感じると、

思わず両手で顔を隠してしまった。


私が顏を覆っていて冷めるのを待っていた時、

突然シシリーから『行くわよっ!坊やっ!』と怒声が響いた。



『ヒュンッ!』と突然風切り音が聞こえるも、

男は難なく躱し、笑みを浮かべその態度に余裕すら感じた。


「へっへっへっ・・・いいね~♪」


そう言って重心を落とした瞬間・・・。

一気に駆け出したその男の身体は何度か淡く光りに包まれ、

それが『身体強化系』だと伺えたが、その程度で魔毒の女王がどうにかなるとは、

私の経験上、無駄だとわかっていたのだが・・・。


その男の強さは、私の想像以上だった・・・。


「小賢しいーっ!」


「うっせーんだよっ!」


『ガキン、ガキン、ガキーン』と、

何度か激しい衝突音が聞こえると男は何故か一度剣に視線を移した。


そしてシシリーから距離を取りながら魔法による攻撃を放ったのだが、

どうやらその魔法による攻撃は牽制が目的だったようで、

躊躇う事無くシシリーとの距離を取り着地した・・・。


そして『シュタッ!』と着地したその男は、

手に持つ剣を見ながら肩を竦め口を開いた。


「ん~・・・やっぱ想像通り・・・硬てーな?」


私はスキルを使用し視覚を強化すると、

男が手に持つ剣を注意深く見た。


「えっ!?け、剣の刃が・・・ボロボロにっ!?」


私の声が聞こえたのか、シシリーの視線がこちらに向くと、

手に持つ『バラの花』チラつかせながら高笑いをした。


「オォ~ホッホッホッ♪

 坊やも少々やるようだけど・・・。

 そんななまくらな剣如きで、私の『バラ』と対等になるとでも?

 私の可愛い『ベノム・ローズ』を倒したからと言って、

 私の『バラ』に傷を付けられると思うなっ!」


そう不気味な笑みを浮かべ言ったシシリーに、

今度は男がニヤけながら、シシリーと同じように高笑いをした。


「おぉ~ほっほっほっ~♪

 こんな『大特価品の剣』をボロボロにした程度で、

 それだけ笑ってもらって・・・。

 こいつも中々のもんだよな~?

 『ベノム・ローズ』とか言ったっけか~?

 あの化け物・・・。

 こんな剣で真っ二つになるって、どんだけ~♪だよ?」


「だ、大特価品っ!?」


「あぁ~・・・それだけご満悦に笑ってもらえりゃ~、

 こいつも浮かばれるってもんよ~♪」


ボロボロになった剣にそう語り掛けるように言ったその男は、

『ご苦労だったな?』と再び剣に声を掛けると、

その男の手の中で『パキンッ!』と音を立てて折れたのだった。


そして男は無言でシシリーを視線の先に捕らえ、

睨みを利かせながらマジックボックスを開き、

その中から私が見た事もない形状の武器を取り出した。


『クルクルクルッ!』とその武器を回転させながら、

まるでその武器をシシリーに自己紹介するように声を挙げた。


「こいつの名は『閻魔』・・・。

 俺が鍛えた一級品の自慢の10本の内の一振りで、

 てめーをぶった斬る・・・『刀』だ」


「じ、自分で・・・?は、はぁっ!?」


「『カタナ』・・・?」


そう呟く私に、ヒューマと呼ばれた小さな動物は、

サングラスをキラリと光らせながら答えた。


「何でもカタナってヤツは、相棒の国の武器らしくてな?

 剣よりも鋭くしなやかで強靭な剣らしい・・・」


「・・・しなやかで強靭?

 でもそれって、矛盾しているんじゃ?」


「・・・俺にもよくはわからねー。

 だがな、ベイビー・・・。

 相棒のツラをよく見てみな?

 こんな魔界の地で魔毒の女王を前に、

 普通あんな不敵な笑みを浮かばせるヤツなんざいねーだろ?」


ヒューマが言った通り・・・。

その男の顔は不敵な笑みを浮かべており、

剣をボロボロにされたばかりの男の顔には見えなかったのだった。



そしてその若い男は目をギラつかせながら言った・・・。


「ってな事で・・・だ。

 続き・・・やろうぜ?」


「・・・フンッ!

 坊や・・・人族にしては悪くないわね?

 ほんの少し・・・殺すのが惜しくなっちゃうわね?」


そう言いながらシシリーはその男を舐め回すように見ていた・・・。

そしてそんな視線を向けられたその若い男は、

『フンッ!』と不敵な笑みを崩す事無くこう言った。


「・・・なんだ?今から負け惜しみか?」


『っ!?』


その男の言葉に、私とシシリーは驚き言葉を失った。


するとその言葉に反応したヒューマが、

『ガハハハハッ!』と大きく笑い葉巻を吹かしながら言った。


「よう、相棒~♪

 本当の事を言ったら、魔毒の女王様はご機嫌斜めになっちまうぜ?

 相棒も男なら少しは気を遣ってやるのが男としての務めってもんだぜ?」


「おぉぉ~♪まじかっ!?

 はっはっは~♪悪りぃ~な・・・。

 最近やっと『ビキニアーマー』に慣れ始めたところでよ~、

 『爆裂思春期』真っ只中の俺には、まだそんな気遣いは出来ねーな~♪」


『っ!?』


このヒューマの言葉に驚き目を剥いたのは私だけではない・・・。


シシリーもその言葉に目を剥き、怒りの形相へと変わると、

『死ねぇぇぇぇっ!』と叫び声にも似た声を挙げながら、

後方に居る私達に向かって突進して来た・・・。


だが、一瞬・・・。

男の鋭い眼光が鈍く光ったと同時に、

こちらに向かってくるシシリーの前に躍り出た・・・。

そして『閻魔』と言う名を持つその『カタナ』の切っ先を向け言った。


「相手・・・間違えてんじゃねーよっ!」


「っ!?」


『ガキンッ!』と再び武器同士の衝突音が聞こえ、

男の鋭い眼光に何かを感じたシシリーは咄嗟に身を翻し後方に飛び、

『ふぅ~』っと安堵息を漏らしていた・・・。


「・・・へぇ~♪いい勘してんじゃねーか?

 一手ほど遅ければ、てめーは俺に斬られていただろうにな~?」


「・・・クッ!」


楽し気にそう言った男にシシリーは『チッ!』と舌打ちをし、

額に浮き出た汗を拭う仕草を見せた・・・。


「さぁ、シシリーさんよ~?

 準備運動はもう・・・このくらいでいいよな~?」


『カタナ』を小脇に構えたその男の声に、額からは再び浮き出した汗は、

シシリーの頬を伝いながら流れ落ち『ゴクリ』と喉を鳴らしていた・・・。


そしてより一層・・・。

男の重心が低くなったと同時に駆け出すと、

シシリーは『バラの花』を空へと掲げながら声を挙げた。


「ローズ・デビルウイップッ!はぁぁぁぁっ!」


『ヒュンッ!』と風切り音が響くも、

駆け出した男を捉えるには至らず、シシリーは『チッ!』と再び舌打ちをした。


舌打ちをし、あからさまに不機嫌になったシシリーに、

その男は笑みを浮かべながら私には意味の分からない事を言った。


「・・・フッ、綺麗なバラには棘があるんだっけか?

 つーか・・・見たまんま、棘だらけみたいだけどな~?」


そう言った男は私には大層ご満悦に見えた・・・。


私にはその言葉の意味までは理解出来なかったが、

呟くように言った言葉を私は聞き逃さなかった。


「・・・一度言ってみたかったんだよね~♪」



それからすぐにシシリーの猛攻は続き、

まさに熾烈な攻防が続いた・・・。


『ヒュンッ!ヒュンッ!ヒュンッ!』


シシリーの『茨の鞭』が幾度となくその男へと振るわれたが、

それをまるで軽業師のようにアクロバティックに避け続けていると、

次第にシシリーの表情が曇り始めた・・・。


「クゥゥゥゥっ!?どうしてっ!?」


私にはその男はまるで楽しむかのように笑みを浮かべながら攻撃を躱し続け、

自分が攻撃をするのを忘れてしまっているのかと思えるほどだった。


「あらよっと~♪へっへっへっ~♪

 うわっとぉぉぉっ!?危ねー危ねー♪

 今の一撃は悪くなかったぜ~?

 恐らくヘルメットがあっても即死だったかもな~♪」


「お、おのれぇぇぇぇっ!ま、また訳のわからない事をっ!?

 この虫ケラァァァァッ!」


攻撃する気配もなく、ただ避け続け楽しむその男の姿に、

シシリーは激怒し、その美貌が失われるほど顔を歪め、

浮き出た汗が周囲に飛び散っていた・・・。


そして右手で『茨の鞭』を振り続ける中、

シシリーは左手を地面に向けながら開き魔法を放った。


『ガーラント・チェインッ!』


『ズガッ!』と音を立てながら地中から出現した魔法は、

『花と葉』などが編み込まれた1本のロープのようなモノが飛び出し、

 余裕な表情を浮かべ躱し続ける男を襲った。


『ギュルギュルギュルーッ!』


『うわっっとぉぉぉっ!』


突然出現したその魔法に、男は慌てつつも躱し、

地面に着地するとそのギラついた視線をシシリーへと向けた。


「・・・今のはまじで悪くなかったぜ?

 『本気』でやりゃ~出来んじゃねーか♪

 そんじゃあ~、シシリーさんよ・・・今度はこっちから・・・行くぜ?」



そう呟いた瞬間だった・・・。


『っ!?』


一瞬にしてシシリーの懐に飛び込んだその男は、

笑みを浮かべながらシシリーの顔を覗き込み口を開いた。


「近くで見ると、いい女じゃねーか~?

 勿体ねーな~?」


「きっ、貴様っ!?」


『キンッ!キンッ!キンッ!』


『ドシャッ!』


幾度となく高速戦闘が続く中、

後方へ着地したシシリーは呼吸を荒げながら男に尋ねた。


「ぼっ、坊や・・・はぁはぁはぁ・・・。

 わっ、私と・・・此処まで対等に戦える坊やは・・・

 はぁ、はぁ、はぁ・・・一体何者・・・なのよ?」


シシリーの問いに男はニヤリと笑みを浮かべながら『閻魔』を肩に担ぐと、

親指を自分に向けながら、何故か自信満々に名乗ったのだった。


「フンッ!俺か~?

 そんなに教えて欲しいのなら、教えてやんぜ~。

 そんじゃーよ・・・聞いて驚けーっ!

 俺の名は『アサノ・リョウヘイ』

 只今、思春期真っ只中の17歳・・・。

 そう・・・あれはもう2年前だ・・・。

 無礼極まりないどこぞの『クソ女神』に無理矢理連れて来られた・・・

 この俺が只今絶賛売り出し中の・・・『勇者様』だ♪」


「・・・?

 なっ!?・・・ゆ、勇者っ!?

 ぼ、坊や・・・が、勇者っ!?

 で、では・・・ぼっ、坊やが南の国に突然現れ、

 『魔王軍』と派手にやり合ってるって言う・・・。

 坊やがその・・・勇者だと言うのっ!?」


「突然かどうかは知らねーし、

 派手にかどうかもわからねーが・・・。

 気が付いたらその『勇者』ってヤツになっていたんだよ」


「な、なって・・・いたっ!?

 成っていたって・・・おっ、可笑しいじゃないっ!?」


「何がだよ?

 何か文句でもあんのか・・・こらっ!」


「あ、あんた・・・神力なんて一度も・・・」


若い男の返答にシシリーが困惑している中、

私もあの男の正体を知り驚きを隠せなかった。


「・・・えっ!?あ、あの人・・・ゆ、勇者なんですかっ!?」


驚く私にヒューマは無言でその小さな親指を立てて見せた。


「・・・う、嘘、や、やっぱり私の他にも」


私が目の前で戦う男が『勇者』だと知り動揺している中、

シシリーとその男・・・。

『アサノ・リョウヘイ』と名乗った勇者に、

シシリーは『ふざけるなぁぁぁっ!』と絶叫しながら攻撃を繰り出した。


『シャァァァァァッ!』と、

いつの間にか『茨の鞭』が2本になり、

それを躱しながら接近するその『勇者』との攻防は続いた。


『こ、この私が・・・この私がっ!?

 はぁぁぁぁぁっ!』


『ヒュンヒュンッ!』


「当たるかよっ!うぉりゃぁぁぁっ!」


「クッ!?わ、私が押されるなんてぇぇぇぇっ!?」


「ほらほらほらっ!まだまだ行くぜぇぇぇぇぇっ!

 シシリーさんよぉぉぉぉっ!」


そう言った『勇者』はシシリーに勝るとも劣らない魔力を放出すると、

シシリーが驚愕の声を挙げた。


「わ、私と変わらないそ、その魔力量はっ!?」


「けっ!お前程度と同じだって~?

 てめーの目は節穴かよ?」


「ぶっ、無礼なっ!」


「あぁ~あ・・・あんたの何気ない言葉に、

 繊細な俺はちょいとばっかり傷付いちゃったからよ~・・・。

 ここらで終わりにするわ・・・」


「ふっ、ふざけるなっ!」


「行くぜぇぇぇっ!」


駆け出した『勇者』は不敵に笑みを浮かべながら、

フェイントを織り交ぜ、その『閻魔』と言う『カタナ』で、

シシリーの猛攻を弾き返していた。


『ヒュンッ!ヒュヒュンッ!シュルシュルシュルッ!

 ヒュンッ!ヒュヒュンッ!ギュルギュルギュルッ!シュッ!』


『カタナ』で弾き、攻撃を躱し・・・。

 シシリーの繰り出す『茨の鞭』による猛攻に怯む事はなく、

そしてまた『勇者』は焦る様子など微塵も見せず余裕で捌きながら接近した。


「わっ、私の・・・私の攻撃がっ!?」


「シシリーさんよ~・・・あんたの実力はそんなもんかよっ!?」


「なっ、何だとっ!?

 このシシリーを愚弄するとはっ!」


「クックックッ・・・」


そしてシシリーの懐に辿り着いた『勇者』の眼光が鈍く光ると、

『格の違い』を見せつけるかのように声を挙げた。


「遅せーんだよぉぉぉっ!

 うぉりゃぁぁぁぁっ!」


『シュインッ!』


「きゃぁぁぁぁっ!」


『勇者』の一撃がシシリーの肩を斬り裂き、

紫色の鮮血が吹き出した。


片膝を着き顔を顰めるシシリーに勇者は、

『まだこいつの力を見せてはいねーが・・・』と言いながら、

『閻魔』を納刀したその瞬間『カタナ』と言う武器は手の中から消失した。


「・・・クッ!き、貴様・・・どうして武器を?」


傷口を押さえ苦悶の表情を浮かべるシシリーに『勇者』は笑みを見せ、

『俺ってさ・・・』と、口を開いていった。


「『特撮魂』ってのを見せておかねーとよ?

 今後、激しくなるであろう『魔王軍』と戦う為のモチベが上がらねーかもと・・・    

 そう・・・思ってよ?」


「な、何をさっきから、

 訳の分からない事ばかり言っているのよっ!?」


「・・・まぁ~、見てな♪

 俺の『特撮魂』の神髄ってヤツを見せてやんぜ・・・。

 剣と魔法の世界に俺の『特撮魂』は爆発寸前ってな~?」


『勇者』はそう言いながら、マジックボックスから『あるモノ』を取り出すと、

ソレを自慢げにシシリーに見せた。


その取り出したモノは、『黒い板状』のアイテムで、

大きさは10cmほどあり、表面には白く何かの『紋章』が刻まれていた。

そして見た限り、とても詳細に・・・

且つ精密にその『紋章』は描かれていた・・・。


「この黒光りする『板状の魔石』は、俺が開発し加工した『魔道具』でな?

 これを俺のこの普段から身に着けている、

 ミスリルで出来たベルトのスロットに装着すると、

 俺の中に内包されている膨大な魔力が強制的に一気に解放されんだよ」


「な、何をバカな事をっ!?

 そ、それじゃ~坊やは『魔力暴走状態』にっ!?

 坊や・・・貴方・・・死ぬわよ?」


『勇者』は『フッ』と首を振りながら笑って見せると、

不敵な笑みを浮かべながらこう言った・・・。


「魔力暴走なんてもんはな~?

 俺にとっちゃ~屁でもねーんだよ・・・多分だけど・・・」


「っ!?」


「因みにだが・・・ちょいといかしたこの『魔石の名』は・・・。

 『リミット・ブレイカー』

 俺の『魔力暴走』を誘発するのと同時に、

 『完全解放』した俺の『魔力量』を即座に計算し、

 ギリギリのラインで制御する・・・。

 それを開発したのが・・・この俺っ!

 『天才』たる『開発者』の『勇者様』だっ!」


「・・・なっ!?

 そ、そんな・・・そんなモノをっ!?

 き、貴様如き・・・人族風情がっ!?」


そう絶叫するシシリーに『勇者』は笑みを見せると、

突如豹変し鋭い眼光を向け吠えた。


「てんめ~・・・さっきからグダグダ言いやがって・・・

 ・・・人間様を舐めんじゃねぇぇぇっ!」


「ニ、ニンゲン・・・?」


「頃合いだ・・・これでキメるぜ。

 シシリーさんよ~・・・5秒間だけ・・・付き合えよ」


「・・・ご、5秒?」


『勇者』は『板状の魔石』をベルトのスロットに挿入すると、

純度の高い『ミスリル』で形成されたベルトのバックルが黒く染まり、

何かの紋章が刻まれた白い色の装飾が輝きながら金色に変色した・・・。


そんな得体の知れない『勇者の力』にシシリー自身の『魂』が警鐘を鳴らすと、

咄嗟に『茨の蔦』で出来た円形状の結界を展開し、

更に・・・膨大な魔力をその結界に纏わせた。


「い、いくら何でも私の魔力を纏わせ、

 より強固にしたこの結界は破れないはずっ!

 わ、私が・・・このシシリーがこんな坊や如きに負けるはずないわっ!」


そう口にしてはしてみたものの、

シシリーの『魂の警鐘』は鳴り止まず、恐怖だけが身体を支配し始め、

気が付けばシシリーの身体は『ガタガタ』と小刻みに震えていた・・・。


『勇者』は真剣な眼差しを結界を張り籠るシシリーに向け、

『リミット・ブレイカー』を更に『ガチン』と押し込みながら、

『バーストモードッ!』と吠えると、

そのベルトのバックルから無機質な女性の音声が流れ始めた・・・。


『マジック・バーストモードまでのカウントダウン・・・

 3・2・1・・・魔力完全解放・・・レディ?』


「フッ・・・行くぜっ!バーストモードッ!」


『カウント・スタート』


『バシュッ!』


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』


『5』


カウントダウンが始まったと同時に、

『勇者』の身体から膨大な魔力が吹き出した・・・。


『勇者』はそれと当時に駆け出すと、

一気に高くジャンプし、結界の中に籠るシシリーの位置を、

『鑑定』を使用し突き止めた。


『4』


「何処に居ても同じだぜっ!

 そんな結界如きっ!

 俺の必殺技からは逃れられねーぞぉぉぉっ!」


『3』


その声が聞こえたシシリーは、その恐怖心から己自身にも魔力を纏わせ、

防御態勢を取り身構え『わ、私は、だ、大丈夫っ!』と、

まるで念仏でも唱えるかのように繰り返していた。


「喰らえっ!ひっさぁぁぁつっ!

 『ブレイブ・バースト・スマーシュッ!』」


『2』


『勇者の咆哮』と同時に急速に降下し始めながら蹴りの態勢に入ると、

『勇者の足』が紫色の光に染まり、

躊躇する事無くシシリーの強固な結界に向け放たれた。


『うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!』


そして『ガシュッ!』と衝突音が響かせながら、

シシリーの強固な結界は紙切れ同然の如く貫かれ、

その中で防御態勢を取るシシリーに炸裂した。


『ドガッッ!』


『1』


『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!』とシシリーの断末魔が響く中、

『勇者の必殺技』を喰らい蹴り飛ばされると、

己の結界を突き破り『魔毒城』の外壁にぶち当たり、

粉々に城壁が崩れ落ちた・・・。


『ヒューン・・・ドカーンッ!』


「かはっ!」


『0・・・タイム・アウト』


『ブシュゥゥゥ』


「ぐぁっ!」


『勇者』はその身体から蒸気のようなモノを噴き出すと、

『がくっ』と崩れ落ち片膝を着いたが、

ヨロヨロとしながらも立ち上がり振り向いた。


『勇者』はキツそうな表情を浮かべながらも『イェーイッ!』とおどけて見せ、

再び『Ⅴサイン』をして見せたのだった。


(なんて無茶な事を・・・この人は・・・)


そんな感想を抱いた私と同意見だった者が居たようで、

そんな『勇者』の姿を見たヒューマが、

『無茶しやがって・・・』と、どこか辛そうな表情を浮かべて居た。


「くぅぅぅ・・・。

 や、やっぱ一気に魔力を消費すると、きっっっついな~・・・。

 カッコイイんだけどな~・・・その後がなぁ~?

 ここで『特撮魂』見せずにどーすんだって話でさ~?

 でもまぁ~、トライ&エラーって事で・・・勝ったからまぁ~いっか~♪」


轟音響き『勇者』の笑顔が向けられる中・・・。

それを目にした私は驚き『力の差』を認識せざるを得なかった。

幾度となく私はシシリーに挑み、かすり傷すら与えられなかったのに、

この男・・・いや、この『アサノ・リョウヘイ』と言う男は・・・。



それから少しして・・・。

『アサノ』が城の瓦礫に埋まるシシリーにゆっくりと近づいて行く・・・。


そして埋もれるシシリーを気遣いの為か、

ただの安否確認かは私には理解出来ないが声をかけたのだった。


「・・・もしも~し、生きてるか~?シシリーさんよ~?

 急所はわざと外してあるから死んではいねーはずだ。

 つーか・・・そんな大したダメージじゃねーだろ?

 ギリ・・・セーフなはずだ・・・多分・・・知らんけど・・・。

 だって俺っ!すっげー手加減したしっ!

 そんな自分を誉めてやりたいっ!」


すると突然・・・。


『シュッ!』と瓦礫の中から何かがシシリーの口の中から放たれると、

微動駄にしなかった『アサノ』の頬に赤い筋が一つ刻まれた。


『アサノ』はその赤い筋を親指で触れ確認すると、

『フッ』と笑みを浮かべた。


それを見てボロボロになったシシリーが瓦礫の中から這い出し、

笑みを浮かべながら『今のはね・・・』と口を開き説明した。


「・・・わ、私の特別仕様の・・・毒よ・・・

 ぼ、坊やはもう・・・その毒からは・・・」


そう引き攣った笑みを浮かべながら説明し始めた時、

『アサノ』は驚くどころか、満面の笑みを浮かべてこう言った。


「あっ、そうだったのか?

 すまね~な~?俺・・・毒耐性・・・カンストしてんだわ♪

 悪りぃ~悪りぃ~♪

 つーか・・・それだけ元気あるんだったら、

 もうちょい削っておいた方が良かったかもな~?

 いや~・・・俺もまだまだだな~・・・反省反省っと♪」


「・・・なっ!?カ、・・・カンスト?」


そう呟いたシシリーは力が抜けぐったりすると、

突然苦笑し始め、その身体に走る激痛に悶絶した・・・。


「いやいやいや・・・いくら手加減したっつってもよ~

 てめーの身体は今、ボロボロだろうがよ?

 そんな大声で笑ってりゃ~そうなるわな?」


「・・・たっ、たかが人族の勇者に・・・。

 それもその力を解放させる事も出来ずに・・・フフフッ・・・」


「フッ・・・。

 俺をそんじょそこらの『勇者』と一緒にすんじゃねーよ。

 気合いがちげーんだよっ!気合いがよっ!」


「フフフッ・・・そうね・・・。

 き、気合・・・ね。

 それが・・・わ、私の敗因って事になるのね・・・フフフッ」


「いやいやいや、ちげーだろ?」


「・・・違う?」


「あぁ、てめーは俺の気合いに負けたんじゃねーよ。

 てめーが俺に負けた原因は只1つっ!

 この俺が『天才』だからに決まってんだろうがっ!」


「・・・はい?

 て、てん・・・さい?

 プッ・・・フフフフッ・・・ハハハハッ・・・アァ~ハッハッハッ!」


「・・・何だろ?こいつ・・・すっげー無礼なんだが?

 ねぇ、やっちゃう・・・?やっちゃってもいいよな?」


顔を引き攣らせながらそう言った『アサノ』に、

相棒と呼び合って居たヒューマは全力で止め、

私はその光景を見ながらハラハラしていた・・・。


そしてその光景を見ていたシシリーは、

激痛に顏を歪めながらも一頻り笑い終えると、

私の方に視線を向けた。


その向けた視線にシシリーの意図を察した『アサノ』は、

私を呼び寄せると激痛に耐え苦悶しながらも口を開いた。


「お、お嬢ちゃんの名は・・・確か・・・」


「はい、私の名はリアンダーです」


「リアンダー・・・ね。わ、わかったわ。

 まぁ、見ての通り・・・私は成す統べなく・・・負けたわ」


「・・・そう・・・ですね」


「で・・・ね?

 最後を迎える前に・・・貴女に話しておきたい事があるのよ」


「・・・話しておきたい事?」


その会話を聞いていた『アサノ』は少し眉を寄せると話に入ってきた。


「ちょい待てよ?

 てめー・・・いくら俺に負けたからって、

 素直過ぎるんじゃねーか?

 てめーの様子からじゃ・・・

 この子を随分といたぶっていたみたいじゃねーか?

 その割りに・・・この子にどこか気を遣っていやがる・・・。

 なぁ~・・・シシリーさんよ~?

 何か訳があんだろ?

 その辺のところ・・・聞かせろよ」


しゃがみながらそう言った『アサノ』に、

シシリーは軽く目を閉じながら『そうね』と呟いた。


「実はただ、いたぶっていただけじゃないわ。

 でもまぁ~・・・楽しかった事は否定しないけど・・・」


「否定しねーのかよっ!?」


「フフフッ・・・。

 別にそんな事・・・どうでもいいじゃない?

 まぁ、この子には少し伝えたんだけど、

 やはりこの子は女神に『勇者の力』を剥奪されていたわ」


そう話すシシリーに『アサノ』は私に視線を向け返答を求めて来ると、

私は無言ながらそれに頷いて見せた。


「・・・まじか?

 女神ってのは・・・どいつもこいつも・・・」


「フフフッ・・・。

 でもね?それだけじゃないのよ・・・」


「えっ?」


そう声を挙げた私にシシリーは私の目を真っ直ぐと見つめると、

衝撃的な話を口にした。


「貴女・・・。

 『女神の呪い』を受けてしまったみたいね?」


『女神の呪いっ!?』


『アサノ』もその言葉を口にはしたものの、

思い当たる節はなく、

いつの間にか『アサノ』の肩に乗っていたヒューマのサングラスが鈍く光った。


するとシシリーは魔界の空へと視線を向けながら、

憂鬱そうにこんな話しをし始めた・・・。


「どうしてわかっるかって言うと・・・。

 それは私が『元・人族』であり、

 女神の反感を買った私は『女神の呪い』を受け魔族となったからなのよ」


「お前・・・人族だったのか?」


「・・・えぇ」


その話に『アサノ』は『・・・クソ女神がっ!』と怒鳴り、

ヒューマは『・・・・・』無言で険しい表情をしていた。


するとシシリーは何故か無言で居るヒューマを凝視し、

一瞬その瞳が何かを捉えていたようにも見えたが・・・。


私は・・・。


「・・・どこまで人族をっ!

 命を一体なんだとっ!?あ、あんなのが・・・女神だなんて・・・」


苦悩する私にシシリーは哀し気な笑みを浮かべながら言った。


「この『女神の呪い』ってのは、普通の鑑定は勿論の事、

 聖職者の鑑定ですら『検知』出来ないときてる・・・。

 でもね?

 貴女と同じ境遇の・・・『女神の呪い』を受けた者なら・・・

 自然とわかるモノなのよ・・・。

 そしてこの子の『女神の呪い』って言うのは、

 『これから先、死ぬ事が出来なくなる・・・。

 そしてもう1つ・・・。

 貴女の年齢は『14歳』で永久的に固定されているみたいね?」


「じゅ、14歳だぁ~っ!?」


「えぇ・・・この子は年齢を14歳で固定され、

 しかも・・・種族は『アンデッド・デイウォーカー』と言うレアな特殊個体よ」


「『アンデッド・デイウォーカー』だぁ~?

 一体何だってんだよ・・・ソレは?」


「太陽の下でも問題なく行動出来て、

 通常の人族のように生きてはいける・・・

 でもね?そんな都合のいい話でもないのよ。

 普通の人族と同じように『食物の摂取』は勿論だけど、

 それとは別に彼女は定期的に『人族の血液』を摂取しなければならない・・・」


「・・・ま、まじかよ」


「・・・・・」


眉間に皺を寄せ身体を震わせる私に、

視線を向けた流石の『アサノ』も言葉が掛けられないで居た・・・。


そしてそう一通り話し終えたシシリーは満足したのか、

『アサノ』に視線を向け言った・・・。


「さぁ、勇者・アサノ・・・。

 私の要件は済んだわ・・・。

 坊やは私に・・・全力の『魔毒の女王・シシリー』に勝利した。

 しかも・・・圧倒的な力の差・・・でね?

 そんな強い坊や・・・いえ、男に負けて、

 今の私は逆に清々しいくらいよ・・・。

 だから『勇者・アサノ』・・・止めを刺しなさいっ!

 さぁっ!早くっ!」


そう言いながら目を閉じたシシリーに『アサノ』は溜息を吐くと、

とても面倒臭そうに言った。


「やれやれ・・・何が全力だよ・・・ふざけんな・・・。

 それにだ・・・俺の事を『勇者』とか『アサノ』とか言ってんじゃねーよ?

 俺の事は『リョウヘイ』と呼んでくれ・・・。

 勿論・・・あんた・・・。

 いや、リアンダーだっけか?

 あんたも俺の事はそう呼んでくれ・・・」


そう言ったリョウヘイは私を見ると、

続けてシシリーに口を開くが少し怒っているようだった。


「つーか、てめー・・・シシリーッ!」


「な、何よ?」


「てめーは何でこんな時にも上から目線で偉そうなんだよ?

 あぁん?ぶっ飛ばされてーのかっ!?」


リョウヘイは表情筋をヒクヒクさせながら声を荒げていると、

肩に乗るヒューマが気だるそうに口を開いた。


「相棒・・・もうぶっ飛ばしただろ?

 『マジック・バースト』で頭のネジでも飛んだのか?」


「い、いや・・・相棒。

 真面目に突っ込むのは止めてくれ・・・。

 わざと・・・だから・・・わざとだからな?

 つーか、『バースト・モード』は関係なくね?」


「・・・フンッ」


そんな会話をしているとシシリーは『何故殺さないのか?』と、

鋭い眼光を向けながらそう尋ねて来た。


そんなシシリーの問いにリョウヘイは肩を竦ませ、

呆れたような表情を見せ答えた。


「・・・お前は別にそこまで悪いヤツじゃねーよな?

 多少は楽しんではいたみたいだけどよ。

 リアンダーの事をちゃんと見てた・・・。

 だからリアンダーの事も把握出来たんだろうが?

 それに決着つけるなら俺じゃなく、リアンダーとだろ?

 俺はこの戦いに勝手に割り込んだだけだからな~・・・

 あんたの『生殺与奪の権利』は・・・俺にはねーよ」


リョウヘイの言葉に私とシシリーは唖然としたが、

この変わり者の勇者リョウヘイに私とシシリーは笑ったのだった。



それから・・・。


ボロボロになったシシリーを回復させたリョウヘイは、

私とシシリーに今後どうしたいかと尋ねて来た。


そしてシシリーはその問いにこう答えた。


「・・・元は人族とは言え、今の私は魔族・・・。

 だから人族の元で生きる事は出来ないわ。

 それに私は・・・敗北した身。

 どのツラ下げて『魔毒の女王』に生きて行けと言うのよ?」


少し哀し気にそう答えるシシリーに、

リョウヘイは笑い、驚くシシリーにこう言った。


「・・・そんな事、気にしてんじゃねーよ。

 つーか、どうしても気にするってんなら・・・だ」


そう言ったリョウヘイはニヤりと嫌な笑みを見せると、

顔を引き攣らせ、たじろぐシシリーにこう言った。


「・・・シシリー、俺は今後更に激しく『魔王軍』と殺り合う事になる。

 だからよ・・・俺に手を貸せ。

 まぁ、お前は魔族だから嫌だってんなら・・・無理強いはしねー。

 俺としては勿論・・・魔族としてのお前じゃなくて、

 俺の仲間の1人・・・シシリーとして力を貸して欲しいんだがな?」


「・・・えっ?」


突然の話に流石のシシリーも驚きを隠せず、

『私、魔族なんだけど?』と改めて答えると、

何故かジト目を向けられていた・・・。


『だから何だよ?』っと・・・。


挙句の果てにリョウヘイはこう言った。


『てめーは俺に負けたんだから、

 自動的にお前は俺の仲間になるんだよっ!

 お前は知らねーのか?

 ピッ○ロやベジ○タもそうだっただろっ!?

 強敵と書いて『友』と呼ぶって事をよ・・・』


そう真剣な眼差しを向けたリョウヘイに、

何を勘違いしたのか、シシリーは何故か顔を赤らめ身を捩らせていた。


後で聞いた話だけど、この『魔毒の色ボケ女王』は、

あの時のユウナギ様の言葉が脳内変換されこう聞こえていたらしい。


『俺に負けたお前は、自動的に俺の女だ・・・』と。


・・・バカなの?

だいたい口数的にも合ってないでしょ?

それに『ピッ○ロとベジ○タ』って・・・多分人族なんだろうけど、

その人族達の事が聞こえていなかったって言うの?


・・・まぁ、別にそれはどうでもいいけど。


コホン・・・。



そしてリョウヘイは私に向き直ると、

私に対してもこう質問した。


「で?リアンダーは・・・お前はこれからどうするんだよ?」


「わ、私には・・・もう、還る国は・・・」


そう答える私にシシリーが私の今の状況を説明し、

『うーん』と唸って見せたリョウヘイは『あっ、それならさ~』と、

何故かとても悪い顔をしながら楽し気に口を開いた。


「・・・ならよ?

 ついでにリアンダーの居た国の王・・・。

 そいつを『暗殺』するってのはどうよ~?

 今まで悪い事をやって来たんだよな~?

 そんなクソ国王・・・必要ですかね?

 ぼくぁ~・・・そんなクソ国王、いらないと思うんですけどね~?

 それが世の為人の為になるんじゃないでしょうかね~?

 ってな事で・・・そこんところ・・・皆さんはどうよ?」


満面の笑顔を向け、そう楽し気に言ったリョウヘイの目は笑っておらず、

それどころか憎悪に満ち、次第にそれが繕った笑顔を歪めた。


リョウヘイの話に相棒であるヒューマは『それは楽しそうだな?』と言い、

シシリーは『いいじゃない♪とても面白そうね~?』と何故か止めず、

リョウヘイの話に乗っかって来た・・・。


(・・・こ、これは本気みたいね?

 仮にもこの男は勇者であるにも関わらず、

 平気で・・・しかも真面目に『暗殺』と言った・・・。

 そしてそれに乗っかるヒューマや魔族であるシシリーすらも、

 勇者で在るはずのリョウヘイの話に・・・。

 フフフ・・・変な勇者様ね・・・)


楽し気に具体的な話をし始めたみんなに、

苦悩する私はバカらしくなった。


そして『ふぅ~』と・・・。

息を吐いた私は悪巧みをするみんなにこう言った・・・。


「コレを見て・・・」


私は咄嗟に『城とその周辺の地図』を取り出すと、

それを取り囲むように、皆が円形に地べたに座った。


「・・・この城の警備はね」


こうして私はリョウヘイに保護される形となり、

今は名を変え『ユウナギ』と名乗る『元・勇者様』に私は仕える事になった。



そして或る日の満月の夜・・・。


『ヒュゥゥゥゥ』っと風が吹き、王国の城を見下ろす崖の上で、

満月に照らされた黒い影が静かに揺らめいていた・・・。


「・・・さぁ、てめーら、仕事の時間だ・・・。

 ターゲットはクソ国王とそれを護る近衛兵。

 そして後1人・・・。

 生還したガナザって言うクソ団長・・・。

 つーか、今は只一人奇跡の生還を果たした『英雄様』・・・だっけか?

 別に何でもいいが、俺達はそいつらを始末する・・・。

 ってな事で・・・。

 とっとと終わらせて『魔王軍』とやり合う前に休暇と洒落込もうぜ♪」


「はいっ!」


「行こうぜ、相棒っ!」


「フフフッ・・・楽しみね♪リョウヘイ様♪」


冷たい風が吹き降ろすこの崖の上から、

城を見下ろす『彼』はギラついた目をしていたのだった・・・。



そして現在・・・。


「・・・ンダーさん?リアンダーさんっ!?」


突然身体を揺らされた私は我に返ると、

目の前には私を心配するコナギ様とエルの姿があった・・・。


心配する2人に対し私は軽くあくびをして見せながら、

組み立てが終わりバージョンアップが完了した事を確認すると、

後日・・・。

その『性能試験の日取り』を決めると、それぞれが退室して行った・・・。


皆が退室し1人此処・・・。

ユウナギ様の『開発室』に残った私は部屋を見渡しながら呟いた。


「・・・ほんと、あの御方は変わり者の勇者よね?

 『アンデッド・デイウォーカー』となった私を排除するどころか、

 こんな化け物を仲間に・・・。

 ほんと・・・飽きれた勇者様♪

 ふふふっ・・・そんな『彼』の為なら私は何でもするわ。

 でもそれは『恩』なんてチープなモノじゃない・・・

 私は・・・貴方の事を・・・」

 

そう呟いた私自身に軽く首を振り苦笑しながら立ち上がると、

『開発室』の電気を消し部屋を出て、

そして『鍵』を閉め仕事に戻ったのだった・・・。



『リアンダー編・完』

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