第73話・アスティナの秘密・後編

AM3:00を半ば過ぎた頃・・・。


冒険者ギルドのギルドマスターであるカートラルと、

その受付嬢であり、この国の王女の従者であるジュリエットを前に、

アスティナは暗い表情を浮かべ俯いていた・・・。


※ ジュリエットはまだこの時・・・。

  王女の従者だと言う事をカートラルには話してはいないが、

  前の大戦で共に戦っていた為、

  この場に立ち会う事はなんら不思議ではない・・・。



「わ、私は・・・」


呟くようにそう言ったアスティナだったが、

それ以上、言葉が続く事はなかった・・・。


すると大きく息を吐いたカートラルはツルツルの頭を叩きながら、

そんなアスティナに話しかけ始めた・・・。


「まぁ~・・・お前が人族に心を開かないのは、

 全部とは言わねーがわかるつもりだ・・・。

 この世界の平和を取り戻したアイツを、

 魔族共や一部の貴族共がハメて追いやったんだからよ。

 だけどな~アスティナ?

 前にもお前だけには話したが、この街の連中は、

 この世界の為に命を賭けたアイツに恩があり、

 それを少しでも返したいと思っている者達ばかりだ・・・。

 だから全部とは言えない・・・。

 人族を信じてくれってのも・・・お前からしたら勝手な言い分だがな?」


諭すようにそう話し始めたカートラルに、

アスティナは未だ俯いたままだった・・・。


「・・・アスティナ」


じっと見つめていたジュリエットが、

そんなアスティナの名を呼ぶと、何かを感じ取りソレを口にした・・・。


「アスティナさん・・・?

 今・・・何を考えたのですかっ!?」


突然驚きの声を挙げたジュリエットに、

カートラルの眉間に皺が寄った・・・。


「おい・・・どう言う事だ?」


静かだが威圧を含んだカートラルの言葉に、

ジュリエットは驚き声をどもらせた・・・。


「い、いえ・・・あ、あの・・・」


「・・・いいから話せ」


その威圧する声にジュリエットは再びアスティナを見つめると、

膝に乗せた手を強く握りながら弱々しく口を開いた・・・。


「い、今・・・アスティナさんの感情が・・・大きく揺らぎました・・・。

 それと同時に彼女の身体から放たれているオーラもまた変わり、

 苛立ちや妬み・・・それに哀しみの感情が大きくなっていました・・・」


『・・・・・』


ジュリエットの言葉にカートラルは勿論アスティナも沈黙していると、

俯く彼女に対し更に言葉を続けた・・・。


「ねぇ、アスティナさん。

 先程ギルマスに『肩はどうした?』と言われた時、

 貴女は『2人同時に・・・』とそうおっしゃいましたよね?」


「・・・・・」


「私やギルマスの知る貴女なら・・・

 今回の対象者が何人居ようと、かすり傷1つ負う事もなく、

 依頼を達成していたはずです」


淡々とそう説明するジュリエットに、

アスティナは呟くように『買い被り過ぎよ?』と答えるも、

ジュリエットはソレを拒否するように首を横に振り口を開いた。


「今回の対象者は・・・ほぼ一般人ですよ?

 荷の横流しを裏でコソコソしていたような連中です。

 普段なら・・・私達が貴女達に依頼する事はありませんが、

 今回は一般人が巻き込まれた事により、死傷者が出たので依頼をしたのです。

 もう看過できないと・・・。

 そんな相手に勇者の相棒が・・・負傷ですか?

 ・・・有り得ないですよね?」


再び淡々とそう語ったジュリエットにね

アスティナは顏を顰めていた・・・。


デスクに片肘を着いていたカートラルは、

ジュリエットに視線を向けると、小さく首を振ってその意に応えていた。


カートラルは小さく頷き返すと『ふぅ~』っと息を吐き、

何も語らないアスティナにこう言った・・・。


「・・・アスティナ?

 お前・・・魔力・・・いや、神力は大丈夫なのか?」


『っ!?』


カートラルの問いに今まで伏せていた顔を上げると、

驚きの表情を浮かべ硬直した。


「おいおいおい・・・そんな驚く事ねーだろ?

 前にも言ったが俺とジュリエットはお前の秘密を知っている・・・。

 そりゃ~そうだろ?

 俺達は前の大戦の時、あの場に居た数少ない目撃者なんだからよ?

 それに俺とコイツはユウナギのおかげで神力は見慣れている・・・。

 だから見間違える訳はねーんだぜ?」


「・・・あ、あんた、な、何が言いたいのよ?」


そう話し出したカートラルに、アスティナは厳しい顔を向けると、

肩を竦ませながら厳しい目を向けた・・・。


「じゃ~言わせてもらおうか?

 あの大戦の中・・・そしてあの場に居た俺達は驚愕したぜ?

 いきなりアイツの傍で何かが『白銀の光』を放ったかと思ったらよ、

 お前が突然姿を現したんだからよ?」


「・・・クッ」


「・・・それに関してアイツは何も語らねー・・・。

 そしてどんなに理由を聞いてもアイツは一度も口を開かねー。

 ただ、お前の事を『俺の相棒だ』としか言わねー・・・。

 でもよ?よく考えて見ろよ?

 俺達はあの場に居たんだぜ?

 いくら眩い光を放っていたってもよ?

 バッチリ・・・見えていたんだよ・・・

 お前が・・・その・・・」


厳しい目を向けたままカートラルが何かを口にしようとした時、

『やめてよっ!』とアスティナは勢いよく立ち上がりながら怒声を放った・・・。


「・・・やめてよっ!

 あ、貴方達に・・・か、関係ない事でしょ?」


怒声を発した直後・・・。

弱々しくそう言ったアスティナにカートラルとジュリエットは言葉を飲み込んだ。

アスティナのこんな悲痛な表情を今まで一度も見た事がなかったからだ・・・。


何も言えず言葉を失ってしまった2人に、

静かにアスティナは『・・・帰るわ。お疲れ様』とそう言って、

ギルマスの部屋を後にしたのだった・・・。


『バタン』と扉が静かに閉まった直後・・・。

カートラルは椅子に深く掛け直し口を開いた・・・。


「・・・俺達には何もしてやれねーのかよ?」


誰に言うでもなく、仰け反りながら天井を見上げそう言ったカートラルの言葉に、

ジュリエットは『情けないですね、私達・・・』と哀し気に呟いていた。



~ ルクナの街の大通り ~


『冒険者ギルド』を出たアスティナは1人・・・歩いていた・・・。


(私・・・何やってんだろ?

 全盛期の力なんて・・・もうとっくに無い・・・。

 それに使えたとしても・・・持続出来ない・・・。

 ほんと・・・ダメダメよね)


心の中でそう呟きながら真っ暗な空を見上げると、

夜空には満点の星が瞬いていた・・・。


そんな美しい夜空から再び自分の足元を見た時、

自然と口からはこんな言葉がもこぼれていた・・・。


「・・・このままじゃ・・・ね」


軽く目を閉じ、アスティナは今までユウナギと共に戦って来た記憶を巡った。

何度も何度も噛み締めるようにその記憶を巡り、

その目を開けた時・・・アスティナはその決意を口にした。


「まだよ・・・。

 まだ私は終わらない・・・。

 だから・・・」


そう口にしたアスティナは『パンッ!』と自らの頬を叩き気合いを入れると、

一目散に駆け出して行ったのだった・・・。



~ ユウナギ邸・エマリアの私室 ~


「・・・眠れない」


見慣れた天井を『ボ~』っと見つめながらそう呟くと、

身体を起こし私室に在る『冷蔵庫』を開けた・・・。


その中から冷たい飲み物を手に取り、

ゆっくりと流し込むとふと・・・アスティナの事が気になった。


「・・・まだ戻っていないようだけど?」


自然とエマリアの目は私室に在る『時計』へと向けられ、

時間はAM4:00を少し回ろうとしていた・・・。


「・・・いくら何でも遅すぎる」


眉間に皺を寄せたエマリアはすぐに服を着替えると、

『獣人の力』を解放しアスティナの匂いを辿った・・・。


(アスティナっ!一体何処に居るのっ!?)


まず最初にエマリアが向かったのは、

勿論『冒険者ギルド』ある。


音も無く冒険者ギルドの屋上に着地したエマリアは、

すぐにアスティナの匂いを捉えた・・・。


(此処に来たのは間違いなさそうね?

 ・・・ん?あっちから・・・?)


匂いを辿ったエマリアは再びアスティナの新しいにおいを感知すると、

迷う事無くその場を後にし、行方を追ったのだった・・・。


すると突然『冒険者ギルド』の屋上のドアが静かに開くと、

その中から冷笑を浮かべたジュリエットが姿を現した・・・。


(やっぱり探しに来たわね?

 来る事は予想出来たから潜伏しておいて良かったわ♪

 さて・・・アスティナの居場所までご案な~い♪)


そう笑みを浮かべたジュリエットは、

アスティナを追ったエマリアの後を追跡して行くのだった・・・。



~ ルクナの街・北側の城壁内付近 ~


此処はユウナギが所有する北側の城壁内で、

雑木林がある一角・・・。


(とりあえずみんなが起きるまで2時間・・・)


アスティナは周辺を見渡すと、

まず・・・偽装工作の準備に取り掛かった・・・。


(まずはこの周辺に『空間魔法』で、

 住民達に知られないように『隔離』してっと・・・)


アスティナは雑木林の外周を軽く走りながら見回ると、

再び雑木林内へと戻り、今、確認してきた事を思い出していた・・・。


(こう言うのはイメージが大事だからね~?

 それに、住人達に何かあっても嫌だし・・・)


アスティナは目を閉じイメージを固め始め、

自分が理想とする『練習場』のイメージをより強く固めた。


(よしっ!後は~・・・・)


アスティナはマジックボックスを開くと、

中から雰囲気の違った魔石を幾つか取り出し、

1つを残して後は上着のポケットへと入れた・・・。


手に1つ残した魔石を握りながらその手を前方に突き出し、

残った手で手首を掴むと目を閉じ集中した。


(まずは魔石の偽装を解除して『神石』に・・・。

 クリア・・・。

 え~っと、それから・・・魔力偽装を解除し神力を使用可能に・・・。

 ・・・クリア。

 それから、私の神力と神石のシンクロ率を最大に・・・。

 ・・・クリア。

 よし、これで使用可能になったわ)


目を開けたアスティナは、手に持っていた魔石を見ると、

その中には淡い白い光を纏う『神石』があった。


「ふぅ~・・・。コレっていちいち面倒なのよね~?

 まぁ~魔力で偽装すると、『魔力感知』に引っかかっちゃって、

 後々面倒な事になっちゃうから、

 『魔力感知』に引っかからない神力で偽装しなくちゃならないなんて・・・。

 あぁ~・・・面倒臭い・・・でも、そうは言ってられないのよね~」


少し苦々しい笑みを浮かべながら再び周囲を見渡したアスティナは、

『じゃ~、一丁やっちゃいますかっ♪』と言って偽装工作に入った・・・。


『はぁぁぁっ!』と軽く声を挙げながら、

アスティナは己の神力を解放すると、その身体から白銀の神力が溢れ始めた。


「・・・神気・空間魔法・隔離っ!」


頭の中のイメージを神力を使って、

この『雑木林』の周囲と、この土地の空間を切り取った・・・。


『シュイン』と一瞬・・・。

『雑木林周辺の外周』を白銀の光がなぞるように広がると、

その場所には『雑木林』は存在せず『白く大きな穴』が開いていた。


「ふぅ~、とりあえずこれでいいとしてっと・・・」


そう言いながらアスティナは手に持っていた『神石』を握り締めながら、

『神力を補給っと・・・♪』と呟いた。

一瞬白銀の光を放った『神石』は、力をアスティナへと譲渡すると、

その白銀の光は消え失せ何処にでも在る石へと姿を変えた。


「よしっ!じゃ~・・・次、行ってみよう~♪」


楽し気にそういったアスティナは、

『雑木林の空間』に手をかざすと『白く螺旋状』に開いた穴から、

外に向かって顔を覗かせた・・・。


「よーし、よしよしっ!

 問題なく切り離せたわね~?

 私ってやっぱり『天才』よね~♪

 こういうのはやっぱりアイツじゃダメよね~?

 センスってモノが試されるし♪

 ムフフフ♪」


そう『自画自賛』しながら、その空間から出ると、

一歩前へと進み振り返った・・・。


「さーて、お次は~・・・。

 この場所に『雑木林』をっと・・・」


再びアスティナは神力を使用し、

イメージを固めると、消失した『雑木林』をイメージした。


「神気・偽装展開・・・『雑木林』」


手をかざしながら神力を使用し、

イメージで固めた『雑木林』を具現化すると、

『・・・定着』と呟いた。


『よしっ!』と笑顔でそう言いながら、

アスティナは今、具現化し定着させた『雑木林』を見回り、

周辺の温度差や風の流れ・・・。

そして光と影などの微妙な調整をし始めた・・・。


「空間の歪や陰影や温度・・・。

 少しでも誤差が出るとバレちゃうからね~?

 こういった細やかな所まで気を遣うのが『プロ』の仕事♪」


そうボヤくように呟きながら、

アスティナは最終調整を神力を使用しながら進めて行った。


「ふぅ~・・・つ、疲れた・・・。

 後もうちょいだから神力を補充しなくちゃね・・・。

 ・・・ってな事で、補充完了っと♪」


そして『最終調整』が終了すると、

『パンパンッ!』と手に着いた汚れを払いながら、

『後は出入りする為に私の魔力をキーにしてっと・・・』

再び『雑木林』に向かって手をかざしたアスティナは、

イメージを固定すると神力で鍵穴を作り出した。


「・・・私の魔力でカギを作って、

 それを神力で作った鍵穴に挿入っと・・・」


目を閉じ魔力でイメージしたカギを作ると、

神力で作った鍵穴に、魔力で作ったカギを挿入し、

『10秒待ってみよう♪』っと、声を挙げた。


そして10秒後・・・。


『カチッ』という音が聞こえると、

『完成~♪』と楽し気な声を挙げた。



※ 説明しよう・・・。

  神力で作った『鍵穴』や『魔力』で作った『鍵』は、

  アスティナ(製作者)の頭の中で作り出したイメージであって、

  実際に『物質化』させている訳ではない。

  だが、製作者にとっては重要なことで、

  製作者以外がこの空間に侵入する事は出来ないのだ。

  その為の『鍵と鍵穴』なのだ。


説明終了。


この空間に出入りする為の『鍵と鍵穴』を作ったアスティナは、

鍵を使用すると、その場所には『白い螺旋状の穴』が出現した。


「・・・後は~、内装よね~?」


そうブツブツと言いながら、アスティナは中へと入ると、

その姿を消したのだった・・・。


だが、この時・・・。

アスティナは気付かなかった。


この様子を一部始終見ていた者達が居た事を・・・。


(アスティナっ!?な、なんてモノを作ってっ!?)


街の城壁の上から、アスティナの行動を見ていたエマリアは、

この事実に唖然としていたのだった・・・。


(アスティナから時々感じていた力って、

 やっぱり・・・神力だったのね?

 魔力で色々と偽装していたのは分かっていたけど、

 手の込んだ事を・・・。

 ユウナギ様とアスティナの関係って、よくわからないし、

 ただ・・・。昔からの仲間だって事ぐらいだし・・・。

 ちょっと本格的に調べてみようかな?)


エマリアは仲間ではあるが、

実はユウナギやアスティナ・・・。

そしてハインヒリ達の事をよくは知らなかった・・・。


衝撃の事実を知ったエマリアは、

偽装された『雑木林』を見ながら立ち上がると、

その場を後にし帰宅したのだった・・・。



それから5分後・・・。


「全く・・・アステイナは・・・。

 あの人狼の子に見られちゃってんじゃない。

 あぁ~あ・・・私の仕事が増えそうな予感・・・。

 さてっと・・・『姫様』には何て報告しようかしら?

 って言うか・・・。

 妙な胸騒ぎがするわね~?」


『はぁ~っ』とため息を吐き、

項垂れたジュリエットはマジックボックスから魔石を取り出すと、

魔力を流し連絡を入れた・・・。


「あっ、もしもし~?『姫様』?

 こんな早朝から申し訳御座いません。

 えぇ~と、ちょっとお耳に入れておきたい事が御座いまして・・・」


そう話し始めたジュリエットは歩きながら指を『パチン』と弾くと、

その姿を消したのだった・・・。

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