第72話・アスティナの秘密・前編
或る日の事・・・。
アスティナとエマリアは此処・・・。
冒険者ギルドのギルドマスター室に呼び出されていた・・・。
「・・・すまないな?
2人共・・・急に呼び出して・・・」
いつになく真剣な顔を見せたカートラルに、
アスティナとエマリアの表情も引き締まっていた・・・。
「・・・カート、私達を此処に呼んだって事は?」
「・・・あぁ、仕事だ」
そう言うとカートラルは後方に控えていたギルド職員・・・。
ジュリエットに視線を移すと、無言で頷きギルド長の部屋から退室した・・・。
そしてジュリエットの足音が遠ざかるのを確認したカートラルは、
静かな口調で話し始めた・・・。
「ところであいつはまだ帰らないのか?」
その質問にアスティナは肩を竦めて見せ、
エマリアもまた同様の仕草をしたのだった・・・。
「ったく・・・まぁ~、別にあいつが出張るほど大きな仕事じゃないからな。
だからお前達2人でも何の問題ないとは思うが・・・」
そう呟くように言ったカートラルに、
アスティナとエマリアは無言で聞いていた。
そんな2人を見ながらカートラルは確認の為口を開いた。
「・・・で?
仕事の依頼・・・受けるか?」
その静かな口調にアスティナもまた静かに口を開いた。
「・・・人数は?」
「・・・3人だ」
「・・・どうする?」
そう尋ねるカートラルに、アスティナとエマリアは頷き合うと、
『受けるわ』とだけ答えたのだった・・・。
するとエマリアがカートラルに尋ねた・・・。
「・・・ギルマス、相手の名と報酬は?」
「・・・あぁ、それな?」
そう言うとカートラルはデスクの引き出しを開くと、
その中から数枚の書類とそれに付属する写真を取り出してデスクの上に置いた。
その資料を手に取ったアスティナは『パラパラ』と書類をめくり終えると、
それをエマリアへと手渡した。
「・・・この3名って確か?」
静かにそう言ったエマリアにカートラルは『あぁ・・・』と、
意味有り気に答えるとそのまま無言になったのだった。
「・・・じゃ、準備するわ」
「・・・頼む。気をつけてな?」
「・・・えぇ」
そう言い終えたアスティナとエマリアが部屋を退室すると、
椅子の背もたれに体重を預けたカートラルは、
煙草に火をつけ吹かすと心配げな声を挙げた・・・。
「・・・アスティナのヤツ、余裕無さげだが大丈夫なのか?」
そう言い終えると煙草を手に持ち椅子をくるり回し、
窓から見える風景に再び同じセリフを呟いていたのだった・・・。
冒険者ギルドからの帰り道・・・。
アスティナとエマリアは装備を整える為、
別々に行動するのだが、分かれる寸前・・・エマリアが話かけて来た。
「あの・・・アスティナ?」
「・・・ん?どったの?」
「その・・・大丈夫ですか?」
「・・・何が?」
心配そうな表情でそう言ったエマリアに、
アスティナは平然とそう返して来た・・・。
「い、いえ・・・大丈夫ならいいのですが?」
「フフフ♪心配いらないわよ~♪
あいつが居ないだけで、仕事はいつも通りでしょうが?」
「い、いえ・・・そうじゃなくて・・・」
「・・・?」
首を傾げて見せたアスティナに、エマリアは『いえ・・・』と答えると、
エマリアは路地の角を曲がり姿を消した・・・。
その背中を見ていたアスティナは踵を返した途端・・・。
『クッ』と呻きながらその表情を一変させた・・・。
そして目的地へと向かう為、歩き出したアスティナは、
再び呻くように呟いた・・・。
「・・・バレちゃってるわね」
そう呟きながらアスティナは装備を整える為、
目的地へと歩いて行ったのだった・・・。
~ 夕方・ルクナの街・北通り ~
綺麗な夕焼けに町が染まる頃、
買い物を済ませたアスティナがユウナギ邸へと戻って来た。
玄関に繋がる階段を数歩昇った所で、
ふと、裏庭の方から話し声が聞こえて来た・・・。
(・・・何だろ?)
不思議に思ったアスティナは階段を降り裏庭へと行くと、
そこには渋い表情を浮かべ話し合っているルーズベルト一味を見つけた。
「あんた達・・・こんな所で一体なにやってんのよ?」
一瞬3人組は驚いたような表情を見せるも、
気を取り直すとアスティナに話かけてきた・・・。
そしてアスティナはその質問にこう答えた・・・。
「・・・此処から城壁の際まで、
全部あいつの土地だけど?」
その後、『へっ?』と言う間の抜けた声が聞こえた頃、
ユウナギ邸の『鶯時計』が『ホーホケキョ♪』と鳴くの聞こえて来た・・・。
「あっ、ヤバッ!準備しなくちゃ・・・」
そう言ったアスティナは3人組に『じゃっ!後はお好きにっ!』と言うと、
急いで戻り準備を始めたのだった・・・。
その夜・・・。
時間はPM23:00頃・・・。
現地に訪れたアスティナとエマリアは、
最終確認をすると、それぞれ行動を開始した・・・。
アスティナは雑木林の中に身を潜め『気配感知と魔力感知』を使用すると、
まだ『対象者』が帰宅していない事を確認した。
(・・・まだみたいね?)
そう思った時・・・。
突然アスティナは顏を顰め『うっ』と呻きながら左腕を掴み膝を折った。
(クッ・・・こ、こんな時に・・・)
アスティナはその視線を自分の左腕に向けると、
『ビクビク』と左腕が痙攣していたのだった・・・。
咄嗟にマジックボックスから『ある物』を取り出し口の中に入れた・・・。
一瞬、『淡い銀色の光』が口の中から漏れるも、
その光を誰かに見られる事はなかった・・・。
薄っすらと汗を額に滲ませ、心なしか呼吸も荒くなっていたアスティナだったが、
『ふぅ~』と息を吐きながら樹木にもたれかかり呼吸を整えていた。
(・・・力が切れるのが早くなってる。
でもまぁ~、補充する魔石はまだたくさん在るし、
あいつが今、戻らなくても問題ないわ・・・。
ったく・・・あいつ・・・一体何処で何してんのよ?
でもあいつの力を感じる事が出来るから、
生きているのは間違いないし・・・ね)
『よしっ!』と小さく気合いを入れたアスティナは立ち上がると、
再び『気配感知と魔力感知』を使用した・・・。
脳内にレーダーのような円が現れると、
『ピコン、ピコン』と赤い反応が2つ表示されていた・・・。
(・・・どうやら帰って来たみたいね?)
『対象者』の反応を確かめたアスティナは、
別の場所に居るエマリアに『念話』に送り状況を交換し合った・・・。
{・・・了解}
確認をし終えたアスティナは小さな声で、
『さて、とっととヤっちゃいますか』と呟くと、
『隠ぺいスキル』を使用し、その場から姿を消し屋敷内へと浸入したのだった。
・・・30分後。
エマリアは1人此処・・・。
切り立った崖の上に生える大きな木に身体を預けもたれていた・・・。
(・・・遅いですね?)
ふと時計を見たエマリアが言う通り、
落ち合う時間から20分程過ぎている・・・。
(・・・やっぱり何かあったんじゃ?)
居ても立っても居られなくなったエマリアは、
もたれていた大きな木から身体を離しアスティナを探しに行こうとしていた・・・。
そんな時だった・・・。
『ガサッ』と近くの草木が音を放ち、
『人狼』であるエマリアの耳がその音を感知すると、
腰に装備していた『短剣』を抜き、構えながら『誰っ!?』と声を挙げた。
その声に茂みの中から『私よ』と聞き慣れた声がその耳に届くのと同時に、
アスティナが何事もなかったかのように『お待たせ~』と声を挙げた。
「アスティナっ!?遅かったじゃないですかっ!?
心配して今から探しに行こうかと・・・」
不安げな表情を見せるエマリアに、
アスティナは舌を『ペロッ』と出しながら『ごめーん』と声を挙げ、
自らの頭を『ポン、ポン』と叩いて見せた・・・。
そんなアスティナにエマリアは『本当にもうっ!』と声を挙げると、
アスティナが自らの頭を叩くその肩が少し破けているのが見えた・・・。
「ど、どうしたんですかっ!?その肩っ!?」
『あっ!』と小さく言ったアスティナは、
その肩を押さえながら口を開いていった・・・。
「仕事は完了したんだけどさ~?
思わぬハプニングがって言うか?
2人同時に相手にする事になっちゃって・・・
それでその時にちょっと・・・ね?」
慌てて駆け寄ったエマリアはアスティナの腕を掴むと、
肩の怪我の具合を調べた・・・。
「よ、良かった・・・かすり傷程度なんですね?」
「えぇ、ちょい・・・掠った程度だから何の問題もないわよ♪
ってか、ただ2人同時なんて想定外だっただけだし・・・」
そうにこやかに微笑んで見せたアスティナは、
未だ心配そうにしているエマリアの肩を叩きながら『帰るわよ♪』と告げた。
・・・1時間後。
ルクナの街に到着した2人はいつもの如く裏ルートで街の中へと入って行った。
ルクナの街はその街の規模からは到底考えられないほどの城壁に囲まれており、
AM0:00時頃には街の出入り口であるその大きな門は閉じられている。
それを気にする事もなく裏ルートを使い街へと帰還した2人は、
ユウナギ邸に戻り扉を開くと、ハインリヒだけではなく、
今はルーズベルト一味も遅く帰宅した2人に『おかえり~♪』と声を掛けた。
そんなみんなに2人は驚きつつも照れながら『ただいま~♪』と返すと、
ルーズベルトが『風呂入ってきなよ?』と優しくそう言った・・・。
するとアスティナが『有難う♪』と感謝を口にしながらも、
少し存念そうな声を挙げた。
「あぁ~すぐに入りたいところなんだけど~
今から冒険者ギルドに報告に行かないといけないのよね~」
「・・・そうなの?
じゃ~気を付けて行ってきなよ♪」
ルーズベルトのそんな優しい声に、
アスティナは『わかったわ、ありがと♪』と返答すると、
隣に居たエマリアを見ながら『私が行って来るわ』と告げた。
「・・・そ、そうですか。
わかりました・・・アスティナ、気を付けて下さいね?」
「ええ♪」
笑みを向けながらそう答えたアスティナは、
みんなに『行ってきます♪』と告げると再び外へと出て行ったのだった・・・。
(アスティナ?)
『バタン』と閉まった扉を心配そうに見ていたエマリアに、
食事の用意をし始めたハインリヒが尋ねて来た・・・。
「・・・エマリア、何か心配ごとでもあるのか?」
「・・・心配事って言うか」
呟くようにそう答えたエマリアに、
ハインリヒだけではなく、ルーズベルト達も訝し気な顔をしていた・・・。
「何かあるのなら話しなよ?
俺だけだったら頼りないかもしれないけど、
今はこの人達も居る訳だしさ?」
ハインリヒの言葉にエマリアは周りに居た者達へ視線を向けた・・・。
「・・・あ、有難う。
心配と言うか、私がただ過敏に反応しているだけかもしれないけど・・・」
そう口を開いたエマリアの表情はとても悲し気に見えた。
他の者達がそんなエマリアの表情に反応すると、
ルーズベルトがエマリアの手を引き、
応接間へと移動して行ったのだった・・・。
~ ルクナの街・大通り ~
この街の冒険者ギルドは大通りの中央付近に在る。
アスティナはその大通りを歩きながら、
行き交う酔っ払い達を見ながら笑みを浮かべて居ると、
『冒険者ギルド』と書かれた大きな看板が視界に入った・・・。
時間は既にAM3:00を回っており、
正面玄関は閉鎖されていた・・・。
だが『冒険者ギルド』の中には職員が居り、
緊急事態に備えて職員が交代で詰めているのだった・・・。
~ 冒険者ギルド・裏口 ~
『コンコン』
『ガチャ、ギィィー』
冒険者ギルドの裏口に来たアスティナは裏口の扉を叩くと、
その扉を開いたのはギルド職員のジュリエットだった・・・。
「おかえりなさい、アスティナさん。
ご苦労様でした。
ギルマスがお待ちですよ?」
そんなジュリエットの声にアスティナは片手を上げ、
『ども♪』と返答すると、そのまま中へと入り、
隠し扉の中に在る細い階段を上って行った・・・。
ギルドマスターであるカートラルの部屋をノックしたアスティナは、
『入れ』と言うその声に扉のノブを掴み中へと入って行った・・・。
薄暗いギルマスの部屋の一番奥に、
椅子に座りふんぞり返るカートラルは煙草を吹かしながら口を開いた。
「・・・首尾は?」
抑揚なくそう言ったカートラルに、
アスティナは笑みを浮かべると『完了したわ』と答え、
その証拠となる『とあるモノ』をカートラルに手渡した・・・。
ソレを確認したカートラルは『ご苦労さん』と言うと、
デスクの大きな引き出しの中から2つの革袋を取り出しデスクの上に置いた。
『ジャラ』っと鳴るその音から、
それなりの報酬である事に薄っすらと笑みを見せその2つの革袋を掴んだ。
「おい・・・アスティナ?その肩はどうした?」
アスティナの肩が少し破れている事に気付いたカートラルがそう尋ねると、
エマリアに説明したように同じ説明をしたのだった・・・。
「ふむ、そうか・・・。
とりあえず怪我がないのなら良かったが・・・」
報酬が入った2つの革袋をマジックボックスの収納しながら、
言い訳とも取れる『まさか2人同時だなんてね?』とそう言った・・・。
その言い訳に一瞬・・・。
カートラルの目が細くなるも、アスティナは気にせずソファーへと腰を落した。
そしてそれと同時にギルマスの部屋がノックされると、
先程アスティナを迎えたジュリエットがお茶を持って入室して来た・・・。
「・・・コレでも飲んで少し休憩して行ってね?」
差し出されたお茶がテーブルの上に置かれると、
『ありがとう、そうするわ』と笑顔を向けながらそう答えた。
いつもなら・・・。
お茶を差し入れたジュリエットは仕事に戻る為、ここで退室するのだが、
今夜はこのまま退室する事はなかった・・・。
差し出したお茶をアスティナが手に取ると、
ジュリエットはそのまま向かいのソファーへと座りアスティナを見つめていた。
「・・・?」
お茶をすすりながら不思議そうな表情を浮かべるアスティナに、
シュリエットはカートラルと何やら頷き合うと、
真剣な眼差しを向けながら話を切り出して来た・・・。
「アスティナさん?何処か具合が悪いですよね?」
そんなジュリエットの声に一瞬アスティナは『ドキッ』としたが、
何知らぬ顔をして『別に何ともないけど?』とそう言ってのけた・・・。
するとじっとこちらを見ていたカートラルが、
呆れた表情を向けながらアスティナに声を掛けた・・・。
「お前さ~?こいつのスキル・・・忘れたのかよ?」
「・・・スキル?」
「あぁ・・・」
カップをソーサーへと戻したアスティナは、
正面に居るジュリエットを見ると『あっ』と声を挙げた。
「・・・アスティナさん?
私のスキル・・・『感情感知』を侮らないでいただけますか?」
※ ジュリエットのスキル『感情感知』
簡単に言うと『嘘発見器』のようなモノ。
このスキルを使用する事によって、対象者の感情の揺れを感知し、
その者が嘘を言っているかわかるだけではなく、
怒りや悲しみと言った『感情』まで感知出来る『特殊スキル』。
ソレを思い出したアスティナは思わず『チッ』と舌打ちすると、
その様子を見ていたカートラルが気だるそうに声を挙げた。
「お前な~?いい加減俺達にも心を開いてくれねーか?」
「・・・どう言う事よ?」
「お前には話してあったよな~?
この街の住人はお前達の事情を全て知っていると・・・」
「・・・そうね」
「なのに・・・だ。
あいつは兎も角・・・お前は俺達に対して、いつも上辺だけだろ?
人族を信用出来ないってのはわかるがよ?
いい加減俺達と本音で話し合おうじゃねーか?」
カートラルの胸の内を聞いたアスティナは、
顔を少し伏せると『別にそんなつもりじゃ・・・』と呟いた。
「そんなつもりも何もねーだろ?
実際今も・・・こうしてお前は何も語ってくれねー・・・
そんなに俺達が信用出来ねーか?」
「し、信用は・・・してるわよ・・・一応・・・」
「一応って・・・お前な~?
それに俺とこのジュリエットは・・・お前の『秘密』を知っているんだぜ?
少なくともこの場に居る俺達は信用してくれてもいいじゃねーのか?」
哀し気な表情でそう言ったカートラルに、
ジュリエットは頷いていたのだった・・・。
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