閑話・家を建てよう

此処はルクナの街・・・。


ユウナギ邸に残った者達はいつもの如く生活を送っていた・・・。


アスティナは1人『冒険者ギルド』で依頼を受け、

いつものように仕事をこなし、

家ではエマリアとハインリヒが家事全般を行っていた。


一方コナギは亜空間に在る『勇者の国』で整備を受ける為、

ユウナギが戻るまでリアンダーの下で働くらしかった・・・。



そして今現在・・・。

ユウナギの居ないこの家には、居候達が居る・・・。


それは『ディープ・フォレスト』での件以来、

『レディ・ルーズベルト達』がユウナギの計らいで留まっていたのだった・・・。



~ ユウナギ邸・応接室内 ~


何をする事もなくTVをただボ~っと見ていた3人・・・。


『怪盗・レディ・ルーズベルト』の、

ボス・レディ・ルーズベルト、発明家のクレベール、

そして最後は力仕事担当のベンソン・・・その3人組だった・・・。


ふと、ぼ~っとTVを見ていたベンソンが誰に言うでもなく口を開いた。


「なぁ~、ワイらこれからどないしたらええやろ?」


TVではどこかの王国のパレードの様子が映し出されており、

その賑やかしい音声がこの不毛とも言えるリビングに響き渡っていた・・・。


テーブルの上に置かれている『せんべえ』に手を伸ばしたクレベールが、

『バリッ!』と激しい音を鳴らしながら食べ始めると、

『ゴクリ』と飲み込むとベンソンの問いに返答した・・・。


「・・・そうね~?正直僕ちゃん達はユウナギちゃんに負けちゃって、

 毒気が抜かれたって言うか~?

 何もやる気がないって言うか~?

 実際無気力なのよね~?」


「せやかてクレベールはん?

 行く所もないワイらに手を差し伸べてくれたのは、

 ユウナギはんでっせ?

 何やお手伝い的な事でもせな、居心地悪いでっせ?」


「・・・そうなのよね~?

 ユウナギちゃんに沢山の借りを作ったままのは、

 僕ちゃん自身もむず痒くて・・・。

 でも実際問題、僕ちゃん達にな~にができんのさ~?」


「そないな事言われても、ワイもどうしてよいものやら・・・。

 そもそもワイらが泊っている部屋も、

 ハインリヒはんが提供してくれた部屋やさかい、

 いつまでも居座るのはどないかと思いますねんけど?」


クレベールとベンソンがそんな話をしていると、

今まで沈黙していたルーズベルトが渋い表情で重々しく口を開いた。


「私自身も、一体何やってんの?って自問自答してんのよね~?

 金の無い私達にユウナギが雇い主って形でさ~

 給料払うって・・・ったく・・・あの男は激甘なんだから・・・」


お茶を口に運びながらそう話したルーズベルトに、

クレベールは『ニヤり』と笑みを浮かべた・・・。


「ぐふふふ♪」


「なっ、何だってんだい?クレベール?

 言いたい事があるのならさっささとお言いよ・・・」


「ぐふふふ♪

 ルーズベルト様ったら~♪

 ユウナギちゃんのそんな甘いところが気に入っちゃったんでしょ~?

 僕ちゃん達にはよ~くわかっちゃうのよね~♪

 ほら~、だって僕ちゃん達ってば、ず~っと日陰で生きてきたじゃない?

 そんな僕ちゃん達を嫌う事をしないユウナギちゃんに、

 ルーズベルト様は『グッ』と来ちゃったんでしょ~?ぐふふふ♪」


「せやせやっ!いつものルーズベルトはんやったら、

 もらうもんもろて、さっさとトンズラするもんな~?

 せやのに此処に留まるなんて・・・いよいよコレは・・・?ムフフフ♪」


「やっ、やめなよっ!?そ、そそそそ、そんなんじゃないってのっ!

 わ、わたわたわたわた、私は・・・さ・・・

 や、雇い主との契約をね?」


クレベールとベンソンの声に、顔を真っ赤にしながら怒るレディに、

いつもの威厳など微塵もなかったのだ・・・。


だがそのすぐ後・・・。

『はぁ~』っと3人が揃って溜息を吐くと、

そのまま無言になり、TVから聞こえる音が異様に大きく感じたのだった・・・。


そんな時だった・・・。


突然『バタンッ!』と玄関の扉が荒々しく音を立てかと思ったら、

『ズカズカ』とエルが怒りを露にしながら応接室へと入って来ると声を挙げた。


「い、一体何なのだっ!?あのフーシュンとか言うあの化け物はっ!?」


入室するなり怒声を挙げたエルに、ルーズベルト達は唖然としていた・・・。


「・・・だいたいだな?

 この私をっ!この『魔王様の右腕』たるこの私をっ!

 あ、あんないかがわしい店で働かせる事など・・・

 だ、断じて・・・断じて許さるはずがないであろうっ!?

 そう思わぬか?この下賤なる人族共よっ!?」


エルの物言いに『ピクリ』と顔を引き攣らせたルーズベルトに呼応かるように、

顔を顰めていたクレベールがゆっくりと立ち上がりながら口を開いた・・・。


「・・・誰が下賤だって?」


渋い声で・・・抑揚なくそう言ったクレベールの迫力に、

怒り心頭だったエルは気圧された・・・。


「・・・な、何を?」


「エルちゃんよ~・・・」


「エ、エルちゃん・・・だとっ!?

 き、貴様・・・たかが人族の分際で何を・・・?」


再びエルは人族であるこの3人組に対し、

横柄とも言える態度を見せると、

今度はベンソンがその大きな腹を弾ませながら立ち上がった。


「ええ加減にしとかな~・・・エルはん・・・

 あんた痛い目に合いまっせ?」


「・・・痛い目だと?」


「せや・・・。

 あんたは何かにつけて『魔王様の右腕』だったとか何とか・・・

 色々と言うてるけど、今はあんた・・・ただの『ニート』と同じやんか?

 一体何を調子乗っとるんや?」


「・・・ニ、ニート・・・だと?

 こ、この私が・・・?」


プルプルと身体を震わせ俯きながらそう言ったエルに、

クレベールとベンソンは臨戦態勢に入った・・・。


応接間の空気が『ピシッ』と音を立て、

不穏な空気が張り詰めた時だった・・・。


『お待ちよ・・・』


緊張感漂うその空気の中、

今まで黙って静観していたルーズベルトが口を開いた。


「・・・みんな落ち着きな。

 今の私達は居候の身なのを忘れたのかい?

 雇い主であるユウナギの家で暴れでもしたら、

 私らはすぐにお払い箱になるだろうね~?」


ルーズベルトの言葉に『うっ』とそれぞれが呻くと、

気を静める為目を閉じたクレベールが沈黙のままソファに着席した。

そしてそれを黙って見ていたベンソンも着席すると、

ルーズベルトは再び口を開いた・・・。


「エル・・・。

 あんたもこの家では居候の身なんだ・・・。

 大家であるアスティナの言う事が聞けないってのは、

 どう言う了見なんだい?」


そう言い終わったルーズベルトはエルから返答を待つ間、

黙ってお茶を口へと運んで行くと、

エルが再び身体をプルプルと震わせながら声を挙げた・・・。


「わっ、わからぬのだ・・・貴様らには・・・」


「・・・何がよ?」


「あ、あのフーシュンと言う・・・ば、化け物の恐ろしさをっ!」


「・・・化け物ね~?」


ルーズベルトはフーシュンの容姿を思い出していると、

エルは眉間に皺を寄せ呻くように話していった・・・。


「・・・こ、この数日間。

 やれホールで接客だの・・・やれダンスの練習だの・・・

 それにこの誉れ高き魔王様の右腕でもあるこの私を・・・

 エ、エル子などとっ!?

 く、屈辱で私は圧し潰されそうなのだ・・・」


余程悔しい思いをしたのだろう・・・。

そう言ったエルの目からは一筋の悔し涙がこぼれ落ちたのだった・・・。


そんなエルの涙を見たルーズベルトはこう尋ねた・・・。


「あんたは魔王様の右腕なのよね?

 そんなにむかついたのなら、どうして捻り潰さないんだい?

 出来るだろ?たかが人族なんだからさ~?」


そんなルーズベルトの声にエルはより一層顏を顰め、

強く握り締められた拳を更に強く握り締めると、

か弱き者のように、小声で力なくこう言った・・・。


「む、無理なのだ・・・私にも・・・」


「・・・どう言う意味?」


「・・・あ、あの化け物の強さは・・・

 ま、まさに・・・『厄災級』なのだ・・・」


「や、厄災級ってっ!?」


何かを思い出しながらそう答えたエルの額には、

薄っすらと汗を滲ませ、次第にその唇も震えているようだった・・・。


「つい先日、私が家に戻らない日があったであろう?」


そう言ったエルに3人組は『さぁ?』と言わんばかりに肩を竦めていたが、

エルは『あったのだっ!』と強い口調で言い切ると、

当時あった事を話し始めたのだった・・・。


「そう・・・あの日異常に蒸し暑い日だった・・・」


「・・・いつも通りだったと思うけど?」


今、季節は『夏』・・・。

毎日暑い日が続いているのだが、そんな事はおかまいなしに、

エルは語って行ったのだった・・・。


「私はいつもの如く、ホールの仕事を終え店じまいをすると、

 オーナー(フーシュン)は私の名を呼び『ダンス』の練習をするよう命令した。

 私は断ったのだっ!

 私の担当はホールであってっ!『ダンス』などは私の仕事ではないとっ!

 そんな私の言葉を聞いたオーナーは片眉を『ピクリ』と弾ませるとこう言った。

 『てめー・・・私のいいひとであるユウナギちゃんの家で、

 居候している身分なんだろうがっ!?』

 わ、私はその言葉に反論しようとしたのだが・・・

 だが現実を考えると私は何も言えず・・・」


そう長々と話を続ける中、クレベールがルーズベルトに何やら耳打ちをしていた。


「ルーズベルト様?」


「・・・何よ?」


「・・・こいつの話・・・最後まで聞くつもりなの?」


そう耳打ちするクレベールにルーズベルトは顏を顰めて見せると、

こちらの会話に気付いたベンソンが話に混ざり始めた・・・。


「そんな事言うけどクレベール・・・。

 私的には退屈しのぎになるって思ってたんだけど?」


「こいつの話なんて何の得にもならないわよ?

 何せ、いつも自分の話しかしないんだから・・・」


「・・・確かに」


クレベールの話に納得したルーズベルトは、

『じゃ~どうしようかね~?』と頭を悩ませていると、

話に参加してきたベンソンが『あの~』っと話を切り出して来た・・・。


「この前アスティナはんに行った件なんやけど?」


ベンソンの話に『あっ、そう言えば・・・』と思い出したルーズベルトは、

クレベールと目線を合わせると楽し気に『やっちゃう?』と尋ねた。


「そうね~・・・。

 ユウナギちゃんから報酬とは別に、

 『契約金』なんかもた~んまり頂いちゃってるから・・・

 それに取り掛かってもいいかもしれないわね~?」


クレベールは顎に手を当てながらそう答えると、

ルーズベルトは皆の顔を見て大きく頷いたのだった・・・。


『・・・やっちまおうじゃないかっ♪

 家を建てましょう♪』


そんなルーズベルトの声にクレベールとベンソンが『オーッ!』と、

拳を上げながら答えると、その声に言葉が止まるエルを見て口を開いた。


「あ~らエルちゃん・・・ごめんなさいね~?

 僕ちゃん達これから仕事があるから今日はこのくらいでお暇するわ~♪」


「なっ、何だとっ!?

 き、貴様達・・・わ、私の華麗なる魔王城での生活の話を聞きたくはないのか?」


エルのそんな言葉にベンソンは、

『いつの間にそんなけったいな話になったんや?』と、そう呟いていた・・・。


「エル・・・。フーシュンの話からどうしてそんな話になったんだい?」


呆れながらそう言ったルーズベルトに、

エルは落胆の色を濃くしながら呟いた・・・。


「き、貴様達・・・私の話を聞いていたのではないのかっ!?」


「いやいやいや・・・あんたの話っていつも無駄に長いからさ~?」


「なっ、何だとっ!?」


このままでは長々と話が続いてしまうと思ったクレベールは、

エルの相手をするルーズベルトを肘で脇腹をつつくと、

目で合図しこの場から離脱するよう促した・・・。


そして小さく頷いたルーズベルトは、

未だ抗議の声を挙げるエルにこう言った・・・。


「ってな事で・・・エル。

 話の途中で悪いんだけどさ~?

 私達、そろそろ行くから・・・」


「なっ!?」き、貴様ら・・・こ、この私を見捨てるのかっ!?」


ルーズベルトの言葉に愕然としたエルがそう言うも、

ルーズベルト達は『じゃっ!そう言う事で~♪』とそう明るく告げると、

脱兎の如く応接間から姿を消したのだった・・・。


そして『ポツン』と1人・・・。

取り残されたエルはこんな雰囲気を察する事もなく映るTVを見て、

ポツリと呟いた・・・。


『・・・誰か私を構ってくれ』と・・・。



それから2時間ほど時は流れた・・・。


家を建てる為の材料を手に入れた3人組は今・・・。

ユウナギ邸の裏庭に集まりテーブルと椅子をマジックバックから取り出し、

計画を練っていた・・・。


『うーむ』と難しい表情を浮かべるクレベールに、

ベンソンが首を傾げながら質問した。


「何をそんなに悩んどるんや?」


「うーん・・・」


「何だい何だい?そんな難しい顔をしてさ?

 あんたらしくないじゃないか?」


眉間に皺を寄せるクレベールは不思議そうにしている2人に視線を向け、

『どうもこーもないのよね~?』っと、難しい顔をしてそう言った。


『?』を頭の上に浮かべて居ると、

クレベールは辺りを見渡しながら口を開いた・・・。


「・・・何処から何処までが、ユウナギちゃんの土地なのよ~?

 よーく見て見たらユウナギちゃんの家の裏側って、

 ルクナの街の城壁まで辺り一面空き地じゃないの?」


『・・・た、確かに』


2人もクレベールの疑問にそう答えた後、

突然『あんた達、そこでなにやってんのよ?』と、

ここ最近で聞き慣れた声が聞こえ振り返った・・・。


「・・・そんな難しい顔してどうしたのよ?」


そう声を掛けたアスティナが、3人組に心配そうな顔をして見せると、

ルーズベルトが口を開いた。


「お、おかえり・・・アスティナ」


「・・・ただいま」


「い、いや、あのさ・・・」


「・・・ん?何よ?」


小首を傾げたアスティナに、

ルーズベルトは広い空き地に視線を向けながらこう言った・・・。


「・・・ほ、ほら・・・この前に家でも建てたら?って言ったじゃない?

 アスティナ・・・覚えてる?」


「えぇ・・・言ったけど?それが何?」


「いや、あのさ・・・。

 何処から何処までがユウナギの土地なの?

 この家の裏って、城壁まで空き地じゃない?

 だから家を建てるのにも・・・さ?」


そう言いながら苦笑いを浮かべてルーズベルトに、

再び小首を傾げたアスティナがこう返答した・・・。


「・・・何処までって?

 あんた達・・・何言ってのよ?」


『・・・はい?』


「・・・此処から城壁の際まで、

 全部あいつの土地だけど?」


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へっ!?』


唖然とした3人組達が間の抜けた声を挙げた瞬間・・・。


『ホーホケキョ♪』と・・・。

ユウナギ邸の中から聞こえる『鶯時計』の囀りが聞こえたのだった・・・。



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